フェリド×アルシュタート 著者:群島好き様

「船の旅というのは慣れると存外心地良いものですね。」
既に群島諸国に来て数週間。ふとした事から知り合ったフェリドとアルシュタートは群島の各地を旅をしていた。
「そういえばアルはファレナから来たのだったな。最初は船酔いが辛かったのじゃないか?」
「ええ、少しは。ファレナにも船はありましたが、河と海は勝手が違って大変でしたよ。
 もっとも…ガレオンのほうがひどい有様でしたけど。」
「ハハハッ、あのおっさんがか。最初に会った時は日輪魔王のようなしかめっ面をしてたが、  あれは我慢してたのか。どうりで近づける気がしなかったわけだ。」
「むぅ……」
まるで付き合い始めたかのような気さくな会話をする二人と、少し離れた所に仁王立ちしている護衛のガレオン。
海賊退治で知り合った者達。
片やファレナの姫、片や群島諸国の海軍で名を馳せる将軍の息子。
お互い素性は知らぬものの、立ち居振る舞いや貫禄に劣らぬもの同士だからか、気が合っていたのだろう。
アルシュタートはアルと名乗り群島のガイドを頼んだのだった。
もっとも事情を知るガレオンは、一国の姫がどこぞの馬の骨とも分からぬ輩と話しているのを見て気が気ではなかった。
それでもフェリドはただの一般人とは違う気配を感じさせていた。
その剣術、知性はただの野蛮な風来坊には出せない貫禄であった。
口調も上品とは言えないが、人の心に染み渡る旋律は気の良いものであった。
そしてそれはフェリドのほうも感じていた。
ファレナから来たとは言っていたが、普通の民とは違う。しかし貴族とも違う。
叩き上げとは言え、要職にいる父のお陰で数多くの人と出会ってきた。
お偉いさんがたは、どちらかと言えば粗暴な部類に入る自分達を見下してきたし、そういう家柄の令嬢も鼻にもかけず見下すか、しなを作って将来の要人に取り入ろうとするものばかりだった。
しかし、アルは違う。貴族の娘は三節棍を振り回しはしまい。
あの戦う姿に見惚れついガイドを申し出たが、嫌な顔一つせずむしろ改めて頼みこんできた。
一度ガレオンが「姫様!」と言うのが聞こえたがそれこそ有り得ない。どこぞの武門の家の出なのだろう。
「あ、フェリド!島が見えてきましたよ。あそこがそうなのですか?」
「ん?おお、そろそろか。そうだ、あの島がそうだ。」
つと考え込んでしまったが、考えても正体が分かる訳ではない。
素性を言えぬのはお互い様だ、そう結論付けて一行は目的の島に目を向けていった。

「ここが別名、人魚の島、と呼ばれる所だ。100年以上前にはこの島に人魚が住んでいて流れついた人を丁重にもてなしたそうだ。
 もっとも、今では影も形も見えないが、な。また蟹の名産地でもある。」
「人魚ですか、素敵な話ですね。しかしどうしていなくなってしまったのです?」
「さぁ…色々言われてはいる。心無い者達に追われたとも、この地に人が住み始めたから自ら消え去ったとも、
 また御伽噺風味ではあるが、一人の英雄に導かれ新たな楽園をみつけたとも言われている。
 今では群島で見た、という人はいないからな。」
自分が悪いわけではないのに、申し訳なさそうな顔をするフェリドにアルシュタートは元気付けるようしかし真剣に答えた。
「わらわはその御伽噺を信じますよ。今でもどこかの海できっと泳いでいます。
 誰にも、何にも縛られることなくきっと、自由に。」
それは願い。切実なる願い。永劫に叶わぬ自らの想いを託したかのような真剣な答え。
フェリドはそう感じた。この少女は何か重いものを背負っている。
それから逃げ出そうとも逃げてはいけないという相反する想いを持っている。
しかし、自分には答えられない。否、応えられない。
未だ自分の道を見つけ出せずにもがいている青年には曖昧な返事――
「そう…だな。きっとそうだろうな。そうそう、あとここには万病に効く人魚の温泉ってものもあるらしい。
 一緒に探してはいってみるのはどうだ?」
「…フェリド殿。」
「どわっ、ガ、ガレオン。じょ、冗談だ、冗談。お忍びの方にそんな無礼なことはしないって。」
「お願いしますぞ。」
「は、ははっ、そんな仇敵を見るかのように睨むなっての。」
「うふふ。」
「ハハハッ。」
「……」
そして軽口をたたき、その場を逃れることしか出来なかった。

