僕は今日の自分の体調が少しいつもとは違うようだと感じていた。
秋という季節は涼しく過ごしやすい。が、ここ数日はこれから冬に続く寒さを感じさせる日が続いていた。
風邪でも引いたのだろうか?
熱でもあるようなふわふわとした浮遊感が朝から僕を包み込んでいる。
実を言うと昨夜から、何かざわざわとした胸騒ぎのようなものに悩まされ、あまり睡眠がとれていなかった。
やはり自分は緊張しているのかもしれない。
今日は義弟になる晃弘くんと初めて対面する日だから。
母に篠原さんという恋人が出来たことを聞かされたのは半年ほど前だ。
母の交際相手である篠原さんとは数回会ったが、人付き合いの苦手な僕には珍しく、彼の落ち着いた物腰には不思議と安心感を覚えた。
堅実で温厚な人柄から、彼は母を任せるに信頼足り得る人物であると思え。
そして何より彼の母に対する愛情は、子供の僕の目から見てもとても深く、嘘偽りの無いものだった。
篠原さんならきっと母のことを幸せにしてくれるだろう。
だから篠原さんから僕に、母との結婚を承諾して欲しいと言われた時、その事を快諾した。
だが、結婚が決まった今において、まだ一つクリアー出来ていない問題があった。
篠原さんの息子である晃弘くんと僕は、まだ一度も対面したことがなかったのだ。
すでに母と晃弘くんは面識がある。
気が良く合い、上手くやっていけそうだという事だった。
彼もこの結婚には賛成してくれている。
母に幸せになって貰うためにも、僕は晃弘くんと上手くやっていかなければならない。
結婚しても暫くの間、母は仕事を辞める事ができない。
篠原さんは仕事が忙しく、早い時間に家へ帰れる事は稀だとゆう。
夜、母が仕事に出かけた後は、実質僕と義弟になる晃弘くんの二人きりで過ごすことになる。
ただでさえ人付き合いの苦手な僕が、今日これから初対面する晃弘くんと、はたして上手に付き合う事が出来るかどうか僕はとても不安だった。
僕は母にも打ち明けていないある理由の為、ここ数年自ら他人と接触するようなことは避けていたからだ。
はっきり言って母以外の、それも同性と長時間二人きりになるのは僕にとって恐怖だった。
† † †
僕が自分の性癖の異常を自覚したのはいつ頃だっただろうか?
思い起こせば小学生の高学年にはもう兆候がみられていたと思う。
当時、僕は若い担任教師にとても懐いていた。
暇があれば彼のそばへ行き、構って欲しくてウロウロしていた。
先生は自分からは声も掛けられない少し内向的な僕に微笑んで話しかけてくれ、又、他の同級生達よりも多めのスキンシップを取ってくれていたように思う。
頭を撫でてくれたり、誰も居ない時には優しい言葉を掛けて抱きしめてくれたりもした。
そんな時いつも僕はウットリとし、体の奥が痺れるような心地よさを感じてとても幸福だった。
今思えば先生は、母子家庭という少し特殊な家庭事情を持つ僕を憐れんで父親の代わりに父性を与えてくれようとしていたのかもしれない。
けれども、純粋な気持ちで触れてくれていた先生の慰撫に僕が感じていたのは多分性的快感の先走りだったのだ。
僕は自分が許せない。
そして中学時代。
周りの者達が異性への関心を示し始める時に僕は自分の性癖の本質を自覚せざるをえなくなる。
それはまさに焦燥と困惑の時代だった。
同級の男子が集まれば、クラスの女子で誰が好きかとか、どのような女子が好みのタイプか、という話題が必ず出る様になり、僕は肩身が狭く孤独を感じずにはいられなくなったのだ。
僕にはその時、特別仲良くしている女子が居た。
周りは皆、僕達が付き合っていると思っていたようで、異性についての話題が出ると、みんなが決まって僕とその女子の関係がどこまで進んでいるかについて聞きたがった。
が、僕が彼女に対して持っていた感情は純粋な友情でしかなく、彼女に限らず他のどんな女性に対しても、当時の僕は恋のような甘い感情を抱くことはなかった。
