欠けた月、欠けた心 著者:ゴーヤ様

また…、夜が来た…、
城の皆が眠りにつくころリオウの部屋に続く廊下に足音が響いていた、
アイリはふと窓の外に目をやった、
空を眺める瞳に欠けた月が映る。
月は欠けていてもいつかは満ちる…、
…でもリオウの心を自分は満ちさせる事が出来るのだろうか…、
その瞳には知らぬうちに涙が浮かんでいた…。

 コンコンコン
「……誰?」
「私……」
「入って……」
アイリはノブを回し部屋に入った、
部屋に明かりは点いておらず、月の光が差し込むだけだった。
リオウは窓辺に腰掛けており何の表情も浮かべず外を見ていて
アイリの方に目を向けもしなかった。

 パサリ
全ての服を脱ぎ去り下着が床に落ちる、
一糸纏わぬ姿でリオウの足元に座った、
しかしリオウはちらりとアイリを一瞥しただけで動かなかった、
アイリも目を伏せたまま動かなかった、
そのまま時間だけが流れた。

どれほどの時間が流れただろうか、
リオウはアイリの方に向きいきなり足を秘部に伸ばした、
「あれ、なんだ、もう濡れているの?」
嘲るように言いながらジュブジュブ音のする秘部を足の指でかき回した。
「もしかして、ずっとこうしてくれるのを期待していた?」
「……はい……、私はリオウがこうしてくれるのを期待していて
 あそこを濡らしていました…」
アイリがリオウに抱かれる時は敬語を使った、自分はあなたのモノです、
という意味をこめて…。

リオウの問いにアイリはリオウが満足するような答えを紡いだ、
「そう?相変わらずアイリはスケベだね、
 ここももうこんなにはしたなく濡らして我慢の限界じゃないの?」
「はい…、もう我慢の限界なのです…、
 どうか私のいやらしいあそこにお情けを下さい…、お願いします…」
目を伏せたまま呟くアイリの目には涙が浮かんでいた、
だがその涙は前髪に隠されリオウからは見えない、
どんな辱めにあわされようとリオウには決して涙は見せない、
アイリはそう心に強く誓っていた。

「早く下さい…、気が狂いそうです…」
気付かれないように涙を拭い、足を開いた、秘部を見せつけるように、
その瞳には好色な光を浮かべて…。

リオウはやれやれという表情でアイリに突き入れた、
「ああっ!」
アイリは嬌声をあげる、リオウはそれ気にも止めずアイリを何度も突いた、
「す…、すごいよぅ…、ああぁーっ!」
アイリはたまらずリオウの首に手を回し抱きついた、
「あっ!あああ!はああっ!」
嬌声をあげる中、ちらりとリオウの顔を盗み見た、
泣きそうな顔をしていた、いや、実際泣いているのかもしれない、
必死に泣き声を上げないように何かに耐えるように必死に腰を動かしていた
いくら身体を、心までもささげてもリオウの胸は満たされる事は無い、
その事実がアイリの胸を深くえぐった、
しかしアイリには他にリオウを癒す方法を知らない、
自分がたまらなく情けなかった、
知らず知らずのうちにアイリの瞳に涙があふれていた、
涙に気付かれないように喘いだ、
快楽による涙だと思わせるために…。

互いの涙を隠すために二人はお互いを貪りあった…、

お互いの涙を知るのは欠けた月だけだった…。

ある日の午後…
アイリは姉達との芸の稽古を終え、少し遅めの昼食を取ろうと食堂に向かっていた。

アイリがリオウとの歪んだ関係を持ってからかなり経つ、
あの日からリオウがアイリを抱かない日は無かった、
外に出るときも必ず連れて行き、そして抱いた。
連日連夜行われる狂宴にアイリは心身共に疲れ果てていた、
本当は食欲なんて殆ど無い、でも少しでも体力をつけておかないと夜が辛い、
そう思いながら足を進めていた。
「あ、アイリちゃん?」
名前を呼ばれ振り向くと小走りでアイリに近寄ってきた、
「カスミさん…」
声の主はカスミだった。
カスミは忍びの副頭領であるが、美人で優しく、強くて、賢くて何でもできるという、
正に完璧な女性だった、
城でもカスミに憧れる少女は多く、アイリもその例には漏れなかった、
カスミに憧れ、カスミの仕草を少しでも真似しようとするうちにアイリも年相応の少女になっていた、
言葉遣いも男のような喋り方も無くなり、身嗜みにも気を遣うようになっていた、
その頃であった、あの忌わしき日が来たのは…。

