「月下美人」(エルンスト×ノーマ) 著者:7_935様

 セラス湖の中にそびえ立つ一つの塔。
 徐々に下がる水位とともに人という名の賑やかさを増していき、それは塔ではなく最早一国の巨大な城と化していた……と言っても過言ではないだろう。
 しかし、そんな活気溢れる城であっても、夜になればその賑やかさも夜の帳と共に沈降する。だが一方では、それとは対照的に空に輝く満天の星々と月――その輝きを映すセラスの湖面の美しさは一段と増す。
 そんな光景を一人の少年は城の一室から静かに見下ろしていた。

「ねぇ、エッちゃん」
 そんな風に少し物憂げな佇まいで立っていた少年に私は声をかける。
「ノーマ……、どうしたの?」
 少年の名前はエルンスト。私の幼馴染で、一緒に旅をしている男の子で、それで……私の一番大切な人。
 そんな風に幼い頃からずっと一緒にいたはずなのに、相手の顔なんてもう見飽きてしまうくらい見続けてきたはずなのに……、彼が振り返って見せる表情を見ると、私の胸の鼓動はその間隔を縮められた。
 確かに、エッちゃんのことを周りの女性が見たら格好良いって思うかもしれない。正直自分はあまりに近くにいすぎて、エッちゃんが『美少年』とか『美形』とか言われても、あまりピンとはこないのだけれど、
 以前そのことでニフサーラさんやリンファさんに呼ばれたことだってあるくらいだから多分そうなのだろう。
 だから私だって彼を見て、胸の高鳴りを覚えてしまうのはおかしいことではないのかもしれない。けれど、やはり今の私の感情はそういうのとは少し異なっていた。

「あ……っと、えとね。さっきの私のケーキ、どうだったかなって思って」
「あぁ、うん。すごく美味しかったよ。ノーマはホントに料理が上手になったよね」
 そうしてエッちゃんは窓から射し込んでくる月光を頬で受けながら、私に眩しいくらいの笑みを向けてくれる。
「う、うん。ありが……とう」
 私がエッちゃんのために作ったものを「美味しい」と言って食べてくれることほど嬉しいことはない。
 もしかしたら人はたかが料理と笑うかもしれないけれど、私にエッちゃんのことを喜ばせてあげられる術があるというのはやはりとても嬉しいことだった。
 でも、それよりももっと嬉しいことは、エッちゃんが『そんなこと』を私に言ってくれることではなく、そんなことを私に『言ってくれること』……『喋ってくれること』だった。
 エッちゃんが私にそんな穏やかな声を私にかけてくれること。エッちゃんが昔と変わらぬ優しい表情を私に向けてくれること。そして……。
「ノーマ」
 エッちゃんは私の名前を耳元で呟きながら、私の身体をそっと後ろから抱きしめてくれた。
 そうやって、彼の『人として』の温もりを与えてくれることが、何よりも……嬉しかった。
「エッちゃん」
 私は胸の前に回された彼の手の上にそっと自分の手を添える。そして、彼の指を握っては離し、撫でては絡ませて、彼の肌、指、その爪の先の形まで確かめるかのように。エッちゃんの存在自体を求め、確かめるかのように。
 そして、私のせいで失わせてしまったその『人間』という存在の形を守るように。

 エッちゃんは今でこそこうした『普通の人間』の姿をしてはいるが、今夜……満月の夜でなければ、人間に戻れないという呪いにかかっていた。
 その発端はまだ私たちがもう少し若く、幼かった頃のことである。

「エッちゃん、こっちこっち! こっちなの!」
「わ、分かったよ。だからそんなに引っ張らないで、ノーマ」

 田舎の小さな村に住む私とエッちゃんは、飽きもせずに毎日毎日、それこそ朝から夜までずっと一緒にいて、ずっと一緒に遊んでいた。本当の兄妹ではないけれど、両親を含め、村の人たち皆から
「エルンストくんとノーマちゃんは本当の兄妹みたいに仲良しさんだね」と言われることはしょっちゅうだった。
 そして、「今日は〜〜をしよう」「明日は〜〜へ遊びにいこう」……多分そんなことをウンザリするくらいたくさんのわがままをエッちゃんに言ってきた。でもその度にエッちゃんは「仕方ないな、ノーマは」……そんなことを苦笑い混じりに言って、結局何一つ文句も言わずに私に付き合ってくれた。そして、帰りが遅くなって親に叱られそうになったときも、さも当然かの如く、私を庇ってくれた。そんな姿が私たちを兄妹に見せたのかもしれない。
 そんな風に周りからも分かるくらいに私は『甘えていた』んだと思う。寄りかかりすぎていたんだと思う。エッちゃんのその優しさに。
 元々あまり活発ではなかった自分が、エッちゃんが側にいてくれるだけでずっと強くいられた。エッちゃんと一緒ならきっと何でもできる……そんなことすら思ってしまうくらいに。
 だから、多分そのせいだ。あの日の私が村の大人たちも決して立ち入ることのない森に行ってみよう、なんて言い出してしまったのは。

「ほらほら、やっぱり。ここだよ、さっき光った所って」
「あ、危ないからそんなに近寄っちゃダメだよ」
 生い茂る葉や蔦を自分たちの小さな身体を活かしてくぐりぬけながら先へ進んでいき私たちが辿り着いたのは、空に向かって伸びる一条の微かな光を発する不思議な岩の置かれた場所だった。
 大人も入らない森の中深くに佇む、光り輝く不思議な岩。それはまるでお伽話に聞くシンダル遺跡の宝物のようで、私は『すごい宝物を見つけちゃったのかも?』という昂揚感を抑えきれなかった。
 そしてそのせいで私は、エッちゃんの制止の声にすら耳も貸さずにそこへ近づいていってしまう。
「……これって?」
 そこで光っていたのは岩の表面に描かれていた何か不思議な模様。確かこういうのを『紋章』というのだったろうか。
 まるでその光放つ紋章に魅入られてしまったかのように私がそこに手を伸ばした、まさにそのとき……。
「危ないっ、ノーマ!」
 突然その光が強さを増し、目を眩ますほどに輝き出した。
「きゃっ!? な、なに……」
 手の甲、そして瞼で瞳を覆っても尚、網膜まで貫いてくる光。その光で視界の全てが覆われそうになったとき、私の身体がドンを大きく揺らいだ。