そして、正常な男性なら当然起こるはずの『自然な体の反応』というものも、まったく起こらなかった。
だから、僕は『彼女がいる』という間違った認識の元、男子達から羨望の眼差しで見られ、彼等の好奇の的にされる事がなにより苦痛だった。
そして心身ともに男性へと成長していく同級生達のなかで、女性に対して同じ様に思う事の出来ない僕は、彼等から置いてけぼりにされて取り残される焦燥感に絶えず苛まれた。
けれども、それだけならまだ良かった。
人よりも心や体の成長が遅いだけだと思っていられた。
しかし、僕の身体は心が認識するより先に、僕の性的嗜好を鋭敏に感じ取ったらしい。
僕は、徐々に男子生徒や若い男の教師に対して、本来女性に対してするべき性的な体の反応を起こすようになっていった。
自分が男性に対してしか反応しない、ということを僕自身の身体から否応もなく認識させられた。
その時の僕はただ愕然とするしかなかった。
奥手なだけだと思っていたのに(いや、思い込もうとしていたのか?)僕は異性を愛する事の出来ない同性愛者だったのだ。
それから暫くの間。
僕は自身の体と心に困惑され続ける日々を送ることになった。
友達同士のじゃれ合いや体育の授業中など、普通の男ならなんでもない肉体的な接触に、僕の身体は過敏に反応を示したからだ。
水泳の授業の時など、接触もなしに着替え中や水着姿の同級生を見ていただけで反応してしまい、僕はその度に消えて無くなってしまいたい気分に陥った。
以前の僕は女性に対して反応を示さない自分に思い悩み、身体の機能についての障害があるのではと疑っていたほどだったというのに。
その対象を同性だと自覚した途端、僕の身体はまるで見境が無くなってしまったかのようだった。
同性の親しい友達や同級生に、恋心も無いのにフトしたことで浅ましく感じてしまう。
時には男性の汗の匂いを嗅いだだけで反応し、僕は心底怖くなった。
世の中には少数派とはいえ、同性愛者が存在していることはもちろん知っていた。
そのなかには同性愛者同士の恋人も存在しているということも解っていた。
その為の出会いの場があることも、その時の僕はおぼろげながら情報として知っていたと思う。
恋人というからには男女の恋愛と同じく、相手のことを好ましく思い、恋愛感情を持つものなのだろう。
しかし自分は同性に対して、まだ恋愛感情を持ったことはなかった。
小学校の時に大好きだったあの先生に対しては確かに特別な感情を抱いていた。
だがそれは単に父の居ない不在を彼に当てはめて慕っていただけのような気がする。
最初から僕の家庭に欠落していた父性というものに憧れ、自分に優しく接してくれた母と年代の近い彼に、父親像を見出していただけに過ぎないと思う。
恋愛をしたことがないから、それがどういうものだか自分にはわからない。
が、自分のイメージする恋愛感情というのはとても強いものだった。
世の中には失恋で泣く人が沢山いる。
恋を失った痛みに堪えかねて、傷心のあまり自ら死を選ぶ人もいれば、恋のために他人を殺める人さえいる。
なくしたら涙が零れ、自分ではどうしようも出来ないほどの悲しみに襲われ、時には命でさえ支配しうる恋という感情。
それは一体どんなものなのだろうか?
そして、そんな『恋』というものが成就した時。
それはどれほどの幸福をもたらすのか?
そして『恋』をした時、それが『恋』だとなぜわかるのだろうか?
僕は自身の性的興奮が、同性によってもたらされると解った時、単純に恋をする相手も同性なのだろうと思った。
けれども、自分は恋だとはっきりと言えるような気持ちを、それまで誰にも持った事は無かったのだ。
それなのに身体だけは、誰彼かまわずに欲情し反応してしまう。
そのことが僕を苦しめていた。
誰にも心を動かされないのに、体だけは貪欲に情を求めている。
そして僕の心の中に、まさかという思いと共にひとつ疑問が湧き上がって来た。
自分は実は、同性愛者以前に異常な性欲の持ち主なのではないのだろうか?
