ドリー夢小説









【結論、似たもの同士。】






一般認識における病院内とは、待合室や相部屋、
ナースステーションなどで交わされる会話を除けば、古今東西静かな場所と決まっている。
ドタバタと音を立てて廊下を走れば、患者だろうが医師だろうがすかさずナースに注意されるだろう。
そんなこと、常識過ぎて今更語るに及ばないのだが。


桜上水総合病院は(何故か)今日もやたらと騒がしい。





1階、待合室横ナースステーション。
カルテやら外来用の薬やらを点検していながら談笑していたナース達だったが、
少し遠くから聞こえてきた足音に敏感に反応した。


「・・・・また、かしら・・・」
「・・・・また、でしょうねえ・・・」


はぁ、と額を押さえた小島有希主任に、呆れ果てて怒る気力もなさそうな桜井みゆき看護婦が
気の無い相槌を打つ。
段々と近づいてくる足音。勢いは留まらず。
有希は立ち上がり、手にしていた10枚ほどのカルテを通りざま上條麻衣子看護婦に渡した。
同期の彼女は有希から仕事を言い渡されるのを嫌うが、今回ばかりは何故か素直に受け取る。
受け取らないと、あの足音の始末を自分がつけなければならないからだ。
正直、面倒。


ナースステーションがあることを分かっているのかいないのか、必死に廊下を駈け抜けるのは
既にお馴染みの顔である。
いい加減学習して欲しいと思わずにはいられない有希だったが、そこは真面目な彼女のこと。
出来の悪い部下だって見捨てやしない。
(ちなみに彼女がそうだから新人教育係りを押しつけられるのも分かっていない)


「こら、真田!
 廊下は走るんじゃないって何度言ったら分かるの!」

「うわ、しゅ、主任!
 すんませんでした!!」


見事な急ブレーキで有希の声に反応し、新人ナースマン真田一馬はバッと頭を下げた。
腰が90度くらい曲がってそうだ。
あまりの腰の低さ――もとい素直さに有希も眉根を寄せる。


(もう一人のに比べれば、ホント素直でいい子なんだけどねぇ・・・)


如何せん飲み込みが悪いというか、要領が悪いというか。
やる気と努力は人一倍なのに、彼の場合それが活用されていない。


「・・・で?
 今日はどんな理由で走ってたの?」


後ろから「体温計を壊して取りに走ったに1票」「点滴射し間違えて三上先生のパシリ中に1票!」などと
聞こえてくるのはとりあえず無視しておく。


「あ、あの、さんが・・・
 315号室のさんがいなくて、
 その、さっきちょっと遅れて検温に行った時にはもういなくて、
 だから俺、その」

「あ、ハイハイ。
 分かったから」


しどろもどろになって順序立てた説明が出来ていない一馬のセリフを遮る。
実際有希には「さんが」を聞いた辺りで分かっていた。
それはここの所、彼を走らせる理由のぶっちぎりナンバーワンだからだ。
最初こそ病院側も慌てたものだが、14回目ともなると流石に「またか」という雰囲気が強くなる。
いつまでたっても新鮮さを失わない一馬に拍手を送るべきか否か、この場合。


、というのは。
先天性の心臓病を患っていて、随分間から入院している少女だ。
そして新人ナースマンの一馬の担当患者でもある。
普段はとても病気とは思えないほど元気で、オテンバで、
小さい頃から病院生活で甘やかされてきたせいか、型破りなワガママを言い出しては一馬を困らせることもしばしば。
どうもじっとしているのが苦手らしく、今日のように天気がいい日は度々病室を抜け出すのだ。


「えーとね、真田くん。
 彼女いつも第二病棟の屋上か中庭の紅葉の木の下にいるでしょう。
 そこはちゃんと見てきましたか?」


「・・・・・・・」



あ・・・というような表情で黙り込んだ一馬に、有希はため息を隠せない。
見てきてるわけないのだ。
手に体温計を握り締めたままの彼は、彼女の病室からここまで直行で走ってきたのだろうから。


「・・・すぐ行ってきます!!」

「あ、だから廊下は走るなって・・・・!」


止める間もなく足を踏み込んで見えなくなった彼に、本日3度目のため息。


「うーん。
 彼も患者思いのいい子なんだけどねぇ。
 真面目すぎるのかしら。勿体無いわ」

「・・・西園寺婦長。
 いらしてたならもっと早く出てきて下さい・・・」


いつのまにか後ろに立っていた西園寺玲婦長に、主任は立て続けにため息をつくこととなる。
ひょっと現れてひょっと去っていく上司は、にこやかな笑顔で「まあまあ」と有希の肩に手を置いた。
かくて彼女の気苦労は収まらない。





位置的にまず一馬は、中庭の方に飛び出した。
まだ一般病棟は朝食を取っているかいないかの時間だから、そうそう中庭の人口は多くない。
彼女を追って何度か足を運んだその場所を探す。

遠目に薄黄緑のチェック柄のパジャマを見つけた時は、思わず主任に内心拍手を送ってしまった一馬だった。


(さすが小島主任・・・患者さんのこと良く分かってるな・・・)


思った後、自分の受け持ちの患者くらい彼女より正確に把握してなくてどーすると気付いて空しくなるも、
何よりもまず彼女を病室につれて帰らなければ。
彼女は(自分以外の誰かが来ていなければ)検温も済ませてないはずだし、朝食も採ってない。



「・・・」


さん、と声をかけようとして、一馬は止まった。
紅葉の木に背を預け、傍らに点滴を置いて(キャスター付きの。ここが緩やかな斜面になっているのだから、全く危なくて仕方ない)、
すやすやすや・・・・・・と。
一馬の焦りも露知らず、当の本人は平和に寝こけていたからだ。


