本拠地壊滅(ハヅキ・マリノ・リンファ・ノーマ・サギリ輪姦) 著者:義勇兵様

目の前に横たわる、自らが流した血の海に沈んでいる少年。
反乱軍の首領…いや、その影武者か。倒れた拍子にかつらは外れており、
その少年の本来のものである茶色の髪がのぞいている。
「くくくくく…時間稼ぎのつもりか。そうすれば竜馬騎兵が駆けつけてくるとでも思ったか」
ゴルディアスで何が起こっているかも知らずに、愚かな連中だ。
卵と幼竜を押さえられたクレイグは絶対に部隊を動かさない。
たとえ、それで反乱軍が壊滅するとしても、だ。
「キサマも無駄死にだったな」
グリッ、と既に死骸と化している少年の頭を踏みにじり、薄笑いさえ浮かべながら
キルデリクは彼をそのまま湖に蹴り落とした。

「ロイーーっ!!」
命なき身体が重力に引かれて水面に吸い込まれるように消えていく。
その着水音を引き金にしたかのように、たった今殺し、打ち捨てた少年のものだろう名前を
叫びながら二人の少年と少女が武器を手に走りこんできた。
「ロイの仇だ、死ねーっ!」
まだ年端も行かない少女は涙で顔をぐしゃぐしゃにしたまま、華奢な体つきに似合わぬ
大型のブーメランを投げつけてきた。当たればそれなりの効果もあるだろうが、当たればの話だ。
キルデリクはやすやすとそれを腕の刃で弾き飛ばし、そのまま湖に放りこんだ。
「ああっ…」
「フェイレン、下がって!」
今度は男の方が右腕に装着したからくり仕掛けの腕をかざして殴りかかってくる。
立派な体格をしている。力もそれに見合うだけあるだろう。
しかし太り気味の肉体は明らかにスピードに欠けている。
「わざわざ刻まれに来たのかあ?」
苦もなく拳を避けると、キルデリクは伸び切った右腕に刃を振り上げた。
「いぎゃああああっ!?」
キルデリクの刃は恐るべき切れ味を発揮し、大柄な男の右腕をからくり仕掛けの腕ごと斬り飛ばしていた。
「ひゃははははは! 人を斬る感触と言うものはたまらんな!」
両腕の刃がきらめく。閃光が走るごとに大柄な男の肉体のどこかが切り離されていく。

「ア、アニキ…アニキーー!!! イヤァァァー!!!」
武器を失い立ち尽くしていた少女が悲鳴を上げる。
たまらない。キルデリクにとって、それはどんな至高の音楽よりも心を癒すのだ。
「ヒャハァーーッ!!!」
白刃が死の線をなぞる。瞬く間に十の肉片に刻まれた男は血の雨を降らせて湖に散った。
「あ、ああ…」
ロイと呼んだ、おそらくは彼女が慕っていたであろう男の血。血をわけた実の兄の血。
自分の親しい人間の返り血に塗れた狂気の男が近づいてくる。
それにフェイレンが感じたのは純粋な恐怖だった。
もはや怒りなど湧き上がる余地はない。
強い者に怯える原始的な感情に支配され、彼女は引きつった叫びを上げる。
「いや、いやだ、くるな、くるなあぁっ!」
キルデリクの殺戮はあまりにも速すぎた。城の中にいる千を数えるはずの味方は駆けつけてきてはくれない。
「ふん…」
「あ…」
当身を食らってフェイレンは昏倒する。
再び意識を取り戻した時にはまだ14歳の少女には辛すぎる現実が待っている。
それを思えば兄や想い人のように一思いに殺されてしまった方がまだしも幸せだったろうか。
しかし彼女にはそれを選択する権利すらないのだ。

「連れて来い。味見は後回しだ」
後ろに控える部下に気絶したフェイレンを乱暴に投げわたし、キルデリクは歓喜を隠し切れない瞳で
部下どもを眺め回す。その顔は既に破壊の快感に酔い始めていた。
「いいか、まずは中央を押さえるんだ! 奴等をひとところに固まらせるな。
数はこちらが大幅にまさっている。分断して各個撃破するのだ!」
「おおおおおっ!!!」
ゴドウィンとアーメスの連合兵。反乱軍の本拠地を蹂躙するという事実に、圧倒的な力で弱者を
叩き潰す快感を覚えているのだろう、その士気は並外れて高い。だが彼らの士気が高いことには
他にも理由がある。それは彼らを指揮する者、キルデリクの性質ゆえだ。
「一切の容赦はいらん! 奪えぇ! 犯せぇぇ! 殺せぇぇぇ! 命乞いなど許すな。
ジジイだろうがガキだろうが嬲り殺し、女を凌辱するのだ! すべての欲望を解き放て!!」
正常な人間が発するものではない命令に、彼等は忠実に従う。
キルデリクの異常さに当初は否定的だった者までも、多くが彼につき従わされているうちに
公然と罪を犯せる快感に染まり始めていったのだ。
「いくぞ!!」
キルデリクの命令一下、獣と化した兵士達が王子の名のもとに集った
誇り高き戦士達を狩りたてるために怒涛と化して走り出した。
「マハ殿はどうなさいますかな」
不気味な赤い刺青をほどこした顔に酷薄な笑みを浮かべ、
キルデリクはわざとらしい敬語でアーメス兵を指揮する神将・マハに伺いを立てた。
「こんな乱戦に首突っ込むのはゴメンだね。ここで高みの見物と行かせてもらうよ」
「そうですか。では前線の指揮は私がとらせていただきましょう」
存分に殺戮が楽しめることへの期待を抑えられない。キルデリクの顔はそう語っているようだった。
「よろしいのですか、マハ様。あのような輩にここまで好き勝手を…」
キルデリクの強さ、そして残虐さを目の当たりにして、
顔中から汗を噴き出しながらジダンはマハに伺いを立てる。
「好きにさせるさ。それであたしらが損することはない。お手並み拝見といこうじゃないか」
「は…」
ジダンは決して慈悲深い方ではない。
性質としてはむしろキルデリクに近いと言えるだろう。
それでもこれからこの城で起こる惨劇を思うと、彼は憐憫の念を抱かずにはいられなかった。

「くそっ! 後から後から沸いてくる!」
「ハヅキさん、前に出過ぎないでください!」
本拠地中央の塔から吊橋で連結されている円堂。
その円堂側の吊橋前でハヅキとベルクートが肩を並べて押し寄せる敵兵を必死に防いでいた。
もうどれくらい戦闘が続いているのだろう。
ともに戦っていた味方の兵士達は全滅してしまっている。
残っているのは既にベルクートとハヅキだけだった。
「よもやここまで食い込まれるとはなっ!」
こんな死闘の中でも、ハヅキの太刀筋は美しさを失わない。流れるような動きで次々と敵を斬り倒し、
なんとか吊橋を確保し中央の塔へ向かおうとするが、敵の動きが早過ぎた。
ここから見えるだけでも吊橋の向こう側には何百という敵兵がひしめいており、なんとか中に入ろうと
王子軍の兵士達と激戦を繰り広げているようだ。いかに王子の軍に精鋭が揃っているとはいえ、
この数の差はいかんともしがたい。アーメスとの同盟により膨れ上がったゴドウィン兵は
数の暴力でもって彼らを押しつぶそうとしていた。
早々に中央を押さえられてしまったため、援軍は期待できない。
中央塔下部からこちらの円堂へ通じる道を通って助けがこないかと期待してみたが、どうやらそれも無駄らしい。
敵を斬り倒した僅かな瞬間に下を探る視線を飛ばせば、既に円堂にも敵が入り込んでいる。
ハヅキ達が戦っている宿屋がある円堂屋上部に乗り込もうと螺旋階段を登ってくる敵を抑えるために
リンドブルムの傭兵たちはそちらに回っている。
宿屋の中に残っているのはマリノやリンファ、エグバードといった戦力としては当てにできない者ばかりなのだ。
孤立無援のこの状況、ハヅキが頼れるのは自分の剣と、隣で肩を並べて戦う男だけだった。