「…………ぇ?」
 突然のその衝撃に私の身体は耐えることもできず、その場に突っ伏してしまう。
 手をついた地面の上の枯れ枝や草木が私の肌をチクチクと痛みつけてくるのだが、その瞬間の私の意識は痛覚には向いていなかった。
「エ……エッちゃん!?」
 顔を上げた私の目の前にあったのは、私を光から守るように立ちはだかるエッちゃんの後ろ姿。
「ノー……マぁ……っ!」
 エッちゃんを襲うその光の衝撃波はギリギリと彼の身体を軋ませ、そんな悲鳴を上げさせる。
「エッちゃん、エッちゃん――っ!!」
 私はすぐにでも立ち上がって彼の身体をしがみつきたかった。彼の身体をその光から引き剥がしてあげたかった。エッちゃんをその光から守ってあげたかった。
「……ぅ、うぅ。あぁ」
 でも、私は動くことが出来なかった。腰が抜けてしまったというわけでも、金縛りにあってしまったというわけでもない。どうやら倒れこんでしまったときに足元の枝で脚を深く傷つけてしまっていたらしく、脚が思い通りに動いてくれなかった。
「エ……ッちゃん」
 いつもの私ならそんな怪我をしたら大きく泣き叫んでしまうくらいなのに、私は必死にその痛みに耐えながら、彼に向かって必死に手を伸ばす。
 だが、それでも私は彼の像を掴むことができない。それどころか、彼のその像はだんだん揺らいでいき、光の中に飲み込まれそうになっていってしまう。

 ――消えちゃう。エッちゃんが私の目の前からいなくなっちゃう。
 その恐怖に私は大怪我をしても耐えたはずの涙をふとこぼしてしまっていた。

「……うん。ノーマは強いね。いいこ、いいこ」
「ノーマを泣かせる奴は僕が許さないからなっ!」
「ほら、泣かないでよ、ノーマ。……そうだ。僕がとっておきの『おまじない』してあげるから」

 エッちゃんは私が泣いちゃったとき、いつも側にいてくれた。いつも優しくしてくれた。
 だからかもしれない。
 この凄まじいまでの逆光の中ではそのときの私の方を振り返ってくれたエッちゃんがどんな顔をしていたのか……全然分からないはずなのに、私にはそれが、私に向けて微笑んでくれているように見えた。

「大丈夫だよ、ノーマ。キミは僕が必ず守るから」

「エッちゃん――ッ!!」
 それだけ言い残し、エッちゃんは光の中に……消えた。そして私はその様を、ただただ見守ることしかできなかった。

 そうして暫くした後。光が弱まって再び視界があけたとき、私が知る『エッちゃん』の姿は何処にもなくなっていた。

「ごめんね、エッちゃん」
「ん? 何が? 僕、何かノーマに謝られるようなことしたかな?」
「……うん。これまでのこと、色々」
 私たちは先程と変わらぬ格好のまま、静かにその腰をベッドの上に沈ませていた。
「それを言うなら、僕の方が謝らないと。あれからずっとずっとノーマに迷惑かけてるから」
「そんなこと……ないよ。私、エッちゃんと一緒に旅できて、こうして一緒にいられてすごく幸せだもん。迷惑だなんて思ったこともないよ」
「なら、僕だってそうだ。たとえきっかけがどうであったとしても、こんな僕の側にずっと一緒にいてくれるんだから」
 そう言って、エッちゃんは私の頬に手を当ててきた。
「エ……っちゃん」
 とても優しく穏やかでもあるけれど、どこか男性的な野生的な一面を持つその表情に、私は吸い込まれそうになってしまう。吸い込まれて、彼の中に溶けてしまいそうになる。
「ノーマ」
 そして私は頬に当てられた手に自分の手を添えて、キュッとその指を握り締めた。
「あのね、エッちゃん。今度は私が……、今度は私が守るからね。エッちゃんのこと……必ず守るからね」
「……うん」

 互いに近づいていく顔と顔。鼻が触れ合いそうになっては離れ、唇が触れ合いそうになっては離れ……というもどかしい行為を繰り返しながらも、徐々にその距離を詰めていく。
 そしてその距離がなくなったとき、そのもどかしさは嘘だったかのように大胆なものに変わっていた。
「あっ……、ん」
 その口の愛撫は甘く優しいようにも思えるのに、行為は熱く、激しい。互いの舌と舌が螺旋を成すように絡み合い、沁み出す唾液をその舌の上で躍らせる。
「……んふ、あぁ」
 私はいつしかその行為に酔いしれ、そんな吐息を漏らしてしまうほどに感じてしまっていた。そして、その感覚が私のことをさらに先へと導いていく。
 もっとエッちゃんを感じたい。
 もっとエッちゃんの側にいたい。
 もっと…………気持ち良くなりたい。
 そんな『女』としての自分を露にしてしまっている事実に、私は余計に感情を昂ぶらせてしまっていた。

「ノーマの声、もっと聞かせてくれる?」
「えっ?」
 エッちゃんはそんな私の感情すらも見透かしているかのように、後ろから回された手を上へ上へと這わせながら、ゆっくりと指を動かして双丘を愛撫し始める。
「ひゃう、あぁんっ」
 それはまだほとんど何もしていないかのような愛撫なのに、私はそれだけでイってしまいそうな声を上げてしまう。キスとただ胸に触れられただけでこんな状態では、この先どうなってしまうのか、私自身でも見当もつかない。
 でも、それほどに私はエッちゃんを感じていた。『久しぶり』のエッちゃんの身体を。
「……ごめん。服、もう脱がせてもいいかな? ノーマの身体、直に感じたいんだ」
「ぁ……」
 もしかしたらエッちゃんも同じ気持ちでいてくれているのかもしれない。私のことを感じたいって、私の身体に触れていたいって……そう思ってくれているのかもしれない。
「うん、いいよ。今日は特別な日だもん。エッちゃんのしたいこと、させてあげたい。それに、あの……、あのね?」
「うん?」
「ホントは私もね、エッちゃんにいっぱいいっぱい抱いて欲しいって思ってるの。だから……ね?」
 自分で言っておきながら、耳や首筋まで赤く染めるほど恥ずかしがっていては世話ない。それも自分からエッちゃんが脱がせやすい体勢までとってしまっていては。
「……ノーマ」
 そうしてエッちゃんは胸に当てていた手を少しだけ浮かし、レオタードの胸元の部分から手をかける。
「んっ」
 自分の服がゆっくりと下ろされ自分の身体が徐々に露呈していく様を、私はただじっと見守り続ける。そしてそれがお腹の辺りまで下ろされたとき、エッちゃんはその手を離した。

