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Spring snow storm

By 夢魔々

私に文章を書くことを勧めてくれた柊 紫苑様へ贈ります


三月の声を聞いたと言うのに、気まぐれな寒気団が日本上空に居座っているらしい。
夕方から降り出した雪に加え、風まで強くなってきた。
TVでは放送終了後もゆったりしたクラッシックの調べをバックに気象情報を流し続けている。

「マジかよ〜、大雪強風着雪警報だ?
早起きして雪かきしねえと表通りまで出れねえじゃん。
……臨時休校に…なんねえよなぁ……。」

新一は家の玄関から門までの距離を呪いながら、カーテンを少し開けて外を覗いた。
庭の真ん中でバタバタ風に煽られている白い物がある。

「……?風でどっかの洗濯物でも飛んできたのか…?
―――――KID!?」

風にはためいていたのは白い怪盗のマント。
おさまりの悪い髪の上にはトレードマークのシルクハットの代わりに雪が積もっていた。
雪の彫像にでもなってしまったかのように雪の中にただ突っ立ている。

―――――なんで?
予告状の情報はなかったぞ。
うちに来るたって、あの格好で来るか?

怪盗KIDと探偵 工藤新一は不倶戴天の敵だった。
偶然知ってしまったKIDの正体 黒羽快斗とは、繰り返す偶然を運命に変えて、恋とも友情ともつかない不思議な絆を結んで現在に至っている。
ただし、暗黙の了解でそれぞれが怪盗と探偵で出会う時に私情を挟むことなく、お互いの技量を尽くして戦ってきた。
だからKIDのままで高校生工藤新一の前に現れることなどありえないことなのに。
嫌な胸騒ぎを覚えて新一は玄関を飛び出した。


「何してんだ、おめぇ、こんな所で?」

新一の声に寒さで凍り付いたような無表情がシニカルな微笑に変化する。

「…よう、名探偵………よくここが判ったね。」

「はあ?何言ってんだよ。
ここ、俺んちの庭だぜ。」

ようやく新一の顔に焦点があったように、驚いたKIDの顔の下から快斗が現れる。

「…無意識で来ちまったってことかよ…。」

「何ブツブツ言ってんだ。
とにかく中入れよ、いったいいつからここに突っ立ってたんだ。
でっかい雪だるまみたいじゃねえか。」

「…帰りたかった…場所……。」

「……えっ?」

「新一。」
いきなり抱きしめられて、唇が奪われる。
一瞬ひるんだ隙に歯をこじ開けられて快斗の舌が新一のそれを絡め取る。

「!」

尋常でない振る舞いに力づくで突き放した。
何かが変だ。
あいつはこんな風にキスしたりしない。
切羽詰まった強引な口付けは、氷のように冷たくて鉄の味がした。

「―――――お前?!」

「あぁ……ごめ…ん、………新一の唇汚しちゃった…ね。」

手袋をしたままの右手で新一の唇に付いた赤い染みを拭おうとしたが、拭けば拭くほど新一の白い肌に赤い色が広がっていくばかり。

「…あれ、変だな……ほっぺの方まで………なんで?」

ふと見た白いはずの手袋は………。
快斗は鮮やかな血の色に染まった手のひらを不思議そうに眺めた。

「快斗!」

新一が雪が張り付いた両肩に手を掛けて揺さぶると、左手から真っ赤な宝石が白い雪の上に転がり落ちた。
まるで鮮血を結晶化したようなピジョンブラッド・ルビー。
世界最大級の宝石「ブラッディ・ヴァランタイン」―――その所有者に富と名声をもたらすが引き替えにその者の血を欲するという呪われた伝説の秘宝。

「………盗まれてブラックマーケットから闇ルートで流れた先がさ、どこの警察も手ぇ出せねぇとこで………。
でも、派手にやったから、今頃、大捕物中じゃねえの。
……警察に裏情報は流しておいたし…。
ほら、オレ、歩く大義名分だし………はは…は…。
……どうせなら…もう少し早く踏み込んで欲しかったぜ……………うっ。」

