星明りの夜
「少しは…加減しろ」
目が覚めて、ライは私の腕の中で(私が離さなかったらしい)
おはよう、と言ったらそう言われてしまった。
外は既に、日が落ちて暗くて。
「ごめん。でも…」
想いが通じるなんて思っていなかったし、それが思いがけなく手に入って。
してるときのライが、凄く綺麗で可愛くて…
それから、ライの中…気持ちよすぎて。離せなくて。もう、絶対無理だ。
「…スタン…。あんまり、思い出すなよ」
小さな声でライが言う。あ、顔に出てた…のか。
見るとライは真っ赤になってて。…壮絶に、可愛すぎて。
「ライ、可愛い」
「ばっ!!せ、成人した男に、か、かわ…可愛いはないだろ?」
「だって、私が…そう思ってしまったから」
「〜〜〜」
正直に言ったら、ライは黙ってしまって…。
それから、私の胸に顔を伏せた。
ホントに、可愛い…。
2人でいるときは冷静な仮面じゃなくて、いたずら好きだったり、拗ねたり、笑ったり。
喜怒哀楽がはっきりしてたけど、これほど可愛いのは初めてだ…
「スタンには、敵わないな…」
「え?」
「気がついたら、絡め取られてる。全部…」
どういう、意味だろう?
「ライ、それはどういう…」
「教えないっ!」
くるっと私に背中を向けて、私の手をすり抜けてベットを降りようとして…。
ずるりとベットの足元に座り込んだ。
「ライ?」
「…」
ゆっくりと私の方を肩越しに振り返って
困ったような、情けないような表情をして、それからぎゅっと唇をかんでから
「やりすぎ!」
と、怒った声を出した。
あ…立てなかった、んだ…。
そう、だよね。私は手加減…なかったし、でも我慢できなかったから…。
「ごめん、ライ」
起き上がって、ライの前に回ってベットに戻そうとして手をかけた。
「あの、な…スタン」
「うん?」
ベットに座らせて、ぎゅっと抱きしめた。
「腹減った。あと、ベット…シーツ、凄いことになってるから…その、寝るの、無理」
そうだよね。朝も昼も食べていない。
「軽いものなら私が作る。でも…」
「うん?」
顔が見えるくらいだけ、抱きしめた手を緩める。
「…手加減、頑張るけど…多分凄いことにはまたなると思う」
「!!!」
正直に言ったら、ライは真っ赤になって
「言うな馬鹿!」
そう言って、俯いた。やっぱり、可愛い…。
お腹が空いた、と言った割りには元々色が細いライは、サラダだけで良いと言った。
私の方は、言われればやっぱり空腹だったからパスタを茹でて。
少しだけライにも食べさせたけど。
こんなに食べないくせに作るのは好きなんだよな、ライ。
食後には今日は、少し甘くしたホットミルクを渡した。
「…甘い」
一口飲んで、不満げに見上げる。
「だって、御飯食べてないし、ライ」
「元々、そんなに食べないから普通だよ」
身長の割りに細いのはそのせいだね、ライ。
「筋力付けないとと思って、食べた時期があるんだけど」
カップを両手で抱えるように持って、子供みたいだ。
「胃の方が先にネをあげた」
「ライは敏捷性高いから、無理に重くしなくてもいいよ」
「スタンに敵わないし」
「銃の腕はライの方が上じゃないか」
負けず嫌いなのは、ライ自身だよね。昔から変わらない。
「全部負けっぱなしは、悔しいだろ…。笑うなよ」
顔が笑ってたらしい。だって、ホントに悔しそうで。
「もういいよ。惚れた方が負けっていうなら、一生敵わないし」
…え?それは、私の方だと思うけど?ライ
「だったら、私の方だよね?ライ」
「…」
違うって言いたそうな表情してる。
「…一目惚れだから」
憮然として、言ってカップを口にするライ。
「はい?」
「思い返すと」
「うん」
聞き逃したら、一生聞けない気がする…。
「教室で、スタンに話しかけて振り返ったとき、心臓止まりそうだった」
「……」
「綺麗な顔は見慣れてるけど、それでも驚いた」
知らなかった。だって、私の方も驚いてたから、あの時。
私を見る、真っ直ぐな視線。嫌悪感のない、綺麗な声。
「じゃあ、おあいこだね?ライ」
「?」
「だって、私もあの時…ライを見てどきどきしてた」
抑えられないくらいに、好きだと思ったのはもう少し後だけど。
「…んっ」
自然に、唇を重ねていた。
そんな告白を聞いてしまったら、我慢できないのは普通だろう。
「っ…スタ、ン…」
「何・・・?」
耳朶を軽く噛んで。
「や…休みっ、あと、8日…あるんだ、からな?」
「あと8日しかないんだ」
ゆっくりと首筋にキスを落とす。
「…別に、休暇終わったら…、終わりじゃ…ないぞ」
「いいの?」
「終わりたい?」
「…嫌だ」
「だったら、歩けないのはなしにしてくれ」
「う…」
ごめん。確かに昨日というか今日は加減全くきかなかった。
「作り物だけど、湖に御飯持って出かけるとか。ゆっくりできるんだから」
「努力する」
努力の約束に、音を立ててキスをした。
「ベット、いこ?ライ」
甘えるように、ライを見る。
昨日気づいたことだけど。
「手、貸して」
私がちゃんと頼むと、ライは嫌って言わない。
手を握って立ち上がるのを手伝って、私に寄りかかるようにして歩く。
「愛してるよ、ライ」
「!」
ライはびくっとして立ち止まって
「…俺も、愛してる…」
小さな声で、答えてくれた。
「自信、なくなってきた」
「!」
「だって、ライが可愛すぎる」
早く抱きしめたい。そう思いながらライを急かすように歩き出す。
「俺のせいなのか?」
「私のせいだけれど、嫌いになる?」
それだけは、耐えられない。でも、きっと
「…ならないってわかってる癖に」
うん。でも、答えて欲しい。
寝室について、何となく鍵をかけて。
その後はやっぱり私は余裕がないくらい、求めてしまって。
我慢できなくて。
口付けて、掻き回して、息が出来ないくらいにキスをして。
「ごめん、やっぱり…私は」
漸く、ライの口から離れて、言った。
「あやま、るなよ」
息を大きくつきながら、ライの瞳は潤んでいて
「いいって、言ったのは俺だろ」
「ライ…」
ふわっと、そんな感じに、ライが笑って。
そうだ。ライは、ここにいる。私の側にいてくれる。
触れて、抱きしめて、無くなる訳じゃない。
「一緒に、感じて?ライ」
「ん…」
抱きしめて、抱きしめられて。
1人じゃない。誰より、大切な君が一番近くにいる。
こんな幸せが、私に与えられるとは思わなかった。
「愛し、てる…スタン」
昨日にも増して、激しく突き上げて。
昇りつめて。
「やっぱり、気絶させてしまったな…」
ぐったりと私にもたれかかる心地よい重さを抱えながら、髪の毛にキスをする。
「無理させて、ごめんね。ライ。愛してるよ」
抱きしめて、背中を撫でながら。
この幸せを噛みしめる。
どうか、ずっとずっと、こうしていられますように。
小さな天窓から見える星に、願いを込めて祈る。
もう二度と、ライを失うことにならないように。
「手出しなんか、させないからね。ライ。安心して…?」
私たちが望むのは、ほんの小さな安らぎだけだから。
−END−
2009.11.14