敵の太刀筋には技というものがない。ただ力だけを頼りに振り回してくる雑な剣さばきだ。
ハヅキにとってそんな相手を斬り伏せることは藁束を斬るのと大差ないことだったが、
敵には数という恐るべき武器があった。
女の体力の悲しさか、ベルクートの方はまだ余裕があるが、ハヅキはそろそろ息が上がり始めていた。
「ハア…ハア…ハア…!」
肩で息をしながらも、ハヅキは鋭い突きを放ってまた一人の生命を奪う。
だが疲れのあまり深く突きすぎたか、思うように剣が抜けず、そこに隙が生まれてしまう。
「もらったぜぇー!!」
仲間の死体を踏み越えて大上段に剣を構えた粗野な男の顔が目に入る。間に合わない!
「げあっ…!」
しかし斬撃は来なかった。それより早くベルクートが横薙ぎに剣を振るってその男の首をはねていたのだ。
「べ、ベルクート、すまない…」
「いえ、それよりハヅキさんはしばらく休んでいてください!」
「な、馬鹿を言うな! いくらお前と言えど、一人で抑えられる数か!」
「しかし…!」
疲れに固くなり始めた身体を叱咤して、ハヅキは再び剣を構える。
ベルクートと呼吸を合わせて切り込もうとした時、その声は聞こえてきた。
「ヒャーハッハッハァ! がんばっているじゃないか。ええ?」
「この声は…!」
ベルクートが機敏に反応し、声のした方、敵兵の壁の向こうに注意を向ける。
次の瞬間、壁となった敵兵の肩を踏み越えて、一つの影が大きく跳躍してきた。

「何奴!?」
「くくくくく…闘神祭以来だな」
「キルデリク…!」
常人離れした跳躍力で背後に回りこんできたキルデリクに戦慄を覚える。挟みうちだ。
「貴様らは女のほうをやれ! ただし殺すなよ!」
命令を飛ばし、キルデリクはベルクートに猛然と襲いかかった。
「くっ!」
奇妙な体さばきから繰り出される変幻自在の刃を、ベルクートは大剣を使ってかわす。
勝てない相手ではない。闘神祭での戦いを見て、そう思っていた。
だがそれは万全の態勢を保てていればの話だ。
たった二人での雲霞のごとく押し寄せる敵兵との戦闘が、ベルクートから体力を著しく奪っていた。
いつもなら頼もしく感じる大剣のずっしりとした重みが、
今は一振りごとに両腕の筋肉が悲鳴を上げるほどに辛くなっていた。
「ずいぶん動きが鈍いじゃないかあ? さすがのハイア門下の剣士も、この数にはかなわんか」
ここで自分が倒れたら、ハヅキは、マリノは、城の人たちは。
その一念だけを支えに気力を奮い起こし、ベルクートは最後の力を呼んだ。
「我がはやぶさの紋章よ…!」
それはラウンディア・ハイアの剣を極めたことの証。
紋章の輝きは瞬間的にベルクートに通常の三倍のスピードを与える。
紋章によって増幅された神速の刃はキルデリクを両断するかと思われたが、
キルデリクは思いもよらない方法でそれを潰してのけた。
「ブゥーッ…!!」
「な…!?」
口から噴き出された不気味な緑色の飛沫。
毒霧を両の目に吹き付けられ、ベルクートは視覚を奪われる。
それは太刀筋を鈍らせ、必殺の一撃はまさに紙一重でキルデリクに届かなかった。
「当たらなければどうということはない!」
全身全霊の技をさばかれ、無防備になった胸。
そこに二つの刃が同時に襲いかかり、十字に斬り裂いた。
「ぐふっ…」
大量の鮮血を噴き出し、ベルクートは剣を取り落として倒れ伏した。
毒霧を浴び、ぼんやりとしか見えない視界がハヅキの姿をとらえる。
驚いたことに彼女もこちらを見ていた。目が合った。唇が動く。なにを言っているのか。
既に正常な聴覚を失ったベルクートにはわからない。
(ハヅキさん、すみません…マリノさん、あなたを守れなかった…)
急速に胸の傷から生命が抜け落ちていくのを感じる。
薄れゆく意識の中で、ベルクートは一人の少年を思い浮かべた。
(殿下…)
あんな人に会ったのは初めてだった。
命令されたからではなく、そうしなければならない理由があったからでもない。
しかし、彼のために自分の力を使いたいと思った。
彼にならば剣を捧げてもいいと思った。
だからベルクートは彼についてきた。
できることならば、最後まで彼の力となりたかった。
だが、それはもう叶わぬ願いのようだ。
(殿下…申し訳ありません…)
熱いものが胸に飲み込まれていく感覚。それを最後にベルクートの意識は永遠に断ち切られた。

「ベ…ベルクート…」
キルデリクがベルクートにとどめを刺す瞬間をハヅキは見ていた。
死んだ。
彼は死んだのだ。
もう二度と彼の声を聞くことはない。
名前を呼んでもらうことはできない。
「ベルクート…」
呆然と呟く。ベルクートの死の衝撃は、彼女の動きを完全に止めてしまっていた。
「オラっ!」
「うあっ!?」
右腕に重い感触。剣が弾き飛ばされた、と思った時にはもう遅かった。
「へへへ…やっと捕まえたぜ」
ハヅキの剣を弾いた敵兵は、すかさず巨大な体躯をいかして小柄なハヅキの動きを封じてしまう。
「くっ…! どけ! 貴様など、貴様らなどに…!」
「やることやったらどいてやるよ。てめえに何人仲間殺られたかな。この身体でオトシマエつけさせてやるぜ!」
きつく胸をつかまれる。
そこにあるのは欲情、いや、憎悪なのか。握りつぶさんばかりの勢いで、ハヅキの乳房を揉みしだく。
「痛いっ…!」
「俺はこっちだ!」
「じゃあ俺はこっちを…」
ハヅキの身体にむらがるのはその男だけではない。後から、後から、沸いてくる。
脱がせる暇も惜しいとばかりに、手当たりしだいに服をつかみ、力任せに引き裂く。
露出した秘部に乱暴に指を突っ込まれ、薄汚い肉棒を顔になすりつけられる。
「や、やめろ…やめろ…」
いかに凛々しいとはいえ、まだ17歳の少女だ。
猛り狂った男の欲望の渦の中に放り込まれ、ハヅキは恐怖に歯の根を震わせた。
「なんだあ? 怯えてやがるぜ!」
「あれだけ仲間を殺しといて、ビビってんじゃねえよ!」
さほど大きくはないが形の整った胸を、顔を情欲で彩ったアーメスの兵士が舐めまわす。
その兵士は乳首を丹念に舐めながら、ハヅキの嫌悪に歪む顔を明らかに楽しんでいた。
「こんな、こんなことをして…」
「どうなるってんだ? もうてめえらは終わりなんだよ。助けなんか来やしねえ」
「あきらめて大人しくしてろ! せいぜい俺たちを楽しませるんだな。
そうすりゃもう少し生かしておいてやるぜ」
兵士がハヅキの足を持ち上げ、肩に担ぐ。
別の兵士が大きく広げられた秘所に顔を埋め、割れ目を広げて秘裂の中に舌を埋没させてゆく。
「チッ、全然濡れてねえじゃねえか。おいてめえ、やる気あんのか!?」
あるわけがない。こんな風にされて、快感など感じるわけがない。
感じるのはとめどなく溢れ出す恐怖と悲しみ、怒り、そして憎しみだ。

「おい、犯らねえんならどけよ。かわりに俺が犯ってやるぜ」
「うるせえな、わかったよ」
割れ目から舌を抜き、かわりにそそりたつ肉棒をあてがう。
さらに二人を囲むように十人近い男たちがそれぞれ肉棒をさらけだして握り締める。
「おいおい、勢いあまって俺にまでかけるんじゃねえぞ」
ハヅキの両足を抱え込んだ男が顔をしかめる。
だがすぐにそれは暗い欲望の表情へと変化し、固く閉じたハヅキの中に自らを埋めていく。
「う!? う、あああああっ!!」
めりめりと肉が裂ける音がはっきりと聞こえてきた。
自分の身体を力づくでこじあけられる痛みに、ハヅキは絶叫する。
痛みに耐えかねて叫ぶなど剣士として恥ずべきことだとの思いは既に吹き飛んでしまっていた。
「動くなよ! いいところなんだ」
ハヅキを犯す男が、周囲に目で合図する。
周りの男がそれに頷き、何人かが自らのものをしごきながら膝を落としてハヅキの両腕の動きを封じた。
「よし! ほら、いい声でなきやがれ!」
勢いよく腰を打ちつけて、男は肉どうしがぶつかりあう音を耳で楽しむ。
弾むような肉感で押し返してくるハヅキの肉体に、男は歓喜していた。
「ぐうううっ! いやぁっ、や、やめて…そんなもの入れてくるな…」
「なんだ、痛いとでも言うのかよ? お前さんのここはえらく締まりがいいぜ。
まるでタコにでも吸い付かれてるみたいだ」
男の下品な冗談に、周囲の者たちもげらげらと笑う。
ハヅキの顔は怒りと羞恥で赤く染まっていった。
怒りが湧くのはまだ心が折れていない証拠だ、とハヅキは思う。
だがどこまで耐えられるか。この凌辱劇が終わった時、自分は正常でいられるのか。
自分の想像に恐怖する。
しかし獣どもはハヅキのそんな内心など知ったことではないとばかりに、ひたすらに欲望をぶつけてくる。
肉棒を押し込まれるたびに、ハヅキの整った顔は苦痛に歪み、それが男たちの欲情を喚起する。
ハヅキの周囲は異様な熱気に包まれ、男たちのリズムが示し合わせたかのように揃っていく。
そのリズムが段々早くなっていき、同時にハヅキの苦痛も増していく。
「くっ…いくぜっ!」
「な、中は、やめ…!」
みなまで言わせず、男はハヅキの最奥で欲望を解き放った。
ハヅキの身体が折れたかと思うほどに、弓なりにのけぞる。
そこに周囲の男たちが精液の雨を降らせる。
全身を痙攣させながら、ハヅキは白い化粧を施されていった。