 ある意味、儀式のような行為を経て、私の身体は窓から射し込む月の光の下に露になる。
「ノーマの肌、すごく綺麗だ」
 そんな私の姿を見てそう言ってくれるのはすごく嬉しいことだけど、それと同時にものすごく恥ずかしくもあった。
 だが、そうして俯く私のことなどに構うこともなく、エッちゃんは少し息を荒げながら後ろから肩越しに首を伸ばし、首筋から鎖骨の部分にかけてそっと口づけをした。
「あっ、や……」
 熱く火照った身体に這うエッちゃんの唇はまるで氷の塊が滑っているかのように冷たくて……、気持ち良い。
 また、服から手を離したエッちゃんの手は再び私の胸のところに持っていかれる。先程は服の上から触られただけであんなに感じてしまったというのに、今回はいきなりその手をスルリとレオタードの中へと潜り込ませられた。
「んあぁっ!?」
 コツン――エッちゃんの指、その爪先が服の中で何かとぶつかる。その瞬間、私の頭の中が急に真っ白になって、ふいにそんなあられもない声を上げてしまっていた。
 そんな声を聞いて、エッちゃんは私の耳元――真っ赤に染まった耳たぶがその唇に挟まれるくらいに近づき、呟く。
「もしかして、ノーマ……?」
 その言葉は最後までは続かなかったけれど、私はコクンと頷いた。

 イっちゃったんだ……、たったあれだけのことで。
 愛撫というほどの愛撫をされたわけではないのに、あんなに簡単にイってしまうなんて……。
 如何に私がエッちゃんのことを求めていたのか、自分でも驚いてしまうくらいだった。
「ご、ごめんね、エッちゃん。私、わたし……こんな……」
 でもエッちゃんはそんな私の身体をだっこするように持ち上げて、向かい合わせになるように自分の膝の上に座らせた。
「エ、エッちゃん? あ、あの……」
 私の震える唇にそっと人差し指を当てられる。
「謝らないで。ノーマがこんな僕を求めてくれていること……すごく嬉しいから」
「――――」
 そう言いながら、エッちゃんはいつのまにか私の股間に手を伸ばし、スルリとそこにあるラインをなぞるように指を動かした。
「あっ……、ひゃうっ」
「すごいね。ノーマのここ、もうこんなに……濡れてる」
 さっきイってしまったせいなのか、ソコはじゅんと湿り気を帯びていた。しかも、タイツとレオタードの二枚越しだというのに、触って明らかに分かってしまうくらい。
 その事実と言葉に私は恥ずかしくなってしまっているのに、何故か私は更に恥ずかしくなるような行為をしてしまっていた。
「……ねぇ、エッちゃん。お願い」
 私は自分の大切な部位をエッちゃんの目の前に突きつけるかのように立ち上がる。
「ノ……マ……?」
 狂おしいほどにエッちゃんのことを求めている。エッちゃんに抱いて欲しくて我慢できなくなる。
 ……ううん。多分もう狂ってしまっているんだと思う。だから、こんないやらしいことをしてしまっているんだと思う。

「お願い……。全部、脱がして……欲しいの」

「――――」
 だが、エッちゃんはそれに対してただ首を横に振った。
「えっ、ぁ……、ごめ……」
 それで私はようやく理解した。今の自分が何をしてしまおうとしてたのか。。
 そして、後悔した。あんな嫌われるようなことを言ってしまったことを。
「ぅ、うぅ……」
 泣きたくなった。どうして私はこうなんだろう、と。
 エッちゃんと一緒にいられるからって、こんなに自分勝手で、わがままばかりで……。これじゃあ、あのときと何にも変わってないって。

「……ごめん、ノーマ。僕がこれからすること、どうか許してほしい」
「え?」
 だが、先に謝罪の言葉を口にしたのはエッちゃんの方だった。それも私のお願いに対する謝罪ではなく、エッちゃん自身がこれからするであろう行為に対する宣告的な謝罪……。
「エッちゃん? 何……を……、きゃっ!?」
 すると、エッちゃんは突然私のことを押し倒してきた。そして、まるで『いつもの姿』の時のような唸り声を上げて、私のその部分に爪と歯を立てた。それこそ、本当の野獣と化したように荒々しく。
「エッちゃん、や……ぁ……」
 私はエッちゃんのその頭を反射的に遠ざけようと手を伸ばすのだが、まるで力が入らず、引き剥がすには至らない。
「……グッ、ぅう」
 そうこうしている内にエッちゃんはレオタードの下腹部付近の端に爪を引っ掛けて横にずらし、その下にあった白いタイツをギリギリと歯で喰いちぎっていた。
「あ……、あ……ぁ……」
 下半身に纏わりついていたレオタードとタイツから解放されて、私の大切な部分が外気に晒される。それも、ビショビショに濡れてしまっているせいでその外気を余計に冷たく感じてしまったが、それは痛くも……そしてどこか心地良くもあった。
 しかもその部分をエッちゃんのすぐ目の前に晒していると思うと、そこは更に愛液を滴らせてしまい、その感覚は一層高まるばかり。
「……きゃううぅぁっ!!」
 そしてその殻を破ったエッちゃんの口がそこに触れるのと同時に、私はその強烈な感覚に大きな喘ぎ声を上げていた。
 私の花弁を唇でなぞり、同時に舌をその中心部へ潜りこませる。まるで削岩機のように動く舌の動きに、私の意識がかすれていく。
 が、そんなかすれゆく意識の中でも私のその部分だけはひくひくと蟲動を繰り返し、エッちゃんを誘うかのように蜜を滴らせる。まるで花が虫を誘うための蜜と同じようで、エッちゃんも私の腰を強く自分の下に引き寄せ、自分の顔を私の下腹部に突きつけた。
「あ……はっ、……あん」
 いやらしく溢れ出す愛液と同時に、私の口元からもだらりと唾液がこぼれ出す。それが私の肌をどんどん伝い降りていき、汗や愛液と混じりあう。そして、エッちゃんはその愛液をジュルルと啜り上げ、私を触覚だけでなく、聴覚までもおかしくしていく。
「ひゃうっ!ああっ!!」
 いつしか私からもエッちゃんの顔を自分自身に押し付けるようにして、快楽を求めようとしていた。
「凄いね、いつもより一杯溢れてくる。それになんかすごく……甘い気がする」
 エッちゃんは顔を上げ、ジュルリと舌なめずりをしながら私のことを見上げる。
「やだ……。そんなこと、言っちゃ……」
 多分それは意地悪をしているのではなく、エッちゃんがただ思ったことを口にしているだけなのかもしれない。
でも、普段からずっと優しいエッちゃんがそんな意地悪じみたことを言うのはどこか新鮮で、私の感情を刺激した。それも今日のエッちゃんはいつもよりどこか荒々しい分、余計に……。
「ノーマ……、そろそろ我慢できそうにない」
 エッちゃんそうして私の太腿あたりにズボン越しに隆起しているその突起を擦りつけ、合図を送ってくる。
「う、うん。わたし……も、わたしも……我慢……できないよぉ」
 それに呼応してエッちゃんの頭をより一層自分の下に擦り付ける。それはすごくはしたないことのはずなのに、頭も身体もどうにかなってしまいそうで……。

