Fox & Mathematics
     〜べんきょう、しよう〜

  積分のお話



実ヶ池公園。
名の通りちょっと大きな池がある。何でも歴史的な名所らしいが、詳しいことは知らない。緑はいっぱいで、よく散歩コースになるようだ。
まあ、この辺は田舎だから、どこでも緑はあるんだけど。
そこにある芝生(もちろん入ってもいい)で、自転車に乗る練習をする稲穂。こけても痛くなさそうだからだとか。
芝生の方が自転車乗るのは難しそうだけどなあ……
ちなみに佐倉さんの自転車で練習である。
「乗るの難しいね」
サドルにまたがった時点でそんなことを言い出した。
「そうか?」
「うん。尻尾がはさまっちゃって……」
「……そうか」
よく分からんが大変そうだな。
はさまったらやっぱり多少は痛いんだろう。
「ん……よっと、んんー……」
ぱっと見だけじゃわからないが、なにやら微調整をしている様子。よく見ればスカートの中でもぞもぞ動いている。
結構尻尾大きいからなあ。今は佐倉さんのお下がりであるロングスカートの中にしまってあるが。
ちなみに佐倉さんの持っているズボン。稲穂にはきつすぎて入らないらしい。もちろん尻尾の問題だ。
「大丈夫?」
少し心配そうな佐倉さん。
「うん、なんとか」
位置が決まったらしい。
「よし、じゃあ後ろ抑えててやるからこいでみろ」
「うん」
まあ、お決まりのパターンなんだが……
ゆっくりと体重をかけて自転車を押す。
「ふぁ……」
ペダルに足を置き、なんとかバランスをとろうとする稲穂。ちなみにまだ手は添えてやっている。
俺が押し、稲穂がペダルを踏んで段々と加速する自転車。
「気持ちいいねー、達哉!」
「だろ?」
走ってる俺はしんどいんだが。
「ちゃんと抑えててよね」
「分かってるって」
もちろん離すに決まってるじゃないか。
そしてそっと手を離す。
スピードに乗った自転車は、そのまま先へと走り続ける。
うん、いい感じじゃないか。
「んー、気持ちいいね……って、達哉!?」
振り返った稲穂が目にしたのは、両手フリーな俺……
「わ、わわ……」
あっという間にバランスを崩し、稲穂の体が芝生の上へと倒れこむ。
「痛たっ……もうっ、なんで離すのよ!」
予想通り怒る稲穂。
見た感じ怪我はしていない様子。良かった良かった。
「大丈夫だったじゃないか」
平気ですいすい乗ってたくせに。
追いかけてきた佐倉さんも、頷いて同意する。
「うんうん、稲穂ちゃん、いい感じに乗れてたよ」
「うー……」
どうも不服な様子。
素直に喜べばいいのに。やっぱり騙されたって思ってるんだろうな。
「じゃあ、今度は私」
そう言うと佐倉さんは起こした自転車の後ろに回った。
「うん……ゆかりちゃん、離さないでね」
「はいはい……」
ニコニコしている佐倉さん。不安そうな稲穂。
ぱたぱたとスカートをはたくと、再びサドルに腰掛けた。
「押すよー」
「うん」
準備ができたと見るや、佐倉さんは両手で自転車を押した。
徐々にスピードを増していく自転車。
「ほら、稲穂ちゃん、自分でこいで」
「う、うん」
言われるままに、ペダルを踏む稲穂。
と、佐倉さんが片手を離した。
そのまま長い髪をなびかせ、自転車の後を走る。
「前見て。しっかりね」
「うんっ」
稲穂の返事と同時に、そっと手を離す佐倉さん。
そのまま一緒になって走っている。少し疲れてきたようだ。
「後ろ向いちゃ、ダメよ。人にぶつかったら、危ないから……」
ごもっとも。まあ、前方に人がいるかといえば、全くいないんだが。
「うん。でも、ゆかりちゃん抑えてる?」
「抑えてるってー……」
すでに息も絶え絶えの佐倉さん。今日も暑いからなあ……
「ほんと……? わわっ!」
また自転車が倒れた。
倒れた瞬間に尻尾が見えたのは秘密だ。幸い誰もいないし。
ともかく、何かにつまずいたように見えたが……
「大丈夫か、稲穂」
「うん。多分石にぶつかったんだと思う。がくってなっちゃって……」
不慮の事故ってやつか。いい感じだったんだがな……
「あー、これか……」
足元にそれっぽい石を見つけた。確かに少し大きい。
「まあ、余裕があったら地面の様子も見ろよ」
「うん……あれ、ゆかりちゃんは?」
振り返ってみると、10メートルほど向こうに佐倉さんがいた。
ひざに手をやって、息を整えている。
「……なんであんなに遠くにいるの?」
「まあ、そういうことだ」
静かな公園に、稲穂のわめく声が響いた。