「オラ、とっとと出てくるんだよ!」
「いや、やめて! 髪ひっぱらないで…」
下品な男の声に混じって、聞き覚えのある女性の声がハヅキの耳に届いた。
男たちの肉の壁に視界はふさがれ、姿は見えない。だがおそらくは…。
「…え? ベルクートさん?」
宿屋の中から引きずり出されてきた女性が、生命を失った抜け殻と化した彼の姿を見つけたのだろう。
「ウソ…ウソでしょ? なんで…ベルクートさん? ベルクートさん?」
マリノだ。物言わぬ想い人の名を幾度も呼び、彼が答えてくれるのを待ち続ける。
「ベルクートさぁんっ!」
「うるせえよこのアマっ! そいつはとっくに死んじまってんだ、何言ったって無駄だぜ」
「死んだ…死んだ? 死んだ…い、イヤアアアアァァッッ!!!」
壊れた。
彼女の精神はベルクートの死に耐えられなかった。
押し倒され、十を越える数の手にその身をまさぐられても、
その喉から出るのはもはやこの世にいない男の名前のみ。
「ベルクート、さ…」
「ああっ、黙れよてめえはっ!」
頭にきたのか、兵士の一人がマリノから剥ぎ取った下着を乱暴に彼女の口に突っ込み、声を出せなくする。
さらに他の兵士達に目配せして両腕を押さえさせると、その兵士は歪んだ笑みを浮かべた。
「さて、これで落ち着いて犯れるな」
マリノの片足が宙に浮く。
もう片方の足に腰を下ろし、足が閉じられないようにしてから内股に指を這わせつつズボンをずり下ろした。
兵士はろくに濡れていないのも気にせず、凶悪な太さを持つそれをマリノに押し込んでいった。

「……!!」
ぴったりと閉じた割れ目をむりやりこじあけられる痛み。さしものマリノもその時ばかりは
ベルクートの名を呼ぶのをやめ苦痛に呻きを漏らす。もっとも押し込まれた下着のせいで、
周りの男たちにはどちらも同じようなくぐもった声にしか聞こえなかったのだが。
今度は両腕を押さえていた男たちがそれぞれ片手ずつを伸ばして、マリノの胸に触れていく。
押しつぶすように揉みこんだかと思えば、乳首をつまんで思い切り引っ張る。
挿入している男は一度抜ける寸前まで腰を引いては、勢いをつけて根元までねじこむという動きを繰り返し、
子宮まで届けとばかりに打ち込んできた。
「あ、が、が…」
「よし、そろそろいくか…」
「おいおい、いきなり中に射精す気かよ」
兵士の荒々しい動きには直前で抜こうという気配はまるで見られない。
凌辱の様を見ながら自分で慰めていた他の兵士が文句を言うが、まるで気にした様子もなかった。
「いいじゃねえか、文句があるならあとで掻き出させりゃいいだろ」
「ちぇっ…まあいいか、とっとと済ませて代われよ」
「おう」
軽い調子で返事を返す。彼等は凌辱という行為をどう考えているのか。
マリノの精神は既に崩壊を始めていたが、彼女を犯すこの男たちの精神ももはや正常とは言えまい。
男は殺し、女は犯す。そんなおぞましい行為を罪であるとすら思っていない。
彼らを支配しているのは狂気だった。
「中にくれてやるぜ…!」
一方的な宣言。それにどういう反応が返ってこようと、やる事は変わらない。
マリノの中に男の精液がどくどくと流し込まれていく。
おぞましく生ぬるい液体に内部から身体を汚される感覚。
こんなものが本当に新たな生命を生み出す力を持っているというのか。
そうだというのならば目の前にいるこの男も、やはりこのような腐った液体から生まれたに違いない。
「こっちもいくぜっ!」
「こっち向けよ!」
周囲に群がっていた男たちも、髪をつかんで振り向かせ、あるいは胸にこすりつけ、一斉に放った。
「あ…」
濁った白い雨を全身に受け、マリノが白目を剥き、意識を刈り取られる。
それでも男たちは止まらなかった。
彼女の意識があろうとなかろうと、いやあるいは命の有無すら、外道どもには関係のないことなのかもしれない。
マリノへの凌辱はまだ始まったばかりだった。

肉を裂き、骨を断つ感触が矛を通して腕に伝わる。
一突きで急所を貫かれた敵が鮮血を迸らせて倒れるより早く、
ゼガイは別の敵兵の首をはねていた。
中央塔基部、大階段。
大量の敵が踏み込んでくるより僅かに早く、ゼガイは近くにいたビッキーと
大階段下を持ち場としていたルセリナを上に逃がし、自分はそこを死守する道を選んだ。
今のところ、新たな敵が現れるのは外周部への入り口からのみ。
上下に繋がる階段のむこうからは凄まじい撃剣の音が聞こえてくるものの、敵の増援はない。
どちらでも自分のように、誰かが命をかけて戦っているのだろう。
「むんっ!」
気合とともに矛を突き出し、二人の胸板をまとめて貫き通した。
矛を突き刺したままそのまま力任せに振り回し、当たるをさいわい群がる兵士どもを蹴散らかす。
かつては闘技奴隷最強と謳われ、かつてはたった一人で百の兵士と渡り合ったこともあるゼガイである。
雑兵どもとの力の差は大人と子供どころではない。
圧倒的な物量をものともせずに、ゼガイは矛を突き、払い、振り回す。
ゼガイが攻撃を繰り出すたびに、必ず誰かの命が散っていった。

「おいなにやってんだ!? 相手はたった一人じゃねえか!」
新しく塔の中に入り込んできた兵士だろう。ゼガイ一人に翻弄されるふがいない同僚達を咎める声がした。
「バカ野郎が! 闘りもしねえで、偉そうに言ってんじゃねえ!」
気分を害したのか、わざわざそちらを振り返って敵の一人が怒鳴り返す。
バカは貴様だ。
ゼガイは躊躇いなく、隙を見せた敵兵を背後から突いた。
その男がいた位置はゼガイから距離があった。まだ自分の番ではないとでも思っていたか。
だがゼガイの巨躯から繰り出される長大な矛の間合いは、愚かな男の目測を遥かに越えていた。
「なんなんだこいつ! 強すぎるぜ!」
声を発すれば集中力が失われる。ゼガイの矛が手から消えうせたかのような速度で疾る。また一人。
ゼガイがいくら強いと言えども、所詮は人間だ。その体力は無限ではない。
だがゼガイは今、自分の体力が底なしになったように感じていた。
いくら雑魚とはいえ、これだけの数を相手にしているのだから、普段なら息が上がり始めているはず。
にもかかわらず、ゼガイの技の冴えは微塵も鈍らない。
(これはおまえが与えてくれた力か)
ゼガイは王子の顔を思い浮かべる。
それまでずっと一人で戦ってきた。
それが成り行きとはいえ、僅かな間ながらともに戦った。
一度は彼らと別れ再び一人の戦いに戻ったが、いかなる巡りあわせかゼガイは再び王子と出会い、
彼とともに戦う道を選んだ。
それからの幾多の戦いの中で、ゼガイは自分が以前より明らかに強くなっていることを知った。
力が強くなったとか、技のきれがよくなったとか、そういうことではない。
なにかもっと別の、今まで知らなかった新しい力を手に入れたような。