誰にでも優しいカスミだが、何故かアイリには特に優しく妹に接する姉の様に接していた、
アイリもそんなカスミを姉のように思い慕っていた、
勿論実の姉であるリィナの事は好きで尊敬しているのは言うまでもないが。
「今からお昼なの?」
「はい、今稽古が終わったので、少し遅めの昼食を、
 と思いまして」
「じゃあ、私もご一緒させてもらっていいかしら?」
「え?カスミさんも今からですか?」
「そうなの、私も今訓練が一区切りついた所なのよ、
 サスケがムキになって……」
花のような笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ、
同性の目から見ても眩し過ぎる笑みであった、
(私は…、こんな風に笑えるのだろうか…)
こんなに綺麗な笑みを見て、心に影が差した。
「? アイリちゃん?どうかしたの?」
不意に声をかけられ我に返る、
「えっ!?
 ど、どうかしました?」
「今アイリちゃん、とっても悲しそうな顔をしていたから…」
「そ、そんなこと無いですよ、
 ええと、芸の手直しを少し考えていて…」
我ながら下手過ぎる言い訳だと思った、
現にカスミは心配そうな視線をアイリに向けている。
「本当に何でもないですよ!!」
「でも…」
「少し疲れているだけですよ!
 稽古がちょっときつかったので」
「そう……?」
不満そうな視線だったが渋々納得してくれたようだ、
気をつけないと、そんなに表情に出ていたとは、
その思いを無理矢理作った笑顔で何とか塗り潰した。

そして食堂に着いた、少し遅めの時間だが人はかなり居る方だろうか?
皿で建築された建物を未だに増築している姿や、
まだこんな時間なのにグラスを傾けたりしている姿が見てとれた。
「何処がいいかしら…」
二人して辺りを見渡す、
アイリは窓際で景色の良い席があるテーブルを見つけた。
「カスミさん、あそこなんか…い…い……」
言葉が途中で途切れた、
カスミはある一点に視線を向けていた、
そこには茶を啜っている一人の少年が居た。
少年の名はティル、トランの英雄であり、真の紋章の一つを持つ者であった、
そういえば今城に来ていると聞いたような気がした。
ティルを見つめるカスミの視線はとても熱く、
それは愛するものへと向ける視線であった、
この二人はお互い愛し合っているいる仲だという、
ティル似たような立場であるリオウとの関係の差はどうなのだろう、
自分はこんなにリオウを愛し救いたいのにそれすら出来ない、
心が矢のような速さで悲しみに塗り潰されていった。
向こうもカスミの視線に気付いたらしく笑顔で手招きをした、
カスミは嬉しそうに駆け寄っていった、
しかしアイリは黙ってその場から去った、
幸せそうな二人の笑顔の前で悲しみで塗り潰された顔を笑顔で塗り潰す自信など全く無かった、
だから逃げた、
そして誰もいない所で泣いた、
カスミと自分の格差にではなく、自分の不甲斐なさに泣いた。

また…、夜が来た…

この時間にこの廊下を通るのはもう何度目になるだろうか…、
何度目かなど既に数える事も出来ないほどこの廊下を通っている、
でも、リオウの心は満たされない、
自分は一体何をやっているのだろうか、回数を重ねても何の進展も無い、
癒すどころか余計に苛立たせているだけではないのだろうか?
そのような考えが次々と浮かび、アイリの胸を深く抉った。