「ふぅっ…」
人魚の温泉――もっとも宿屋に隣接するここの温泉は名前だけではあるが――に浸かりながら潮風でべたついた体と海のモンスターとの戦いで疲れた体をほぐしながらフェリドは先ほどの事とアルの事を考えていた。
どこかの名家の出であり、群島には見聞の旅に出たと言っていた。
しかしただのお嬢様ではあるまい。海賊退治の時もそうだった。
戦う姿は柄にもなく見惚れたものだった。
どこか殺伐とする筈の戦いが彼女が自らの三節棍を振り回す姿はまるで舞を舞うかの如き、そう、素直に美しいと思った。
戦いの女神というものがいれば彼女のような容姿なのだろう。
そして先ほど垣間見せた取り繕わぬ想い。
「縛られることのない自由、か――」
それは自分が自分に問い続けている命題でもあった。父とは違う道で自らの「何か」を見つけ出す。
家族を捨て、責務を捨てた。しかしそんな自分を快く送り出してくれた弟。
だが、これでは逃げ出しただけではないのか?そんな思いが纏わり付く。
だから応えられなかった。あの時彼女はどんな応えを待っていたのだろう。
それに応えられることが出来たら彼女は俺を――
「誰だっ!」
人の気配を感じ、常に離さぬ愛剣を身構える。強盗?人攫い?
「ふぇ、フェリドなのですか!?」
振り向き、剣を構えた先には一糸纏わぬ、いやタオルを前にかけただけの生まれたままの美しい姿の、ああ、銀の髪もキレ――
「イダって、アルぅ!?あわわ、いや、そのこれは、うんなんだ、いわゆるひとつの、じゃなくて――」
「す、すみませんが、う、後ろを向いて頂けますか?このままでは、その…」
「あ、ああっ!そ、そうだよな!うん、気が利かなくてすまん、い、今出るから!」
「いえっ!そのままで!こちらを向いてもらわなければ、わらわはだいじょうぶですから!」
「そ、そうだよな!このままあがったら俺のムス――がぼぼっ」
…沈黙。お互い背中合わせのような形で数分間。
(落ち着けぇー、俺、落ち着けぇー、俺。そうこれは事故!俺が入ってるのを知らなかったアルが悪いわけじゃない!
 不慮の事故って奴だ!アルの裸を見ちまったのも、誰が悪いわけじゃあない。そう強いて言えばあんなけしからん体をしているアルが――
 じゃなくて!落ち着けぇー、俺!そうだ!たしか落ち着く為には素数を――)
「あ、あのフェリド?」
(――える暇もないのかー!?そうだ、事故とはいえ女性の裸を見てしまった時はこれしかない!)
「「ごめんなさいっ!!」」
「え?」
「あ…」
不意に声が重なり、気まずい雰囲気が流れる。
「あ、あのわらわからでいいですか?」
「ど、どうぞ!覚悟はしていますぅ!」
「…何か口調が変ですが…、コホン、申し訳ありません。誰かいることを確認もせず入ってしまって…」
「い、いや俺のほうこそ、女性の体をマジマジと見てしまって、あ、いや、見る気はなかったんですよ!?」
「「………」」
「ふふふ。」
「ハ、ハハハッ。」
沈黙を崩したのはアルシュタートの笑い声。その笑いは今までのよりずっと砕けた感じで。
つられて笑ってみるのがいいのかと思ったが―
「何かお互い落ち着きがないですね、ふふっ。」
「そうだな、いきなり考えだにしなかったことが起きたもんでな、ははっ。」
「……静かな夜。こんな星空の下で何をやってるんでしょうね、お互い。」
「そうだな…、あまりに騒がしいのは島の動物達に迷惑になるよな。」
「ふふふふっ。」
「ははははっ。」
どこか不自然で、だけどギクシャクした雰囲気はもう、ない。
すこしばかりの偶然の悪戯が、お互いの意外な一面を見せ合い、満点の星空の下の温泉の夜は更けていった――。

