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『30分のホワイトデー』 柊 紫苑

設定・・・高校生新一。(バレンタイン小説の続き/笑)



「はぁ・・・」

冷え切った手に息を吹きかけながら、工藤新一は門の前で立ち尽くしていた。

新一の頭の上には「栄泉高校」の文字が見え隠れしている。

「・・・うーん、あと、30分か・・」

時間を確認しつつ、学校の中を覗く。

たまたま事件の関係で新一が名古屋に来たのが今朝。

少し早く解決してしまい、帰りの新幹線までの時間を持て余して平次の高校に行ってみようと

思ったのが僅か一時間前。

土曜日は学校が休みだけど、部活くらいはやっているはず。

そして多分そろそろ終わる時間・・・。

運がよければ立ち話くらいはできるだろうと新一は考えていた。

ところがその考えは甘かったらしい。

部活が終わる時間には違いないらしく、生徒がパラパラと門から出てくる姿は見られるが、

目的の人物が見えないまま既に30分を消化していた。

かといって他校の制服を着ている自分が剣道部の部室に足を踏み入れるのはためらわれる。

「・・やっぱ無茶だったか・・?」


――できることなら、今日中に会いたかったけれど。


ホワイトデーに事件が入ってしまったのは自分自身のせいだったから、

会えないのならばそれも仕方ないだろう。

そう思いながら校庭に視線を戻すと、防具を持った女子高生が二人、

新一のほうに歩いてくるのが見えた。




「・・・ねえ、君たち、剣道部?」

門を出た途端にかけられた声に女生徒はびくっとして振り返る。

新一は怖がらせないように取っておきの営業スマイルを振りまいた。

警戒したような表情で一人が答えた。

「ええ、そうですけど・・・」

「ならよかった。2年の服部と渡辺、まだ中にいるかな?」

二人とも顔を見合わせて少し考えている。と思ったら一人が頷いた。

「着替え終わって、たぶんまだいると思いますけど・・」

「そうか、ありがとう」

女生徒に礼を言って、新一は中へと歩き出した。

着替えているのならばもうすぐ出てくるだろうから、部室の前で待っていても

問題はないだろう。

時間もあまりないし。

ところがそのとき、さっきの女生徒が新一を呼び止めてきた。

「あのっ・・・すいません」

「何か?」

呼ばれて振り返った新一に女生徒は真剣な表情で尋ねてきた。

「あの、服部先輩と渡辺先輩のお友達、ですか?」

「・・・ああ、まあ・・」

服部は「友達」ではないけど、と心の中で思いながら曖昧に返事をする。

女生徒は俺の答えに表情をますます真剣なものにし、問い掛けてきた。

「お聞きしたいことがあるんですが・・・」

「?」



「服部先輩と渡辺先輩、って・・・デキてるんですか!?」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」


二人の生徒にステレオ音声で尋ねられ、新一は言葉を失った。

混乱する頭を手で支えながらなんとか自分を落ち着かせようと息を吸う。


――――渡辺、ってーのは確か慎二の苗字だよな・・・・あの二人いつの間に・・・。


などと考えている場合ではない。

「ご存知、ないでしょうか・・・」

沈痛の面持ちの二人に、頭をフル回転させて尋ねる。

「俺はこの学校の生徒ではないから学校内での二人は知らないけど・・・。

まず、君たちがどうしてそう思うようになったのか、教えてもらえないかな」

女生徒に微笑むその姿に、冷たい北風が見えた。




「・・・・・というわけなんです。渡辺先輩、とっても綺麗な笑顔で、ごめんね、って言って

手を繋いだまま足早に門を出て行って・・・・私もうショックでしばらく眠れなかったんです」

「典子は渡辺先輩に憧れてたからねー」

典子、と呼ばれた女生徒の肩をもう一人の子が軽く叩く。

「なる、ほど・・・・」


バレンタインの日、平次が大変だったと言ってたのはこういうことだったのか、と新一は悟る。

このまま誤解させておいても構わないのだが、真実を追求することを善しとしている身としては

少し複雑なのも確かだった。

顎に手をあてて考えるような仕草をしたあと、新一はおもむろに切り出す。

「確かに本人がそういったならそうなのかもしれないけれど・・二人とも信じていないんだろ?」

問い掛けて女生徒を交互に見た。

二人が頷く。

「ならば、もう一度本人に聞いてみたらどうだろう」

「でも・・・どうやって・・・」

「そんなに堂々と言ったならきっと噂になって広まっているだろう。それが気になるから、くらいで

いいんじゃないかな」

「は・・・はい・・・」

神妙に頷く二人に新一は笑顔で付け足した。

「ま、そういうの俺に隠せるような奴じゃないから、違うと思うけどさ?」

もう一度頷いた二人の顔は希望を見つけたように輝いていた。





――――さて、と。あとで服部は締め上げるとして。

結構時間食っちまったな・・・・・・・。

無事に解決して息をついた新一はふっと時計を見た。

女生徒も安心したように学校の中に視線を向ける。


「げ、やべ、こんな時間!」

「あ、服部先輩と渡辺先輩!」

新一と女生徒の叫びが重なった。


名前に反応して新一も顔を上げる。

少し遠くに防具を背負った平次と慎二の姿があった。

二人に駆け寄ってゆく女生徒。

立ち話をしている4人。

新一は門柱に寄りかかりながら、その光景をじっと見ていた。


夕闇に溶け込んでいる平次は凛々しく、防具を持つ姿が様になっている。

話している笑顔が自然で、この学校に溶け込んでいること、楽しんでいることが伝わってきた。

ずっと、このまま、見ていたいような・・・・。


けれど、新一にはそんな時間は残されていなかった。

もう、ここを去らなければ、間に合わない。


新一はポケットに入っていた携帯を取り出すと、シャッターを4人の方に向けて一枚画像を撮った。

逆光で人の顔もよくわからないソレを打ち込んだメールに添付して送信すると、

瞼の奥に焼き付けるように平次を見つめ、駅へ向かって歩き出す。




『ホワイトデー。

いいもん見せてもらった。時間なくてごめんな。

バレンタインの時の話は今度じっくり追求してやっから覚悟しろよ』


震えた携帯を開いた画面には、画像と共にそんな言葉が刻まれていたのだった。





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