窓の外には相変わらず不完全な形をした月が浮かんでいた。

月明かりが僅かに射しこむ部屋の中に何時ものようにリオウは佇んでいた、
アイリはいつものように服を全て脱ぎリオウの足元に跪いた、
それを確認したかのようにリオウは傍らに置いてあった何かを手に取った、
手に持っている物、それは縄だった、
「足を崩して…」
感情の篭らない声でリオウは命じた、
「はい……」
嫌がるそぶりも見せずアイリは素直に従った。
リオウはアイリの右手を取り外側の右足のくるぶしの辺りに括り付けた、
左手も取り同じように結び、足を開かせ冷たく言い放った、
「足、閉じちゃ駄目だよ」
そう言うりオウの目には感情は篭っていなかった、
でもアイリにはわかっていた、感情を無理矢理押し殺しているのだと。
「……はい、わかりました……」
アイリ答えを聞いていないのかそ知らぬ顔でリオウはズボンを脱いだ、
「舐めて」
いきり立ったモノをアイリの目の前に押し付けた、
答える代わりにアイリはそれを口に含んだ。
「ん…」
熱く燃えるモノを下でなぞる、だがリオウはいいとも悪いとも何も言わない、
アイリは懸命に舌と頭を動かし続けた、
数分が過ぎた頃、突然リオウはアイリの頭を抱え喉の奥にモノを突き立てた、
それと同時にマグマが放出された。
いきなり喉の奥に射精され続け吐き出しそうになるが頭をしっかり押さえ込まれててそれすら出来ない、
アイリは必死に全てを飲み込んだ。
全を放出したのか頭から手を離しモノを口から引き抜いた、

「綺麗にして」
精液にまみれたそれをむせ込むアイリに突き出した、
アイリはそれに従い、舌を這わし全てを舐め取った。
「綺麗にしました…」
「ん、そう」
素っ気無くどうでもいいような返答をリオウは返した、
そして無理な体勢での奉仕を強要され呼吸を荒らくしているアイリに冷たく言った、
「じゃあ、次は…『犬のように』四つん這いになってこっちにお尻を向けて」
『犬のように』を強調して言う、その口には笑みさえ浮かんでいた。
手足を縛られているので手をつくことも出来ず床に顔を擦り付けリオウに腰を向ける、
アイリの秘部に薄笑いを浮かべながら顔を近づけ秘裂を指でなぞる
充分に愛液を分泌している秘部はクチュリと音を立てた、
「うわ、もうこんなになってるよ、
 アイリって本当にエッチなんだなー」
クスクス笑いながら愛液にまみれた指をこねまわす。
「さて、エッチなアイリさん、どんな風にして欲しい?」
そう言いながら笑うリオウはアイリを見た、
「あなたの好きな様にしてくれていいです…」
そう答えながらリオウの目をじっと見つめた。
アイリの真剣な眼差しと目が合った瞬間リオウの表情が変わった、
酷く傷つき、全てに怯え、哀れなまでに弱りきった者の目だった。
次の瞬間誤魔化すように声を出して笑い無理矢理元の表情に戻した。
それはアイリの心に深く圧し掛かった、
なんだ、こんな時でさえ自分はあの忌わしい事を忘れさせる事は出来ないのか、
私は何て無力なんだ、
そんな考えが次々と頭の中を支配していた、
あまりの情けなさに涙が出そうになった。

「『好きなように』ね…、じゃあ今日はこちらでしようかな!」
そう言い終わると同時にアイリのアナルに突き立てた。
「あぁっ!?」
躊躇無く一気に根元まで突き立てられ思わず声を上げる、
だがその声に苦痛は無かった、
無理も無い、アナルを犯されるのはこれが初めてではなかった、
リオウは思いつく限りの行為を全て行った、
胸も犯した、SM紛いの事もした、目の前で犬のように放尿するよう強要し辱めたりもした、
当然アナルも散々犯した、
やっていないのは他の人間にアイリを抱かせる事くらいだった。
「ああっ!あふぅっ!」
直腸の中を異物が何度も往復する感覚にアイリは声を押える事は出来ず声を上げてしまう、
リオウは何かに取り付かれたように、全てを忘れようとするように腰を動かし続けた、
アイリは額を床に擦り付けながら涙を流しながら嬌声を上げ続けた、
この間なら涙を流してもおかしくない、
そう思い嬌声を上げながら自分の情けなさに泣いた、
何をしてもリオウを癒せない自分の情けなさに泣いた。