その、今夜の事はガレオンには黙っててくれよ?ただでさえ睨まれてんのに
 こんな事知られたら、確実にこの近海が俺の恒久的な領土にさせられて、
 魚介類への滋養分の散布行動させられる事になるからな。な?」
「そうですね…、とっても素敵なごほうびが欲しいですね…。ヌシガニのデストロイ鍋で手をうちましょう。」
「…やっぱり怒ってる。か、金がぁ。」

島でのガイドはさほど難しいものではなかった。元々この島には目立ったものはない。
ただ言い伝えでは群島諸国連合はこの地から始まったとも伝えられている。
真偽の程はさだかではないがこの島には人の力ではとてもつけられない痕跡も残っている。
本当の事かはわからないのにアルシュタートは実に興味深く尋ねてきた。
紋章の力なら有り得るのではないか、知られていない、そう真なる紋章なら可能ではないか、何の為にこの島を傷つけたのか。唯の興味とは思えない真剣な表情が気になった。
やはり底が知れない。しかし、それも彼女の魅力を損なう要因にはならなかった。
余計な事を探り出すよりはこのままの関係でもいいと思った。

だが互いの命運を決める事件が起きる。その日はその島での最後の滞在の日だった。
その日は出発まで自由行動という事にしておいた。四六時中つきまとうのも悪いかと思っての配慮だったのだが…
「フェリド殿はおられるか!」
「んあ?誰かと思えばガレオンじゃないか。出発まではまだ時間はあるぞ?」
「そうではない!ひ…アル様はこちらにおられるか?」
いつも以上な真剣な顔つき、そこからは憔悴が見て取れる。
「どういうことだ。あんたが常に付き添ってる筈じゃあなかったのか?」
「それが、お土産を買ってくるだけだから大丈夫ですよ、と仰られてから既に二時間程は経ったのだ。
 しかし、戻ってこられない!露店にも行ってみたが見当たらないのだ!」
「なん、だと…?」
この島には集落は一つしかない。ましてや土産物屋など数える程度しかない。ならば、何処に…?
「クソッ、考えてる暇はない!おっさんは港のほうをさがしてくれ!俺は露店のほうに行く!」
「承知!」
この島は広くはない。一日二日歩き回れば全てに行き着く。見つからない筈はないのだ。
だからこそ嫌な予感がした。何か取り返しのつかない事になるのではないか。
とにもかくにも聞き込みをしてみるしかないだろう。
考えながら足を露店のほうへ急がせたのだった。