「痛た……」
夕方俺の部屋に入ってきた稲穂。ちょっと痛そうに腕をさすっている。
戦果は軽い打ち身が数箇所。
やはり1日では万全とはいかず、まだまだ練習が必要そうだ。
「大丈夫か?」
「うん、勉強はできるよ」
「そうか」
体で覚えるしかないからなあ……こればっかりは紙とペンではどうしょうもない。
「もう、達哉もゆかりちゃんもひどいんだから……」
責める口調の稲穂。
そう言われてもなあ。
「みんなそうやって自転車に乗れるようになるのさ」
事実、俺もそうだし。佐倉さんもそうだと言っていた。
「うー……」
でもやっぱり不服そうな稲穂であった。


さて、積分だ。
何をするかというと、面積を求めるわけだな。

この部分。
関数と軸の間の面積だ。もちろんxの値に依るのでF(x)とする。
でまあ、これを求める考え方としてはだな。
まず、細切れにする。

ここの幅はdxとする。微小な数だな。
で、高さはもちろんf(x)だよな。関数の値なんだから。
で、この細くて小さい面積dF(x)は、f(x)dxとなるわけだ。縦掛ける横な。

問題となる面積はだな、この細切れを全部足したものだろ?
それをこう表す。

このにょろにょろしたやつをインテグラルと呼ぶんだが……まああれだ。全部細切れにして足しましたって意味だ。
で、具体的に何をやるのかというとだな。微分の逆をすればいい。なぜかというと、

こういうわけだろ? 面積が微分されたら関数が出る。
ならば関数に対して微分と逆のことをすれば面積が出るってわけだ。

でまあ、どうするかっていうとだな。
大抵の場合、f(x)を積分しろって言われたら、微分してf(x)になる関数を想像するわけだ。
例題。次の関数を積分してみろ。


「微分してこれになるんだよね……んー」
考える稲穂。割と簡単だとは思うが……完全な正解にはならないだろうな。
「うーん……」

「こう?」
予想通り。ふ、甘いぞ稲穂。
「正解……と言いたいところだが、少し違う」
「え、違うの? ちょっと待ってね……えーっと……」
またも考え込む稲穂。
今出した答えを微分しているようだ。
「合ってると思うんだけど……」
「それがだな稲穂。答えで出てきた関数に、プラス2をしたらどうなる? 微分してみな」
まあ、定数なら何でもいいんだが。
「プラス2……? うん」

「あ、あれ?」
出てきた関数は問題と一緒。つまり、これも答え。
「……そっか、定数は消えちゃうんだ」
「そういうこと。というわけで、適当な任意の定数Cをつける」
このCはなんのCなんだろうな。定数だからConstとかだろうか。
「正解は……」

「ってわけだ」
めでたしめでたし。
「そうなんだ……」
感心している様子の稲穂。
この定数はそこそこ重要だ。忘れると減点される。
「でだ。これは不定積分と呼ばれる。積分範囲が決まってないからな」
「どういうこと?」
「面積を求めるときはだな」

「こういう風に範囲を決めるだろ?」
決めないとどこまでも面積が膨らんでいくからな……
「あ、そうだね。じゃあ範囲を決めてるのは……」
「『定積分』という。計算方法は……」

インテグラルの上下に範囲をつける。下から始まって上で終わる。

「えっと、Cは?」
「まあ見てろ」

最後に代入する。
最後の値から最初の値を引くんだ。

「……これで終わり?」
「ああ、終わりだ」
これ以上どうしろというんだ。
「で、なんでCをつけないの?」
「つけたとしてやってみるか?」
無駄なんだけどな。
「うん」

「あ、消えた」
「そう。どうせ引き合わせるからいらないんだ」
「ふーん……それでえっと、面積は40なんだ」
「ああ。で、代入する数を示す奴なんだが、かっこで括る場合もある。面倒臭いから右端に縦棒引いて上下につけるだけでもいいんだけどな」

「りょーかいっ」

一応、今の関数はこんな形になる。

f(0)=6
だから、

下の長方形は面積24。上の三角形は
f(4)=14
横4、高さ(14−6)=8の三角形だから、面積は16。
足すと40で合っている。と。
面倒だよな。積分なら一発ってわけだ。