窓の外では不完全な月が頼りなさげに発光していた……。

「リオウの事は私が守ってあげるからね…」
少女は笑顔を浮かべでリオウの手を取った、
「苛められたりしたらお姉ちゃんに言いなさい、
 リオウに酷い事する奴なんてお姉ちゃんがやっつけてあげるからね」
少女…、ナナミはぎゅっとリオウを抱きしめた。
「絶対に、絶対に守ってあげるからね…」
言葉を告げ終わると同時に背中に回された腕の力が抜けた、
そしてナナミは崩れ落ちた、その胸に矢を生やして。
胸からはどんどん血が流れ出す、どれだけ止血を行っても、
真の紋章の力を使っても血は一向に止まらない、
血がどんどん溢れ出し周りのものを飲み込みだした、正に血の海だった。
「……リ…オ……ウ」
ナナミはそれでもなお手を差し伸べようとしていたがその手は糸が切れたように血の海に飲み込まれた。

「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
リオウは絶叫と共に目を覚ました、
全身汗だくな上に顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
その様を横で寝ているアイリが泣きそうな顔で見ていた。

ナナミが凶弾に倒れてからというものこの夢に襲われた、
毎晩、毎夜欠かさずこの悪夢にリオウの磨り減った心は追い詰められていった、
夢の余韻から逃れるために息を整えているリオウはちらりとアイリに目をやった、
アイリは汗にまみれた体を拭くための洗面器にタオルや着替えを用意していた。
もうナナミが倒れてからかなり経つのに未だにその呪縛から逃れる事が出来ない、
アイリはこんなに尽くしてくれているのに自分のやっている事はそのアイリを汚すだけ。
たまらなく自分が情け無い、自分の無力さに腹が立ち慰めに来てくれるアイリを汚す、
その情け無さに腹を立て、更にアイリを汚し憂さを晴らす、この繰り返しだった。
彼女の優しさに答える事の出来ない自分は最低のクズ野郎に違いない。

あの忘れる事の出来ない出来事のあった晩、慰めに来たアイリをリオウは襲った、
アイリは初めてだった、身体を引き裂かれるような痛みに襲われている筈なのに、
目に涙を溜めて呻き声一つ上げなかった、
自分に同情しているのだろう、私が寛容になればいい、
どうせそんな風に思っているのだろう、
そんな被害者じみた妄想がリオウの頭の中を駆け巡り陵辱は更に酷くなった。
そして朝が来てアイリは何も言わずに部屋を出て行った、
扉が閉まった後少し経ってから微かにすすり泣くような声が聞こえてきた、
間違いなくアイリの泣き声だろう、
当然である、女にとって大事な純潔を強姦、しかも凄まじいまでの陵辱によって散らされたのだから。
その声を聞いてリオウは凄まじい自己嫌悪に襲われた。

そのような事があったのにアイリは毎晩欠かさずリオウの部屋を訪れた、
恐らく、いや、間違いなくアイリは自分の事を嫌っているだろう、
それでも自分の部屋に訪れ続けるのは優しい彼女は
自分を犠牲にして身体を差し出してくれているだけだろう。

用意を済ませたアイリは「それじゃ…」とだけ言って部屋を出て行った、
閉まった扉を見てリオウはふと思った、
昔に怖い話を聞いた時に寝床で震えて眠れない時があった、
そんな時は必ずナナミが来て抱きしめてくれた、
その暖かさに不思議と安心して安らかに眠りにつけた、
アイリに抱きしめて貰えれば悪夢からは逃れれるだろうか…。
そう思って自然と自嘲の笑みが出た、
自分をこれ以上無いという位辱めた男を抱きしめる奴などいる筈が無い、
今の状況を感謝するべきであってこれ以上望んではいけない。
リオウはそう自分に言い聞かせた。

 そして昼…

リオウは肉まんなどの点心を昼食に選びテラスにある席に落ち着いていた、
お茶をすすりながら点心をつついていると良く見知った顔がやってきた。
「よう、ここ座るぜ」
返事も待たずに腰をおろした、
フリックとシーナとティルだった。

ウェイトレスにちょっかいかけるシーナにコブラツイストをかけるティル、
それを尻目に何の表情も浮かべず外に目をやっていた、
丁度テラスの下をカスミとアイリが通っていった、
カスミと話すアイリはとても楽しそうだ、
自分の前であんな笑顔を見たのは一体何時だっただろうか…、
原因が自分にあるだけにリオウの胸にちくりとした痛みが走った。
「おおい!カスミちゃん!アイリちゃーん!!」
何時の間にコブラツイストから抜け出したのだろうか、
シーナが真横で下にいる二人にぶんぶん手を振っていた、
二人は笑みを浮かべ小さく手を振って去っていった、
二人の対応に満足したのかシーナは喜色満面だった。