血の気の失せた秀麗な顔が苦痛に歪んだ。
ぱたぱたとルビーの周りに鮮血が散る。

「やられたのか。」

倒れ込んだ身体を支えようとした新一の手にヌルッと嫌な感触がした。

「……かすり傷だぜ……。」
「しゃべるな!」

「……オレの探してるのと違ったけど………帰りたいって、泣くから………。
……連れて来ちまった………。」

新一に預けた身体から力が抜けてずるずると崩れ落ちていく。
もう痛みも寒さも感じない。
このまま、君の腕の中で……………。

「………雪って温かいんだな……なんかすげー気持ちいい。
新一の顔も見れたし……………もう、いいや…。」

意識を手放しそうになった瞬間、よくスナップの利いた手のひらが快斗の頬を打った。
モノクルが外れて雪の上に飛んで落ちた。

「てめぇ勝手に自己完結してんじゃねえ!
馬鹿なこと考えてる暇があったら、せっせと呼吸しやがれ。
お前の戯言聞いて時間を無駄にする気はねえんだよ。」

怒気を含んだ声が闇に沈み込みそうになった快斗の意識を引き上げる。
きつい言葉と裏腹に安心させる力強い目の輝きに快斗は辛うじて正気を繋ぎ止めた。
事態を把握した新一の行動は早かった。
快斗の力の抜けきった身体を苦労して抱き上げると家の中へ運び込んだ。
とりあえず玄関から一番近いリビングに連れて行く。

「止血しねえと………。」

傷を見るため上着をはだけて新一は絶句した。
腹部に開いた禍々しい穴から血が流れ出してくる。
素人目にも致命傷だと判った。

「新……?」

苦しい息の下で快斗が尋ねるように目を向けてきた。
新一は悟られないように素早く表情を消した。

「………大丈夫だ、たいしたこたねえよ。
後は俺がいいようにするからな。
快斗、おめえはしっかり呼吸してればいい。
意識が無くなってもそれだけは忘れるな。
約束しろ。」

「………意識ねえのに、約束…忘れずにいられると思うか?」

「俺の快斗は一度約束したことを破らない。」

「………わかった。」

傷にタオルを当てると快斗のズボンのベルトできつく絞めて押さえた。
新一は携帯電話をダイヤルしながら廊下をリネン室に向かった。
数回の呼び出し音の後、寝入りばなを挫かれた不機嫌そうな声が応えた。

「何よ、もう寝るとこなんだけど。」

「快斗が撃たれた。
肝臓はやってねえみたいだけど…かなり、やばい。
救急車呼ぶわけにいかねえし、来てくれるか?」

「………五分で行くわ。」

電話を切ると隣に住む新一と快斗の関係を知る灰原哀は、今脱いだばかりの服に手を伸ばした。
新一は棚から清潔なシーツを数枚下ろし、別の棚から救急箱を取るとリビングにとって返した。
傷を押さえるタオルはすでに血を含んで真っ赤になっている。

「………息はしてるな。」

既に意識のない快斗に話しかけると救急箱の中にあったはさみで衣服を切り裂く。
車寄せに聞き慣れた阿笠博士の車が止まる音がすると玄関ホールに人の駆け込んで来る音が聞こえた。

「あたしだけじゃ無理だから、博士にも来てもらったわ。
荷物もあったし。」

「すまない、博士。」

世間の酸いも甘いも噛み分けた老博士は優しく頷くと新一の肩を励ますようにポンポンと叩いて微笑んだ。
それは新一の張り詰めた気持ちを大分落ち着かせてくれた。
哀は快斗の傍らに膝をつくと容態を診て、しばらく考えて新一に向き直った。

「………専門外だから応急処置に毛が生えた事くらいしかできないわよ。」

医者ではなく科学者の彼女は、いつでも冷静に分析し確実な答えだけを示す。
彼女が「NO」と言わないなら、全てを託すべきだ。
決して曖昧な答えを許さない哀に新一は絶対の信頼を寄せていた。

「ああ。」

「そのソファベットがいいわ、あれを照明の下に運んで。
そしたら博士、アルコールで消毒して滅菌シートを敷いてちょうだい。
工藤君、手元を明るくしたいの、もう二、三台ライトスタンド持ってきて。
準備できたら彼をそっちに移すわよ。」

てきぱきと指示しながら自分は治療器具を揃えていく。
即席の手術台に快斗の身体を寝かせると薄いゴムの手袋をはめながら、ふと思い出したように床に散らばったKIDの衣装に目をやった。

「あれ、まずいんじゃない?
ラジオでも臨時ニュースやってたわ。
相当な騒ぎになってるみたいよ。
米花港東埠頭。」

新一は哀の言わんとすることを理解すると行動に移した
米花港には、三日前から何かときな臭い噂のあるルビア・コーポレーションの船が寄港しており、話題になっていた。
その船には、武器、麻薬、宝石、美術品など多くの密輸品が隠されているらしいとも。

