夢でもいいから


 

大石きつね



秋風吹きすさぶ校舎裏。
放課後、部活の途中で同じ報道部員の黒崎を呼び止めた。
「……んで、こんなところまで連れ出して、一体何の用だ?」
校舎裏、一組の男女といえば相場が決まっている。
そう、運命の告白。
「えっとね、その……」
どんどん早くなる鼓動を何とか落着かせようと、ひとつ深呼吸。
よしっ、思い切って言う!
「私、黒崎のことが好きなの」
い、言っちゃった……
高校2年、冬……人生初の告白は……
「実は俺もなんだ。前からずっと佐倉が好きだった」
……なんともあっけなく成功を収めた。
こ、こんなにうまくいくなんて……夢じゃない?
そ、そういえばこういう告白の後ってどうするんだっけ。
失敗したときのシミュレーションは完璧だったんだけど、まさか成功するとは思ってなかったから、どうすればいいのか分からない……
ちなみに失敗したときは「友達でいてね」で決めていた。
「佐倉」
浮かれつつもうろたえる私を、黒崎が呼んでいる。
「な、なに?」
「佐倉」
「なにってば」
「起きろ佐倉!」
「……えっ?」

……顔をあげるとそこには、いつもの黒崎の顔があった。
「佐倉……寝るのは記事仕上げてからにしてくれ……」
寝るって……あれってやっぱり夢だったの?
「ったく、毎日毎日起こす身にもなってくれよ」
……毎日毎日ではないけれど、部室で寝るのが多いのは確かだ。
「ご、ごめん」
最近良く見るああいう夢。
なんて分かりやすいストレートな夢だろう。
そう、もう1年半も黒崎のことが好きで、それでも告白できずにずっといる。
「はぁ……寝るのは勝手だけど、全体の作業に差し支えるだろ。明日が締め切りなのに毎日寝てて……原稿進んでるのか?」
うう……実のところ、まだ半分も書けていない。
時計の針はいつの間にか5時半を指している。今から書き上げると、学校を出るのは7時ぐらいかな……
「やっぱりまだなんだな……まったく、ほら、去年の文化祭の記事。これ参考にして書け。あと必要なものは?」
私が担当しているのは、今年の文化祭のレポート。
報道部発行の冊子に載せる記事だ。
他の学校の新聞部と比べると、うちの報道部は冊子タイプなぶん、記事が多い。
「あ、えっと、文化祭のパンフレット……」
「パンフか……ここにはないから、生徒会室に行って取ってくる」
そう言って席を立つ黒崎。
「あ、ちょっと、それは悪いよ」
「悪いと思うなら、早く原稿書け」
うう……それを言われると何も言い返せない。
ぽつんと部室に一人残った私。
黒崎に言われたとおり原稿を書くべく、自分の取ったメモと去年先輩が書いた記事とを見比べうんうん唸るのだった。

黒崎。同級生だけど2年間別のクラスで、接点といえば報道部の部活だけ。
いつからだか、私は黒崎のことが好きになっていた。
多分、ぶっきらぼうで冷たい言動が多い中で、たまに見せる優しさというか、そういうのに惹かれたんだと思う。
いつか私が言ったのか、それとも色に出てしまったか、なぜか周りの部員たちは私が黒崎を好きなことを知っている。それで応援してくれてはいるけれど……
「はぁ……」
恋は前途多難。原稿は難攻不落。秋の日はつるべ落とし。
早くも日の落ちた空を背に、せっせとキーボードを叩く私。
時計を見ると6時半。
黒崎はといえば、他の部員の書いた原稿の誤字チェックをしている。
この部活は誤字チェックや冊子とじなんかは当番制になっている。黒崎は今回の誤字係で、私は今回他数人の部員と印刷係だ。
「佐倉、できたか?」
原稿から顔をあげて、手が止まった私にそう聞いてくる黒崎。
「あ、うん、あと少し」
「ん……」
そしてまた部室には、キーボードを叩く音が響きはじめた。

それから10分と少し。締め切り1日前にしてやっと記事が完成した。
「やった、完成ー……って、黒崎いないじゃない」
荷物はまだ置いてあるから、帰ってはいないと思うけど。
「どうしよ……」
まあ、またここに帰ってくるだろうから、それまで一眠りしようかな。
集中がぷっつり途切れたせいか、私が寝入るまで全く時間はかからなかった。
そしてまた、例の願望充足夢を見たところで……
「起きろ佐倉」
「あ……黒崎」
本日2度目。黒崎に起こされた。
「原稿できたんだろ? もう部室閉めるぞ」
「あ、うん。ごめん」
部室の鍵を閉め、職員室に鍵を返しに行ったとき、完全下校時刻の7時半を少し回ったところだった。
駅までの長い坂。暗い道を黒崎と一緒に下ってゆく。
月の周りの雲がぼんやり光って凄く綺麗。
「佐倉さあ、よく寝るよな」
半分まで来たところで、黒崎が話しかけて来た。
「え、うん」
「……お前、自分が寝言しゃべること知ってる?」
えっ!? は、初耳……
「ほんとに? うわー、恥ずかしい……全然知らなかった」
「だろうな。実は凄くうるさいんだ」
……衝撃の事実。なんでみんな黙ってたの? 誰か一人ぐらい言ってくれたっていいのに、よりによって好きな人にこんな……
「ご、ごめん」
思わず謝る私。
「でさ、ひとつ聞きたいんだけど」
「な、なに?」
立ち止まる黒崎。つられて私も歩みを止める。
「何で起きてるときは言わないんだ?」
「へっ……?」
そのとき私は、黒崎の言ったことを全く理解できなかった。
「それって、どういう……」
困惑する私を無視して、話を続ける黒崎。
「佐倉、寝てるときは恥ずかしいくらいに言ってくれるのに、起きてるときはそんなそぶりさえ見せないんだもんな」
も、も、もしかして……
「私って……凄くまぬけ?」
「いや、可愛いと思うんだが、他の部員がいるときも寝言しゃべるのはなあ。言ったろ?『恥ずかしいくらいにしゃべる』って」
……謎は全て解けた。
いや、格好つけてる場合じゃない。
「もしかして、知らなかったのって、私だけ?」
「ああ、その通り」
「やっぱり、大まぬけ……」
がっくし。明日からどんな顔して部活に出ればいいの……
「こらこら、俺を放ったらかしで落ち込むなよ」
月の明かり、街頭の明かり、遠くの街の明かり。ぼんやり照らされた黒崎の顔は、いつもよりなんとなく優しく見えた。
「……で、言ってくれないのか?」
「あ……」
この場合、どっちが告白したことになるんだろう。
勇気を振り絞るわけでなく、そんなことを考えながら私はぽつりと言った。
「私……黒崎が好きなの」

おわり


あとがき

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