「あんたまだアイツとヤってないの?」
練習の合間からかうように言ってやる。
「うるせーよ」
ムっとした顔で俺のこと睨みつけたって無駄だ。
Studioに残ったのは結局俺達だけ。
もう電車も動いてねーし、どうせ朝まで二人きりだぜ?
「あんたにしては随分慎重じゃない?」
その慎重さが俺を苛立たせるんだよ。
無性にね・・・・
「別に慎重なワケじゃねぇ。機会がねぇだけだよ。タイミングが合わねぇんだ」
顔を背けたって無駄だって。
あんた自分がどんなカオしてるか分かってる?
悪い遊びをみつかった子供みたいにバツの悪そうな表情から、アイツは『特別』って気持ちが透けて見える。
目の前にある綺麗な宝石を、触れもしないで傷がつかないよう大事に眺めてるだけなんてあんたらしくない。
「はぁ〜?機会とかタイミングって、それは一体何の冗談よ?あんた自分がソノ気になったらクスリ飲ませてでも無理矢理ヤるじゃん」
俺のときはそうだっただろ?
「馬っ鹿。オレだって・・・いつもそんなコトしてるワケじゃねーよ」
そっぽを向いたまま、俺とは目を合わせずに吐き出された言葉を深読みしてしまう。
それは俺だからってこと?
クスリ使ってでもヤリたかった?
それとも俺には無茶苦茶したって全然構わないくらいどーでもいいってコトか?
きっと当てはまるのは後者なんだろうな・・・・
「なんなら俺がお膳立てしてやろっか?」
「余計なお世話だっつの。アイツとオレのこと、お前には関係ねえだろ」
酷い言い草。
関係ならあんたが最初に作ったんだ。強引にさ。
「ひでぇな〜俺達同じBANDの仲間じゃん。ちょろいよ?アイツなんも知らねーんだからさ」
アイツが俺と同じとこに堕ちて来たら、俺はこんな風に苛立つこともなくなるんだろうか・・・・
「おい・・・変なこと考えんじゃねーぞ。アイツになんかしたら許さねぇからな!」
なんでそんな慌てたように凄んでくるんだよ。
俺って信用ない?
まあ、当然か・・・
「わかってるよ。あ〜ホント、らしくねー。そんな大事ならさっさとヤっちまえよ。馬鹿みたい。見ててムカツク」
そう、アイツだってあんたのこと・・・・
だからヤっちまえばいいんだ。
「なに?お前もしかして妬いてんの?」
「違うよ」
間髪入れず答えてやる。
何の為に俺に問う?
興味も無いくせに・・・・
あんたは無意な言葉を投げかけるだけで知ろうとなんてしない。
俺のアイツへの感情。
嫉妬なんて可愛いモノじゃ決してない。
熾火のように燃えている、この思いは憎悪?それとも・・・
暗く暗く静かに、外からは見えないけれど・・・とても深い。
「今のままでいいワケ?アイツ、あんたの身体のことも知らないんだろ?」
「ああ。別に・・・自分から言うよーなことじゃねーだろ。知らせる必要もねえ」
違うだろ?