「………!
博士、車借りるぜ。」

「お、おい、新一………。」

「いいのよ、博士。
ここにいても何も出来なくて辛いだけだから。」

ボロ布と化したKIDの衣装をマントを残して裏の焼却炉に放り込むと火を付けた。
風に飛ばされて庭の隅に転がっていたシルクハットを拾った。

「確かこの辺に………あった。」

雪に埋もれたモノクルを掴みあげようとした時、雪の中に赤い何かを見つけた。

最初はさっきの流れた快斗の血かと思ったが手で雪を払うと血の色の宝石だった。

「ブラッディ・ヴァランタイン………。」

ルビーをポケットに突っ込みモノクルとシルクハットをマントごと丸めて車に放り込みキーを回した。
エンジンが暖まるのももどかしく車を発進させる。
道路に出る瞬間雪に夏タイヤが滑りハンドルを取られた。

「おっと………慎重に行かないとな。」

水分を含んだ重い春の雪はなお降り続いている。
ラジオのスイッチを入れると臨時ニュースを伝えるレポーターのがなり声が入ってきた。

『………香港に拠点を持つ世界的商社ルビア・コーポレーション所有の豪華客船「ヴァランタイン」号で起きた爆発は船底に隠された密輸品の弾薬に引火したものと判明しました。
さらに現場に駆けつけた警察によって大量の武器、麻薬が発見され、大がかりな国際的規模の密輸組織が……………。』

ルビア・コーポレーション―――表は総合商社だが、裏は死の商人で世界紛争の火種と言われている。
しかし、どこの国の政府も頭を痛めながらも手が出せずにいた。
そこに怪盗KIDが現れた。
警察も情報を得ていたが、正規のルートからの情報ではなかったのとルビア側が否定したため、表だっては動けずにいた。
しかし、ことさらルビア側を挑発するかのようにKIDが出現し、ルビアのセキュリティ部隊が発砲するに至って、警官隊が突入した。
隠し船倉の爆発はKIDの置き土産だった。

「………だから一人で…あの馬鹿……。」

『………KIDを追っていたら大変な物を発見してしまったということです。
詳しくは後ほど記者会見を行いますので。』

『え〜、警視庁の中森警部のコメントでした。
なお、事件のきっかけともなった怪盗KIDの行方は今のところわかっておりません。
新しい情報が入り次第随時お伝えします。』

悪天候のせいで少ないのかほとんど他の車と出会うことなく米花港西埠頭に着いた。
新一は持ってきたKIDのマント、シルクハット、モノクルを海に向けて投げた。
突風があっという間にそれらを舞い上げて視界から消えていった。
反対側の東埠頭は雪のカーテンを透かして炎なのか照明なのかわからないが明るく点滅しているのが見えた。
新一は車に戻るとゆっくりと発進させた。
強まる風雪がみるみる足跡も轍も消し去っていった。




* * *




体が重い・・・
まるで泥沼に首まで浸かっているみたいだ・・・
誰か・・・泣いているのか・・・?
誰だろう・・・

ここはどこだろう
薄紫の霧が立ちこめている
向こうの方から声が・・・
誰かいるのか・・・?
・・・・・女の子?

ああ、なんて足が重いんだ
一歩踏み出すごとに息が切れる
なんだって泥の中を歩いているんだろう
・・・泥・・じゃない?

足にまとわりつくのは・・・血?
なんで・・・
オレが流した・・・?
オレが流させた・・・?

・・・人が・・・女の子が泣いている
真珠の肌・・・月の光を紡いだ髪・・・
なぜここにいる?
血の鎖を細い身体に絡み付かせて・・・

俺に気付いてない
何が言いたいの?
唇は動くけど声は無い
ただか細い押し殺した泣き声をあげるだけで・・・
閉じた瞳から止めどなく流されるのは穢れなき涙
長い睫毛が震えゆっくりと瞼が開かれる
大きな蒼い瞳・・・
俺はこの瞳を知ってる・・・




* * *




「………新一?」

目覚めたら至近に少し驚いた目をしたよく知った顔があった。
すぐに離れて行った新一が顔を耳まで桜色に染めていたことにまだぼーっとしている快斗には気付かなかった。
ぼんやりする頭で今の自分の状況を把握しようとするが、霞がかかったようではっきりしない。
新一は横目で快斗の様子を窺いながら心の体勢を立て直した。

