エルザ×クライブ 著者:11様

トゥーリバー近くの森。
その奥深くを俺は走り続ける。

ザザザッ。

肩にかかる小枝を乱暴に払いのけながら、
人が通った後がわずかに残る道とは言えない道を、姿勢を低くして駆け抜ける。
ようやく捉える事のできたアイツをここで仕留めるために。
小刻みに息を吐きながら、ヤツの微かな気配に集中する。
少しでも気を乱すと見失ってしまうからだ。
俺は慎重に、一定の距離を置いて走り続ける。
開けた場所まで追いこみ、そこで一気に距離を縮める作戦だ。
もちろん狡猾なあの女狐の事だ、こちらの事は解かっているだろう。
あの女と対峙した一瞬が勝負だ……。
 「……?」
ヤツのものと思われる気配が止まった。
こちらの動きを窺っているようだ…。
はやる気持ちを一度落ち着かせ、静かに状況の変化を待つ。
意識を細くして、ヤツのいると思われる先に集中する……。

ガサッ。

 「!」

斜め後ろで茂みが揺れる音がした。
俺は懐から愛銃のシュトルムを素早く抜き、その方向へ向けて構える。
 「あ、あ………」
そこには、コボルトの子供が立っていた。
チッ……ヤツに気を取られ過ぎたか?
 「お前、そこで何をしている!」
銃口を向けたまま、俺は問いかけた。
子供とは言え、油断はできない。
そのコボルトは、身体をガタガタと震わせて呟いた。
 「あ、ぼ、僕、迷子……」
迷子だと……?そうか、この森の近くのトゥーリバー市には、多種族が共存している。
そこから迷い込んだというのか…。
 「っ!」
ふと意識を元に戻すと、森の先にあったはずのヤツの気配が無い。
見失った…!?くそっ!
目の前のコボルトを前に、俺は臍を噛んだ。
1つの場所に留まるのは危ない……、俺はその場から駆け出していた。

 「………。」
ぼんやりとだが、森の中にヤツを感じる。
幼い頃からずっと一緒だった空気は間違えようもない。
俺はヤツを追いこむ予定だった、目的の場所を目指して走り出した。
格好の的になってしまうが、俺を狙おうとヤツの殺気がこちらへ向いた時が勝負だ。
一瞬……、一瞬俺が先に気づく事ができれば、急所ぐらいは外せる。
もう一度アイツの気配を捕まえてから仕切り直しだ。
危険な作戦だが、やむを得ない。
今ここで、ヤツを仕留めなければ……。

目的の、木々が大きく開けた場所に出た。
太陽の光が露出した地面に降り注いでいる。
普段は森を歩く行商人達の野宿の地として役立っているであろうこの場所で、
俺は大きな賭けに出ようとしていた。
右手でシュトルムを確認した後、俺はヤツの気配に一瞬でも早く気づけるように、
辺りを注意深く見回す。
 「………。」
息が詰まりそうなぐらいの緊迫感が俺を包み込む。
空気は動かない。
アイツは確実に俺を捉えているはずだ……。
一瞬の空気の乱れも逃すまいと、全神経を集中する。
何処だ……何処にいる?
時を刻む毎に、徐々に焦りと不安が蓄積していく。
こちらが自分を捉えられていないのは解かっているはず……、
ヤツめ、遊んでいるのか?俺なんかいつでも殺せると言うのか……。
しかし、これだけ経ってもアイツの居場所が特定できないのは何故だ!?
くそっ……、考えが甘かったか…………?
脂汗が頬を伝い、顎先から地面へ向けて滴り落ちた瞬間―――

 「クライブ!!」

 「!」

瞬時に声のした方向へ向き直った。
ヤツの声に無意識に反応した俺の右腕がシュトルムを握る。
そしてアイツへ狙いを定め、

ガァ―――――ン!!