 するとエッちゃんは覆いかぶさって身体を起こし、自分のズボンに手をかける。
「…………」
 カチャカチャと少し苛立ちの色をその表情に浮かべながらズボンを脱ごうとする様を、私自身も微かな苛立ち……そして羨望の眼差しで見守っていた。
「――――っ!?」
 そして下ろされたズボンの中から跳びはねるように姿を現したエッちゃんのモノ。
「ノーマ」
 それはいつもより凄く大きく見えて、少し……恐い。
 もしかしたらさっき見せた荒々しさのように、その部分も満月の月夜でも呪いが解けていない……もしくは、もう呪いが戻りつつあるのかもしれない。
 でも、私にそう見せされる本当の要因は、エッちゃんのソレを待ちきれない己の欲望にあるのかもしれなかった。

エッちゃんが再び私の腰を掴むと、そこに猛々しいイチモノをあてがった。
「……ぅ」
 その先端が触れてみると分かるが、やはり実際にソレはいつもより大きいように思える。それはつまり、いつも以上の激しさを意識させ、私は恐怖と快感へ予感に目を閉じて待ち受けた。
「じゃあ、いくよ……ノーマ?」
「……ぅん」
 目を瞑ったまま私はコクリと頷くのと同時に、エッちゃんのモノは一気に私の中に埋没した。
「――――っ!!」
 ゆっくり挿入るのでもなく、半分辺りまで挿入るのでもなく、一番奥まで一気に突き上げられ、驚きと同時に快感もまた一気に溢れ出す。
「はああぁぁん!!」

 ……嘘? また?
 エッちゃんと繋がったその場所から爆発したように拡がっていく快感。歯はきつく食いしばり、手は下に敷かれたシーツを握り締め、足は空で爪先までピンと伸びる。
「あぁ――、か――は――」
 身体中の筋肉が硬直したように固まり、エッちゃんのモノを包み込む膣内もギュウギュウと悲鳴を上げるように強烈に収縮していた。
「あ……は……」
 ――イってる。私、また……イっちゃってるよ。
 自分のものなのに全く自由にならない四肢。制御しきれない意識。心身共に押し寄せる快楽の波の中にありながら、そのことだけはハッキリと分かった。
 だが、当然それは私だけであって、エッちゃんはまだ挿入れたばかり。達するどころか気持ちよくすらなっていないかもしれない。
「エッ……、ん……ぁ。私だけ……こんな……」
 動かない身体に鞭打って、なんとか唇を小さく動かしてその言葉を口に出す。
「大丈夫、僕もすごく気持ち良いから……。でも、ゴメン。辛いかもしれないけど、少し動かせて」
 本当ならエッちゃんは私が落ち着くまで待っていてくれるつもりだったのかもしれない。でも、エッちゃんのことを少しでも悦ばれてあげられるなら……そんな思いが私の首を縦に振らせていた。
「……ぅくっ。はあぁ!」
 いまだ身体中のピリピリが治まらぬ中、エッちゃんが私の中への出入りを開始する。
「あん、あん……やぁ」
 腰をエッちゃんのモノの亀頭の部分が完全に露出しそうになるほどまで引いて、そして再び私の膣へと突きつける。互いの下腹部が打楽器のように大きく打ち鳴らされ、その度に肌に張り付いている愛液がパチャパチャと飛沫を散らす。
「やっ、はっ、あ……ぁ……」
 二人の結合部が物凄く熱く感じる。互いの性器の摩擦によって発火してしまうのではかと思えるほど。さらにはエッちゃんが私を突き上げるたびに、脳まで突き抜ける衝撃と快感に、脳の回路がショートしてしまいそうにもなる。
 そんな風に壊れてしまいそうになるのに、私の膣内の襞がザワザワと蠢いて、エッちゃんのことを離すまいときつく絡みつく。そして、弁のように入るときは促がし、出ようとするときは抵抗する……その自分の内部で行われる摩擦に、私は何もすることができず、ただただ快楽を貪るだけだった。
「あぁ! あああん!!」
「ノーマ……ぁ、すご……く……ぅぁ」
 ついに漏れ出すエッちゃんの声に私は堪らない快感を覚える。
 エッちゃんが気持ちよくなってくれてる。
 私がエッちゃんのことを気持ち良くしてあげられてる。
 それは、私にとって何にも代えがたい快感だった。

「うっ、くっ……ぁっ」
「あ、あ、ぁ、あ、あ……」
 エッちゃんの腰の律動の間隔がどんどん短くなっていき、二人の声も早く、激しくなっていく。また、結合部からはぐちゅぐちゅと泡立つような音が漏れ聞こえ、お互いの感覚を麻痺させていく。
 いつも優しくて、あんな姿になってもいつも私のことを支えてくれるほどの余裕すら見せるエッちゃんが、今日はこんなにも激しく、辛く……嬉しそうな顔をしていた。
「ノーマの中、すごく……気持ち……良くて……、もう……止められ……ない」
「う……ぅん。だい……じょう・・・ぶ、だから……」
 壊されてしまいそうなエッちゃんの激しい攻めに揺さぶられ、声がまともに紡ぎ出されない。むしろ、もう声を出すのも億劫なほどに追い詰められていく。
 そしてエッちゃんは私の腰を指が食い込むほどきつく掴み、私の最奥部を貫きかねないほどに強烈な挿入が繰り返される。
 私はその肉体的な激しさと快楽に息も絶え絶えになりながらも、弾け飛びそうになる意識に必至に留めながら、ひたすらエッちゃんが達するのを待つ。
 だが、既に快楽の綱渡り状態の私がエッちゃんの動きにそうそう耐えられるはずもない上に、また、エッちゃんがこんなに激しくしてくれるのは初めてで……。
「ああっ! だめぇ……こんなの。わたし、もうイッちゃう……、イッちゃ……う……!」
 まるで、宙にでも浮いてしまうかのような感覚に襲われる。
「あっ……あっ……!?」
 それは、いつもよりもずっとずっと深く、遠く、高く……信じられないくらいの気持ち良さ。
 やだ、何なの……この感覚!?
 今まで体験し得なかったその快感に私は恐怖すら覚える。その快感と恐怖の入り混じった未知の感覚に私は何も抗う術もなく、私はついにその意識を完全に手放した。
「ぁ……」
 パアっと真っ白になる視界の中、私はいつかにも見たエッちゃんの柔らかい笑顔を見たような気がした。