必死になってアイツの前で虚勢張ってるだけだ。
あんたは自分の弱いとこや汚いとこを隠してる。
綺麗な作り物の自分しか見せてないから怖いんだ。
アイツに・・・本当の自分を知られるのが。
「いつまでも誤魔化し続けられるもんでもないだろ・・・。あんた自分でわかってんの?」
「うるせー、分かってるよそんなこと。・・・・長い間じゃねえ・・・オレは・・・・・・あと少し・・・・少しだけだから・・・・・・」
どうやら自分の状態ってヤツの自覚だけはあるらしい。
それでも最後まで虚勢を張り続けるつもりなのか・・・・・。
「やめればいいのに・・・・クスリ」
「冗談。オレの人生だろ?やりたいように好き勝手やるさ。それにもう遅い」
溺れてボロボロになるまでやめられないなんて、最低だね。
「長生きする気はないって?PUNXの生き方ってヤツ?カッコ良過ぎて涙でちゃうね〜ホント。シドにでもなるつもり?」
「おまえウザイよ。なんで今日そんな絡んでくんだ?あ?」
そんなのムカツクからに決まってる。
最低なあんたに。
ふりまわされてる俺に。
信じきってるアイツに。
「別に・・・。絡んでるわけじゃないさ。ねぇ、じゃあ俺が貰ってもいい?あんたがいなくなったらさ。あんたの宝物、俺にちょーだいよ」
「なんだよイキナリ。オレに宝モンなんてねえよ」
「あるじゃん。たとえば今持ってるBassとかさ。あんたが持ってるモンの中じゃそれが一番値打ちもんだ」
「なんだ、売っぱらうってか?」
「そんなことしない。俺が欲しいの」
誤魔化すなよ。
わかるだろ?俺がなんでこんなこと言うのか。
それとも墓場まで連れてくつもり?
「可哀相だからさ。俺が代わりに弾いてやるよソレ」
「なんでよ?おまえはGuitarだろーが」
「いいじゃん。俺ホントはBassのが好きなんだ。あんたいなくなったらBassやる奴いないだろ?」
「・・・・・Guitarはどうすんだよ」
「ツテが無いわけじゃないし、すぐみつかるだろ。それにアイツが唄いながら弾いたっていい。アイツのが俺より上手いんだから。でも、Bassは他の奴には弾かせたくないんだ」
あんたは『特別』だから。
アイツはきっとあんた以外の奴がそこ立つ時が来るなんて考えてもいないだろう。
だから俺は欲しいんだ。
あんたの宝物が欲しい。
一緒になんて・・・そんなの許さない。
「・・・・いいぜ。オレの宝モンおまえにやっても。でも、条件あんぜ?」
空気が揺れる。
ゆっくりと近づく暗い瞳が俺を絡め取る。
あんたが何考えてるのか知りたい。
人のこと見透かすみたいに見つめて、いつも俺の事かき回すだけ引っ掻き回してほったらかしにするんだ。
「何?条件て」
「・・・・・・おまえ・・・・・・オレがいなくなっても泣くなよ?」
あんたやっぱ最高だ。
なんだよ、そのニヤついた笑顔は。
面白い悪戯を考え付いた子供の瞳をして、そんな風に笑いやがって。
ちくしょう。あんたってホントに・・・・
「あはは。誰が泣くかよ。笑ってやるよ馬鹿なヤツだってさ」
「笑うか・・・らしいよな。だからオレはおまえのこと気に入ってるんだ」
あんたの腕が伸びてくる。
俺の事捕まえてよ・・・・
俺はあんたのこと捕まえられないから。
あんたの首に腕を回して絡ませる。
ほら、そーするとあんたの唇が俺に落ちてくる。
カサついてて痛い。
でも舌は柔らかくて甘い。
探るように蠢いて、嬲るように口内を弄ぶ。
這い回って舐め上げて、押したり退いたり。
絡まった舌から濡れた音が響いて、それだけでイっちまいそうになる。
悪い男ほどKISSが上手いってのは本当らしい。
「なんだよ?こんな場所でヤんのかあ?」
我慢できなくなってベルトのバックルに手を伸ばした俺に向けられる戯けた声。
笑うんじゃねえよ。
人のこと煽ってそう仕向けたくせにさ。
LIVEの後に楽屋のトイレでヤったことだってあるだろ?
あんた、いつもヤりたくなったら場所なんてお構いなしじゃねーか。
「防音な上に朝まで貸し切りなんだ、おあつらえ向きだろ?俺は快楽主義者だから自分の欲望には忠実なんだよ」
あんたに笑ってる余裕があんのも今のうちだけ。
俺をソノ気にさせた責任はきっちり取ってもらうからな。
覚悟しろよ。
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