Fox & Mathematics
     〜べんきょう、しよう〜

  重力加速度のお話



「ほう、そういうことなのか」
「うん、実はそうだったんだよ」
俺の部屋。
真面目な顔で向き合う、俺と稲穂。
「…………」
「…………」
なんとも奇妙な空気が流れる。
そして……
俺は稲穂の頭をべしっと叩いた。
「いったーい! なんでたたかれなきゃいけないのよっ」
「うるさいっ」
予想通りわめきだす稲穂。
「ひどいひどいひどい! 達哉のバカッ」
耳と頭を抑え、非難ごうごうの眼差しを向けられる。
「ほう、じゃあそのバカに勉強教えてもらってるお前はなんなんだ?」
バカと言われて腹が立たないわけじゃないが、こいつを相手に本気になっても仕方ない。
「うっ……」
冷静に返され、言葉に詰まる稲穂。
「バ、バカッ!」
やれやれ、小学生か。
とそこへ、ひょいと顔を出した女の人。
「どうしたのよ……丸聞こえよ」
最近はインターホンもなしに侵入してくるようになった。
もっとも、もっぱら俺と稲穂が言い合いしているときなので、その音に気付かなかっただけなのかもしれないが。調子悪いと鳴らないし。
「佐倉さん、聞いてくださいよ」
「ちょっとゆかりちゃん、聞いてよ!」
二人の声が重なった。

「こいつ、うどんの匂いでひっついてきたんです」
とりあえず、俺と佐倉さんと稲穂の3人でテーブルについた。
事実を佐倉さんに教えると、稲穂がまたわめいた。
「人をオナモミの実みたいに言わないでよっ!」
「事実だろが!」
オナモミか……いい例えじゃないか。
「うどんじゃなくて、油揚げ!」
「一緒だろうが」
「違う!」
妙にこだわるな……
稲穂が言うには、自分はきつねうどんの匂いにつられ、この部屋までたどり着いたとのこと。
確かに稲穂に初めて会ったあの日、俺は学食できつねうどんを食った気もするが……
とにかくそんなアホくさい理由で、稲穂はここに居着くことになったわけである。そりゃあ、頭を叩かずしてどうしろというのか。
「はぁ……」
大きくため息をつく佐倉さん。
「勉強、したら?」
正論だった。
「……そうですね。油揚げ一つで初対面の人間にほいほいついていくアンポンタンに、勉強教えなきゃいけないんでした」
それを聞いた稲穂。まねをするように大袈裟にため息をつく。
「はあ、軽々しくレディの頭をたたくような男に勉強教わらなきゃいけないのね……」
「レディね……」
狐の耳と尻尾を出したレディねえ……そもそも言動が幼いというか、幼稚というか。これでよくレディといえたもんだ。
「何よ」
「別にー」
わざとらしくすっとぼけていると、
「男の子って、好きな女の子とかいじめたくなるんだよね」
佐倉さんの口から、思わぬ言葉が飛び出した。
「え、佐倉さん?」
いや、小学生じゃあるまいし。
「え、え?」
一方稲穂、頭がついていってない様子。
「ねえ稲穂ちゃん。都君はね、稲穂ちゃんのことが好きなんだって」
「ええ、そうなの!?」
待て。早計もいいところだ。
「佐倉さん……」
呆れた目で見ているというのに、
「そうなんだ……」
なぜか納得している稲穂。
「なんだその不思議そうな顔は」
「う、ううん」
言ってうつむく稲穂。
げ、こいつ意識してやがる……
「じゃ、勉強頑張ってねー」
顔をあげたときには、佐倉さんの姿はなかった。
一体何しに来たんだ……

いつまでも妙な空気でも仕方ない。平常心を取り戻すためには勉強だ。
俺たちは気を取り直して……勉強を始めることにした。
「今日は重力とか運動とか」
「……重力って、これ?」
消しゴムを持ち上げて落とす稲穂。
「まあそうだ」
何を言わんとしているかはまあ、理解できる。
「地球上にある物質は、常に9.8m/s^2程度の加速度を受けている。重くても軽くてもな」
「だれか実験したんだよね? ボール落として」
ほう、稲穂が知っているとは驚きだ。
若干違うところはあるが、まあ勉強にはあまり影響ないしな。

で、加速度がその値ってことは、式はこうなるよな。

これはまあ、地球からかかる重力なんだが、質量の大きさに関わらず9.8で一定。ということは、Fの中にmが入っていることが分かる。

「えっと……fがよくわかんない数として」

「ってこと?」

ほう、変数分離か。意味ないところでなかなかやるな。そういうことだ。
重力を求める式はまた今度やるが、なかなかいい勘してるじゃないか。
まあ、それは置いといて。

「置いとくの!?」
「ああ、今回の勉強には関係ないからな」
関係ないというか、読んでる人が余計混乱するだけだ。はっきり言ってしまうと、見なかったことにしてしまったほうがいい。
「うー……」
稲穂はというと、不服そうに唸っていた。

気を取り直して、早速問題だ。
何か物を持って、ぱっと離す。1秒でどれだけの距離落ちる?