「おそよう。」

「……ここって?」

「俺んちのリビング。
お前が寝てるのが俺んちのソファベット。」

ようやく脳細胞が動き出して少しずつ記憶が甦ってきた。

「………何か、動けねえんだけど。」

「三日も寝てりゃあな。
………ときどき目は覚ましてたぜ。
覚えてねえの?」

「………全然………夢も見なかった……よな?」

「ふ〜ん、………TV見る?」

リモコンのスイッチを入れると壁に掛かった大型の液晶画面に光が灯った。
朝のワイドショーが「ヴァランタイン号事件」を特集していた。

「なんか、怪盗KID死んじまったみたいだぜ。」

新一は楽しそうに快斗にウィンクを投げかけながら、珈琲ミルに豆を入れてハンドルを回し始めた。

「………え?」

『……海底を捜索した結果、KIDのものと思われるモノクルが発見され、先に見つかったマントなどの遺留品から逃走中に海に落ちたものと思われます。』

『行方不明と言うことですが、どうなんでしょうね。』

『あの悪天候で冬の海を泳いでですか?
ドライスーツを着込んでなら可能かもしれませんが、マントに大量の血液反応が出たんでしょう?
警察も早々に捜索を打ち切ったようですし、おそらく……………。』

TV画面と新一の後ろ姿を代わる代わる見ていると、やや毒のある笑顔が珈琲メーカーをセットしながら振り向いた。

「貸しにしといてやるぜ。」

「……………ごめん。」

「ばーろー、こういう時は『ありがとう』だろ?
今度、こんな面白い事件に呼ばなかったら、問答無用で警察に突きだしてやるからな。
一人で美味しいところ持っていきやがって。
この俺がマスコミからコメント取材だけなんて間抜けじゃねえか。」

新一は快斗の形のいい鼻をキュッと指でつまんだ。

「あ〜、俺……今、生きてるんだーって実感しちゃった。
新一の俺様〜な声聞いたから。」

「ほお〜、命の恩人にいい度胸だな。」

ニヤッと笑うと新一は動けない快斗の首筋を長いきれいな指で撫で上げた。

「ひ、やぁ………止めろ〜!
いてて………傷が開く〜!」

涙目で抗議する快斗を見て、あとは快復してからのお楽しみにすることにして、ベットの傍らに腰を下ろした。
快斗は腕を伸ばして新一の頬に触れた。

「さっきさ、俺目覚ました時、何してたの?」

「………………熱計ってたんだよ。」

「………工藤家では熱、口で計るんだ。」

「………………唇が乾いてたし………。」

「ねえ、もう一回熱計ってくれる?」

「………そうだな、約束守ったから、ご褒美にしてやるよ。」

TVのスイッチを切ると春の訪れを喜ぶ小鳥の声が聞こえてきた。
三日前と違って穏やかな春の日射しがリビングいっぱいに降り注いでいる。
新一の真っ直ぐな視線が快斗の瞳から心の一番柔らかいところを刺激する。
見返してくる快斗の素直な視線に新一が困ったような顔で囁いた。

「………目、瞑れよ。」

「ん………。」

部屋中に広がる心地よい珈琲の香りとコポコポと珈琲の沸く音だけが二人を包みこんでいく。
疲れたのか快斗はそのまままた眠りに入ってしまったようだ。
ずれた枕を直して、腕を掛け布団に入れてやる。
もう死の影のない安らかな寝顔を見て、KIDがここに現れてから初めて安息のため息を吐いた。

「もう、こんな思いはごめんだぜ。」

玄関でチャイムの音がした。
哀がやって来たらしい。

「時間通りだな。」

快斗は眠りに落ちていく浮遊感の中で遠ざかる新一の足音を聞いていた。
閉じられた目尻から一筋涙がこぼれ落ちて枕に小さな染みを作った。

「・・・ありがとう。」

かすかに濡れた唇が動いた。

to be contiued


BGM/君の家に着くまでずっと走っていく/GARNET CROW

これでも快新〜。
私んとこの新ちゃんはこんなです。
色気もへったくれもありませーん。
重傷の快斗張り飛ばしてトドメ刺してるとしか見えないって(笑)
しかも泥棒さんの逃走を偽装工作までしちゃってます。いいのか?
続くんですが、読みたいですか?(とっても心配)
宝石の伝説の謎を解きます。
ムーミン谷でラブラブなファンタジーです。
事件は起こらないでしょう、ムーミン谷だから。


うっわーーーーいっ!!!夢魔々さんありがとう〜〜っ!!!!
新一がめちゃめちゃかっこいいっすvvv惚れぼれ〜〜っ!
快斗幸せだねえ〜〜。最近不幸にしてばっかいるような気がするから嬉しいです。
続きvv書いて書いて!!
真中のモノローグの伏線vv気になるものっ!
お待ちしてます(催促してるヤツ〜〜)!


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