「・・・・・・」


普段生意気ばかり言う雰囲気とはかけ離れすぎた無垢な寝顔に、
連れて帰る気力なんて根こそぎ奪われる。
やれやれと、一馬は静かに彼女の足元に座りこんだ。


夜勤明けでクタクタの彼を迎えたその柔らかな下草、暖かな日差しと雀の鳴き声は、
この上ない極上のベッドと子守唄のようで。
思わず一馬の口からため息がこぼれる。
病院の固いベッドでずっと寝かされていたら、堪らずここへ抜け出したくなる気持ちも分からなくもない。
あまりの気持ちよさに思いっきり伸びをして大きなあくびをかまし、少しウトウトしかけてから一馬は思い出した。

(あ、これって職務怠慢になんのかな・・・)

傍から見ればサボり同然なんだろうなぁとふと気付き(同然も何もその通りだが)、
再び一馬はを起こしにかかろうと降り返った。



振り返って、人より少し小心者の彼はギョッとした。
彼女の頬に朝日に照らされて光るものがあったからだ。



(・・・・・・えーと・・・・・

 泣いて・・・・・・・るんだよな、これって・・・)



当たり前だと自分で自分にツッコミを入れてみる。
失礼かもしれないが、一馬はが泣くなんて地球がひっくり返っても有り得ないと思っていたのだ。
自分より年下のくせに生意気だし、自己中だし、しかもどうやらナメられてるようだし。
そんな気の強いしか見たことのない一馬がそう思ってしまったのは、ある意味当たり前かもしれない。

遠目には穏やかに寝ているとしか見えない彼女の夢の中に何が現れたのか、当然一馬に知るすべはない。
だけど、不意を突かれたの涙を見て、一馬は今まで忘れかけていたことを思い出した。



彼女の病気が――心臓に抱えた爆弾が、決して簡単に治るものではないこと。
心臓に巣食った気まぐれな病魔は、いつ機嫌を悪くして彼女の体を暴れまわるか知れない。
今にだって訪れるか分からない死の宣告に、不安にならないはずがないのだ。



多少の風邪や伝染病にはかかっても、まあ健康といって間違いはない程度に生きてきた彼には、
それは到底理解しえない恐怖だし出来れば知りたくない恐怖だろう。



でも、彼女は戦っているのだ。
自分の体内に居座りを決めこんだ敵と、毎日戦っているのだと。
そして普段の憎まれ口や生意気やワガママは、強い自分をそいつに知らしめる為なんじゃないかと。

一馬は、そう思った。




「ん・・・・」




一馬がじっと見つめる中、は小さくうめき声を上げて目をしばたかせる。
その拍子に、睫に弾かれた涙が宙を舞い、彼女に泣いてたことを知らせてくれた。
意識してみれば頬にも感じる、確かに水が伝った跡をパジャマの裾で拭い、はあくびをかみ殺して―――


そこでようやく目の前にいた一馬に気付いた。


確かにこっそり抜け出して、一人でココに来たはずなのに。
でもコイツ、どー見たってたった今ここに来ましたって感じじゃ・・・



混乱していた頭が徐々に推理を広げていくにつれ、の頬に朱が昇っていく。



「・・・・・・・ッ!」


「えーっと・・・おはよう、さん。
 また勝手に病室を抜けだッ・・・」



一馬のセリフが不自然に途切れたのは、が思いっきり足で一馬を蹴り飛ばしたからだ。
先に書いたようにそこは緩やかな傾斜になっていて、丁度の足が届く位置に一馬の体があったため、
彼女の蹴りはみぞおちにクリーンヒットした。


「・・・・・・〜〜〜!」


なんだかよく分からないうちに訪れた唐突な痛みに、一馬は体を二つに折って声もなく苦しむ。
そんな彼を当然の報いだとでも言いたげな視線では見やり。
―――もとい、睨みつけ。


「信じらんない!
 女のコの寝顔覗き見るなんて、サイテー!!」


本気で怒った様子で怒鳴り散らすと、は右手で点滴を転がしながらさっさと病院へ戻っていった。
ここだけを見れば誰もが泣いていたなど信用しないだろうと思うくらい、
怒りと恥ずかしさで真っ赤な顔になっている。
後に一人残された、腹を抱えてうずくまる一馬のなんと可哀相なことか。


(確かに寝顔は見たけれど、それは不可抗力というかなんというか。
 つーかあんまり急いで歩くなよ、発作起きたらどーすんだって・・・
 ・・・いや、ええーと。
 とにかく探しに来てたら寝てて、起こそうと思ったら泣いてたから、
 だからなんか起こしづらくて、そんで・・・・・・・・・・

 ・・・・俺が悪いのか・・・・・?)




(・・・可哀相に・・・)

ナースステーションの窓から一部始終を見ていた有希は、顔をしかめて小さくため息をついた。
全く間が悪いとしか言いようのない。
後で少しは弁明しておいてあげようかなと思う主任はやっぱり真面目である。


「桜井さん、315号室のさんの所に検温と朝食の用意を」

「はーい」



そんなこんなで。
ある日の桜上水総合病院の朝は、一人の少女の怒声と一人のナースマンの涙で幕を開けた。







Fin?

 

■□わあー入院したい。←しかし私は健康体・・・。□■

フィンさんからナースマンドリが来ました!ので早速新鮮な内にUPをばv
とてつもない行動の早さです。白衣萌えです
苛められナースマンだそうで・・・思いっきり蹴られてますネ(笑)
ミゾオチは痛いですぞかなり
なんだか病室とか合わせていただいちゃってスミマセン〜。びっくりしましたですよ。ドキドキ・・・。
(私のてきとうな設定が入ってたものですから届いて驚きました)
ほのぼの交流なドリームにウットリでした。

どうもありがとうございました〜vv

 

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