でまあ、一般的には積分するとこうなる。

「んー……ああ、微分したらそうだね」
「じゃあ、その考えを元にして、これらの積分」


「えっと、逆なんだよね……微分してこれになる数……」

「かな?」
「そうだな。コサインは微分するとマイナスのサインだから、打ち消すためにマイナスが必要だ」

「結局あれだよね。xの肩に乗ってるものが1つ上がるんでしょ?」
微分と逆だもんねー。と笑う稲穂。分かってるじゃないか。
「そういうことだな。大切なのはどう打ち消すかだ」
「ええっと、次は……」

「−1乗を1つあげると0乗になるけど……違うよね」
稲穂ノートをぱらぱらめくる。
「あ、これだ」

「正解」
気をつけるのなんてこれだけだよなあ……
「最後のは簡単だよね。微分しても変わらないんだから、積分しても……」

「そういうことだ」

さて、定積分でもしてみるか。
2問だ。


うわ……これってあれよね。
微分したら前に出てくるから、ちゃんと打ち消せるかどうか試してるのよね……
まず1問目は……と。
コサインを微分したらマイナスサインよね。それで……

マイナスと4が余計だから、これを打ち消すのにマイナスと4分の1が必要。

これでいいんだよね……次はえっと、代入して引く。

コサインの4πっていくつだろ……
πって半周だよね……それでえっと、x軸の大きさだっけ。
だから……

もう1周……

角度はじゃあ0°と一緒なんだ……
ってことは、cos4πは1かな。
えっと、だから……

あれ、0になっちゃった……

「よし、正解だ」
ラジアンも使えるみたいだな。よしよし……
「えっ、これでいいの?」
「ああ」
「でも達哉。積分って面積でしょ……?」
首をかしげる稲穂。
「ああ、そうだ」
「0になったらおかしくないかな」
面積は0でおかしい……か。なかなか勘のいいやつだ。
「それがだな、稲穂……」

sin4xはこういうグラフになる。
で、積分って言うのはだな。軸から上の部分の面積を正として数えているんだ。下の部分は当然負になって出てくる。


だから、0になるってことは、この赤と水色の面積が等しいってことだな。
ってことで正解。
「へー、そうなんだ」
三角関数の積分で範囲2πは重要だな。よく消えるから。

次は……っと。

微分しても変わらないけど……
やっぱり出て来るんだよねえ。上のやつが。

ってことは……

で、おっけーよね。

「普通の関数はできるな」
「うん。大丈夫」

最後に積分の約束事。

一つ目。積分区間は切り張りできる。1から10までの範囲で積分するとき、1から6までやったのと、6から10までやったのを足せばOKだということだ。
二つ目。足し算引き算してる関数は、それぞれで積分をやってくれ。
三つ目。積分区間が逆の場合、値はマイナスになる。まあ別にどうってことはないな。dxのとり方が逆なんだと思えばいい。dxの両端がAとBだとして、A−B=−(B−A)だからな。

まあ、今日はこんなところでいいか。
「お疲れ様」
「え、もう終わりなの?」
「ああ、新しい演算だからな。あんまり詰め込んでもしんどいだろ」
高校では何日もかけてやるところだし。
それにしてもよく稲穂はついてくるよな……
「うん、そうだけど……」
「よく復習しておけよ」
多分復習のおかげだろうな。
俺も高校時代ちゃんと復習していれば、テスト前にあんなに苦労することはなかったんだろうなあ。
「わかった」
「でだ。俺は3日後テストだから勉強させてもらう」
ヤバイってことはないんだが……それほど楽勝というわけでもない。あんまり時間も取ってられない。
「あ、そういえばそうだったね。頑張ってね」
「ああ。次は10日後ぐらいな」
テストが終わらないことには、じっくり落ち着いて教えてやれないし。
「うん……あ、そうだ」
荷物を持って立ち上がった稲穂。何か重いついたようだ。
「どうした?」
「ご飯作ってあげるよ、達哉」
「え?」
思わぬ提案だった。
ご飯を作ってくれるって……?
「ご飯。面倒でしょ?」
「そりゃあ、まあ……」
つまりはあれか。
ご飯作る時間もったいないからってことなのだろうか。
「じゃあ7時ぐらいにゆかりちゃんの部屋に来てね」
「あ、ああ……わかった」
そう答えると満足そうな笑みを浮かべて佐倉さんの部屋に戻って行った。
もしかして、気を使ってたりするんだろうか。
まあいいや。勉強勉強っと。
量子力学の教科書を開く。だらだらと式が書いてあるが……
本当にこれを教える日がくるのだろうか。
まあ、そのためにもちゃんと理解しないとな。
稲穂の勉強。まだまだ先は長い。


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