風紋6
ふらり・・・、とまるで何かに誘われるかのように僕はオウリの前まで歩く。
近くで改めて見た彼はやはり少し少年の時とは違う印象を与えた。
それでもやはり懐かしい彼だ
何度も逢いたいと焦がれた彼だ
「・・・してる・・・」
無意識に唇が動く。
「今でも・・・愛してる・・・・」
オウリを抱きしめた。
彼が僕の胸へと顔をうずめた
懐かしい・・・
本当に懐かしい温かさだった
「顔・・・上げて・・・」
両手ではさみこむようにしてオウリの顔を上げさせる。
「ルック?」
不思議そうな顔のオウリの口唇へと僕は口づけた。
「ふ・・・っあ・・・」
甘く柔らかいオウリの口唇を味わうかのように貪るように舌を絡ます。
「ル・・・ック・・んっ」
オウリの体から力が抜けていく。
僕は片手でオウリを支えながら押し倒すような形で彼を横たえた。
「オウリ・・・・」
そのまま、また、深く口づけた―――。
運命を変えるなど無謀だよ
そのために君は大切な人を捨てるのかい?
声に激しさはないけれど鋭さのある言葉。
彼もまた僕と同じように紋章の呪いに縛られていた。
ティル・マクドール、赤月帝国を倒した英雄、
なぜか彼はオウリ達と一緒に戦うべくこの本拠地を訪れていた。
「彼から真の紋章が離れた今、僕達は一緒にいてはいけない」
「なぜ?」
なぜって・・・・、こいつに相談する方が間違っていた。
今更ながら後悔する。
「どうして、一緒にいられないんだい?
たとえオウリから真の紋章が離れてもオウリはオウリだ。
君たちが別れる理由なんてないんじゃないのかい?」
「あんたなら分かるだろう!?僕らは年をとらない!
それなのにオウリと永遠に一緒にいられると言うのか?!」
声を張り上げた為、苦しくて肩で息をつく。
苦しくて・・・
オウリへの想いが苦しい・・・
どうして・・・・こんなに・・・・・・
ティルは苦笑を浮かべながら椅子から立つ。
「ルックは不器用すぎるんだよ。だから周囲の様子に気づかない」
何もかも分ってるというように言うテイルの言い方が癪に触る。
ムカムカと無造作に髪を掻きあげる僕をティルは可笑しそうに見ている。
「ルック、僕がオウリの事を好きというのは知ってたかい?」
「なっ!」
「ほらね、知らなかっただろ?
まぁ、君からオウリを取る気はないから安心して」
そう言って口許に笑みを浮かべているティルを信じられない顔で見る。
「でもさ、そんな風に目の色変えるくらいオウリの事が好きなら
やっぱ離れるべきじゃないと思うけど」
「・・・・うるさい」
分からない・・・
僕にも分からない・・・
この選択が本当に正しいのか、
でも、彼には・・オウリにとっては僕といるより
ナナミ達といる方がきっと幸せなはずだ。
だから――――
鳥の鳴く声で目が覚めた。
「こんな・・・懐かしい夢を見るなんて・・・」
やはり、オウリに再会したせいだろうか?
僕の隣で眠るオウリを見る。
あどけない寝顔だ・・・・・・
そっと瞼にキスをする。
それは行為の終わりに僕がいつもオウリにしていたこと。
これでオウリはいつも目を覚ました。
「起きた?」
「ん・・、おはようルック」
くすぐったそうに笑いながらオウリは僕に身を寄せる。
「まだ寝る気?」
呆れたように言う僕にオウリは笑いながら言う。
「だって、幸せなんだもん。
もう二度とルックに会えないと思ってたから・・・・」
だから、もう少し側にいさせて・・・・・
そう言ってオウリはまた眠りへとつく。
その穏やかな寝顔を見ながら僕の心は複雑だった。
僕にはやらなければならないことがある。
この計画を実行するためだけに、僕は多くの者達を裏切り
そして傷つけている。
動き出した計画を止める術を僕は知らない。
このまま、流されるままに僕は行くだろう・・・・。
「
オウリ・・・また君を悲しませるね・・・・」
せっかく再会できたのに
今度は本当に永遠の別れ
「会わなければよかった・・・・」
再び君を傷つけることが僕は恐い――。
<NEXT>
|