クルガン(ジョウイ)×ナナミ 著者:17様

かぽーん

(何故……こんなことになってしまったのだろう)
普段から深い彼の眉間の皺は困惑のために一段と深くなっていた。
傍らにはしっぱいの壷とのろい人形……そして……。
「あの…えぇと……クルガンさん、その……お湯加減はどうですか?」
隣で黒髪の少年が恐る恐る彼に話しかけた。少年の頭に載せていた手ぬぐいがぱしゃんと湯の中に落ちる。
それを彼は湯の中から掬い上げて、手ぬぐいを絞って渡した。
「ぬるくもなく、熱くもなく丁度いいですが」
しかも檜の浴槽のいい香りが鼻をくすぐる。申し分もない出来の風呂だった。
それを聞いて傍らの少年はぎこちない笑みを返した。
「よかった。テツさんも喜ぶだろうな。……あ、テツさんはここの風呂職人をやっている人で」
「……リオウ殿」
「……はい」
クルガンは言わずにはいられなかった。
「その……いささか私は困惑しております」
「……そうでしょうね。……僕も戸惑ってます」
ぴちょーん。

都市同盟の力を新たに結集した軍のリーダーとハイランドの軍団長。
何故、敵対している者同士が肩を並べて風呂に入っているのか。

そもそも、クルガンは皇王となったジョウイの親書を渡しに、湖のほとりの城にやってきたはずだった。
幸いなことにクスクスの街でリオウとその姉を捕まえることができたのだが、同盟軍の本拠地に着いてから彼の思いもかけない目にあうことになったのである。
「……まさか、ナナミが本拠地観光案内しだすとは思わなかったですから」
料理対決に崖昇りレース、コボルトダンスにシドの怪談。
「普通は、なさらないでしょうな……敵に塩を送るようなことは」
「……そうですよね」
本拠地の案内をするということは内部情報を敵に知らせるということ。つまり、敵のほうが有利になるということだ。なのに、ナナミ…リオウの姉はそれをクルガンにやってのけている。
そしてしまいには風呂に入る羽目になり、こうして二人は互いに困惑したまま檜風呂に浸かっていた。会話も何を話せばいいかわからず、ぽつりぽつりと互いに取り留めのない話がたまにでる程度だった。
「……あの、檜風呂ばかりではつまらないでしょう。最近テツさんが新しい風呂を造ったんですけど……よかったら、そちらに入ってはどうですか?」
「リオウ殿はいかがなされます?」
「……僕はドラム缶風呂の方が落ち着くので。そっちに行きます。いつまでも僕と入っているのも緊張して疲れるでしょうし」
クルガンを気遣っているのがわかっていたので、その言葉に甘えることにした。
「……そうですか。それでは」

誰もいない貸しきり状態でクルガンはようやく息を漏らした。
大理石の風呂で豪華なものだったが、装飾品は相も変わらずのろい人形やしっぱいの壷、落書きだった。
それでも、誰にも邪魔されることなくゆっくりと風呂に入れたのは久しぶりだった。
(近頃は戦続きでろくに風呂に入れなかったですからな……)
戦では身体を拭く程度、風呂があっても隣のシードが喧しい。
(これもすべてジョウイ様のおかげ、か)
ルカ=ブライトの亡くなった今、ジョウイはこの争いに終止符を打つ。
そこまで考えて、先ほどまで一緒にいた少年の顔を思い出した。クルガンを気遣っている彼の仕草。道中至るところでそれを感じていた。
(……傷つかれるでしょうな)
ジョウイから聞いてはいたが、聞きしにも優るほどの心の優しさだ。
これからジョウイの行うことで彼が傷つくのが目に見えていて、ちくりと彼の心の奥が痛んだ。

がらっ

突然、大理石風呂の引き戸が開いた。
「リーオーゥッ!クルガンさーん!!背中流しにきたよー!」
「ナっ……ナナミ殿!!」
思わずクルガンはぎょっとする。
バスタオルを巻いただけのナナミが手ぬぐい片手に風呂に入ってきた。
(ここは男湯ではなかっただろうか……?)
「……あれ?クルガンさん、リオウは?」
「リオウ殿なら別の風呂に行かれたが……それよ」
「そっか。なら仕方がないよね。ね、ね?クルガンさん浴槽から上がって!背中流すんだから」
「は……!?」
「は!?じゃない!そのままだったら背中流せないじゃない!?」
そういう問題とは違うのではないかとクルガンは突っ込みたかったが、無茶苦茶な論理で押しきられそうだったので、渋々股間を手ぬぐいで隠し浴槽から上がった。