『淫乱』『色情狂』という単語が頭によぎり背筋を寒くさせた。
僕がその時とった行動は本でその意味を調べることだった。
いんらん 【淫乱】
情欲をほしいままにする・こと(さま)。
しきじょうきょう 【色情狂】
色情が激しく性的に正常でない行動をすること。また、その人。いろきちがい
僕はその言葉を読み終えた時、地の底へ叩きつけられたような気がした。
その二つの言葉は男子で集まって性的な話になった時に、笑い話として話題に登って知ったものだ。
絶えず性的な欲求を持ち、相手構わず誰とでも性交をしたがる女性がいるのだと。
「一種の病気で自分の気持ちに関係なく行為を求めてしまう」
実際はもっと砕けた言葉だったが、そういう意味の事を話題を持ち出した男子は言っていた。
皆、信じず、そのような女性がいるならぜひ会ってみたいと口々に言って笑っていた。
僕もその話を聞いた時はまだなんの兆候も無く、周りに合わせて一緒になって笑っていた。
自分自身のことだとも知らずに笑っていたのだ。
こんな節操なしの身体ではこの先僕が恋を知ることになろうとも、けっして成就することはないだろうと思った。
それでなくても僕は人付き合いの下手な面白味のない人間だ。
そのうえ、恋した相手以外に誰彼構わず欲情するような者を誰が愛するというのだろう。
それまでの僕には、人並み以上に強い恋愛に対する憧れがあった。
幼い頃から、母に僕の父親への変わらぬ心情を聞いて育ったせいかもしれない。
恋人というものに僕はひどく特別な思いを抱いていた。
子供の頃は当然のように女性との恋愛や結婚を思い描いていたし、同性愛者だと自覚した後でさえ、それが子孫を残す事の無い儚い繋がりでしかなくとも、恋した相手と愛し愛されて添い遂げたいと考えていた。
けれど、そんな願いはもう永遠に叶わないに違いないと、浅ましい体を抱えて、一生一人きりで生きて行かなければならないのだろうと自覚した。
何かの治療を施して治るものなら治したかったが、こんな恥ずかしい事を誰かに相談するなど考えただけでも恐ろしかった。
同性愛だけでも、偏見を持たずに理解してくれる人は少ないだろう。
まして『淫乱』『色情狂』などという性癖を持っている事を知らされて、眉を顰めない人などいるだろうか?
僕にとって一番近しい存在である母にさえ、こんな事は相談出来る事ではなかった。
一人息子の僕が同性愛者であり、それに加えて『淫乱』であるなどその事実を知らされた時に受ける母のショックを思うと、どんなに悩んでいても打ち明ける気にはとてもなれなかった。
それからの僕は男女問わず、人との付き合いというものを極力避けるようになった。
怖かったのだ。
男性に接した時の自分の反応や、女性に接した時の周りの反応が。
そして、いつか自分の性癖が人に知られてしまうのではないか、との思いが、僕に人の目を見て話すことを出来なくさせていた。
元から人付き合いの上手い性質ではなかった僕から、数少ない友人達が離れて行くのに時間はかからなかった。
一人きりになった時間、僕は昔から通っている剣道場で一心不乱に剣の稽古をした。
身体を酷使することで、乱らな反応を少しでも抑えたかったからだ。
精神を統一し剣を振る間だけは自分の忌まわしい性も忘れる事が出来た。
それでも安寧な眠りの訪れない夜には、勉強に打ちこむ事で身体の欲というものを自分の中から追い出した。
それらは僕にとって自らの逃避でしかなかったが、結果的にそれが良い方向へ向かった。
完璧にではないが自分を抑えるということが難しいことではなくなったのだ。
中学の終わりの頃には、心構えをしていれば体育の授業や着替えなどで身体が勝手に反応するようなことはなくなった。
直接的な接触も、突然に過度な密着をすることでもなければ大丈夫になっていた。
勉強のし過ぎで目が悪くなり眼鏡を掛けるようになったが、それが僕にとってはまた良かったようだ。
眼鏡は心理的に僕のフィルターのような役回りを成し、人の目にも恐怖を感じず元通り会話が出来るようになった。
僕は成績が上がり、担任の薦めで奨学金制度のある私立の進学校を受験し、合格した。
