Demilitarized Zone -vol.3

ラファについて行った先は、ビルの屋上だった。
「ぅわ…」
一方だけ、見晴らしが良くて
夕焼けが綺麗に見える。薄暮の朱が鮮やかだった。
「結構、キレイだろ?」
嬉しそうな笑顔でラファが言う。
「ああ」
でも、綺麗なのはラファの方が綺麗だ。
言葉にはしないけど、本当にそう思いながら答えた。
「時々、見に来るんだ…」
そう言ってラファは壁を背にしてすとん、と座り込んだ。
「隣、いいかな?」
「ん…」
僕を見上げてから、こくりと頷いてくれた。
隣に座って、二人で景色を黙って眺める。

「傷…」
ラファの声がした頃には、空がかなり暗くなっていた。
「?」
「痛まない?」
「我慢できない程じゃない」
「鎮痛剤、あるけど…」
「あぁ。大丈夫、慣れてるから」
「…」
じっと、僕を見ている。
「意外?」
慣れてる、と言ったのが意外だったのかなと気がついた。
「…少し」
「ラファは…」
ラファは中立に住んでいるんだろうか?
それとも、外の…どこかの組織の一人?
「いや…。いいよ。聞いても、外で会ったら――そう、行動するしかないし」
「…同じ所にいるとは、思わない?」
同じ所に?
今のTOKYOには東西南北、大きく4つの組織がある。
僕は『北』の幹部の1人で。
「人の顔を覚えるのは得意だからね。ラファくらい印象的なら忘れないし」
だから…同じ所にいるとは思えない。
「…印象的、…?…僕が?」
心底、不思議そうな顔をしている。
「かなり」
自分のこと、わかってないんだな。ラファ。
前線に出てきてる人間や幹部なら、他のトコでも顔はわかるんだけど。
知らないということは幹部ではないし戦闘員でもないってことか…?
「アルのほうが、ずっと…そうだと、思う」
「でも、僕のこと知らないだろう?」
「うん…」
「じゃあ、やっぱり違う所にいるんだね」
戦闘員じゃないなら、連れて行くことは出来るな。
「違う、所…か」
「うん…?」
「何を、皆…欲しいんだろう…?」
「―――」
何を?
覇権?
いや、ここでそんな物を持ったって今が変わる訳じゃない
外に出られるわけでもない。ただ、情報は得られるかもしれない。それだけ。
「ごめん」
「…え?」
「自分でも、答え…判らないこと…聞いた」
「君もどうしたいのか、迷ってるの?」
皆が多分、手探りなんだ。
「―――多分…」
どこで誰が始めたか判らない闘争。
危うい、4つのバランス。
中立地帯がなかったらきっと、とうに壊れていただろう。
だけど、組織がなければもっと…荒れていた筈だ。
それぞれが秩序を持って統率しているから、弱い者も守られている面はある。
全てを肯定できる訳ではないのだけれど…

「…戻る?」
「あ、あぁ」
空はもう暮れていて、わずかだけれど星が瞬いていた。
「ごめん。アル…休まなきゃいけないのに。変なこと、聞かせた―――」
「いや。多分僕も、同じ事…ずっと考えてるから」
そう。このままでいたい訳じゃないから。
戦うことに、理由が見えないような今のままでは。
「…」
「でも、初対面の相手にそんな話――するなんてね?」
今までの僕なら有り得ないことで、笑ってしまう。
「あ…そ、か……うん」
「ラファは」
「…ん?」
「他人に警戒心、ないんだね」
「…よく、言われる」
やっぱりいつもなんだな。
「僕が君を利用しようとかしたら、どうするの?」
「…え?」
青い瞳が大きく見開かれる。
――――思い出した。
『南の守護』が青い瞳。称号が『ラファエル』
ラファ、名前をそのまま使うから…思い出してしまったよ?
「中立で、何かしそうには――ない」
「…うん。そうだね」
僕らがそれを破ったら、どうなるか判らない。
「でも、アルが…1人がいいとか…誰かに、連絡したいとかなら――他のとこ…行くけど」
「―――え…?」
思ってもいなかったことを言われて、言葉に詰まる。
「邪魔、だったら…遠慮なく、言って」
ねえ?少し、寂しそうに見えるのは僕の勘違いじゃないよね?
「いてって言ったら、一緒に居てくれる?」
「うん――」
「じゃあ、いて?話したいな」
「―――僕と?」
「そう」
ラファと。ラファのことが知りたい。
「―――面白い話とか、出来ないけど…」
「そんなのじゃなくていいから」
「ありがと」
「どうして、お礼?」
「あ――――うん…僕と、話したいなんて。初めて…だから」
「――――」
南の守護が?幹部の1人なのに…?
「下、戻る…?」
「ああ。そうだね」
日が落ちきって、寒くなってきている。
立ち上がろうとして、あちこちの傷がやっぱり痛んだ。
「っ…」
「大丈夫…?」
心配そうな顔で、手を差し出してくれる。
「―――ありがとう」
「…うん…」
笑顔でお礼を言ったら、ラファは赤くなって。でも少し、笑った。
ラファは一体、どんな扱いを受けているんだ?
話をする相手がいない?
お礼を言った位で嬉しそうにする。
当たり前のことだと、僕が思っていること。
ラファにはそうじゃないんだろうか?
…どうして、気になるんだろう。

2010/11/23

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