(僕の力なんてたいしたことはない。でも、多くの人が僕に力を貸してくれる。
その人たちのためにも、負けられないと思う。だから僕は戦える。強くなれる)
かつて聞いた王子の言葉が脳裏に蘇った。
これが自分のためだけの戦いであったら、ゼガイはとうに力尽きて死んでいただろう。
しかし今のゼガイにあるのはそれだけではない。
今日まで肩を並べてともに戦ってきた者たちのために。
その思いがゼガイに限界を越えた力を与えていた。
ゼガイは常に強さを求め続けていた。そして今、ゼガイは誰よりも強くなっていた。
その強さを与えてくれたのは、あの若き王子なのだ。
(ならばこの力、命尽きるその時までおまえのためにふるうのみ)
ゼガイは疲れを知らぬ狂戦士のごとく戦い続けた。
そして気づいた時、周りに動くものの姿はなくなっていた。
(終わったのか?)
自分の状態を確認する。ひどいものだ。
額が裂けて流れ出した血が左目を塞いでしまっているし、左腕の骨が肘の近くから折れている。
両足の腿には決して浅くない裂傷を負い、打撲の痛みと疲労感が全身を包んでいる。
だが、どうやらここは守りきれたようだ。
ならば他の場所で苦戦している仲間を助けに行かねばならない。
震える足を拳で叩いて気合を入れ、ゼガイはくるりと振り向いた。

ぐさり。
「…グッ」
背中に熱いものが食い込んでくる感触があった。
視線を下に向けると、自分の腹から冷たい金属の刃が生えていた。
ぐさり。
それはもう一本食い込んできた。
「キサマ、よくやったよ。よもやこの人数を皆殺しにするとはな。だが、ここまでだ」
振り返ると、闘技奴隷だったころ、ストームフィストで見た顔が残忍な笑みを浮かべていた。
「……」
口の中に溢れ出す血を飲み込んで、ゼガイは右腕に力を込めた。
握られたままの矛をゆるゆると持ち上げ、キルデリクの背に狙いを定める。
「化け物め!」
キルデリクの声とともに、二本目の刃が身体を完全に貫いた。
それで、膝が折れた。
自分の戦いは無駄ではなかっただろうか。
王子が逃げ延びる隙を作ることくらいはできただろうか。
重い音を立てて、ゼガイの巨体が倒れ伏す。
戦いの人生を完遂し、ゼガイの魂は天に還っていった。

「はなしなさいよ! 冗談じゃないったら!」
リンファも、城を覆う凌辱の運命から逃れることは出来なかった。
彼女はベルクートやハヅキが奮戦している間になんとか逃げ道を見つけて宿屋を脱出したのだが、
どちらを向いても敵ばかり。城の外にまで出ることはできず、
やむなく使われていない小部屋に逃げ込み息を潜めて脱出の機会をうかがっているうちに、
扉を破って踏み込んできた兵士どもに組み敷かれてしまったのだ。
「アタシの身体は商売道具よ! 気安く触んないでってば!」
せいぜい強気に言ってみるが、バクチの借金をごまかす程度には役に立った色仕掛けも
この状況では何の役にも立たない。
何をしようが、何を言おうが、こいつらは犯すことしか考えていない。
色のことしか頭にない相手に色仕掛けもないだろう。
「ちょ、ちょっとマジでやめてってば…!」
性の経験がないわけではないが、当然こんな状況に直面したことはない。
欲望にギラつく目。そこに理性などひとかけらも見えない。
「アンタたち狂ってんじゃないの!? そんなだからゴドウィンの連中って嫌われるのよ!」
黙っていると、恐怖に飲み込まれそうだった。リンファは必死で悪態をついて自分を保ちつつ、
ばたばたと身体を動かして逃れようとするが、屈強な男に五人がかりで押さえつけられては
どうすることも出来なかった。
「元気のいい女だな」
「その方が楽しいだろ?」
「マグロの女やってもつまんねーしな」
リンファの必死の抵抗すら、彼らにとっては欲情をそそる添え物にしかならないのか。
男たちは一様に卑猥な笑みを張り付かせ、リンファの身体に手を伸ばしてきた。

「やだっ、汚い手で触んないでよ! こんなことしてただですむと思ってんの!?」
「ただですまそうなんて思ってねえよ。せいぜい気持ちいい思いさせてもらうぜ」
「おい、あんまり動くなよ。綺麗な肌に傷がついちまうぜ」
「ひっ!?」
一人が懐から短剣を取り出した。ろくに手入れもしていないのか、
その刃には錆が浮いていたがそれがかえってリンファの恐怖心を煽った。
「おとなしくしてろよ…」
短剣の刃が、リンファのチャイナドレスを切り刻み、白い肌を浮き上がらせていく。
「おっ…遊んでそうなツラの割に、綺麗なもんじゃねえか」
露になったリンファの形のいい胸に唾を飲み込むと、二人の男が片方ずつ手を伸ばしてくる。
「おおっ、すげえ柔らかいぜ」
「揉み応えのあるいい乳だな」
ぐにぐにと感触を確かめるように、違う男の手がリンファの両胸を刺激する。
「俺はこっちをやらせてもらうか」
「じゃあ俺はこっちな」
「おいこっちにモノむけんじゃねーよ、汚えな」
首筋に、陰唇に、素足に、男たちの舌が這い回る。
まるでなめくじに全身を這われているかのようなおぞましい感触に、リンファの顔から血の気が引いていった。
「や、やだ、気持ち悪い…やめてよ…やめてってば…」
「ばーか、俺たちは気持ちいいんだよ」
「てめえがどうかなんて関係ねえっつの」
「つーか、もっと嫌がれ! その方が俺は燃えるんだ」
「ひいいいいいっ!!」
男たちの唾液で汚されていく。あまりの嫌悪と恐怖に、リンファの理性もまた決壊した。
「ん? なんだ…」
「おいおい、こいつ漏らしちまいやがったぜ!」
「勘弁してくれよ、顔にかかっちまったじゃねえか」
「もう、許して…もう、しないで…」
うわごとのように呟く。普段の陽気で勝ち気な女性は完全に影をひそめてしまっている。
そこにいるのは理不尽な欲情と暴力に怯える一人のか弱い女性だった。

「ま、いいや。これでちょっとは滑りもよくなるだろ」
「お前マジか? 俺はちょっと遠慮してえな」
「別に無理して犯れなんて言ってねえよ」
失禁したリンファが垂れ流すそれを滑油の代わりに、男の一人が膨張した肉棒を突き入れた。
「んぐっ…ふぐうぅぅっ!!」
引き裂かれるような痛みに、全身が硬直する。
肉刀に裂かれて、身体が二つにわかれてしまうのではと思うほどの痛みに、リンファの頬を涙が伝った。
「おいおい、泣くのはまだ早いぜ? あとで死ぬほど泣かせてやるからよ…」
「いったそうだなあ」
「だがそれがいい」
「燃えるね」
二人の結合部分を食い入るように見つめ、他の男たちが好き勝手な感想を言い合う。
「おっ? なんだ、少し濡れてきたぜ。もしかしてお前、見られて感じるタイプか?」
「んんっ…んあっ、くっ…んんっ」
弱々しく首を振る。それに何の意味もないとわかってはいても。
「ひゃははっ、ウソつくな! 俺の息子はお前の愛液でベタベタだぜ!」
「う…あ…」
そうなのだろうか。わからない。痛みも段々薄れてきた。嫌悪もさっきほどは感じない。
いや、痛みや嫌悪だけではない、なにもかもだ。まるで少しずつ魂が抜けていくような感覚。
「それじゃ、そろそろ一発目をくれてやるか!」
「ん…」
根元まで埋め込まれた肉棒から迸る白濁液が、リンファの中を蹂躙していく。
最後の一滴まで搾り出してから、男はようやくリンファからそれを抜いた。
とたん、リンファの股から乱暴に突いたあまり流れ出た血がまじった白い精液が溢れ出してくる。