僕の焦燥と困惑に満ちた中学時代は終わりを告げたのだった。
高校では僕は周囲に、自分は接触嫌悪症であるということで通している。
変わり者と思われ周りには敬遠されているが、代わりに誰も僕の身体にむやみに触れるということはない。
元々、一人でいる事に苦痛を感じない性質なので、親しく話しをする相手がいなくてもそれを寂しいとも思わなかった。
それよりも僕は、忌まわしい体の反応に煩わされる事無く普通の生活を送れることのほうが嬉しかった。
ただ、例外もある。
剣道部の部長だけが学校で唯一、僕に親しげに話しかけて来くるのだ。
僕が通う頌栄高校は進学校には珍しく、必ず部活動に入らなければならないという規則がある。
そのため、僕は剣道部に所属していた。
スキンシップが好きらしい部長は、部活の最中不意に僕の身体に触れて来ることがある。
他意の無いその接触に、僕の身体は一瞬ではあるが、中学時代に戻ったかのように反応を示しそうになる。
その度、自分がただ異常な性癖を抑え込んでいるに過ぎないのだということを、僕は改めて認識させられるのだ。
僕は人と、特に同じ年頃の男性と普通に接することは一生出来ないだろう。
僕はいつでも、抑えきれなくなった自分の本質が、取り返しのつかない事をしでかしてしまうのではないかという不安に怯えている。
† † †
自分のことを自覚してから。
僕は自分のような者が傍にいても、母を幸せにしてあげることはできないだろうと考えるようになっていた。
彼女の僕に対する母親としての愛情が深ければ深いほど。
このまま二人だけで生きて行けばきっと将来、僕は彼女を悲しませることになるだろう。
僕は母に幸福になって欲しい。
それは僕の切実な願いだ。
だから僕は、母に篠原さんという愛し合える相手が出来た事を心から喜んだ。
それは僕によって不幸になってしまった母の人生が、これから少しでも本来あるべき幸福なものへと修復されるような気がしたからだ。
それが自分の身勝手な気持ちだということは分かっている。
これからがどんなに幸せであっても、僕を育ててきた17年の歳月が母に帰ってくるわけではない。
身内の贔屓目でなく母はとても魅力的な女性だ。
にもかかわらず今まで僕を育てる事に一生懸命で、死んだ僕の父親以外の男性には目もくれなかった。
母は所謂シングルマザーと呼ばれるもので、昔風に言えば未婚の母と言う。
母は17歳、今の僕とちょうど同じ歳の時に最愛の人を失った。
僕の父親だ。
母は父が死んでから2ヶ月後に、自分の中に僕という生命が誕生していることを知った。
そして周囲の反対を押し切り、たった一人で恋人の忘れ形見である僕を産む事を決意した。
僕一人と引き換えに母が失ったものはとても大きなものだったろう。
親兄弟や友達。
安穏な生活と慣れ親しんだ故郷。
それらを全て捨て、親として僕と二人きりで生きていくことを選んでくれた母に、僕はいくら感謝してもし足りない。
僕が生きることを許されたのは、ひとえに彼女が望んでくれたおかげなのだから。
僕を育てるうえでも、母は沢山の苦労をしてきた。
同年代の人達の多くが、学生という身分に甘んじて遊びまわっている時にも、母親である彼女は生活のために働き、それ以外の時間は僕の為に費やしていた。
普通なら一番自由で楽しい時期だというのに、自分の為の時間などなかったに違いない。
辛い事のほうが多かったはずなのに、母は僕の前で笑顔を絶やさず、いつも気丈に明るく振舞っていた。
でも、ときおり真夜中に仕事から帰った母が声を押し殺して泣いていたのを僕は覚えている。
気配で起きだした小さな僕が母のところへ行くと、彼女は必ず泣き顔を無理やり笑顔に変えて「ママは大丈夫。和ちゃんごめんね?起こしちゃって。夜ひとりで淋しかったよね?」と言っては僕に謝った。
僕はと言えばなぐさめるどころか母の痛々しい笑顔を見る度、悲しくなって泣き出してしまい彼女に余計に謝罪の言葉を言わせてしまっていた。
僕はそんな母に何もしてあげられない自分の無力さに、いつも歯がゆい思いをし、又、自分さえ居なければ彼女はもっと幸福に生きることが出来たのではないかと考えずにはいられなかった。