 「ぐっ………!」
俺の右肩を、弾丸が突き抜けた。
握られていたシュトルムが地面に落ちる。
俺は素早くそれを拾うと、近くの茂みに姿を隠した。
出血する肩を押さえ、再び右手でシュトルムを構える。
 「エルザ!!」
茂みから顔を出し、アイツのいる方向へ狙いを定める。
腕を上げた瞬間、肩に激痛が走った。俺は今一度、シュトルムを握り直す。
しかし、その隙を見逃すほどヤツは甘くなかった。
向けられた銃口から飛び出た弾丸は、再び俺の右肩を貫いた………。

少し肌寒く感じ、ゆっくりと瞼を上げる。
夜空の無数の星を目に入れながら、俺は首だけを動かして辺りを見回す。
ここは……?
高かった日も暮れ、辺りはすっかり闇に包まれている。
この静寂の中、目の前の焚き火の音だけがパチパチと響いている。
身につけていた黒のマントが身体の下に敷かれて、俺はその上に寝かされていた。
ゆっくりと身体を起こす。
 「…っ!」
身体中に痛みが走った。そう言えば俺は肩を撃たれて……。
そっと右肩に手をやると、頑丈に巻かれた包帯の感触。

 「気がついたかい?」
俺は声のする方を向いた。
薄暗い木々の間から、焚き木を抱えたエルザが現れた。
俺は痛みの残る身体を起こして、シュトルムに手を……。
 「!」
収めているはずの場所に、シュトルムが無い。
周りを見ると、少し離れた場所の木に立てかけられていた。
俺の目線に気づいたエルザが、
 「いくらケガが酷いからって、さすがにこの距離だと当てられるだろう?
  おっと、変な事はしない方が身のためだよ。
  あんたがアイツを取りに行くのと、あたしの銃が火を吹くの…、
  どっちが早いかなんて解かりきってる事だからね……。」
と、見慣れた笑みを浮かべて言う。
 「……。俺をどうするつもりだ。」
 「ま、今すぐにどうこうするつもりはないよ。
  私もそんな酷いケガ人を撃つほど落ちぶれちゃいないさ。」
 「ふん、心優しいことだな。……後悔する事になるぞ。」
俺はエルザの動きを警戒しながら、薪に手を伸ばす。
武器にするには些か心細いが、ないよりはマシだろう。
そんな俺の行動を見たエルザが、ふっと息を吐いて焚き火に傍に腰を下ろす。
カラカラと音を立ててすぐ横に確保してきた焚き木を置き、無造作に火の中に投げ入れていく。
 「……どういうつもりだ?」
 「?何がだい?」
エルザはパチパチと爆ぜる焚き火から目を反らさずに静かに口を動かす。
俺はそのオレンジ色に染まる顔を睨みながら、言葉を続けた。
 「ギルドからの刺客である俺を助けた真意は何だ?
  自分が危険に晒されるのを解かっていて、何故こんな事をする!?」
 「………さあね。何でだろうね……。」
エルザの青色の瞳の中で、小さな炎が揺れている。
この女……、俺が殺せないとでも思っているのか?

 「もう俺は昔ほど甘い感情は持ち合わせてはいないぞ。
  お前は兄を殺した仇だからな……俺の手で、必ず殺す。」
 「ふふふ……。」
 「何がおかしい!」
 「兄か……。ただギルドで共に育っただけだろう?
  相変わらず甘いじゃないか……。」
 「貴様!」
俺は痛みの残る躯を無理矢理起こし、エルザに掴みかかった。
青い服の胸元を持ち上げる。
 「そうやってすぐ熱くなるのも変わらないねぇ……坊や。」
 「!……くそっ!」
掴んでいた胸元を離す。
コイツを前にすると何時の間にか激情にかられてしまう。
俺はエルザから顔を背け、冷静さを取り戻すために夜空を見上げた。
そうだ……冷静さを欠いたせいで負ってしまった肩の傷に触れる。
エルザを挟んだ向こう側にシュトルムの姿が見える…。
取りに行くにはヤツに背を向けることになる。
俺がそういう素振りを見せれば迷いなく俺を撃ちぬくだろう。
今の俺には殺傷能力がないと思っているから、こんなのうのうと話なんかしているんだ。
 「もう少し人を信用しても良いんじゃないのかい?」
 「何?」
 「久しぶりの対面なんだ。少し話をしたって良いと思うんだけどね……。」
俺の考えを見透かしたかのように、エルザはこちらを見つめる。
 「ふん、いつ殺されてもおかしくないのに、相変わらず変な女だ。」
 「………、違いない。」
ヤツから殺気は感じられない。その油断を後悔させてやる…。
 「……それに、俺を疑り深くした原因はお前だろう。
  俺にとって、唯一心を許せる人達を奪った……!」
 「………。」
エルザは黙って、俺の心の叫びを聞いている。
 「うっ…」
先ほどからやけに撃たれた肩が熱い。
俺は眩暈に襲われ、その場にうずくまってしまった。
 「クライブ?」
エルザがこちらの様子を怪訝に思ったのか、声をかけてきた。
何か言っているようだが途中から聞こえなくなってくる。
熱い……、炎症を起こしているのか……?
ドクドクと肩の傷が心臓の鼓動に合わせて、全身に痛みを送る。
その痛みに脳を支配され、俺は意識を失った………。