「わー、やっぱクルガンさんの背中はおっきいね〜。リオウとは大違い」
ごしごしと強い力でナナミが背中をこする。ひりひりして痛い。もしかしたら皮がむけているかもしれない。  顔を顰めてクルガンは声をかけた。
「…ナ…ナナミ殿は普段から、このようなことを?」
「うん、そうだよ…………ジョウイにもやっていたかな」
ぽつりと彼女は言葉を漏らす。背中を擦っていた手が止まった。
「…………」
「……もう、手の届かない人になっちゃったんだよね。あの頃は本当に側にいたのに」
「停戦交渉が終わればまた逢うこともできましょう。ナナミ殿はジョウイ様の幼なじみですから」
「………もう、逢えないよ」
「?」
「ジョウイは結婚しちゃったもん……だから、逢わない」
結婚したから逢わない。 つまりはジョウイとナナミは恋人関係だったということか。
驚愕の事実にクルガンは唖然とする。
「……それはリオウ殿もご存知なのですか」
「ううん、知らない……知らせるわけにはいかないじゃない。もう、ジョウイ結婚しちゃったから、あたしだけしか知らないジョウイの秘密を知っちゃった人がいるんだよね……ね、何かそれってさみしいよね」
クルガンは口を噤んだままだった。あらかじめジョウイから聞かされていれば何かかける言葉があったかもしれないのに。

照れ隠しの様にナナミはへへっと笑った。
そして、ごしごしとクルガンの背中を擦るのを再開した………………前よりも痛い。
「びっくりしたでしょ!ジョウイの大スキャンダル!!もう過去のことだから関係ないけどね!!!」
「……嘘、ですね」
ナナミの手が止まる。 明るく振舞っているのは嘘。そして……。
「あなたにとっては過去ではない。違いますか?」
ぎゅっとナナミの手ぬぐいが握り締められ、ぽたぽたと水滴が落ちた。
クルガンが振り返ってナナミの手首を掴んだ。握り締める力が緩み、手ぬぐいがぽたりとタイルの上におちる。
彼は真摯な目付きでナナミを見ていた。ナナミの目は潤んでいた。
―いまだに想っている痛さが伝わってきてしょうがない。
「………だって、だって……忘れられるわけないよ。でも、ジョウイは皇女さまと結婚しちゃったんだよ。過去にするしかないよ……疼きがまだ残ってても」
「そうですか」
ならば、とハイランドの軍団長は自分の手をナナミに握らせた。戸惑った表情でナナミはクルガンを見た。
「え………?」
「今は私がジョウイ様の代わりになりましょう。私の身体を使ってどんな風にあなたをジョウイ様が愛したのか、刻み込めばいい。あなたの身体に」
信じられないという顔でナナミはクルガンを見た。ゆるゆると手が下ろされる。
「……なんで、そんなこと」
「ジル皇女との婚姻は政略結婚。夫婦仲など無いに等しい。いずれあなたが側室になればこちらに都合がいい。これは忘れないための楔です」
「……そんな、じゃ、クルガンさんは私に側室になれと……できるわけないじゃない!あたしはリオウのお姉ちゃんなんだよ」
「この戦争はもうすぐ終わります。そのために私はここへ参りました。すべて終わればリオウ殿も、そしてあなたも自由なはず。それなら、あなたがハイランドに戻ってもなんの問題もないのでは?」

「………」
「あなたはジョウイ様が忘れられないのでしょう?」
長い沈黙の後にナナミがこくんとうなづいた。
「……クルガンさんは、本当にそれで、いいの?」
人形の様に扱われて嬉しい人間なんていない。なのに、クルガンはそれをやろうとしている。ジョウイの身代わりに。
「ええ。私には私情で一人に執着する感情はとうにありませんので……この身体好きに使ってくれてかまいませんが……唇へのキスは致しません」
これは本気ではなく、戯れだ。 だから、口接けはしない。

クルガンは手ぬぐいを拾い上げて、桶の中にそれを突っ込んで洗った後ナナミの目のあたりを縛った。ナナミの視界が真っ暗になる。
「あ、……あ、え!?」
「私が見えない方が都合がよろしいでしょう……では、いかがなさいますか」
「……後ろから、抱きしめて」
言われるままにクルガンはナナミの後ろに回って抱きしめた。ただ、ナナミとの身長差でどうしても胸のあたりにナナミの頭がくる。
妙に不自然な体勢なのを気にして、クルガンは浴槽に腰掛け、膝の上にナナミを載せた。
「……こうですか?」
「……うん、で、耳を、しゃぶりながら、右手で……こぅ、胸を……ぁ」
クルガンの右手を掴んで、ナナミが小ぶりな胸に持っていく。
ナナミが纏っていたバスタオルがはらりと落ちた。そうしてなんの邪魔もなくなった右胸を揉みしだくようにした。小さな乳首が堅さを帯びてつんと立つ。
クルガンは左耳朶を甘く噛んで舌先を尖らせて耳の穴へ突っ込んだ。
ビクンとナナミが軽く硬直する。
「……ぁあ……、ん」
ナナミの艶を帯びた声が浴場内に反響する。

