思う心
「総員クラスDスタンバイ。交代で休憩に入るように」
「全艦に通達致します」
ミッション完了。後は帰還するのみ。
もちろん気を抜けはしないが、山は越えたことになる。
「ジェイナス閣下?」
「え・・・?」
掛けられた声に、自分がぼんやりとしていたことに気づく。
「大丈夫ですか・・・?」
「すまない。少し、考え事をしていた」
私は苦笑いをする。
「少し、おやすみになられた方が良いですよ?」
にっこりと微笑むトレス中佐は、有無を言わせないつもりらしい。
彼の”にっこり”は、普段あまり笑顔を見せない分効果があるが、実は無言で逆らわせない迫力も、ある・・・。
「わかった」
私はまたも苦笑するしかない。
指揮官は、私で。つまり上官な訳だ。年齢がどうあれ・・。
(トレス中佐の方が4つ上だ)
「ご報告したいこともありますので、歩きながら失礼させていただきます」
「・・・それは私は信用ないということかな?」
部屋に戻るのを見届ける、ということ。
「前例がありますからね?ああ、ミズノ大尉!」
さらりと言って、トレス中佐はミズノ大尉に色々な指示を出している。
まあ、いい。彼の能力は信用してる。
私が自分で、初めて登用したいと上官に申請したほどだ。
「さて、よろしければ行きましょう?閣下」
「仕方ないな。従うとしよう」
苦笑せざるを得ない。
「・・・・」
席を下り際、控えていたミズノ大尉が複雑そうな表情をしているのに気付く。
「どうした?ミズノ。MISSIONは無事終わったぞ?特に不審な点もない・・」
「あ、いえ―――そのようなことでは・・」
「・・・はっきりしろ」
時々歯切れの悪い物言いをする。
「個人的な事ですので・・」
と、彼の視線はちらっと私の後ろのトレス中佐を見る。
(仲が悪いと言うことはない、よな・・?同じ部隊だったこともない筈だし・・・)
「御心配なく?大尉。事後処理について話すだけですよ」
「・・何の事だ?」
トレス中佐の答えが、余計分からない。
話の意図が掴めず、トレス中佐を振り返るとにっこりと微笑まれた。本当に、読めない人でもあるな。
「ライアン」
「ん・・・?」
小声で、珍しくファーストネームを呼ばれて、ミズノの方を向く。
「俺は、誰かに腑抜ける貴方は見たくないですからね」
「・・ああ?ふ抜けているつもりは、ないが?」
思わず睨み付けてしまう。
(何が言いたい?俺がいつそうだったと?)
眉間にシワが寄っているのが自分で判る。この所確かにミズノとブリッジの仲の雰囲気が少し妙だ。
MISSION中はさすがに無かったが、伺うような視線とそらされる視線があった。
「『IceDoll』・・・」
トレス中佐が呟き、言葉を続ける。
「そう、言われていた私が、ここへ来てから閣下に笑いかけているのが余程不審なんでしょうね」
くすくすと笑いが含まれた声だ。
「ああ、そう言えば中佐は笑顔を見せないと・・聞いていたな」
「・・・・」
「・・・ん?」
言葉にして、ミズノの心配していることに思い当たる。