「へえ、なかなかいい締まりしてるじゃないか。実はけっこう感じてたんだろ?」
なんだろう。なにか言ってる。そんなにヘラヘラ笑って、なにが楽しいのかしら?
もやがかかったような頭で考えてみるが、それもだんだん面倒になってきた。
「すんだらどけよ、次は俺の番だ」
欲望の証を吐き出してすっきりした顔の男を押しのけて、次の男が股の間に割り込んでくる。
再び肉棒が差し込まれてきたが、さっきのように痛みは感じない。
一人目の乱暴な動きのせいで、中を出血するほど擦られてしまったはずなのに。
もう痛覚も麻痺してしまったのだろうか。
「次は俺だ」
「やれやれ、待ちくたびれたよ」
「いくぜっ」
男の腰が大きく震えたかと思うと、大量の精液が体内に流し込まれてくる。
あれ…これは何人目だっけ? さっきから同じ光景が何度も繰り返されている気がする。
そうか、これは現実じゃないんだね。
リンファは唐突にその考えに辿りつき、満足そうに微笑んだ。
「ん? なんだ、急に笑い出しやがって」
「犯リ過ぎたかな?」
そういえば昨夜はちょっとハメを外して深酒しすぎちゃった。きっとあれがよくなかったんだ。
でもこんな悪夢を見るなんてついてない。
王子様もあんまり飲みすぎないようにって言ってたなあ。
素直に言うこと聞いて、しばらくは控えてみようか。
「射精るっ!」
ああ、早く目が覚めないかしら。
そろそろ疲れてきちゃったな…。

「チッ!」
最後の敵を斬り捨てた拍子に、ヴィルヘルムの剣が鍔元から折れた。
もはや武器としての用をなさなくなったそれを忌々しげに投げ捨てて、ヴィルヘルムは舌打ちした。
周りにいるのは自分を含めてたった三人。
あとは全て物言わぬ死体だった。
円堂を囲む螺旋階段を戦場と定めて、どれくらいの敵を斬っただろうか。
わずか三人とはいえ、いずれも五千人を数えるリンドブルム傭兵旅団の中でも指折りの精鋭だ。
下からのぼってくる敵を迎えうつという有利な地形条件も手伝って、百や二百は倒したかもしれない。
だがそろそろ限界だった。
ヴィルヘルムは武器を失い、肩には決して浅くない傷を負っている。
ミューラーは直接的な怪我こそほとんどないが、疲労が激しくこれ以上の戦闘には耐えられそうにない。
そして剣王と名高いリヒャルトですら、全身に細かい傷をいくつも受け、肩で息をしていた。
「ったくなんなんだこいつら、なまくらばっかりだな」
三人の尋常ならざる強さに警戒したのか、それとも他を攻めるのに忙しいのか、一時的に螺旋階段には敵の姿は皆無となる。
今のうちに新しい武器を確保しようと、敵の死体のそばに転がる武器を物色していたヴィルヘルムに
ミューラーがはっきりと告げた。

「ここらが潮時だ。ずらかるぜ」
「…なんだって?」
「これ以上戦っても意味がねえ」
武器選びをやめ、ヴィルヘルムは自分より遥かに高いところにあるミューラーの顔をにらみつけた。
「ねーちゃんたちを見捨てて逃げるってのかい」
「軽口叩いてる場合じゃねえ」
ヴィルヘルムに有無を言わせず、ミューラーは油断なくあたりを見回しながら続ける。
「ちょっとでも勝ち目があるってんなら、つきあってやる。だがどうあがいてもこの城はもう終わりだ。
これ以上戦っても無駄死にするだけだ」
「…お前も、同じ意見か」
リヒャルトに視線を向ける。答えなどわかりきっている。それでも、問わずにはいられなかった。
「…ボクは、ミューラーさんが言うんなら」
予想通りの答えが返ってくる。
卑怯な話だ。ヴィルヘルムも、勝ち目がないのはわかっていた。既に中央部は押さえられ、組織的な反抗は封じられている。
加えて敵の圧倒的な数。一人一人はたいした連中ではないが、これほどの物量で攻められてはじきに確実に押し切られる。
自分の意思で逃げるわけではないと言い訳したかったのかもしれない。
二人ともが逃げるべきだと言うのだから、仕方ないのだと。
「…チッ」
自分で自分に唾を吐く。
「グズグズしてる暇はねえ。今ならなんとか逃げられる」
「…わかった」
唇を噛み切った。口の中に鉄の味が広がる。赤い唾を吐き捨てて、ヴィルヘルムは頷いた。
「遅れやがったら迷わず置いていくからな」
「ミューラーさんの背中にぴったりひっついてればいいんだよね?」
「本気で殺されたくなけりゃ黙ってろ」
「はーい」
仲間たちのいつもと変わらぬように見える、しかしいつになく真剣味の混じったやりとり。
「よっしゃ、行くぜ!」
鼻をつまんで螺旋階段から身を躍らせる。
かなり高いところから飛び降りたために水面にぶつかった衝撃はかなりのものだったが、
痛がっている余裕などない。
何十、何百という数の敵兵が浮かび、流れた血の色で真っ赤に染まった水に深く潜り、
三人は一度の息継ぎもなしに城の端、わずかな引っかかりのところまで泳ぎきった。
「ヴォヴァァー!」
ヴィルヘルムがミューラーの金棒を取り上げて、城壁に叩きつける。
何度かそれを繰り返すと小さな穴が開いた。金棒を向こう側に放り込んで、肩をすぼめてなんとか通り抜ける。
それからもう一度水に飛び込み、残り僅かの距離を泳ぎきって、三人はようやく城を脱出した。

耳をすませば、城の方からは風に乗っていくつもの声が聞こえてきた。
男たちの怒号。
女たちの悲鳴。
あそこでは血みどろの戦いと狂気の凌辱が繰り広げられている。
自分たちが逃げ出した今も、まだ。
「無敵のヴィルヘルム様がざまあねえや」
自嘲気味に吐き捨てる。
無敵のヴィルヘルム様、か。
過去何度もそう名乗ってきた。ハッタリがきいていて気に入っていたし、
そう名乗ってもいいくらいの実力があると自分自身、信じていた。
しかし。
もう二度とその名前は名乗るまい。
「これからどうするよ、ミューラー」
相棒を振り返り、投げやりに言う。ヴィルヘルムの口癖だ。
今まで戦が終わるたびにヴィルヘルムはこの言葉を口にして、
ミューラーに次の仕事を見つける面倒を押し付けてきた。
だが今回は少し事情が違っていた。
長い傭兵稼業の中で、これほど自分の無力を痛感したのは初めてだった。
もしもミューラーが傭兵をやめようと言っていたら、ヴィルヘルムはすぐに頷いていただろう。
「さあな」
返ってきたミューラーの声は自分に怒っているようだった。
彼もまた自分のように無力感に苛まれているのだろうか。
「あえて言うなら、どこかの酒場に潜り込んで、酒を喰らって、潰れちまいたい気分だ」
現実からの逃避。
しかしそれは魅力的な提案だった。
酒の力を借りて、ほんの少しの間だけでもすべてを忘れてしまいたかった。

「じゃあ、そうしようじゃねえか」
返事を返しながら、ヴィルヘルムは充実した一時を過ごした城に視線を向ける。
そこに銀髪の王子の顔が浮かび上がったような錯覚を覚えた。
今までずっとそうしてきたように、金で雇われただけの関係のはずだった。
しかし幾多の戦場をともにし、同じ場所で時を過ごすにつれ、
この男にならば金でなくとも使われてもいいと思った。
ヴィルヘルムは自分を剣のようなものだと思っている。
そして彼のような人物こそ、自分を振るうにふさわしいと感じた。
彼の下で戦っている間、ヴィルヘルムはようやく自分がいるべき戦場に巡り合ったような高揚感を覚えていたのだ。
しかし、それももう終わってしまったことだ。
「とっとと行くぜ。近くに奴等の兵がいないともかぎらねえ」
ミューラーとリヒャルトを促し、ヴィルヘルムは痛む肩を押さえて歩き出した。
もしも王子が生き延びたら。
どこかに落ち延びて、再起を図っているという噂を聞いたら。
その時は真っ先に駆けつけよう。
金などもらわなくてもかまわない。ただ彼の信念のために力を貸してやろう。

無意味な思考だった。
この戦いが終わった時、王子が無事でいる可能性など万に一つもない。
それでも考えずにはいられなかった。
でなくば、彼を見捨てた自責の念に潰れてしまいそうだった。
森の入り口まで辿りつき、ヴィルヘルムはもう一度だけ振り向いた。
サウロニクスから来たという竜笛作りの女。
音がどうとかわけのわからないことを言うばかりで、さしものヴィルヘルムも敬遠していたのだが
今なら彼女の言っていたことがわかるような気がする。

城が、音を上げている。
あれは、悲しみの音か。
城に残っている人たちの嘆きの音か。
ヴィルヘルムは城を見ることをやめた。
これ以上は耐えられそうになかった。
(すまねえ、王子さん)
そしてリンドブルムの傭兵達は、滅びゆく遺跡を後にして森の中へと姿を消していった。