クルガンは左手を滑らせてナナミの腰を掴んだ。その動きに合わせて首筋や鎖骨を吸う。
「ナナミ殿、左は」
「お、ねがい………ナナミって呼んで」
「ナナミ」
振り返って、ナナミはクルガンのがっしりとした肩を掴む。手を撫で上げてクルガンの頬を押さえた。クルガンが振り払うかのように横を向く。
「駄目です。口接けは」
「………そうだった」
クルガンの頬から手を離して、彼の首に腕を回した。そして、首筋に口接ける。
「………胸をね、揉むだけじゃ、なくて…しゃぶ……ぅんっ…焦らさなぃで」
こりこりとした乳首の周りを舐めて、じっくりと快感を昂ぶらせながら胸を撫で上げる。
その頂にはまだ触れない。
たまらずにナナミが自分の胸に手を延ばす。クルガンはその手を掴んで膝の上に下ろさせ、その隙に乳首を甘噛みした。
「ひゃぁ……っっ……んぅ、ぁああぅっ」
勃ったナナミの乳首を舌で転がし、吸い上げる。
ナナミがそれから逃げるかのように背中を大きく仰け反らせた。喘ぎ声を漏らしながらクルガンの太腿に爪を立てる。
「ナナミ、感じるのですか?」
「ぅんっ……感じるよ…はぁっ、あ……ね、下のほうも」
ナナミの乳房を口に含みながら、指を秘部へと伸ばし、下から上へと撫で上げた。彼女が耐えられないとばかりにクルガンの肩に頭を預けたまま首を振った。
「んふぅ……あ、ぁん。も、と……もっと、ゃってぇ」
くちゅくちゅと二本の指を秘部に出し入れさせながらクリトリスをこねる。そのたびに愛液が溢れ出てクルガンの手を濡らした。
甘える様にクルガンにしなだれてくるナナミの痴態にクルガンの肉茎に熱が集まってくる。
(………そういえば、最近やっていませんでしたね)

「ジョウィ……ィィの……ん、ァン……気持ちぃぃょぅ」
闇の中でナナミはジョウイを求めていた。それに応じる様にクルガンは丁寧に愛撫を施す。
「……ジョウイ…おねがい、キテ……ふァっ……」
手を伸ばして闇の中をまさぐり浴槽の縁を掴む。そして、腰をあげた。
四つんばいに近い状態だ。
クルガンもナナミの腰を掴んでその怒張を秘部にあてがった。ゆっくりと挿入し始める。
「……くっ…ぉ…っき……」
ナナミの顔が歪む。膣内を広げて入りやすくしたが、クルガンのそれはナナミが受け入れるにはまだ辛い大きさだった様だ。
「……でも、かんじるょ……いっぱいジョウイをかんじるよ」
全部入りきる前に最奥に到達してしまった。クルガンは緩やかに腰を動かし始める。
「ぁん……ああっ……あぁぅ……」
ぬちゅぬちゅという音に合わせて、ナナミの嬌声が荒い息と共に漏れる。
クルガンはきつい膣内に顔を顰めながらも腰を浅く引いたり、深く突きいれたりして行為を長引かせようとしていた。だが、大量の愛液でどんどんナナミの中の潤滑性が高まって動きが早くなる。

「はぁ………ぁあっ…、あ、ジョ…ゥィ、ジョウィっ」
どんどんとクルガンの陰茎が堅く大きくなってくるのがわかる。
「ナナミ……」
堪えきれない様にナナミが叫んだ。
「ィ……イク……ぃ、あ……ぁああああああああああああっっ」
ナナミの背中が大きく仰け反る。
ビクビクと膣内が痙攣してクルガンのものを搾り出す様にして締めつけた。
その締め付けでクルガンも放出しそうになり、慌てて肉茎をナナミから引き抜いて、タイルの床を白濁液で汚した。

(……困ったな、どうしよう。目の前がクラクラしてきた)
リオウはドラム缶風呂の中で茹でダコのように真っ赤になっていた。
(ナナミ……クルガンさん……天井は繋がっているんだよ、この風呂)
大理石風呂での会話と行為はリオウに丸聞こえだった。
クルガンにもしものことがあったら困るので、テツに頼んで貸切にはしてもらっているが、自分が風呂を出たら、引き戸の音で二人に感づかれてしまう。 気遣い屋の若きリーダーは出るに出られなかった。
のぼせて気絶しそうになりながら、彼はただ一つのことだけを願った。
(お願いだよ、二人とも……早く風呂から出て……)

―30分後、同盟軍のリーダーはホウアンのところに担ぎこまれた。

<了>

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