「待て!!!」
それは少女が待ち望んでいた者の声だった。
「レアス・・・・・・・・。」
リアンはその姿を見ると笑顔と涙が同時にこぼれてくるのが解った。
今までいくら死ぬんだと思っても涙の一粒も出てこなかったのに。
あぁ自分はこれほどまでにこの人を求めていたんだ。
するとまた大粒の涙が滝のように流れ出てきた。
止めようとしても止まることはなかった。
「リアン。」
生きていた。
いつも笑う事などほとんどない彼が今度ばかりは一瞬表情が緩んだ。
しかし、それも束の間のことで、すぐにリアンへの暖かい視線は外され、他の一人の老人の元へと
ものすごい睨みが届けられた。
「なんだいレアス。儀式の途中に騒がしいぞ。用なら後にしなさい。」
「長老!あんたは間違っている。神はそんな事で喜びなどしない!!」
「司祭様・・・・・・・・儀式を続けて下さい。」
「なっ・・・・・・!」
レアスは飛び掛ろうとするが、村人が邪魔していて動く事もできない。
もがけばもがくほど人数は増えて足枷となり体の自由を奪って行く。
でも諦めることはしたくなかった。手が届くところのいるんだ。
そのまま手を引いて一緒に逃げることだってできる。
リアンと二人で・・・・・・一緒に。
「くそっ離せ!長老あんたは人じゃない!鬼だ!!」
「なんとでも言えばいい。もう遅い・・・・・・・・・・・・。」
リアンの方へと目を向けたレアスは一瞬何がおきたかよくわからなかった。
瞳に映ったのは鮮やかな赤。緋色。
痛みに耐えるリアンの顔。
白に滲む血の赤。
左胸をおさえて倒れこむリアンの姿――――――。
「リアン・・・・・・・・・・・・・・・・。」
少女の細い体が床に倒れる。
鈍い音がなる。
「どけーーーーーーーーー!!」
今まで足枷となっていた人々は何か凄い力に押されたように一声に壁に叩きつけられた。
村人はあまりの痛さにその場にへたり込み気を失ってしまった。
「リアン。」
優しく呼びかけるようにその少女の名を言う。
体を冷たい床から抱き起こし自分の方へと抱き寄せる。
心配そうな顔で覗き込むレアスにリアンは涙を浮かべた顔で一生懸命笑顔をつくりながら言う。
「レアス。来て・・・・・・・・・く・・・・・・れた・・・・・・・・・・・・・・だ・・ね・・・・・・・。」
リアンの血で染まった手がレアスの頬に触れる。
多少ヌルッとして彼女の血が薄く頬を流れる。
その手を取り強く握り締めるが、血が引いて冷たくなる一方。
口元に笑みを浮かべ今の自分の正直な心をレアスへ伝える。
「あり・・・・・・・・と・・・・・う。レアス」
後半の言葉をリアンが紡ぐことは2度と無かった。
人のぬくもりはなくなり手は力を失い目が開く事は無い。
人は永遠ではない。永遠ではないが早すぎた。
呼吸を止めるのがあまりにも早過ぎた。
「さぁ、リアンを離しなさい。儀式はまだ終わっていない。」
レアスは冷たくなったリアンの体を抱きしめたまま怒りに震えた声で呟く・・・・。
『許サナイ・・・・・・・・・・』
長老が何?と聞き返すまでもなくもう一度言う。
『許セナイ』
その時レアスの体に異変がおこった。
背中がバキバキと音をたて突き破って何かが生えてきている。
この様子を見ていた一斉に恐怖の声をあげる。
「なんだあれは!?」
「怪物だ!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
もっと近くで見ようと寄ってくる者もいれば、叫び逃げ惑う者、
くわや包丁などを持ち戦闘の準備をする者もいる。
長老はというとひっくり返って腰をぬかしている。
そんな中でもレアスはまだ怒りの中心にいた。
『リアンヲ・・・・・・・・・・・・殺シタ!!!!』
一筋の涙が頬を伝う。
それと同時に背中の異物が一気に広がり二人の体を包む純白の翼へと姿を変えた。
その姿はまさしく伝説の・・・・・・・・・・・・・・・。
「そ・・・・・・・・・な馬鹿な・・・・・・。」
長老が身を震わせ目に涙を浮かべながらやっとの思いでこの一言を言った。
だがレアスにもはやそんな言葉は届かない。
『許サナイ!』
「伝説は・・・・・・・・現実じゃない!」
必死に自分に言い聞かせるように叫ぶ。しかしもうなにもかもが遅かった。
『許サナイ!!!』
その絶叫が響いた途端レアスを核に物凄い圧力がまわりに加わって吹き飛ばされそうな
幻覚にさらされた。
レアスを見ながら長老は言う。
「我々は神の怒りに・・・・・・・・・触れて・・・・・・しま・・・のか。」
「うわぁぁぁぁぁぁっぁ」
もはや人の姿はなく影さえ残っていなかった。
一瞬にして肉も骨までもが溶けてしまったのだ。
しばらくその状態が続くと力が膨張したかのように大きな爆発が起こった。
白い光が一瞬にして村全体を包み込んだ・・・・・・・・・・・。
緋色に染まった青の瞳。
血を浴びた白い翼。
レアスは今は荒野となったついさっきまでダインという小さな村があった地に立っていた。
ふと上に広がった雲一つない青空を見上げる。
「リアン。君は今この空のどの辺にいる?」
青の伝説はこうして現実となる―――――――。