円堂の中に広がるのは地獄絵図だった。
中が小さな個室にいくつも分かれている構造は、居住性という意味では優れていたが
この状況では災いした。
おびただしい数の敵兵が通路に溢れ、片端から扉を破っては踏み込んでいく。
中にいるのは一人、多くてもせいぜいが三人程度。
しかもこの円堂には戦闘力の高い者はあまりいなかった。
唯一の優れた武人であるダインが押し寄せる敵兵に挟みうちにされ早々に討ち取られてしまうと
円堂はゴドウィンとアーメスの兵たちの狩場と化した。
そしてその部屋でもまた、一つの悲劇が生まれる。

「エッちゃん! エッちゃん! しっかりして!」
部屋に押し入ってきた男たちに強烈に腹を蹴り上げられ、
身体を痙攣させながら倒れたエルンストにすがりつき、ノーマが泣き叫ぶ。
だが兵士どもはノーマを無理やりエルンストから引き剥がし、
たぎった欲情を幼さの残る肢体にぶつけようとしてきた。
「やめて! やだよ、さわらないでよ!」
じたばたとあがいてはみるが、非力な少女の力では大の男をはねのけることはかなわない。
「やめて…っ!? なにしてるの! やめて! エッちゃんにひどいことしないで!」
ノーマの身体からあぶれた男たちがエルンストに暴行を加えているのが目に入った。
一切の容赦のない足蹴りが幾度もエルンストを痛めつける。
それを必死でやめさせようと叫ぶと、ノーマの身体を撫で回していた男たちが
嫌らしい笑みを浮かべてささやいてきた。

「やめさせてやってもいいぜ? おまえさん次第では、な」
「わ、わたし次第…?」
「おいおい、まさか意味がわかんねえほどガキってわけじゃねえだろ?
おまえが俺たちにおとなしく犯られれば、あの畜生は見逃してやるってんだよ」
畜生? エッちゃんは畜生なんかじゃない。優しくて、勇気があって、
いつもわたしのことを守ってくれる素敵な人だもん。
あなたたちの方がよっぽど畜生だよ!
日頃は穏やかなノーマだが、エルンストに向けられた嘲りの言葉がノーマを熱くさせた。
だがそれを口に出さずに抑えるだけの自制心が残っていたのは幸いと言えるだろう。
「ほんとに、わたしが言うこと聞けば、エッちゃんは許してくれるんだね…」
ノーマはそう言うしかなかった。
ちらりと見えたエルンストの表情はいけない、と言っているようだったが
ノーマは静かに首を振って獣の姿をした幼馴染に答えた。
「おう、約束してやるよ」
「…わかったよ」
彼女はその言葉に縋るしかなかった。
男たちに見せ付けるように自ら服を脱ぎ捨てていき、成長途中の裸身をさらして目を伏せる。
「言うこと…聞くよ」

「んむっ、じゅぷぷっ、ちゅるるっ…」
「うおっ…へへっ、なかなかいい舌使いだ。悪くないぜ」
不気味に赤黒く光り、毒々しい血管を浮き上がらせた肉棒に嫌悪感をこらえてノーマは舌を這わせていた。
エルンストを助けたい一心で、ともすれば吐き気をもよおしそうなそれに必死で奉仕する。
「おいおい、それじゃあしゃぶられてる奴は気持ちいいけど俺等がつまんねえだろうが」
「ちゅぱっ…じゃ、じゃあどうすれば…」
「休むんじゃねえよ!」
すかさず口淫奉仕を受けていた男の怒声がふってくる。ノーマは亀のように首をすくめてそれに耐え、
男のものを手でしごきながらおそるおそる周りの男たちに伺いをたてた。
「そうだな…」
「ここはオナニーしかねえだろ!」
「オ、オナ…?」
「ぶってんじゃねえ! しゃぶりながら自分でしろって言ってんだよ!」
「ひっ! わ、わかりました…します、しますから…!」
いかにもしかたなく、という動きで自分の割れ目に指を持っていき、申し訳程度に擦り上げる。
ノーマはそれ以上先に進もうとはせず、単調な動きを繰り返すだけだった。
「アホか、てめえは! あんまりなめてるとむりやりやらせるぞ!」
「オナニーってのはこうやんだよ!」
ノーマの自慰を観察して囃し立てる男の一人がノーマの手をとり、無理やり秘裂の奥に指を突っ込ませた。
「やああああっ!!」
「お、今のはよかったんじゃないか?」
「いい声が出たな」
「こうか? これがいいのかよ、おい!」
「はうううっ!?」
激しく指がかきまわされ、強引に引き出された快楽が愛液を染み出させる。
引き抜いた愛液にまみれた指をノーマに見せつけ、男たちが下卑た笑みを浮かべた。

「どうだよ、こんなに濡れてやがるぜ」
「はあ…ああ、やだあ…」
「ははは、しゃぶらされながら無理やりオナニーさせられて感じるなんざ、さてはてめえ変態だな!?」
「違う、違うよ…私は、変態なんかじゃ…」
「お…そろそろ出るぜ!」
「むううっ!?」
無理やり頭をつかまれ、肉棒を喉奥にまで突き込まれる。頭を激しく前後に揺さぶられ、
そのまま口の中で白い粘液を吐き出された。
「うえっ! おえっ、うええ…」
「おい、吐き出すなよ。出されたものはしっかり飲め!」
「おまえのは不味くて飲めねえってよ!」
粘つく汚らしい液を咳き込みながら吐き出すノーマの周りでげらげらと兵士どもが笑いあう。
(なんで…なんでこんなことして笑えるの…!?)
ノーマの血を吐くような問いに答えるものは誰もいない。
一度達した男を押しのけて、へたりこんだノーマを下半身を一斉にさらけ出した男たちが取り囲んだ。

「あうっ! 痛い、痛いよお…!」
ノーマは前後を挟む形で男に抱え上げられ、前の穴と尻の穴の両方に硬くそりあがった怒張を突き入れられていた。
前の男はノーマの顔中を汚れた舌で嘗め回し、後ろの男はノーマの胸をめちゃくちゃに揉みしだきながら、
ノーマのことなど一切考えず、自分の快楽だけを追及した腰使いで攻め立てる。
不規則なリズムで前後から突かれ、ノーマは身体を揺らしながら苦痛の喘ぎを上げるが、
決して男たちを拒む言葉を口にすることはなかった。
男たちとのはかない口約束だけが、今のノーマを支えていた。
エルンストを守るために、ノーマは男たちの欲求のすべてを受け入れなければならないのだ。
「まだガキのくせに、すげえ身体だぜ…!」
「まったく、だなっ! この尻なんて最高だ! ずっと突っ込んだままでいたいくらいだぜ」
「ああ…い、た、い…裂ける…」
「安心しろよ、人間ってのは意外と頑丈にできてるんだ。これくらいで裂けやしねえよっ!」
「裂けたって俺は別にかまわねえけどなっ!」
男たちの動きが激しくなる。
既に二桁の男の相手をさせられているノーマは自分を支える力すら満足に残っておらず、
男たちの動きに合わせて激しく揺さぶられた。何度も揺らされた頭が脳震盪でも起こしたのか、
視界がぼやけてくる。

「よぅし、一緒に行くぜ!」
「おうよ」
「ま、また、中に、出すの…?」
「当然だろうが。まさか嫌だなんて言わねえだろうな?」
「…は、はい…す、好きにしてください…」
「じゃあお言葉に甘えて…っと!」
「あいよ!」
どくどくと完璧にタイミングを合わせて、前後の男が精液を流し込んでくる。
入りきらなかったものが結合部から溢れて、床に白い染みを作った。
満足したのか、男たちが肉棒を抜いてノーマを床に横たえる。
ひととおり犯り終えて満足したのか、新たな男がノーマに手を伸ばしてくることはなく
ノーマはわずかな休息の時間を得た。

「は、う…」
荒い息を必死で整え、ノーマは自分の口から感じる精液の匂いに辟易しながら声を絞り出す。
「エッちゃん…エッちゃんの顔、見せて…」
「ああ? なんて言ってる?」
「エッちゃん…ああ、さっきの畜生を見せてくれ、だと」
「なんだよ、心配になっちまったか? ほらよ」
ぐいっ、と目の前に突き出されたのはまぎれもない大切な幼馴染の顔だった。
その顔を見て、ノーマは少しだけ元気を取り戻した。
どんなに辛い目に合っても生き延びなければ。彼を人間の姿に戻すまでは。
「エッちゃん…大丈夫だよ…」
エルンストを安心させようと弱々しい笑みを浮かべる。
しかしエルンストの表情はぴくりとも動かなかった。
やっぱりわたしが犯されている間も、殴ったり蹴られたりされたんだ…。
だから疲れているに違いない。返事をする気力も残っていないんだ。
こんなに顔が腫れちゃって痛そう…ごめんね。
わたしがもうちょっとがんばれば、きっと許してもらえるよ。
そしたら怪我を治して、またがんばろう。
ごめんね。疲れたよね。もうちょっとがまんしてね…。