「え、えと……質量は関係ないんだよね」
「今言ったじゃないか……どんな重さでも変わらないって」
関係あるなら問題文に含めるって……むしろ混乱させるために10kgとか言ったほうが良かっただろうか。
「9.8で、1秒ってことは、1秒後に9.8m/sになってるんだよね……」
ノートに取りとめもなくメモを取る稲穂。
「0秒では当然0m/sでしょ? ちょっとずつ早くなるんだよね……時間かける速さが距離だから……」
待つこと10秒。
わかりやすい結論が出た。
「そんなのわからないじゃない」

よし、じゃあ回答。
稲穂の言うとおり、時間かける速さが距離になる。
まずはこのグラフ。

速度一定のこの場合、Sの面積ってのは縦かける横で……

……つまり、時間かける速さなわけだ。
tが4秒でvが10m/sなら、面積Sは40だよな。40m進んだってわけ。
同じことを、今回問題のでもやる。

「三角形の面積……?」

ご名答。最終的な速度はgに1秒かけた9.8[m/s]になるな。つまりこうだ。

正解は1秒で4.9m落下というわけ。
「へえ、こんな図を使うんだ」
感心している様子。
グラフイメージがすぐできれば、数学や物理は格段に理解しやすくなる。

じゃ、次の問題。
物体を真上に5m/sで投げました。落ちてくるまでの時間は何秒でしょう。

「だんだん遅くなって、下向いて、落ちてくるんだよね……」
「そうだな」
運動のイメージはわかっている様子。
さて、どう取り組むのかと思っていると、
「わかるわけないよ」
いきなり諦めた。
「……早いなおい」

いいか?
図で考える。
加速度はgってことは、v−tグラフは傾きgの一次関数だ。
初速度は上向きに5m/s。だから、t=0sのときだな。で、上向きを正にとると、加速度……つまり傾きは−gで−9.8になる。

こうなる。
vがマイナスになってるのは下向きってことな。
ほら、段々速度が下がっていって……0。そしてマイナス……

「うんうん。そうだね」
「でだ、一度上にあがって落ちてくるってことは……」

この2つの三角形の面積が等しい。
つまり上に動いた距離と、下に動いた距離が等しいんだ。

「あー、あ……うんうん。何となく分かる。x軸の上側が、上に進んだ距離で、下側が下に進んだ距離ね」
そういうことだ。
この場合は上向きを正にとっている。時間は常に正なので、位置xが正なら上に進んでいる。負なら下に進んでいる。
正と正の積は正。正と負の積は負というわけだ。負ってのはつまり、下向きに進んでいることを表している。
「じゃあ、この右端の点を求めればいいのね?」
「まあ、そうだな。というか、速度が0になる時間の倍だから……」

まあ、大体0.5秒だな。
下まで戻ってくるのはこれの倍。だから1秒ぐらいで戻ってくる。
ちなみに、高さxと時間t……位置と時間の関係は、次のようなグラフになる。

ま、上がって落ちてきてる。そのまんまだ。
見て分かると思うが、二次関数の形。
一般に等加速度運動のときの位置と速度の関係は、

こうなる。
ま、見ての通りだ。
初めから速度があればより移動するし、もちろん初めから少し先にいれば遠くにいける。
ここは積分で復習するから、今は分からなくても問題ない。
あと、蛇足だが、

で、全部の項が[m]になることが分かる。
何が言いたいかというと、単位が違うと足し算引き算はできないということだ。
だから一応確認するように。
今回は重力加速度を使ったが、一定の加速度での運動について、今回の話はすべて当てはまる。

「わかったー。で、積分って何?」
やっぱ積分は知らないか……
「あとでやる」
「積分ができると距離を求めるのが簡単なの?」
「簡単どころの話じゃないな……もうなんでもこい。だ」
それを聞いて、目を輝かせる稲穂。
もしかしてもしかすると、理系の素質はあるのかもしれない。
いや、単なる好奇心か。
「おおー。じゃ、早く積分やろ、積分」
はしゃぐ稲穂。
距離だけじゃなく、いろんなものに使える……というか、物理の多くは積分を使って理解できるって知ったら、どう思うだろうな。
「待て待て……積分の前には微分が必要だし、その前には指数もやっておいたほうがいい」
適当に言ってみた。
とりあえずそんなわけだから、微分積分は万全の体制で臨んだほうがいい。高校の数学Uでも最後のほうだったわけが、何となく分かった気がした。
「……大変なんだね」
大変そうな雰囲気を感じ取ったのか、稲穂が大人しくなった。
「積み重ねが大事だからな。ちなみに、この微分積分が普通の人にとっての山だと思われている」
「ふんふん」
なぜか、ここで脱落する人も多い。若干理解するのに時間はかかる。だが、それ以上に……
「それだけに……」
「それだけに?」
「使えるとカッコイイ!」
「おおー」
驚きを隠さずに声を上げる。
ノリのいい奴だ。
「でも次は積分とは関係ないベクトルだ」
「ベクトル?」
首をかしげる稲穂。
それはベクトルがなんなのか知らないわけじゃなく、ベクトルの何を勉強するのかわからないという目。
「ま、一応な」
ベクトルにもいろいろあるのさ……重要な要素が。
「うん」
素直にうなずいた稲穂は、やっぱりあまり良くわかっていない様子だった。


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