「いやさー、カスミちゃんも可愛いけど何だか最近アイリちゃんもぐっと可愛くなったよなー、
 最初に会った頃と大違い!ぐっと女らしくなったよな、
 ボーイッシュなのも良かったが今の彼女もまた魅力的だよな!」
拳を握り締め力説するシーナにティルはもう諦めたようにため息をついていた。
二人が去った方に何気なく視線を向けていたら突然逆方向に走っていく人影があった、
あれはリィナだった、去り際に「酷いわ、アイリちゃん」
と言っていた気がする、よくわからなかった。

「で、どうなんだ、お前さんは?」
それまで黙っていたフリックがいきなり口を開いた。
「え?」
「お前とアイリの事だよ」
ティーカップを傾けてソーサーに置き、じっとリオウの目を見つめた。
「……っ!!」
全てを見通すのではないかと思えるその目に思わず視線を逸らしてしまった。
「そうか…」
それで今の状況を悟ったのか遠い目をした。
「まだ、あの時の事に囚われているのか…」
大きなため息をついた。
「まぁ、仕方ないだろうな、
 大事なものを失った悲しみってものは深いものだからな…」
そう言いながらカップを傾けた。
「そんなこと無いと思うぞ、
 こいつのやっている事はただの甘えだ」

722 名前:ゴーヤ sage 投稿日:04/08/17 03:28 ID:TXpQ2YvA
リオウの点心を勝手に摘んでいたシーナが顔を上げた、
「自分の立場って者を考えろ、
 仮にもリーダーともあろうものが『僕大事な人が死んじゃったから悲しくて戦えません』
 なんて言ってるんだぜ、他の奴らが頑張ってくれてるからいいものを
 それに甘え続けて、普通だったら士気とかがた落ちだぜ?」
触れられたくない所に思いっきり触れられたリオウは激情のあまり両拳をテーブルに叩きつけた。
「僕の気持ちがお前に…」
「わかるわけ無いだろ、心が読める紋章を俺は持ってないからな」
言葉を途中で遮り、ふん、と鼻で笑いティルの肩に手を置いた。、
「こいつはな、育ての親を失い、親友を失い、更に実の親をも失っている」
「だから僕にティルさんを見習えというのか!!」
「まぁ待てよ、こいつの持つ『ソウルイーター』はな、
 親しい者の魂を喰らい成長する」
「え…?」
「わかるのか?お前に、大事な人の命を奪うかもしれない、
 その陰に怯えながら暮らす毎日の辛さが。
 明日にもカスミちゃんが死ぬかもしれないんだぞ?
 カスミちゃんはそれでもかまわないから傍にって…」

「もういい…、シーナ…」
ティルはやりきれない顔でシーナを制した。
「真の紋章を持つ先輩として一つだけ言わしてもらう、
 大いなる力には大いなる責任が付きまとう、
 リーダーである君がこうじゃあ悲しみの連鎖だ、
 馬鹿げた戦いはさっさと終わらせるべきだ、
 その為なら僕は力を貸すのは惜しまない、
 泣くのは全てが終わった後で好きなだけするんだね」
ティルは胸にたまる感情を一緒に飲み込むかのようにカップをあおり大きく息をついた。
「ま、何だかんだいってお前らはまだ若い、
 じっくり考えるも良し、
 若さに任せて勢いで行くってのも有りだと思うぞ」
暗くなった空気を払うかのごとくフリックは笑った。
「ま、勢いに任せるのにも限度ってのがあるけどな」
そう笑って手すりに足をかけ飛び降り走り去った。
間髪いれずニナが走ってきてフリックの後を追って飛び降りた、
アメリカンな人型に穴の空いた地面を見て勢いに任せすぎた結果を見せ付けられた。

「うううっ、ああっ…」
リオウは顔中に脂汗が浮かび上がり呻き声を上げていた。
「また…今日も…」
その苦しそうな顔に浮かび上がる汗を拭いながら悲痛そうにアイリは呟いた。
「ああ…ナナミ…いっちゃいけない…」
呻きながら伸ばした手は何も無い空を掴む、
「ううう…」
そして涙を流した。

