第十五話:奔走

「美香ちゃんの証言で僚の無実はすぐに晴らされるわ。だからお願い、暫く協力して欲しいのよ。
 勿論報酬はきちんと払うわ。」
「まさか、もっこりで払うなんて言わないわよね〜。」
「あら、香さんがお望みならそうしてもいいんだけど?」
女刑事は妖艶に微笑むと女の顎をさらっと撫でた。
「じょ、冗談じゃ、な、ないわ!!」
「ふふ。冗談よ。ちゃんとキャッシュでお支払いするわ。」
女は鳥肌を立てつつも渋々了承した。現在の経済状況から言って了承せざるを得なかったのだ。
「で、でも僚を拘束したら、捕まるものも捕まらないんじゃないの?」
「逮捕劇は身内を信じさせる為よ。あくまでもこれはトップシークレットのプロジェクトだから他に洩れる心配は
 ないわ。拘留場所も通常とは違う場所を用意したわ。」
女刑事は自身の肩を揉みながら少々疲労の様相をみせた。
「僚のことだから大方犯人の目星はついてると思うのよ。上手く犯人がシッポを出せば良いんだけど、
 こんな姑息な事を思いつくヤツだから、早々そんなドジは踏まないと思うのよね。それに・・・。」
女刑事は深い溜息をついた。
「お父様達が・・・真犯人がシッポを出すのを待つ前に痺れを切らして、捜査させて僚を逮捕しそうだったし。
 そうなると、ね、後々面倒なのよね。わかるでしょ。」
女刑事は苦笑した。
「だから、一応僚には職業を"うだつの上がらない探偵"って事にしてもらって、香さんには内緒にしていた
 という事にしてほしいのよ。そう、あなたは何も知らなかったの。いいわね。」
「わ・・・わかったわ。」

「だーれが"うだつの上がらない探偵"だ、誰が。」
その頃護送される車の中で男はひとり愚痴を零していた。
「ん?なんか言ったか?」
「いやぁーおしっこしたいなぁって言ったんすよー。」
「我慢しろ、もうすぐ着く。」
「へーい。」
車の中で男はめいいっぱい"うだつの上がらない探偵"を演じ続けた。

「でも美香さんは大丈夫かしら?僚がシティハンターだって事言ったりしないかしら。」
「そこは大丈夫。その点に関しても彼女は賢いの。だって彼がシティハンターだって事バラしたら
 自分の首を絞めるようなものでしょ?あくまでもお嬢様の枠を取り去る気はさらさらないのよ、あの子。」
女刑事はそう言うと女に近づき、その胸元に顔をよせた。
「じゃ、僚そういうことだからヨロシクね。報酬は香さんに支払うから、お望みのものは香さんから頂戴してね〜。」
赤面する女を他所に、おちゃらけて女刑事はそう言うと静かに付け加えた。
「今夜、動いて貰うわよ。」

*****

その夜女刑事の言葉通り、男は夜の闇の中へと放たれた。
男はある屋敷の家主の寝室に難なく潜入し、ベッドに座る家主の背後に立った。
「おいおい、日本で名だたる新聞社の社長が無用心なんじゃないの?」
「き、きさま・・・何者だ。いったい、どこから・・・。」
家主は恐怖におののきながら、震える口で必死に問うた。
「あんたが犯人に仕立てようとした男さ。ちゃんと玄関から入ってきたけど?」
「な、何?ま、まさか・・・し、シティ・・ハンター・・。そんなバカな。屋敷内にはし、シークレットサービスの者が・・・。」
「あぁ、いたねぇ。運動不足みたいよ。おたくのシークレットサービスは。」
家主は恐怖に全身を震わせ、振り返ることすらままならない。
「俺を相手にするんならもうちょっとマシなやつを用意しないとな。で?黒幕はお宅って事で間違いないんだな。」
「な、何のことだ・・・。」
「ふーん、知らばっくれちゃうんだ。この期に及んで。」
男は銃口を家主の後頭部にピタリとつけた。
「ま、待ってくれ。た、確かに私が依頼をしたが、シティハンターを陥れる計画を立てたのは私ではない。
 く、黒部だ。」
「黒部・・・。」
「ふふ・・。それにもう黒部は動き出している。君たちの所に警察どもが乗り込んだのは知っているからね。
 わ、私は端から金なんてどうでもいいんだよ。あの庄野のヤツに復讐ができればね。」
家主はそう言うと高らかに笑った。
「何?!じゃ、美香ちゃんを殺しに・・・。」
「ああ、そうだ。だが、もう遅い。仕事はきっちりとやるやつだからな、黒部は。」
家主が最後の言葉を吐いた瞬間男は弾丸を放った。
弾丸が家主のこめかみを掠り、家主はその場に気絶し倒れた。
「チッ!オイ、冴子聞いたか。」
『ええ。』
「美香ちゃんが危ない。すぐに向かうから場所を教えてくれ。」
『わかったわ。急いで、僚。』
男は家主を縛り上げると、窓を破り、その場を後にした。

*****

ネオンの海を見下ろすビルの屋上に黒部の姿はあった。
一時的に庄野親子が宿泊している部屋が射程距離内にある。黒部はライフルを構えた。
スコープの向こう側には怪訝な表情の美香が、ネオンの海に視線を馳せている。
「さようなら、お嬢様。」
黒部は引き金を引こうとした瞬間、背後に気配を感じた。
ゆっくりとライフルを下ろすと、黒部はその気配の主を確認した。
「新聞社社長の第一秘書がプロのスイーパーとはね。」
気配の主は黒部に言葉をかけるが、月の光が逆光となり黒部は相手を認識することがままならない。
「ほう、私を知っているのか。誰だ、貴様。」
「もう、名乗る名前も残ってはいないさ。貴様のようなヤツにはな。」
気配の主はそういうと同時に黒部に飛び掛った。
力技は得意でないのか、黒部はあっさりと気配の主に拘束された。
月明かりに金髪の髪が透けて、たなびく。
「外人・・・。まさか・・・ミック・エンジェルか・・?」
「ほう、私を知っているとは、少々裏の世界に首を突っ込みすぎたんじゃないのか?」
「私はもともと裏の世界の人間だ。」
黒部はそう言うと同時に袖口に仕込んであったナイフを金髪の男めがけ一振りした。
金髪の男は一瞬たじろぎ、黒部を拘束している手を緩めた。
その隙に黒部はビルの防護柵を乗り越えると、20階立てのビルの屋上から、都会のネオンの海へとダイブした。
「な!バカな!!」
金髪の男は防護柵ギリギリまで駆け寄ったが、その向こう側を伺い知ることはできなかった。
都会の暗闇はヒト一人など容易に飲み込んでしまう。
金髪の男は携帯電話を取り出すと、何やら話し、足早にその場を後にした。

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