意識を取り戻した俺が最初に見たのは、裸のまま横に寝ているエルザだった。
発熱のせいか、まだ頭がぼんやりとしている。
いつの間にか上半身は脱がされ、所々汗が乾いて冷たく感じる。
俺が消えそうな焚き火に目をやった時、エルザの身体が動いた。
 「ん……。」
俺が目を覚ましたのを確認するとエルザはフッ笑い、細い肢体を寄せてきた。
 「何をしている……」
 「何って、こうした方が温かいじゃないか。」
ピト、と身体をくっ付けるエルザ。
 「貴様、どこまで俺を侮辱すれば……!」
 「なぁ、クライブ……私達はもう、あの頃みたいに戻れないのかい……?」
ケガをした右肩にそっと手を乗せて、エルザが呟いた。
乗せられた手が、まだ少し熱を持った肩に気持ち良い冷たさを送る。
その冷たさが俺に冷静さを保たせてくれた。
 「よくそんな事が言えるな……お前が全てを壊したんだろう……。」
 「クライブ……」
 「俺から兄を奪い、お前も自ら去って行った。
  もう俺は想い出なんか持っていない。今は唯、ギルドの指令を全うするのみ……。」
そうだ。昔のままのものなんて何も無い。
コイツもすでに俺の知っているエルザでは無くなっているだろう。
だが、それで良い。
少しでも昔の温かさが残っているのなら、
それは俺の任務の邪魔になってしまうかも知れない。
 「じゃあ……私の事も、忘れちまったのかい?」
 「何…?」
エルザの指が俺の股間をズボンの上からまさぐる。
細くしなやかな指がきゅっと男根を捉え、それを上下に擦り始めた。

 「やめろっ!何を………!」
 「私の事……思い出してもらおうと思ってね……。」
指遣いが激しくなっていく。
俺の意志とは逆に、刺激を与え続けられる俺の男根はみるみる硬さを持ち出した。
頭に血が上り、ぼやけていた意識はますます混沌としていく。
 「エルザ…、くっ、何のつもりだ……」
 「クライブは忘れたかも知れないが、私は覚えているよ……。
  あんたの温もりを……もちろん、弱いところも。」
エルザがズボンをずらし、高く聳え立った俺の男根を外気に晒す。
直に掌でそれを包みこむ。エルザの手は冷たかった。
擦られる度に大きく、硬くなっていく俺の男根を、エルザは休むことなく擦り続ける。
自らが吐き出した透明の液体で濡れ出した男根を見つめ、
エルザは俺の腰の上に移動した。
すでに潤っていた秘裂にその男根を当てがい、ゆっくりと腰を埋めていく。
 「うぅあっ!エルザ……やめろ………!」
ギチギチと締めつけるエルザの膣内が、俺の男根に絶え間無い快楽を与え続ける。
 「ほらぁ……っ!どうだい…っ?」
膣圧を自分で調節しながらエルザが腰を振る。
切れ長の瞳がじっと俺を見つめ、表情が変わる度にその目がより細くなる。
俺の快楽に耐える表情を楽しんでいるかのように。
 「お前、こんな事をして……っ、何が楽しいんだ!」
 「おや、あんたは楽しくないのかい?私は楽しいさ……、
  だって、狙っている男を犯しているんだからねぇ……!」
 「ッ!貴様!」
エルザの腰の動きに回転が加わり、うねるように俺の男根を飲みこむ。
ニチャニチャといやらしい淫水の音が俺の耳に届き、それが俺の本能を興奮させる。
 「やめろ……!もう、動くな……!!」
 「何だい、もう限界かい?だらしないねぇ……」
エルザは上体を倒して、俺の乳首に下を這わせてきた。
乳輪をなぞりながら、俺の反応を見つめている。
右肩が痛くて腕が上がらない俺は左手で抵抗しようとしたが、
手首を掴まれ、ぐっと押さえつけられる。
力を入れているつもりだが、左手は上がろうとはしない。
身動き1つ取れない俺は、文字通りエルザに”犯されて”いた。

