ボクがまだ高校生だった時のちょうど今頃、隣りに引っ越してきた同い年の女の子は椿花(はるか)という名前だった。「桜の季節なのに椿っていう名前はツライわ。」そう言って尖らせた唇は、ホントの椿の花のようなキレイな赤だった。 隣のクラスに転入してきた椿花の周りは、いつも花が咲いたようだった。遠くからその様子をながめるだけのボクだったが、学校の帰りはどういう訳かいつも一緒だった。 「おまえらつきあってんの?」 そう冷やかされた秋の日の帰り道、その話を椿花に教えると、彼女は花びらを散らすように立ち上がると、誰もが見とれる微笑みをその唇に浮かべながら、ボクの耳元で「あたしは待ってんだけどナ。」と囁いた。どうやら椿花はミニスカートの下に魔法使いのシッポを隠しているらしい。 そしてボクは、そのシッポに刺されて彼女の魔法にかかったらしい。 お互いの想いに気付きつつも、何となく時間が流れていったある春の日、椿花から電話があった。 「お花見に行こう。もうお弁当も作ったの。」 大きな荷物をボクに持たせた椿花は、どういうわけかウクレレを片手に持ちながら、買ったばかりだというピンクのワンピースを春の風になびかせて、ボクの前を歩いていた。白いフトモモが伸びる短めのワンピースに目を凝らしたが、彼女のシッポは見えなかった。 「ねぇ。」 とりとめの無い話をしたり、ウクレレに合わせて二人で歌ったりして時間が過ぎた夕方、二人同時にお互いを呼んだ。「なに?」思い切って告白しようと思ったボクだったが、夕日に染まる彼女の顔に見とれて何も言えなくなった。「じゃぁ、あたしからね。」ちょっと改まった感じで椿花が話し始めた。 ボクは思わず椿花を抱きしめ、人前であるにも関わらず、無我夢中で、そして、始めて、彼女の赤い唇に触れた。 椿花が引っ越しするまでの一週間、僕たちは三度キスをした。 今でもウクレレを弾くたびに、「恥ずかしいよぉ・・・。」と言っていた椿花の顔を思い出す。椿の赤では無く、桜色した頬だった。 ボクだけの、花の、魔法使いの…。 |