大花火 1777HIT

存在

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惚れた相手が出来ると人間変わるってぇ言うけどあれは本当だよな。
今までの俺って言やあ毎日仕事が終わればパチンコ屋か飲み屋に直行でよ。
飲み屋のネェちゃんに声かけられてそのままシケ込んじまうこともよくあったから、家に居る時間なんて殆ど無かった。
それが最近じゃあこうやって真っ直ぐ家に帰って来て、アイツがやって来るまでの間夕飯の仕度なんかして待っちまってるんだもんなぁ。
人間変われば変わるもんだぜ。
俺はこの歳になってまた誰かに惚れるなんて考えてもいなかった。
一生気ままな根無し草でふらふらしながら終わるんだと思ってたよ。
『縁』ってやつはどこに落っこってっか分かんねぇもんだ。


しみじみそう思ってたとこに控えめなノックの音が聞こえた。
おっと、どうやらアイツがやって来たみてぇだ。
鍵なんか掛かっちゃいねぇんだからそのまま入ってくりゃあいいのによ。
毎日のように来てても必ずアイツはノックするんだよな。
そんで俺が開けるまでドアの外でワン公みたいに待ってるんだぜ?

俺はすぐさま玄関に行ってドアを開けてやる。
待たせたくねぇからよ。

「よう祐介。お帰ぇり」

そう言って笑ってやると、俺のこと見上げてちょっとおどおどしてた祐介の目が途端にキラキラ輝き出す。
俺が笑いかけるまで迷子の子供みてぇなんだコイツは。
『自分はここに来ていいのか』って、不安がってんのかよ?
いいに決まってるじゃねぇか。
「また来てもいい?」って言い出したのはお前のほうだったけど、お前が言ってなきゃ俺が言ってたぜ?
俺はお前ぇに会いたくてしかたねぇんだ。

「健さん。えっと・・・ただいま」

はにかみながらも俺に『ただいま』ってぇ言うようになった祐介。
その笑顔を見て俺は堪らなくなった。
腕を掴んで引き寄せて、抱きすくめながらドアを閉める。

「祐介・・・」

名前を呼ぶと祐介は俺の身体に手を回してぎゅっとしがみついてきた。
その存在が愛しい。
可愛くて、いつだってこうして腕ん中に抱きしめていてぇ。
俺は青臭いガキみてぇに感情の抑えが効かないまんま、祐介にくちづけるとその唇を貪った。

コイツと離れたくねぇ。
コイツを失いたくねぇ。
コイツと・・・・ずっと一緒にいてえ。

唐突に湧き上がる想いに胸が締めつけられる。
まだ若くて将来ってぇやつがあるコイツを、俺みてぇな親父に付き合わせちまっちゃいけねぇんじゃねえかって思うこともある。
けど、その手が俺に向かって差し出されてる限り、その目が俺のことを見ていてくれる限り、俺は自分から祐介を手放すことなんてできやしねえ。
コイツに会うたんびに・・・『愛しい存在』ってやつと一緒にいられるのがどんだけ幸せなことなのか思い知る。
一番大事なもんは『好き』ってぇ気持ちだけなんだってことを、俺は思い出すんだ。
野郎同士だとか歳が離れてるだとかは関係ねぇ。
常識だとか世間体なんてやつは糞食らえだ。
もしそんなもんの為にコイツが傷つくようなことがあったら・・・

愛しさの分だけ失うのが怖い。
その苦しみを知っているだけ余計に。

俺は・・・・今度こそ間違わねぇ。
絶対コイツのことは守ってみせる。
この手を離したりしねぇ。

想いの激しさのまま、きつく腕の中に在るその身体を抱きしめた。

何処にもいかねぇように、傷付かねぇように、この腕んなかに閉じ込めておけたら楽なのによ。
俺だけ見て笑ってられるように・・・・。なあ?祐介。

「・・・ん・・健さぁん」

気持ちの昂ぶりをそのままぶつけたせいで、気が付けば祐介はいつのまにか力が抜けてくったりと俺に寄りかかるように身体を預けていた。
しまったと心の中で舌打ちをしても後の祭りだ。
いきなりこんなサカるような真似するなんてぇ、まったく俺はどうかしちまってる。
ここんとこ残業続きでやっと仕事から帰って来たばっかの祐介は疲れてんだろうし腹も空いてるだろう。
けど、縋るような潤んだ視線で見上げる祐介を見たら俺のほうも正気でいられる筈がねぇ。
そんなつもりじゃあなかったのによ・・・・
吹けば飛びそうな理性ってやつを必死でかき集めて、このまんま玄関で押し倒しちまいそうになるのを無理矢理抑えた。

「悪りぃ、祐介。帰って来たばっかでメシもまだなのによ。疲れてるし腹減ってんだろ?」

祐介はふるふると首を横に振る。

「お、俺・・・あんま減ってないから。別にすぐ食べなくてもだいじょぶ・・・・」

そう言ったそばからぎゅるる〜っと盛大な音を立てて祐介の腹が鳴った。

「あ・・・・」

祐介は見る間に耳まで真っ赤に染まっておろおろしだす。
恥ずかしがってうろたえるその様子があんまり可愛いもんだから、俺は思わず笑っちまった。

「はは。メシ食っちまうかあ!一生懸命自己主張してるお前ぇの腹の虫が気の毒だぜ。せっかく作り立てであったけぇんだから、冷める前ぇによ!な?」

コッチを見て何か言いたそうにしてる祐介の頭をポンポンと撫でてやる。

「今日は泊まってくんだろ?しっかり腹ごしらえしとかねぇとな。なにしろ夜はなげぇんだからよ!」

言うと祐介はもっと真っ赤になった。

そう、夜は長げぇんだからお楽しみは後でも遅くねえ。

祐介。

俺はおめぇにとことん惚れてるんだぜ?

俺の『愛情』ってやつは半端じゃねぇから覚悟しとけよ!






END

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