はじまりの季節
ノックの音がした。
「はい。どうぞ」
同室の人だろうか、と思って扉を開けて迎えることもせずに声だけかけた。
「おはよう、今日も良い天気だね」
「…どなた、ですか?」
見知らぬ外人が入ってきた。
いや、流暢な日本語だから、外人…なのかは不明だ。
部屋に入り、扉を閉め、僕の目の前まで歩いてきた。
…何となく、見たことが…あった、っけ?
「嫌だなあ。キスまでした仲なのに、私は印象がそんなに薄いかな?」
にっこりと笑って、僕より少し高い目線から屈んで顔を近づけてきた。
(あ!!昨日…)
そうだ、うっかり裏庭で転寝して、気がついたらこいつが…
「それで、何か用?」
僕は女の子じゃないから怒ったって仕方ないし、男とキスしたなんて…忘れたい。
「うん。隣の部屋だし、これからよろしくねって挨拶に」
「それは、どうも」
(変な奴。)
「それと、拒否権なしで」
後で思えば、きっと黒い羽と尻尾が見えてたと思う、満面の笑みでそいつは言った。
「生徒会書記兼会計に任命するから」
「…は?」
「私は一応、副会長なんだけれどね。午後にでも会長に会わせるから付き合ってね?杳」
生徒会?拒否権なしって、何?
「それから、プライベートの方は」
「え?」
未だ固まっている僕に、そいつは畳み掛けるように言った。
「君のコト、口説くからそのつもりで居て?あ、素直に口説かれてくれるなら今からでもOKだけど」
口説く?何?プライベートで口説くって何?
口説く、功徳、いやそうじゃなくって…
「いらないっ!!」
プライベートで口説くって、キスしたりってそういうあれ?
冗談だろう?僕は確かに筋肉隆々、って訳じゃないけど女顔な訳じゃないし。
こいつみたいに、美形って訳でもないし。
「拒否権はどっちもなし。私はアーネスト=ガーフィルド。よろしくね?杳」
音を立てて頬にキスされた。
「な、なに…」
「君って結構、隙だらけだね?武道、やってるって聞いてたけど」
くすくすと笑われた。
それより、た、体勢っ!何でこんな近いんだよ。
僕は慌てて、相手の身体を押し返した。
「続きはまた今度。じゃあお昼迎えに来るから、逃げないでよ?」
綺麗にウィンクをして、台風のようにそいつは部屋を出て行った。
「な、なん…なんだよ…??」
弓道と勉強と、僕なりに頑張ってやろうと思ってた高校生活の始めから、
何だか平穏じゃないことになりそうな予感がした。
2010.08.16
*** comment ***
杳は極普通。多少口下手+人付き合い下手ではありますが。
男相手に迫られるなどとは予想だにしない訳で、思考回路は拒否権発動中です。
早く相手の方に拒否権発動しないと、悪魔っ子の金髪はどんどん攻めます(・・)
可哀相だがきっと捕食を逃れる術は…