ノーマは気づいていなかった。
いや、見えてはいるはずだ。だが脳がそれを認めることを拒んでいた。
兵士が掴んでいるエルンストの頭には、首から下が失われていることを。
ノーマは二度と動くことのないエルンストに、必死で笑顔を浮かべながら心の中で話しかけ続ける。
「なんだ…さぞかしわめきまくると思ったのによ」
面白くなさそうにエルンストの首をノーマから遠ざけ、男は再びノーマに手を伸ばしていく。
ノーマはもう顔を歪ませることはなかった。
おとなしくその手を受け入れ、顔に寄せられた肉棒にも自分から舌を伸ばしていく。
「もったいなかったかな…」
男の呟きはもう、ノーマの耳には届かなかった。
エッちゃん。
もうちょっとだよ。
もうちょっとがまんしてね。

きっと、助けてあげるから…。

シグレは苦戦していた。
オボロ探偵事務所の面々に与えられている部屋の前に仁王立ち、
忍び刀を振るって彼らの部屋の入り口を何重にもとりかこむ兵士達と渡り合う。
元幽世の門の一員として、徹底した訓練を施されたシグレの戦闘力は並の兵士の比ではない。
「めんどくせえ」が口癖の、普段の怠惰な様子からは想像もつかないほどに体力もある。
だがシグレが受けた訓練はあくまでも暗殺者としてのそれであり、正面からの戦いは得意とするところではなかった。
それでも部屋の中にいるサギリやオボロ、フヨウ、彼ら家族を守るため、一歩も退くわけにはいかない。
しかしそれでは攻撃を避けるために動くことすら満足にできないし、
一人の敵にだけ意識を集中させることもかなわない。
扉は開け放したままであり、部屋の中からはサギリが苦無を、オボロが名刺を投げつけてシグレを援護するが、
ともに投擲武器である以上、その数には限りがある。そしてその数は、もうそれほど多いものではないはずだ。
勢いだけで突き出されてくる槍の穂先を首の動きだけで避け、逆刃に構えた刀で喉元を斬り裂く。
だがその時には左から剣が振り下ろされている。
それを袖口に仕込んだ短刀を引き出して受け止め、金的に足蹴りをくわせて怯んだところを突き殺す。

「ああっ…! めんどくせえ、めんどくせえ!」
避けては斬り、受けては突く。
敵の返り血を全身に吸って重くなった衣服が動きを鈍らせる。
充満する血臭が嗅覚を侵し始め、徐々に勘が失われていく。
このままではじきに殺される。
そんな思いが脳裏によぎった。
かつて暗殺者として、数え切れぬ者達の命を奪った。
だからそのこと自体は当然だとも思う。
しかし、今殺されるわけにはいかなかった。
守るべき人がいる。
すべてをかなぐり捨ててでも、守りたい人達がいる。
「負けるわけにはいかねえ」
気力を奮い起こし、シグレは戦い続ける。
だが敵は無情だった。
大切な人を守りたいというシグレの想いを、破壊と殺戮と凌辱の欲望で押し流そうとするかのように
何人死のうとその屍を乗り越えて、攻撃を仕掛けてくる。
「チッ!」
短刀が折れた。
いつの間にか背後からの飛び道具の援護も止んでいる。
「死ねや!」
敵が斧を振りかぶり、純粋な殺意をぶつけてくる。だめだ。くらう。

「ゲボッ…」
しかしその斧が振り下ろされることはなかった。
かわりにどす黒い血の塊を吐き出し、その敵はくずおれた。
「オラオラオラ!!」
気合の声とともに、次々と敵の兵士が倒されていく。
それが何度か続いた後、目の前の敵の首が消え失せた後ろに見覚えのある顔が現れた。
「なさけねえ野郎だな。こんなクズどもにてこずってやがるのか」
「あんたは…」
「ナクラ? てめえナクラじゃねえか!?」
シグレが彼の名を呼ぶよりも早く、敵の一人が叫んだ。
彼はもともと城を攻めているアーメス南岳兵団の一人だった。

「てめえ、死んだんじゃ…」
「そんなことより、なにしやがってんだ! てめえ裏切りやがったのか!?」
口汚く罵りの言葉を口にする兵士どもに、ナクラは手にした槍を振るうことで答えた。
瞬く間に二人の命を奪い、その死体を見下ろして呼ばわる。
「俺は俺の目的のために南岳兵団にいただけだ。てめえらを仲間と思ったことなんかねえ」
ナクラはシグレの隣に立ち、槍をかまえた。そして視線は敵に向けたまま話し出す。
「いいか、あの女を殺すのは俺だ。ゴドウィンの野郎をぶっつぶし、奴等に味方するアーメスをぶっつぶし、
幽世の門をぶっつぶした後で、俺があの女を殺す。
だからこんな奴等にあの女を殺させることはゆるさねえ」
「あんた…」
「もう戦えねえってんなら邪魔だ、すっこんでろ」
それで話は終わりとばかりに、ナクラは猛然と攻撃を始める。
屈強な肉体から繰り出される槍は、恐るべき死の誘い手となって敵兵に忍び寄る。
「めんどくせえ…なんて言ってる場合じゃねえな」
まだ戦える。
シグレは新たな力が湧き上がってくるのを感じ、再び忍び刀を振るい始めた。

それからどれほどの時間が経ったのか。
ついにナクラの武器が失われた。
深く突き刺さった刃が抜けなくなり、力を込めて抜ききる前に、他の敵の攻撃がきたのだ。
それをかわすために、ナクラは槍を手放さなければならなかった。
それで、彼の戦いは終わりだった。
むきだしの肩や腕に剣が食い込み、気合とともに繰り出された槍が鎧を突き破って腹に刺さった。
大量の出血とともに、急速に意識が揺らいでいく。それを無理やり引き止めて、
ナクラは拳をつくって一人の頭蓋を砕いた。だが、それまでだった。
足に、脇腹に、胸に、何本もの刃が突き刺さっていく。
そして最後に額に槍が飲み込まれた。それが、彼の人生を閉じる決め手になった。
「サギリ…」
最後に彼はシグレの家族の名を呼んだ。
そして、こときれた。

シグレはその声を聞いていた。
悲しかった。
これほどの男が、こんな有象無象どもに殺されてしまったことがたまらなく悲しかった。
シグレは家族のために命をかけて戦ってくれた男に、感謝を捧げた。
「どこ、向いてんだよっ!」
胸板が突き破られた。背中まで抜けたその一撃が致命傷となった。
(センセー…フヨウさん…サギリ…)
次々と家族の顔が浮かんでは消えた。
彼等はどうなってしまうのだろう。
たまらなく不安で、たまらなく怖かった。
だが彼等がどうなろうとも、シグレはそれに関わることはできないのだ。
シグレは絶望した。
絶望の中で、彼は死んだ。

「ナクラさん…シグレ…」
入り口を守っていた二人が倒れ、敵兵が部屋の中になだれ込んできたが、サギリは彼らのことなど見てはいなかった。
彼女はどんな時でも笑顔以外の表情を浮かべることはない。
今もそうだった。
だが一つだけ違っていることがあった。
「サギリさん…」
オボロはこんな状況で、彼女の顔を見つめ、そして瞑目した。
泣いていた。
彼女は笑いながら泣いていた。
笑ったまま凍りついてしまった彼女の表情にようやく変化をもたらしたのが、親しい者を失った悲しみだとは。
やりきれなさにオボロは首を振った。
「おいおい、この女笑ってるぜ?」
「俺達に犯されるのがそんなに楽しみってか!」
敵兵が上げるあまりの言葉に怒りが湧いた。
感情がないのではないかと噂されるほどに、いつも落ち着いているオボロの顔が怒りに歪んでいた。
十人ほどは殺したかもしれない。
だが、それだけだった。この運命を変えることはできなかった。
ずたずたに斬り刻まれて、オボロもまたナクラとシグレの後を追った。