「……マ、……ノーマ」

 あれからどれくらいの時間が経ったんだろうか。
 頬を優しく撫でられる感覚と私の名を呼ぶ声に私はようやく連れ戻され、重い瞼をゆっくりと持ち上げた。
「あっ、エッちゃん……、おはよう」
「……ふぅ。ノーマ?」
 何かおかしなことを言ってしまったのか、エッちゃんは呆れたように嘆息し、私を何かに促がすように目を背けた。そして私もその方向へと目を向けると、ようやく自分の言ったことのおかしさに気付くことができた。
「……ぁ」
 私が目を向けたのは窓。そしてその向こう側の空の色。
 窓という名のキャンバス一面に蒼黒の空が広がり、そこに僅かに垂らしたようにぼんやりと輝く月の光。
 夜はまだ続いていた。その空の濃さも全く色褪せていないことからして、私が眠っちゃっていた……否、気絶しちゃっていた時間はほんの僅かな時間だったのかもしれない。
 それに、私のことを見下ろすエっちゃんの表情は微笑んではいるものの、その額にビッシリと汗を浮かばせていて、どこか凄く辛そうにも見えた。
 それに何よりも、私の四肢にはまだほとんど力が入らないほどに気だるくて、下の方には何か違和感を覚えた。
「え? あっ、はわわ……」
 横たわったまま、ゆっくりとその違和感を覚える箇所に目線を下げたとき、今度は私自身がどういう状況にあるのかに気付き、真っ赤になってシーツに顔をうずめた。

 私まだ……、エッちゃんと繋がったままだよぉ。

「やだ……」
 自分の中にエッちゃんのモノを認識してしまうと、先程の行為が思い出されてしまい、余計に顔を紅くしてしまっていた。
 あんな風にイッちゃうなんて、すごく……恥ずかしい。
 更に、あのときの恐怖すら覚えるほどの感覚をふと脳裏に蘇らせてしまうと、私の身体……下腹部は私の意思と無関係に反応してし、キュウとエッちゃんのことを締め付けてしまった。
「くっ……」
 するとエっちゃんの顔がすごく苦しそうに歪む。が、それでも私に向ける表情は笑顔のまま変わることはない
「ははっ。実はまだ……だから」
「あ……」

 そこで私はようやく理解した。
 わたし一人だけイってしまって取り残されたエッちゃんはもの凄く辛いはずなのに、どうして敢えて私と繋がったままでいてくれたのか、を。
 それはきっと……泣いちゃった私を慰めるため、ずっと私の側に居続けようとしてくれたからなんだと思う。
(ごめん……ごめんね、エッちゃん。いつもいつも自分勝手で……)
 と口に出して謝りたかったけれど、私は口を噤んでそれを飲み込んだ。
 だって、もしそう言おうものなら、きっとまた「謝らないで」と怒られちゃうだろうと思ったから。
 だから私はエッちゃんの頬に両手を伸ばし、優しく撫でて、謝る代わりにこう口にしたんだ。
「エッちゃん。今度はエッちゃんが気持ち良くなって。私で……気持ち良くなって」
「ノーマ……」
 それはトンでもなく恥ずかしい台詞のはずなのに、恥ずかしいなんて微塵も思うことなく、自然と口に出していた。それに……。
「……ぁぅ」
 エッちゃんがほんの僅か身じろぎをするだけでも、私のアソコはまた過敏に反応してしまう。それほどにエッちゃんのことを求めてしまっていたから。

「ノーマ。ホントに……大丈夫?」
 そんな同意を求めるのすらホントは面倒なくらいなはずなのに、エっちゃんはわざわざそう訊ねてくる。
 だから私はそれに対して優しく頷くと、エッちゃんのことをまっすぐ見つめて微笑んだ。
「今度は私……頑張るから。エッちゃんのこと気持ち良くさせてあげられるように頑張るから。だから、エッちゃんはエッちゃんの好きなように動いて?」
 こんなにもいつも私を大事に思ってくれたエッちゃんのことがすごく愛しくて、私は身も心も全て……エッちゃんに捧げあげたいって思った。
「ありがとう。なら……その……、後ろから……してもいいかな?」
「後ろ……から?」
 それでもまだ、ためらいを見せながらエっちゃんが口にしたのはそんな言葉。
 後ろから……というのはつまり「『後背位』というものをしたい」と言っているのだろう。
「あっ、いや……、ノーマが嫌ならいいんだ。僕の単なるわがままだから」
「エッちゃん……」
 今までも何回も身体を重ね合わせてきた私たちだったが、後背位というのは試したことがなかった。
 その理由は簡単。エッちゃんの顔が見れないからだ。
 満月の夜にしか人間の姿に戻れないエっちゃん。そんな人間の姿のエっちゃんに久しぶりに会えたというのに、その顔を見られないというのが嫌だったから。
 だから今まではしなかったのだけれど……。
「うぅん。エッちゃんがしたいんなら、私……いいよ。エッちゃんの顔見れないのは寂しいけど、エッちゃんはしたいんだよね、後ろから?」
「う、うん……、ごめん」
「……もぅ。エっちゃんも謝っちゃダメだよ」
 そう言って、私は微笑みながらエッちゃんのおでこをパチンと弾く。そしてもう一度だけその頬をそっと撫でた。
「でも、でもね。その代わり……、優しくして? エッちゃんが見えなくても、エッちゃんがいるんだって感じられるように」
「……うん、約束する」
「それなら……、んっ、ちゅ」
 私は最後にエっちゃんの顔に吸い込まれるように口づけをする。そしてエっちゃんのモノを一旦抜いてからごろんとシーツの上で翻った。

「えと……、これで……いいのかな?」
 私はうつ伏せになりながらも少しだけ腰を浮かせ、すごく恥ずかしいけど、エッちゃんにお尻を突き出すような格好をしてみせた。
「……ごくん。う、うん。それじゃあ、いく……から」
 私はシーツに顔をうずめ、必死にそのときが来るのを待つ。
「…………」
 ――あっ、エッちゃんが私の腰を持ち上げた。
 エッちゃんのことが全く見えないせいで、そんな一挙一動にも驚いてしまう。
 ドクン、ドクン、ドクン……。
 そんな驚き、不安……そして微かな期待が胸を躍らせ、鼓動がどんどん強く、速くなっていく。
「んっ。ノーマ……、力抜いて」
「ぁ、うん。分かった」
 そして私の腰が90°以下にまで折れ、お尻を高々と持ち上げられたとき、私のアソコにエっちゃんのモノが再び触れた。
「エッちゃん……いいよ、来て?」
 そんな私の言葉を合図に、エっちゃんのモノが再び私の中へと戻っていった。

「ひゃ……ぁ……、なん……で……?」
 別にさっきのように激しく挿入されたわけでもなく、ただゆっくりと繋がっただけなのに、私はさっきと同様……むしろさっきよりも深く大きな快感を得ていた。
「あっ……は、あぐっ」
 体位を変えて初めて気付く。互いの顔は見ることはできないけれど、後背位の方が互いがずっと深く繋がっていられることに。
 それに、後ろから貫かれているとどこか『犯されている』という背徳感に駆られ、いつもと違った感覚で私の身体を快楽で蝕んでいった。

