++風邪の治し方++
「くしゅん」
小さな可愛らしい、くしゃみが聞こえた。
「風邪かい?」
オウリの隣にいたティルが心配そうに聞いた。
「え・・・、大丈夫です・・!それより敵が・・・・」
オウリが振り向いた方向には未だ、高い雄叫びをあげ牙を剥き出し
にしている狼の姿。
すかさずオウリは構える。
それを見、ティルもまた構えをとる。
ただ、視線はオウリから外さずに・・・・
「来る・・・!」
ひときわ高い声で鳴き、狼がこちらに向って走り出した。
「・・・・・・・・風よ・・・・・・!」
何の前触れもなく風が吹き荒れた。
そして、吹き荒れた風は狼たちを切り裂いていく。
「うわぁ・・・・すご・・」
あまりに一瞬の事に皆、息を呑んでその魔法を使った張本人ルックを見る。
当のルックはと言うと、風で舞い上がった土ぼこりを払い、
そのまま真っ直ぐオウリへと歩いていく。
「え?え・・?」
急に近ずいて来たルックにオウリはなぜか後ずさる。
だが、その手を逃さずルックはオウリを引き寄せる。
ルックのヒンヤリとした手がオウリの額に当てられた。
「やっぱり・・・熱がある」
「だ・・、大丈夫だよ!」
オウリはそうルックに顔を向けるが、クラリとよろけてしまう。
「ほら、大丈夫じゃない・・・・」
ルックの手に光が集まる。
「僕らは先に帰るから」
オウリを心配そうに見ていたティルらにルックは告げる。
「僕ら?」
嫌な予感はしつつも、ティルは一応確認するが・・・
「あんた達は勝手に帰ってきてよね」
案の定ルックはティル達に言い捨てる。
言い捨てたその時には、すでに光は2人を包み込み、
―――消えた。
置き去りにされたティル達はオウリを心配しつつも、
オウリも難なくルックに掻っ攫われ胸中は複雑な思いのまま
城に戻るため歩みを速めた。
本拠地に戻ったオウリはというとすぐにベッドに寝かされていた。
熱が大分上がってきたのか、頭に靄がかかった感じだった。
ルックによってホウアンも呼ばれ、オウリの診察をする。
「風邪ですね」
オウリの症状を見終わりホウアンが言う。
「風邪?」
「はい、今薬を飲んだのですぐに熱も下がるでしょう」
「そう・・・」
すやすやと眠るオウリをルックは安心したように見つめる。
まだ、息は荒いが心なしか落ち着いてきた気がする。
「では、私はこれで・・・・」
ホウアンが部屋を出て行く音を方耳で聞きながら、
オウリの側へとよる。
「ん・・・ルック・・・?」
オウリの目が開かれた。
「どう?」
「・・・・まだ、頭がボーとする・・・」
オウリのその言葉を聞くと、ルックはいきなりオウリに顔を寄せ
そのまま自分の額をオウリの額にあてた。
「まだ熱があるね・・・」
ポツリと呟かれた心配そうなルックの声に、オウリは平気だよ、と
笑いかける。
「喋らずにまだ寝てな」
水で濡れた冷たい布を、オウリの頭へのせるとルックはオウリから
離れる。
―――グイッ
何かに引き寄せられルックの足は止まった。
「・・・・側に・・・いてよ・・・」
見るとオウリの手が、しっかりルックの服の裾を掴んでいた。
そして更に、熱で潤んだ眼差しでルックを見つめている。
「側に・・・・い・・・て・・・」
ルックは低く嘆息を漏らすと
「せっかく僕が何もせず帰ろうとしているのに・・・・・」
その瞳はダメだよ・・・・、と、小さく呟いた。
オウリはというと、熱のせいで頭がハッキリしないのか、
意味が分からずにキョトンとまだルックを見つめている。
そんなオウリにルックはますます苦笑を漏らす。
「僕以外の人の前で・・・・そんな顔しちゃダメだよ」
そのままオウリに触れるだけの軽いキスを降らす。
「え・・・ルック・・・?」
不意打ちすぎるルックの行動にオウリは戸惑う。
「側にいてあげるから・・・」
そう言ってルックはオウリの手を握る。
「うん・・・・」
ギュッと握られた手の温かさに安心したのか、
オウリは深い眠りへと落ちていった・・・・・。
<END>
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