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writhen by spud

 

 充は、少し大げさなジェスチャーで昨日のケンカの結果を報告する。
劣勢を、笹川の右ストレートで逆転したことや、黒長が珍しく最後のきめ台詞をかましたことをアクション付きで説明した。

 桐山は無表情で話を聞いている。おもしろそうに聞くわけでもなく、無視するわけでもなく。

 放課後の帰り道。いつものメンバーは昨日のケンカの怪我で学校には来てない。
沼井充だけは、ボスこと桐山和雄に報告するためにかいがいしく出席していた。
「ボス。聞いてます?」
充は桐山の顔を覗き込みながらそう、聞いた。
「ああ。」
そっけない返事。
いつもどおりの光景。

 ふと、充は道の傍らに小さなダンボールが置かれていることに気付く。
少し薄汚れたダンボール。充は小首をかしげながらすっと近づいてみる。
中には小さな子犬がうずくまっていた。
桐山はそんな充の行動を静観している。

「・・・どうした?充。」
しばらくしてから充に声をかける。
「・・・ボス。子犬が捨てられてる。」
充はすっと子犬を抱きかかえながらそう答えた。
普段、不良として粋がっている沼井充にも意外な側面がある。
動物好き。
特に、捨てられている子犬や子猫はどうしても放って置くことはできなかった。
その淋しそうな目が、幼い頃の自分と重なるように感じていたからだ。
「充・・・その犬をどうするつもりだ?」
桐山は結論を求めた。簡潔明瞭な答えを。
充は言葉に詰まりながら答えた。
「・・・いや、どうしようもないけどさ・・・。なんか放って置けなくて。」
桐山はじっと充の目を見る。
しばらくしてもう一度口を開いた。
「いくぞ。充。」
「あ、ああ。わかったよ、ボス・・・。」
充は子犬をダンボールに戻し、すっと立ち上がった。
小声で「ごめんな・・・。」と言い残し、桐山のもとへ駆け寄った。

しばらく無言で歩く。
充は、どうしても子犬のことを頭から追い払えずにいた。

「充。どうしてあの犬を放って置けないんだ?」
ひとしきり自分の頭の中でその理由を考察したが、どうしても答えが出せないので再び充に聞いてみた。
そんな質問だった。
「え?・・・上手くいえないけど・・・かわいそうじゃないか?あの子犬は何の罪もないのに・・・。」
「かわいそう?」
やはり無表情で桐山は聞き返す。
優しさ、かわいそう、そういった感情が桐山にはいまいち理解できなかった。
自分で感じたことがないのだから当然と言えば当然。
「うん・・。かわいそうだ・・・。でも俺にはどうすることもできないし・・・。」
「何故、どうすることもできないんだ?・・・充。」
桐山が、こういう事で充を質問攻めにすることは珍しいことじゃなかった。
そして充は、いつもその質問攻めに足りない頭を総動員しながら賢明に答えていた。
もちろん、一度だって桐山が納得したことはなかったが・・・。

「俺の住んでるアパートは犬、猫は禁止なんだよ。ボス。ばれたら追い出されちまう。」
沼井充の家庭は、お世辞にも裕福とはいえない環境だった。
簡単に言えば貧乏。父親は働かず、母親のパートだけで家族3人を養ってた。
しかも多額の借金を抱えている。
その状況でアパートを追い出されてしまえば一家3人、犬を抱え路頭に迷ってしまう。
そんなことを思い返しながら充の頭に一つの名案がひらめいた。
「あ・・・!ボスの家だったら大丈夫なんじゃないっすか?」
桐山の家が裕福であることは城岩町民どころか、高松市内でも知らない人はいないだろう。
県内トップ企業の御曹司、家はもちろん大豪邸。
「・・・。」
「ボスの家だったらめちゃめちゃでかいし、犬一匹増えたところでなんてことはないでしょう?」
桐山はそのことについて少し考えをめぐらせる。
そして新たな疑問を充に投げかける。
「何故・・・俺があの犬を?」
理由はなかった。かわいそうだとおもっているのは充で、桐山ではない。
充は再び言葉に詰まる。
「でも、ボスもかわいそうだと思わないか?あの子犬・・・放っておいたら腹減らして死んじまうよ?」
「・・・。」
「ほら、あの犬・・・薄汚れてたけど、毛並みも悪くないし・・・第一、ボスに少し似てたぜ?」
口からでまかせ。あの犬と桐山に似てるところなど一つもなかった。
充は、ただあの犬が助かれば・・・の一心で桐山に嘘をついた。
「俺に・・・似てる・・・。」
ボスだって自分に似てるといえば、愛着が湧くだろう。
すこし根拠は足りないが充にしては上出来だった。
しかし、桐山の表情に変化はない。
「・・・。」
充はそこからうまく納得させるだけの言葉を探していた。
しかし、桐山はまたもや新たな疑問をぶつける。
「何故、俺に似てるからあの犬を飼わなければならないんだ?」
ノックアウト。それは言われてしまえばお手上げだった。
犬を飼う。その理由など”飼いたいから”しか存在しないことを充は悟ってしまった。
「・・・・・・・・・・。」
充は、何も言えずに首をうなだれとぼとぼと歩いた。
桐山もその仕草ををみてもう答えが返ってこないことを知り、答えを期待することを諦めた。

 充はあの捨て犬の目を思い出した。そして、「ごめんな?」と心の中で語りかけた。
二人はもうすぐで郵便局に差し掛かる。郵便局を超え一つ目の角で、桐山は左へ、充は右に曲がる。
ラストチャンス。最後に充はダメモトでもう一度、桐山に頼んでみようと思った。
機嫌を損ねてしまうかもしれない。それなりのリスクを覚悟し、口を開く。
「ボ、ボス!」
声が上ずった。緊張していた。
桐山は何も言わず充の顔を見た。
「さっきの質問・・・。何故飼わなきゃいけない、の答えだけど・・・。」
桐山は黙って言葉の続きを待った。

「俺が・・・頼んだからじゃダメかな?・・・ボス。」

桐山はただ充の顔を見つめていた。無表情。
ダメか・・・。充は桐山の機嫌が悪くならないことを願った。
「ご、ごめん!何でもないんだ・・・ボス。忘れてくれ・・・。」

 桐山は無表情のまま、ポケットからコインを取り出し空へ投げた。
コインは宙を舞い、桐山の手に落ちる。そのコインを見つめながら桐山は言った。
「充・・・さっきの犬を連れてきてくれないか?」



充は少し戸惑ったが、「わ、わかったよ!」と言い残し、あの犬の場所へ走った。




裏が出れば、犬は飼わない。そう、桐山は決めていた。

表が出れば・・・。
桐山の手の上のコインは表・・・。



桐山は、「犬の名前を決めなければ・・・」と思った。


 

 

 






2001年5月21日。
桐山邸の庭で、一匹の犬が昼寝をしている。

もう二度と帰っては来ない主の帰りを待ちながら。

 

-end-

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