リオウは毎日ナナミが倒れる「あの日」悪夢に襲われていた、
「あの日」のシーンが何度も何度も繰り返されリオウの心を蝕んでいった、
あの夢を見ない日などなかった、
どれだけアイリを辱めても、
行為により疲れ果ててそのまま眠ってしまっても例外は無かった。

その苦しみを横で眺めるアイリの顔に浮かぶのは辛く悲しそうなものだった、
「あの日」からもうかなり経つ、
なのにリオウの心を救うどころか悪夢からすら開放できていない、
自分は何をやっているのだろうか、
愛する人を助けるのじゃなかったのだろうか、
それどころか悪夢からすら救う事も出来ずにただ無意味に日々を過ごすだけ、
今自分がやっている事は「愛する人を救う」という大義名分を掲げただ抱かれに来ているだけでないのか?
アイリの頭の中は自虐的な言葉で埋め尽くされていた、
そして呻き声が未だに止まぬリオウの顔をそっと拭った。

苦しそうな顔を見ているうちにアイリはふと昔を思い出した、
あれはまだ子供の頃だった、
色々と悲しい事や辛い事があった時、
まだ子供のアイリにはどうする事も出来ない、
だから泣き寝入りするしかなかった、
そんな時は朝目が覚めるとリィナがアイリを抱きしめ眠っていた、
そして目が合うと何も言わずに微笑んでぎゅっと抱きしめてくれた。
ああ、自分は愛されているんだ。
姉の抱擁は辛い事など全てを忘れさせてくれるくらい暖かく安らぐものであった。
流石にもうこの年になってそんなことはしないけれど
未だに変わらずリィナの愛情は感じ取れるしアイリもそんなリィナを愛していた。

リオウをじっと見つめる、
私が姉さんのようにリオウを抱きしめてあげたら悪夢から逃れる事が出来るのだろうか、
そっと両手を伸ばし首に手を回そうとする、
が、その腕は途中で止まった。
私は何をしようとしているのだろうか、
私に彼を抱きしめる資格なんてあるのだろうか、
私が安らいだのはお互いを愛しているからだ、
未だに何も出来ない情け無い私をリオウが愛してくれているわけが無い、
それどころか鬱陶しがられているかもしれない、
そんな人間に抱きしめられ安らぐはずが無い。
そんな考えに支配され腕は音も無くベットに落ちた。

それからしばらく経ってからリオウは絶叫と共に目を覚ました、
何度聞いても聞きなれる事無い心に突き刺さる悲鳴、
それはますますアイリの悲しみを深くした。
そんな顔をリオウに見せるわけにはいけない、
顔を背けタオルや洗面器の水を新しくしようと起き上がる、
部屋の中を移動しても聞こえてくる荒い深呼吸、
悪夢の残した傷は現実に戻っても未だ消えないらしい、
その傷はリオウだけでなくアイリの胸をも深く抉るものであった。

着替えなどを用意してして自分も服を纏う、
ちらりとリオウを見ると大分落ち着いてきたようだ、
本当はもっと色々としてあげたいのだがそろそろ城も本格的に起き出す時間、
「それじゃ…」そう言い残して部屋を後にした。
今日もいつも通り笑う事が出来るだろうか。

  そして昼…

今日は芸の稽古はお休みだった、
だからと言って休んでは勘が鈍る、
一日休むと勘を取り戻すのに三日かかるというのを聞いた事があったので
軽く一人で稽古をしてその後は日当たりのいい場所で寝転がっていた、
これからのことに備え少しでも体を休めておいた方がいいだろうと思って。

陽気があまりにも優しすぎたのだろうか、
いつの間にか眠っていたようだ。
「ん……」
まだ靄がかかっている頭をぶんぶんと振り目を覚まそうとする、
でも靄は結構しぶといらしく頑固に居座りつづけた、
「はい」
わたされた濡れタオルで顔を拭く、
ひんやりとした気持ちよくその感覚が靄を取り払ってくれた。
靄が無くなると同時に疑問が頭をよぎった、
なんで濡れタオルで顔を拭いているのか?
タオルがわたされた方を見るとそこには見覚えのある人が居た。
「カスミさん…」
「おはよう、アイリちゃん」
いつものようににこにこと笑顔を浮かべカスミはアイリの横に腰をおろしていた。
「おはようございます…
 …じゃなくてどうしてここにカスミさんが?」
「ここを通ったら誰かが寝ていたの、
 誰かと思って近づいてみたらアイリちゃんだったのよ、
 寝顔が可愛いのでつい見とれちゃって…」
ふふ、と微笑むカスミを見てアイリは赤面した。