「良いよ、このまま出しちまってさ……私の中に出したいんならね…!」
 「くぅぅっ……、は、離れろっ!このままだと……」
 「私がイクまで我慢しな……そうしたら抜いて上げるよ。」
 「……!」
そう言うと、エルザは今まで以上に激しく腰を振り始めた。
月光に晒された白い裸体から汗が飛び散る。
 「はぁ、はぁ!………っ、ふう……っ!」
 「う、あ……!」
最早エルザは自分の快楽を高める為だけに動いている。
肩にかかるぐらいの金髪を振り乱し、ほんのりと頬を紅く染めて、
エルザは激しく悶える。
変わっていない……、俺の知っている美しいエルザの姿は、それだけで十分
俺を興奮させた………!!

ドクン!!

 「うっぁぁぁ……!」
 「ぅ……ッ!!」

エルザの中に吐き出す。
俺の淫らな液体は限界まで我慢していたせいか、かなりの量が排出された。
エルザはその液体を全て体内で受け止め、まだビクビクと動き続ける俺の男根を
離さずにいた。
俺の上に被さってくるエルザ。しっとりと汗で濡れた身体からは、
心地良い温かさの体温が感じられる。
 「今の私にはこういう形でしか、あんたを愛することができないんだよ……。」
 「何…?」
眠りの底に落ちて行きそうな最中、エルザの声を聞いたような気がした。

 「クライブ……可哀想な子。
  欺瞞に満ちたあの場所で、数少ない信じられる人を一度に2人も失くしたんだ。
  想像できないほどの辛い目に会ったんだろうね……。
  傍にいれなかった私を……許してなんて言えた立場じゃないよね……。」

翌朝、俺は幸運にもヤツより早く目覚めた。
腹の上にかけられていた衣服を纏い、木にもたれ掛かって眠っているヤツに近づく。
俺は昨日と同じ位置にあったシュトルムを取り、銃口をエルザの左胸に向ける。
 「………。裏切り者には死を…。」
昨日のまぐわいが頭を過ぎる。
エルザの吐息、身体のぬくもり。何も変わってはいなかった。
目の前にいる女は、本当にギルドを裏切った女なのか?
それとも、あの地獄をずっと一緒に潜り抜けてきた………

 「獲物の前で考え事かい?」

!!
コイツ、起きて……!
その瞬間、眩い光が辺り一面を覆った。これは……
 「閃光弾……!!」
あまりの眩しさに目がくらむ。
 (やっぱり私はまだ、この世に未練があるみたいだ……)
 「!エルザ……逃がさん!」
俺はすぐさま引き金を引いた。

カチ。
カチ。

 「なっ……」
シュトルム……なぜ……!

視力が回復した頃には、目の前にいたはずのヤツの姿はなかった。
後ろを振り返っても、黒々とした焚き火の後が残っているだけだ。
周りにヤツの気配は感じられない…。
くそっ…!逃がした……!逃がした!!
俺の油断がヤツを逃がした。
昨日のヤツの油断を俺はモノにできず、
今、エルザは俺の油断を逃さなかった。
 『相変わらず甘いじゃないか……。』
昨日のエルザの言葉が蘇る。
俺は何も変わっていないのか……?
そんな事はない……いや、変わっていないのなら変わって見せる。
ヤツを始末しない限り、俺は前には進めない。
あんな場所でも、俺を繋ぎ止めてくれる場所なんだ。
あそこにいる限り、俺は存在意義がある。

次は仕留める。―――もう、迷いはない。

                   完

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