僕の父親が死んだ時に僕さえ母のお腹に出来ていなければ、いずれ彼女は他の人を愛し、何の苦労も無く幸せな生活が送れただろう。
そんな風に思う事は、母の選択した生き方を否定することになってしまうのはわかっていたが、長じて僕が自分の事を自覚してくるにつれ、僕という存在自体が母の幸福を阻む元凶なのだとの思いは、強くなるばかりだった。
僕は母に与えてもらうばかりで何一つ彼女に返す事が出来ない。
『親から与えられるものは巨大過ぎて一生かかっても子供は親自身に返せるものではない、だから親から与えてもらったものは又自身の子供に返せば良いのだ。』と、以前誰かから聞いた事がある。
だがそれは僕には無理な事だった。
普通の親なら当たり前に、子供はいつか結婚して家庭を持つものと考えていることと思う。
だが僕はこの先結婚もしなければ、子供を作ることもないだろう。
母と母が愛した人の遺伝子は、未来に受け継がれることなく僕の代で消える。
それは僕にとって、僕を産み育てる事で様々なものを犠牲にしてきた母への裏切りに感じられた。
僕は自分の異常性を自覚してから今まで、僕の為に母の人生が狂ってしまったというその思いに、捕らわれ続けている。
だが新しい家庭が幸福なものであれば、これからの母は僕が傍に居ずとも微笑んで過ごせることができるのではないだろうか。
僕は母と篠原さんの結婚を機に、彼女から離れる決心をした。
僕の忌まわしい性癖によって、母がこれから先、悲しむ姿を見たくなかった。
離れた大学を選んで進学し、そのままその土地で就職してしまえば、僕はごく自然にそうと知られず母から距離を置く事が出来るだろう。
・・・・・僕は怖いのだ。
自分が母の幸せの妨げになることが。
だから逃げたい。
篠原の籍に入っても、僕は新しい家族として上手くやっていく自信がない。
僕はいつでも自分というものを偽って生きている。
そんな人間が『本当の家族』になどなれるわけがないのだ。
まして同性に対して淫乱な反応を示してしまう身体の僕が、男性と一つ屋根の下、ずっと『家族』として暮らしていくのは無理というものだ。
注意していても長い間一緒に生活すれば、いずれは僕の忌まわしい性癖を知られてしまう事になるだろう。
だが大学に入るあと1年と少しの間だけだったら・・・・
それを隠して、『家族』として振舞うことが出来るはずだ。
僕が一番苦手なのは自分と同年代か少し上の若い男性。
僕の身体が強く反応を示すのは、その年頃の男性との接触によってだ。
だから篠原さんくらい歳の離れた落ち着きのある大人や、晃弘くんのような年下の少年だったら、あまり注意せずとも普通に接することが出来るのではないだろうかと考えたのだ。
夜遅く帰って来る篠原さんとはあまり顔を合わすこともない。
多分家族の中で、一番共に過ごす時間が多いであろう晃弘くんは、僕より4つも年下。
以前篠原さんから見せてもらった写真の晃弘くんは、やんちゃそうな男の子という感じだった。
中学校の入学式なのだろう、真新しい大きめに作られた制服に身を包んで、桜の樹の下で少し拗ねたような表情をして写っている晃弘くんは非常に可愛らしく、ついこの間まで小学生だったことが伺える幼い少年だった。
そんな子供っぽい彼となら、多分普通の兄弟ように過ごせるだろう。
『弟』が出来るのが嬉しかった。
僕は晃弘くんと仲良くなりたいと思った。
短い間でも兄弟として・・・・・・。
† † †
だが僕は、義弟になる晃弘くんに対面した時、自分が失念していたものに気付かされることになる。
急激な変化を向かえる成長期という時
写真の中の幼い少年は、その面影を残しながらも青年へと変貌を遂げる只中にいた。
初めて会った彼は、眩しい程の笑顔で僕の手を力強く握り締め。
僕は彼に握られた手を見つめたまま。
彼を求める強烈な衝動が身体の奥底から湧き上がるのを、ただ・・・・感じていた。
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