「で、本当にカスミさんは何をしていたのですか?」
「え?もうお昼なのでそろそろ何か食べようかな、と移動していたのよ」
言われてみれば影は限りなく短くなっているしお腹もすいてきている。
「ねぇ、アイリちゃん、ここで寝ていたっていう事はお昼はまだでしょう?」
「はい」
「私の部屋で食べない?」
「え?」
突然の申し出に思わず困惑気味な声を上げてしまう。
「昨日お料理を作ったのだけれども、
 とても美味しく出来たのよ、
 だからアイリちゃんにも食べてもらいたいと思って、ね」
花のように微笑みながらそんなことを言われたら断る人間なんて居るわけ無いだろうし
第一断る理由が無い、
それどころか憧れの女性からのお誘いだ、
「じゃあ、ご馳走になります」
考える前に返事をしていた。

「最近はなんかスランプ気味で…」
「こういう風に投げてみたら…?」
ふたりは雑談をしながら歩いていた、
アイリはふと思った、
確かにカスミは皆に優しいがアイリには特に優しい気がする。
前に一緒にナイフ投げを練習したことのあるメグは
「確かにカスミは前から誰にでも優しいけれど、
 アイリには特に優しい気がするよ?」
と言っていた、
昔からカスミと付き合いのある彼女が言うのだから間違いないだろう。
そこで思い切って疑問をぶつける事にした。

「カスミさん…」
「何?」
「前から思っていたのですけど、
 何で私によくしてくれるのですか?」
カスミはちょっと驚いた顔になったがすぐにいつもの笑顔に戻った。
「え?そんなことは無いとおもうわよ?」
「でもほかの女の子に『あなたはカスミさんに良くして貰ってうらやましい』
 って言われた事もありますよ?」
「そうなの…」
カスミはうーん、と何かを考えてるようだ、
「おおい!カスミちゃん!アイリちゃーん!!」
頭の上から声を掛けられた、
どうやらシーナのようだ、
アイリはあまり邪険に扱うのも失礼だと思い軽く笑い手を振った、
カスミも同じように手を振っていた。
そしてアイリのほうに顔を向けた、
「こんな事いきなり言われても迷惑かもしれないけれど…」
カスミは突然真面目な顔になりアイリは思わず身を硬くしてしまった、
「私はね、アイリちゃんみたいな可愛い子が妹だったらな…、
 って思っていたの、
 だから無意識のうちにアイリちゃんにほかの人より多く接していたのだと思うのよ」
「え…?」
「やっぱり迷惑でしょう?」
上目使いでじっと見つめてくるカスミ、
「いえ!とても嬉しいです!!
 私みたいなのにそんなことを言って貰えるなんて光栄です!!」
アイリは思わず背筋を伸ばして返事をしていた。

「本当?」
「はい!」
その返事にパッと明るくなりカスミはアイリを抱きしめた、
「嬉しいな」
にこにこしながら抱きしめられるとこちらまで嬉しくなってくる気がする、
姉の抱擁とはまた違うがこれも心が安らぐものである。
「ねぇ、アイリちゃん、
 これから私の事をお姉ちゃんだと思ってくれる?」
「カスミさんが良ければ…」
答えのかわりにぎゅっと抱きしめて、
「お姉ちゃんって呼んでみてくれる?」
と言った、
頭の片隅でリィナに悪いかな、と思ったが、
リィナに対する愛情が揺らぐわけでもないので言われたとおりに返した。
「…お姉ちゃん」
カスミの笑顔はふにゃふにゃになり抱擁が強くなった。

少々息苦しいがその息苦しさもアイリにとっては嬉しかった、
自分を大事にしてくれる人がいる、
そう思うともう少し頑張れそうな気がした。

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