アルシュタートは既に限界だった。彼女がいかに並みの男より、モンスターより強かろうとも所詮彼女はまだ少女の体であり、持久力という点ではフェリドやガレオンには敵わないのだ。
 ギチギチギチ…
既に何匹の子ガニを倒したのだろう。二十か三十か、いやもっと倒したのかもしれない。
だがその数に意味はない。見たところ周りの子ガニは減ったように見えない。
ましてや彼女の眼前には巨大なカニが鎮座していた。それこそが彼女がここに来た目的でもあった。
「ふぅ、はぁ、わらわの予想が甘かったのか――くうっ!」
絶えず攻撃してくる子ガニのほうは致命傷にはならない。が、確実に体力を消耗させる攻撃だ。
それに加え巨大ガニの強力な攻撃が来る。休む暇などどこにもなかった。
唯一の攻撃は風の紋章による攻撃。しかしそれも相性が悪いのか大して効いているようには見えない。
(フェリド…!)
初めに浮かんだのは気の優しい青年の顔だった。思えばここへきたのも彼の為に何かをプレゼントしたいと思ったからだ。
初めて会った時から何て不思議な人だろうと思った。子供のような無邪気さが見えたと思えば次の瞬間には知性溢れる青年の顔になる。
女性は子を宿す事により永遠に少女性を失うが、男性はずっと心の奥底に少年性を宿し続ける。
彼は当にそんな人だ。今までに会ったことのない、男性であった。
だからこそ彼との旅は楽しかった。惹かれてもいるのだろう。この時が永遠に続いて欲しいとも願った。
だがそれは望めぬ事。望んではいけない事。だけど忘れてほしくはない。
そんな時、古代ガニの真珠の話が耳に入った。古代より生き続けている巨大ガニの中には至高の宝石が存在するのだと。
人魚はきっと幸せになったのだ。その証があの御伽噺なのだ。
証が欲しかったのだろうか。自分と彼は同じ場所に居たのだ、と。
フェリドに話したらきっと笑うだろう。そして優しい言葉をかけてくれるだろう。
――そんな物が無くても俺は忘れない
だからこれはエゴなのだ。女としてのエゴ、意地なのだ。
それも無理なのかもしれない。既に三節棍を握っている感覚がない。
――ル!アル!
ほら幻聴まで。
――アル!
おかしいな。
「アル!」
「こんな事……ある筈がない……。こんな、夢のような――」
「夢じゃない。幻でもない。俺はここにいる。」
「う、あ、ああぁ……」
「大丈夫、大丈夫だから、な。」
優しく諭し、安心させるように体を胸に抱く。その後のフェリドの行動に迷いはなかった。包囲網を抜ける。
突如現れた侵入者に反応が遅れたのか包囲は脆い。それともフェリドの力か。
そして躊躇無く弟から餞別だ、ともらった紋章札を掲げる。世界が歪む。自然には存在しないはずの帯電した空気が容赦なく襲う!
白く光ったその跡に残っていたのは巨大な古代ガニ一匹。
奔る。斬る。突く。そして振り下ろす。それは当に怒りの一撃。後にファレナを救う英雄の真価は技量でもなく素早さでもなく、ただただ力。
アルシュタートはただ呆然と見つめるのみ。恐怖も、寄せていた信頼も忘れ力の魅力に魅せられていた。
次の瞬間、
  ゴワアァァァァ!
古代ガニの断末魔の悲鳴。片付いたとフェリドもアルシュタートも確信した時、フェリドの姿は地底に埋没していった。

そこは洞窟だった。高台の真下にあったのだ。それが古代ガニとの戦いで地盤が崩れたのだ。
フェリドは一瞬何が起きたのかと思った。アルを傷つけたこいつを許さない。
そんな想いだけでただ斬りかかった。硬い殻をもつこいつらにそれはさほど意味はない。
それでも生まれて初めての激情にただ身を焦がした。
散々叩きつけ急所を抉り取る。
――やった!
少しばかり気が緩む。それがいけなかった。瞬間、体が落下する。そして意識が消失した――。