「あん……やっ、恥ずかしい……よ」
 エッちゃんは腰を何度も前後に揺さぶりながらも、そのまま私の身体をまた少しずつ持ち上げていく。私は半ば宙吊りになっているかのような浮いた格好にさせられ、大切な部分だけでなく、お尻まで曝け出されてしまう。
「エッちゃん……。ダメだよ、こんなの……」
 その今まで経験したこともないような形で交わり、驚きもし、昂揚もし、嫌悪感すら少し覚えたけれど、それでも私の感覚は『気持ち良い』で溢れていた。
「エッちゃん、エっちゃん……」
 だって、背後から獣のようにされているというのに、胸を弄られ、うなじをその熱い吐息と共にエっちゃんの舌が滑る。そんな風に同時に責められては、どうにかなってしまいそうで。それに……。
「ノーマ……」
 そんな快楽に溺れそうになってしまいそうになるかどうかの瀬戸際をまるで見計らったかのように、エっちゃんがキュッと私のことを後ろから抱きしめてくれるのだ。
「きゃうぅっ! いい……イイの、エッちゃん」
 そして、たまらない嬌声を私に上げさせる。
 私はシーツを噛んでその声を何とかとどめようとするのだけれど、身体の揺れが激しすぎてすぐに宙に放り出されてしまう。
「ノーマッ!」
 その私が跳ねたその瞬間を見計らってか、エッちゃんは私の奥を一度ズンと激しく突いた。
「はああぁぁ――ッ!!」
 その腰が砕けそうになるような強い刺激に、私は今まで一番大きいであろう喘ぎ声を上げてしまっていた。
「……そうか。ノーマ、ここがいいんだね?」
 私のその過剰な反応にエッちゃんは気を良くしたのか、その場所だけを重点的に責め始め、奥へ……更に奥へと、子宮口を叩くくらい深く腰を突き入れてきた。
「やっ、はぐ! あぅあぁ!!」
 私はそれに答える事が出来ず、ただただだらしなく涎と喘ぎ声を口から漏らすだけだったが、私の膣内はしっかりとそれに答えるかのようにギチギチとエっちゃんのモノを締め付ける。
「ノーマ……、すご……すぎ……っ」
「ちがう……、違うの。これ……わ、わらし……じゃ……なぃの」

 また、こんな……凄いの! おかしく、なっちゃうよ!
 恐い……、怖い……、こわい……、コワイ……。

 自分の身体が自分のモノでないかの蠢き、呂律ももう上手くまわっていない。
「エッちゃん、こわい……のぉ。わたし、おかひく……なっちゃって……」
「大丈夫。僕が……僕が側にいるから。一緒にいるから」
 そしてまたエッちゃんは私のことをきつく抱きしめてくれる。それが私に一時の安堵を与えてくれた。
「はぁ、はあぁ……。エッちゃんは……まだ、気持ち良くない? 私……、そろそろ……限界……だよ」
「僕も……、僕ももうすぐだから。だから、もう少しだけ……頑張って」
 私の何度目かになる絶頂は近い。今度こそエッちゃんと一緒にイきたかったのに、私の身体はあと少しの時間も耐え切れそうにもなかった。だが……。

「……う、あっ、く……ぅあ」
 そのとき、エっちゃんが初めて私にもハッキリ聞こえるくらい大きく喘いだ。
「エ……エッちゃん?」
 顔は見えないけれど、そんな声を出すエっちゃんが今どんな顔をしているのか……それを想像すると、なにか少し嬉しくなった。
 多分私の絶頂が間近なことで、それにつられて膣の動きも激しくなっているのかもしれない。
「エッちゃんも……、エッちゃん……も……」
 ジュブジュブと大きく聞こえてくる卑猥な音で、エッちゃんも我を忘れるくらい腰を振って、快楽を求めていることが分かる。
「あっ! ああん!!」
 私もエッちゃんも息を荒くしながら、ただただ喘ぎ声をあげるのだが、愛液や互いの腰が打ち鳴らす音に全てかき消されてしまう。
 それほどにエっちゃんは腰をひたすらに動かし、私はそれにただただ貫かれ続けるばかり。

「イ……イッちゃ……う」
「僕も……もうっ」
 エっちゃんもついに限界を感じたのか、ピッチが一気に早まった。
 その一突き一突きの衝撃が、断続的に脳天にまで突き抜ける。
 一度、二度、三度……四度。そこまでは数えられたが、それ以降はもう何も分からなくなり、まるで宙に浮いたような感覚が私を襲う。
「あんっ! エっちゃん……、い……っ」
 最後にもう一度だけ私の脇の下から伸びてきたエっちゃんの腕が私の身体を包んだとき、エっちゃんの最後の一突きが私の最奥目掛けて強烈に打ち込まれた。
「……んっ!!」
 私の口はもう喘ぎ声すら紡ぐこともできず、ただ身体を激しく震わせて、膣内を侵すエッちゃんのモノをきつくと締め付ける。
 同時に、そこから熱い迸りがエっちゃんのモノでも届かなかった子宮の内部へと解き放たれた。

 あっ……。また、イク……。

 ビュクンと、堰を壊す激流のようなエっちゃんの精液が強烈に私の膣を満たしていく。
 私はその得も言われぬ快感と、今まででは感じることのできなかったものすごい達成感に、私は糸切れた人形のようにカクンとベッドの上に四肢を沈ませた。

「はぁ、はぁ、はぁ……」
 さっきみたいに気絶してしまう……なんてことにはならなかったが、やはり全身が酸素を求めているかのように気だるく、指の一つも満足に動かすことができなかった。
 でも、その疲労感も『二人が共に達することができた』ことの代償だと思えば、それすらもむしろ心地良い。
「ねぇ、エっちゃん?」
 私に覆いかぶさるようにして、いまだ繋がったままのエッちゃんに声をかける。
「…………」
 が、返事はない。
 まさかさっきの私みたいに気絶してしまった……あるいは寝てしまった、などというようなことはないと思う。
 私に体重がかからないように支えながら覆いかぶさってくれてるみたいだから。
「……んっ?」
 じゃあ、どうしてエッちゃんは返事をしてくれないのだろう?
 喋るのすら面倒なくらい疲れちゃってる? それとも……?
 それを確認しようにも、元々身体が動かない上にエっちゃんに動きを封じられちゃってるから、今もまだエッちゃんの顔を見ることもできない。
「ねぇ、エッちゃん? 何か……言ってよ?」
「…………」
 やはり、何も言ってくれない。
 でも、呼吸と共に吐き出される吐息は私の首筋に当たっている。それは寝息と明らかに異なり、むしろそれは荒々しくて、唸り声にすら聞こえてしまう。
 もしかして、怒らせちゃったんだろうか?
 一緒に達することができたと思ったけれど、実はあまり気持ち良くなかったんだろうか?
 そう思うと、せっかくの満足感が冷め、不安だけが私の中を覆いつくしていく。それも、相手の顔が見れない分余計に。
「ね、ねぇ……、エッちゃん……」
 そしてもう一度だけ、消え入りそうな声でそう呼びかけたとき、ベッドのスプリングがギシリと大きく歪んだ。
「きゃっ!?」
 エっちゃんの腕がちょうど私の顔の横に叩きつけるように立ち、私の身体の上から自分の身体を離したのだ。
「……ぐっ、ウゥ」
「エッちゃん!? ど、どうし……た……」
 エッちゃんの身体との間に隙間が空いたおかげでようやく動くことができるようになった私は、立てないまでも身体を転がしてエッちゃんの顔を見ようとする。
「ノ……オ……マ……」
「きゃうっ!?」
 が、私は何故か突然、エッちゃんに後頭部を掴まれ、ベッドの上に頭を押し付けられていた。

