愛囁
同情や哀れみは一番嫌いな感情だ
その感情こそが人を傷つけるなんて、誰一人気づいていない
だから僕は仮面を被る
父をこの手にかけ、親友を失い、呪いを身に受けた可哀想な英雄・・・
人々がそう囁きあうならそうなってやろう
偽りの仮面を被り生きてやる―――――――。
夜の帳が下りた頃、トランの英雄であるティル・マクドールは
静かに与えられている自室をあとにした
目的は本拠地の最上階
「っ・・」
外に出、感じた風の冷たさに少し身震いする
そこには誰もいない
大きく息を吐くと服の裾から少量の袋を取り出す
俗にいう”薬”というもの・・
吸うと心地いい爽快感がティルを包んだ
「あーっ、タバコなんて吸ったら体に悪いですよー」
そんなティルを現実に引き戻したのは幼い少年の声
「オウリ・・・どうしてここに?」
まだ寝てなかったの?という質問はなしで、どうして此処にいるのかを聞く
「マクドールさんの姿が見えたから・・・」
なるほど・・・
オウリは階段を上がるティルの姿を見つけ追いかけてきたのだ
「マクドールさんこそ、こんな所でタバコなんて吸って!」
そう注意するオウリにティルは苦笑を噛み殺す
「これはタバコじゃないんだけどね」
「え・・じゃぁ・・・」
ティルが一際、大きくソレを吸い込みそのままオウリへと覆い被さる
「っ・・・ごほっ・・・ごほ!・・ティルさ・・」
急なことに咳き込むオウリ
「ッ・・・何するんですか・・?!」
顔を真っ赤にして怒る
ティルは、ふっと笑い、またオウリに顔を近づける
「薬だよ・・・・ソレ」
一瞬、意味が分からなかったのかポカンとするオウリ
「薬・・・て・・えっ・・えぇー――・・・?!」
ようやく意味が分かったのか、あたふたと慌てだす
その様子を楽しそうにティルは、くすくすと見る
「大丈夫、薬といっても依存性のない、ごく軽い物だから」
安心させるように言葉をかける
「何でそんなもの吸ってるんですか―――・・」
ティルは、ふと表情を曇らす
「自分を保つため・・・かな?」
「保つ・・?」
思わぬティルの言葉にオウリは首をかしげる
「簡単にいうとね、精神安定剤のようなものだよ。
夜に訪れる不安や恐れから抜け出すためのね」
自分を偽っているから、時にむしょうに苦しくなる
自分の存在を否定したくなる
そういう時に訪れる不安から逃れる為に薬を使う・・
「それでもやっぱ・・・マクドールさんの体に良くないですよ・・・」
「そうだね、良くないと思う」
ティルは困ったようにオウリに笑いかける
そして薬を取り出し、それに火をつけ燃やす
「えっ・・・マクドールさ・・」
そのままオウリを自らの腕の中に抱く
「オウリが・・僕の薬になってくれる?」
驚いたように瞳を見開くオウリだが、すぐ笑顔になり大きく頷く
そんなオウリをティルは愛しい瞳で見る
「ありがとう・・・」
この子がいれば
この子がいれば自分は仮面を脱ぎ捨てることができるかもしれない
腕の中の愛しい少年を抱きながらティルは刹那にそう思った――――――。
<END>
*あとがき*
坊ちゃん暗くてすいません〜(><)
私自身、暗い気分の時に書いてたので暗くなってしまったようです(死)
でも、坊ちゃんって私の勝手なイメージではあまり自分を見せようとしてないと
思うんですよね。けれど2主に会って、だんだん自分に戻っていく・・・みたいな(笑)
どうしようもなく勝手な解釈の話ですね;
でも最後まで読んで下さってありがとうございます!