「それじゃそろそろお楽しみといくか!」
サギリににじりよる敵兵の前に、フヨウが両手を広げて飛び出した。
「やめなさい! サギリちゃんに近寄ったら許しませんよ!」
内心恐怖で卒倒しそうだったが、家族を守ろうという想いがそれを上回った。
足を震わせることもなく、声を失うこともなく、フヨウは胸を張って言い放った。
「てめえの許しなんかいらねえんだよっ!」
「ひっこんでやがれ!」
だが、無駄だった。
フヨウの決死の行動さえ、人面獣心の外道どもにはわずかな良心の呵責さえもたらすことはなかった。
下品な声とともに突き出された槍が次々とフヨウの身体を貫く。
最後までサギリを守ろうと両手を大きく広げたまま、彼女は死んだ。
「あ…」
ほんのわずかな間に、家族が次々と命を失う様を見たサギリの口から呟きが漏れる。
それが彼女が生きている間に上げた最後の声だった。

「なんだよこいつ…なにやっても何の反応もしないぜ」
「もう死んじまったんじゃねえか?」
「いや、息はしてるよ」
「おい、ちょっとは楽しませてみろ!」
何人もの声がさほど広くはない部屋の中でぐるぐると回っている。
だがサギリにとって、そのすべては何の意味ももたなかった。
ソファに押し倒され、服を剥ぎ取られ、未開通の穴を肉棒でこじあけられても、彼女は眉一つ動かさなかった。
サギリの心はもう死んでしまっていた。
何を言われても、何をされても、何も感じない。
破瓜の痛みを与えられても、死んでしまった心はそれを痛いと思わない。
下劣な欲望が形となったような言葉を四方八方から浴びせられても、何かを答えようという気持ちは浮かばない。
肉体は生きていても、魂が死んでしまっているサギリは人形と同じだった。

「こいつ…なめてんのか!?」
くだらないプライドを刺激されたのか、サギリを貫いている男が何とかして彼女に声を上げさせようと
激しい責めを繰り返す。それに周囲の男たちも手を貸し、サギリに容赦ない凌辱を加えていく。
「こいつでどうだ!」
「なんとか言ってみやがれ!」
無理やり秘裂をこじあけて、二本目の肉棒が入り込んできた。
先ほどまで処女だったサギリのそこは、当然そんなものに耐えられるようにはなっていない。
自己中心的な欲望の律動に入り口が裂け、破瓜の血にまじって新たな血が流れ出す。
「こっちもやってやるぜ!」
サギリの腰を持ち上げて、他の男が菊門に強引にねじこんでくる。
さらにターバンをむしりとられ、髪で肉棒を包んでしごきだす男がいるかと思えば、
左右からはそれぞれの手に肉棒を握らされる。
さらには脇を締めさせられ、膝を曲げられ、全身のあらゆる場所に肉棒をあてがわれた。
「はははははっ! こいつは壮観だ!」
十を越える肉棒が同時にサギリの身体を這い回る。
周囲にはあぶれた男たちが輪をつくり、時折白い欲望をサギリの裸身に浴びせかけてくる。
それでも彼女は何も言わなかった。
それに頭に血をのぼらせた男たちが、さらに苛烈な責めへと移行していく。
それは確実にサギリの生命をすり減らし始めていた。

三十…五十…あるいは百。
数え切れないほどの欲望をその小さな身体に受けたサギリの肉体は限界に達し始めていた。
いい加減諦めたのか、大半の兵士は部屋を去り他の場所へと向かっていたが、
一部のしつこい者たちは執拗にサギリを犯し続けていた。
「ハア…これでも、かよっ!」
五回目の絶頂に達し、ずいぶん薄くなった精液をサギリの膣内に注ぎ込む。
それで限界に達した男は荒い息をつきながら、彼女から離れた。
「も、もうだめだ…」
「な、なさけねえな…俺はまだまだやれるぜ!」
大量の精を流し込まれて膨らんだサギリの腹を押して精液を流し出すと、
別の男が半ば萎えているものを無理やり押し込んでいく。
いくらも腰を振らないうちに限界がきた。
達する寸前に引き抜き、身体にふりかけるとそこに赤いものが混じっていた。
「げ…洒落にならねえぜ」
「赤玉かよ」
「でもここまできたらひけねえよ。とことんまでやってやる」
また次の男がサギリにのしかかる。
既に精を浴びていないところなどないようなサギリの身体に触れて一瞬嫌な顔をしたが、
それでも意地だけで腰を振り続ける。
だが彼等の努力…と言うのも愚かしいような行為のすべては無駄だった。
彼女の命は尽き果てようとしていたから――。

(私、死んだのかな)
サギリは不思議な場所にいた。
辺りは一面の白。白い霧だけが世界のすべてだった。
周囲に自分以外の者の姿はなく、限りない孤独に包まれていた。
(ここにいつまでいなくちゃいけないのかな)
膝を抱えて丸くなってみる。
もう何を考えるのも面倒だった。
その姿勢をとってからどれくらい経ったか。不意に肩を叩かれて、サギリは顔を上げた。
(こんなところで寝ては風邪をひきますよ)
(…先生)
見慣れたオボロの顔が、温かい笑顔と一緒にサギリを見下ろしていた。
(ここで待ってて正解だった…のかね)
(できればサギリちゃんだけでも来なくてすめばと思ったんですけどねえ)
その向こうにはシグレとフヨウの顔も見える。
二人ともどこか残念そうな顔をしてはいたが、サギリを歓迎しているように見えた。
(ここはどこ?)
(死んだ人たちが来る場所…なんでしょうねえ、たぶん)
(つまり誰も助からなかったわけだ。やってられねえ)
サギリの問いにはオボロとシグレが答えた。
(そうなんだ…)
幽世の門を滅ぼすのは自分たちの仕事だと思っていた。
それを果たせず命尽きてしまったことに悔いはあるが、
それ以上にサギリはまた家族が揃ったことが嬉しかった。

(ねえ、あの人はいないの?)
家族ではない、でもここにいてほしい男の姿を探す。
それに応じるように、白い霧の向こうから一人の男が現れた。
(てめえを殺すのは俺だって言っただろうが。勝手に死にやがって)
サギリの顔を見るなり、ナクラはそんなことを言ったがその声は驚くほど穏やかだった。
(ごめんなさい)
(もういい)
ぶっきらぼうに吐き捨てて、ナクラは背を向けて歩き出した。
(どこにいくの?)
(死んじまったんじゃ、おまえを殺すこともできねえ。もうおまえらにつきまとう理由もねえ)
(待って…)
(あん?)
(いっしょにいこう)
(ああ?)
ナクラの逞しい腕を握って、サギリは彼の目を見上げて言った。
(あなたに殺されてあげることはできないけど、他の方法で償わせて。あなたのお父さんを殺してしまった罪を)
シグレたちは何も言わなかった。黙ってサギリとナクラの二人を見守っている。
(なにをすればいいのかわからないけど、でも…)
(……)
(あの…)
黙ったままのナクラに不安を感じて、軽く腕を引いてみる。
ナクラはそれをつまらなそうに見下ろして言った。
(だったらそのツラをなんとかしろ)
(え…?)
(その癇に障る薄ら笑いをやめろ。そうしたら…許してやらないこともねえ)
染み付いた作り笑いをやめろ…普通の人のように、いろいろな表情を浮かべられるようになれと。
暗殺のための技術ではなく、心からの自然な笑顔ができるようになれと。
彼はそう言っているのか。

(がんばる)
(そうかよ)
(だから、いっしょにいて。でないとちゃんと変わったところ見せられない)
(…てめえらもそれでいいのかよ)
(私はかまいませんよ)
(他ならぬナクラさんですからね! 歓迎しちゃいますよ。あ、今度ワタシのゲームの相手してくれません?)
(あんたの戦いは隣でずっと見てた。だから…いいよ)
(ふん)
サギリの腕を少し乱暴に振りほどき、ナクラは彼等に背を向けた。
(ねえ?)
(うるせえな。行くんならさっさと行くぜ)
(うん)
笑って頷き、ナクラの背中に続く。
オボロ、シグレ、フヨウ…サギリの家族達は、そこにわずかな違和感を感じていた。
背を向けたナクラには見えなかったろうが、今の彼女の笑みは普段とどこか違っていたようにも思えた。
(センセー)
(ひょっとしたら…)
(ナクラさんが許してくれるのも、そんなに遠いことじゃないかもしれませんねえ)
忍び笑いを漏らして、彼等も二人の後を追った。

「…死んじまったか」
「犯り殺したのは初めてだな。あ〜、疲れた…」
「変な女だったな。ったく、なんだよこのツラは…」
精を吐き出しすぎて疲れきった身体を持ち上げ、兵士達は命の火の消えたサギリを見下ろす。

彼女は、嬉しそうに笑っていた。

(終)

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