「ぅ……、ぐぅ。エ……ちゃ……、どう……しちゃったの……」
 さっきまであんなに優しかったエッちゃんが突然そんな乱暴な行為を働いたのだ。驚かないはずがない。むしろ、少し悲しくなってしまった。
「ノーマ、ノオマ……ノ……ウ……マ……。グッ、グル……」
「エッちゃん……、まさかっ!?」
 そのどこかおかしくなっていくエッちゃんの言葉。そして、言葉ではなく、まるで獣のような声に、私はある結論に辿り着いた。

「まさか、呪いが……もう?」
 エッちゃんは満月の月夜を過ぎると、再び獣の姿に戻ってしまう……そういう呪いを身体に宿している。
 でも、窓の外を見ても、まだ夜明けには時間があるように思えるし、満月の光もこの場にはっきりと射し込んでくるほどに輝いている。
 つまり、まだ呪いが戻ってしまうには早すぎる。なのに、どうして……?
「グ……ぁ、が……」
「エッちゃん、どうしちゃったの? こんな、おかしいよ!」
 万力のような力でベッドに押し付けられながらも、必死に呼びかける。
 だって、やっぱりこれはおかしすぎる。今までこんなこと一度もなかった。
 仮に解呪の時間が短くなってしまったのだとしても、エッちゃんはまた獣の姿に戻るだけ。喋ったりすることはできないけれど、ちゃんとエッちゃんとしての『理性』を持っているはずなのである。
 なのに、今のエッちゃんはまさに獣同然。いつも私に見せてくれる優しさすらない……ただの野生の獣。
「……アァぁッ!」
 そして私の両腕がまるで手綱のようにエッちゃんに掴まれる。
 ザワリ――。
 そのとき、私はその手にエッちゃんだけど、エッちゃんとはまるで異なるような感触を得る。
 この感触は……、そう。獣の硬い剛毛の感触。
「う、うそ……。嘘だよね? 身体まで……元に?」
 その感触と今起きているこの事態に、私はさっきまでの行為の中で感じたような恐怖とは全く異質の……、ある意味、本来の意味での『恐怖』を感じていた。

 コワイ……、エッちゃんのことが。

 これまでずっと一緒にいたエッちゃんに対して、生まれて初めて覚えてしまったその感情。
 私にとってはそのこと自体が、この上ない絶望的な恐怖だった。

「や……だ。やだよぉ……、エッちゃん」
 涙が私の瞳いっぱいに溢れ、とめどなく流れ出す。
 こんなときはいつもエッちゃんが私のことを慰めてくれたのに、今はそれもない。
「……ハッ、ハ、……ぅあァっ」
 それどころか、エッちゃんは腕だけでなく、ほとんどが獣の体毛に覆いつくされそうなっているその身体を私の後ろから近づけてくる。
「エっちゃん、エッちゃん……、うっ、うぅ」
 いくら私だって、この後どんな自体が待ち受けているのかを想像するのは容易だった。
 相手はエッちゃんのはずなのに、最早エッちゃんじゃないただの獣に犯される…………それは多分、絶望でしかない。
 でも、今の私はそれを受け入れるしか術はない。それもまた、私を絶望の淵へと追い込んでいった。

 だがそのとき、ほんの一瞬……、本当にほんの一瞬だけだけど、エっちゃんの微かな『言葉』を聞いたような気がした。
「ウッ……ぐ、ぁ……の……ぉ……、マっ!」
「エ……っちゃん?」
 それはずっと、獣的な呻き声、鳴き声なのかと思っていた。
 でもその声を聞いて、私はそれが呻き声でも泣き声でもなく、エっちゃんの……『人』として苦しんでいる声だということを知った。
「エッちゃん……、もしかして?」
 そのときふと弱まった束縛から離れ、ようやく私はエっちゃんの方へ振り返る。
「……エっちゃん」
 そこでは、まだ完全な獣の姿には戻っていない半獣半人といったような姿のエっちゃんが自らの頭を押さえていた。

 押さえた手の隙間からこぼれ出す光。それはエッちゃんの呪いの根源とも呼べる紋章――『獣魔の紋章』。
 最近ようやく会うことがすごい魔法使いさん、レヴィさんの話によれば、それは27の真の紋章というものの内の一つ『獣の紋章』の眷属の紋章らしい。
 そして、その『獣の紋章』というのは、生物の『激情』を司る紋章。
 しかも、エッちゃんがこんな風になってしまったのはさっきの私との行為の後。
 つまりこんな風になってしまったのは、もしかしたら『性行為』という生物として『激情』が、本来弱まっていたはずの紋章の呪いを逆に引き出してしまったせいなのかもしれない。
 今夜の交わりは特に激しかったせいで。

「ぅあ、あぁ……っ! くっ、ぉ……」
 エッちゃんはその紋章と必死に戦い、苦しんでいたんだ。
 もし仮にエッちゃんがその獣魔の紋章の過剰的な力に負けてしまっていたら、今わたしはこんな状態にはなかったのかもしれない。
 つまり、こんなになってまでもエッちゃんは私のことを守ってくれていたんだと思う。
「エッちゃん、私……っ」
 涙をふく。泣いてなんていられないもの。
 だって、私は約束したから。

「あのね、エッちゃん。今度は私が……、今度は私が守るからね。エッちゃんのこと……必ず守るからね」

 そうだ。今度は私がエッちゃんを苦しみから守ってあげるんだ。だから……。
「いいよ、エッちゃん。エッちゃんのその辛い思い……私が受け止めてあげるから」
 そして私は苦しみもがくエッちゃんの身体をそっと抱きしめた。
 ――怖くない。今ならきっと、受け入れてあげられる。
 たとえ今のエッちゃんの身体が少しだけ違くても、やっぱりエッちゃんはエッちゃんなんだから。

 そして私は再びさっきのときのようにうつ伏せになって横たわる。
「あの……。今のエッちゃんの姿なら、こっちの方が……しやすい、よね?」
「…………」
 まだ完全な獣の姿になってはいないとは言え、完全な人の姿をしているというわけでもない。
 ならば、より動物的な……先程の後背位の方がいいのではないかと思ったからだ。
 ……勿論、恥ずかしくないわけじゃない。怖くないわけじゃない。
「きて……いいよ、エッちゃん?」
「ゥ……ぐっ。ノ……ま……、ごメ……ン」
「ううん。いいんだよ、エッちゃん」
 でも、辛いはずなのにそうやって私の名前を呼んでくれるんだから。

 そんなエッちゃんのことが、私は大好きだから。

「エッちゃ――、んっ!?」
 次の瞬間、エッちゃんの身体が私の背中に張り付き、そしてその剛直なモノが私のことを貫いた。
「ぃ……ギッ!? んっ、あああぁぁ――ッ!」
 ソレに貫かれた瞬間、私の意識は確実にトんだ。
「あぐっ!? はっ、はっはっ……はっ……ぁ」
 だが、すぐに現実に引き戻される。痛みとも快楽とも呼べないその感覚で。
「ハッ……ぅ、うぁ、あぁん。コレ……なに……」
 まるで私の身体を穿つほどに今のエッちゃんのソレは大きく、硬い。人のときから比べても何倍以上もありそう。
 そんなモノでこのまま貫かれ続けたら、気絶するどころか……死んじゃうかもしれない。
「あっ、ああぁ。ふっ、くぁ……あああっ!!」
 そしてそれが少しでも動くたびに、私は絶叫に等しい叫び声をあげていた。

 おかしくなる。もう何が何だか分からないくらいに、自分が誰かかも分からなくなるくらい。
「あっ、ひゃぅ! んっ、んぅ……はあぁ! やだ……もう、イ……く……?」
 まだ始まったばかりだというのに、私はその信じられないくらいに肥大化しているソレに突かれ、早くも一度目の絶頂を迎えてしまっていた。
「あああああああぁぁ――っ!!」
 それに伴い、私の秘部からはビチャビチャと愛液がこぼれ落ち、シーツの上に大きなシミを作り、私の肩はガクンと落ちた。

 本来ならばここでもうおしまい。
 だが、今は当然そんなことだけでは終わらない。と言うよりも、今ようやく始まったばかりという感じ。
「きゃっ!? あっ、はあああぁぁン!!」
 そしてまたエッちゃんが腰の動きを再開させる。

 犯されている。今まさに、私は犯されている。
 そんな実感だけが今の私を支配していた。
 でも、それでよかった。だって、今の私の目的は、ある意味、エッちゃんに犯されること。その激情が治まるまで、何度も何度も……。

「あはッ、ん。ダメ……こんなの、私しらない……。こんな……」
 最早エッちゃんに突かれるだけで絶頂に達してしまっていると言っても、過言ではないかもしれない。
 それほどに私は幾度となく絶頂を迎え、それに重なるように次の絶頂を迎える。

 それをもう数え切れないほど繰り返した後、ようやく終わりが訪れた。
「ノオ……マッ! おおおォォぉ――ッ!!」
 エっちゃんが雄叫びを上げながら、その腰を一番奥まで突き出した。
「ヒッ……あ、あぁ……。イ……ぁ」
 ビュクビュクと、エッちゃんから吐き出されては私の中には収まりきらずにこぼれ出す精液の受けながら、最早達しているのかどうかも分からない感覚に襲われ、事切れたようにベッドの上に倒れこんだ。
「んっ、あ、あぁ……。エッちゃんので、いっぱい……」

 その全ての行為が終わった後、エっちゃんもまた私の横に倒れこんでくる。
 消えゆく意識、ほとんど閉ざされた瞼の奥に微かに見たエッちゃんの姿は獣のままか、それともまた人の姿に戻れたのか……はっきりとは分からなかった。
 でも、満月の下、その光に映えるエッちゃんの表情は、どこかすごく優しくて、どこかすごく……綺麗だった。
 そうしてこの『トンでもない一夜』は過ぎていった。

「『月の紋章』……ですか?」
 翌日、ズシリと重い腰のせいでまとも歩けず、エッちゃんの背に乗りながらレヴィさんに話を聞きに行った。
 勿論、昨夜の蜜月のことは伏せておく。
「うむ。月夜……それも満月の夜だけ元の姿に戻れる。これはやはり月……それも最も強くなる満月の魔力の影響としか考えられん」
「それは……そうかもしれませんけど」
「とすればだ。エルンストくんの身体を元に戻す手がかりは月の紋章に起因しているのではないか、
と私は推測したのだが、決してあり得ない話でもなさそうに思える。
 それに私の知るところによれば、月の紋章というのは『夜の住人に対する慈悲』の紋章だという説を聞く。とすれば、更にエルンストくんの身体との関連性は強くなる」
「は、はぁ……」
 レヴィさんは紋章のことになるとやたら熱弁を振るうようになる。
 だが、たとえレヴィさんの本当の興味、関心は紋章のことにあったとしても、エッちゃんを元に戻そうとしてくれているのだから嬉しいことには違いない。
 違いないのだけれど、やはりどこかそのノリにはついていけないところもまた事実だった。
「むぅ。しかし、『月の紋章』か。なんらかの形で真の紋章が二つも絡んでくるとは……、私はものすごく恵まれているのかもしれん」
 レヴィさんその豊富な顎鬚を撫でながら、口元をニヤリとつり上げる。
「あ、あの……」
「ならば、ここはやはり、一度その『獣魔の紋章』の置かれていた地を訪れ、何か裏づけ、もしくは手がかりとなるようなものを見つけ、それから……」
「レ、レヴィさん? 何処へ……」
 そして何やらブツブツと口にしながら、レヴィさんは私たちの前から歩き去っていってしまった。
 その後ろ姿はある意味たのもしくもあるけれど、やっぱり少し……不安だった。
「う、ううん! レヴィさんはなんてったって『すごい魔法使いさん』なんだから。だから任せておけば絶対大丈夫だよ……ねっ、エッちゃん?」
「……クルゥ?」
「…………」

 このファレナでの戦いの後、私たち三人は目的新たにして旅に出る。
 その地でもまたトンでもないことが起きてしまうのだが、その話はまた……別の機会にということで。

エッちゃんはレオタードの下腹部付近の端に爪を引っ掛けて横にずらし、その下にあった白いタイツをギリギリと歯で喰いちぎっていた。下半身に纏わりついていたレオタードとタイツから解放されて、私の大切な部分が外気に晒される。それも、ビショビショに濡れてしまっているせいでその外気を余計に冷たく感じてしまったが、それは痛くも……そしてどこか心地良くもあった。

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