何が起きたのか分からなかったのはアルシュタートも同じだった。
断末魔の悲鳴が聞こえた次にはフェリドが古代ガニとともに沈んでいった。
「フェリド!」
あとを追う。高さはそれほど高くはない。しかし打ち所が悪ければ、ましてや巨大なモンスターと一緒なのだ。
押し潰されたりしてはいないか、不安ばかりが頭を過ぎる。
後先考えず空洞へ降りる。そこは思ったよりも広い空間だった。
辺りは岩石や少量の水晶。そして命の灯火を失った古代ガニ。人が踏み入った痕跡はない。島の誰も知らない所なのだろう。
フェリドを探すがすぐには見つからない。ならばカニの裏側かと回り込んでみるとそこは水場になっていた。
いや、よく見ると湯煙が見える。フェリドの言葉を思い出す。
――万病に効く人魚の温泉ってものもあるらしい――
「まさか、ここが……?」
しかし今はその事は後だ、頭を振り余計な考えを振り払いフェリドを探す。
探し人はすぐに見つかった。横たわり気を失っているようだ。
安堵し、駆けつけたがすぐに事態は最悪なものだと理解した。
「フェ、フェリド!」
血が流れている。それだけではない。彼の脇腹を折れたカニの鋏が突きささっていたのだ。
「フェリド!しっかりして!フェリド!」
彼の体を自らの膝に乗せ傷を見る。他に目立った傷跡は見られない。ただ脇腹のみが重傷だった。
一瞬で命を失う致命傷ではない。しかしこのまま放っておけば確実に死に至る。
現に今も血が流れ続けている。まずは止血をしなければいけない。
武道家でもある彼女は少々の治療の仕方ならば習っている。また彼女の護衛であるガレオンは医術の知識も豊富だった。
ただこのような重傷は治療などといった生易しいものでは意味が無い。
まず水場に連れて行き、傷口付近を拭う。だがそれだけだった。
思ったよりも深く食い込んでいる。これでは喰い付いている鋏を取り除いた所で出血が増えるだけだ。
これ以上の出血は命に関わる。すぐに医者に診せなければならないが島の地理に不慣れな自分ではどれだけ時間がかかるかわからない。
背負っていこうにもフェリドの体は大きい。彼女に出来るのは時折うめき声をあげるフェリドに、少しでも痛みを和らげるように風の紋章で体力を持たせるのみ。それだけだった。
「わらわの…わらわのせいだ…」
その言葉にも意味は無い。アルシュタートに出来たのはただフェリドの体を抱きしめむせび泣くだけ。
泣いた。哭いた。そこに一国の姫の矜持はなかった。
自らの無力を呪い、自らの非力を嘆き、そこにいたのは信頼する者を失う恐怖に怯える一人の少女だった。

「どうした?」
「え?」
不意の声にアルシュタートは驚愕した。人の気配など先程から感じていない。
しかし聞こえたのだ。幻聴ではない。それでもアルシュタートの目の向く先にはただ巨大な抜け殻がたたずむのみ。
「こっちだ。どうした?」
声の主は後ろからだ。しかし、後ろ?自分の後方は温泉があるだけ。まさか、幽霊?
それでも振り向かざるを得ない。最早、何の手立てを持たないアルシュタートに冷静な思考は無理な注文だった。
そこには、いた。幽霊でもモンスターでもなく、そこにいたのはフェリドが話してくれた、人魚。
人間と同じ手足を持つもののそこにははっきりとヒレがついている。
全身はまるで服がぴったりとはりついたようで、体の動きと一致している。
そして何よりもその、顔。光沢のきれいな髪と、人が持つ事の出来ないどこまでも純粋な瞳。
「? こえ、わからない? どうして、ないてる?」
我に返った。そうだ、見惚れている場合ではない。フェリドの傷を――
そこで思い出した。
――万病に効く人魚の温泉――
温泉自体に効能はなかった。傷口を拭っても変化はない。
しかし、言い伝え全てが嘘なのか?そこには一片の真実が含まれているのではないか?
「お願いです!この人を助けて!」
縋る術はもうこれしか残っていない。これが駄目ならフェリドを待つのは、死。
悲痛な願いがその言葉には込められていた。
「………」
人魚は返答の代わりにフェリドを診る。血に怯えたように震えたがそれでも傷口を診る。
沈痛な面持ちがアルシュタートを不安にさせる。どうにもならないのか、と。
その口から出る言葉を待つ。希望の言葉を――
「あれ、たおしたの、おまえたちか?」
「え?」
だが言葉はあまりにもかけ離れていた。人魚は今はもう動かない巨大な暴君を見てからそう尋ねた。
とっさに返答に詰まったが、すぐに怒りの感情が噴き出してきそうになる。
こんな事態になにを――と思ったが人魚の瞳は悪意を持つでもなくどこまでも純粋。
その瞳に毒気を抜かれ
「え、ええ。い、いえ、この人が……」
そう答えるしか出来なかった。
「すごい。あれ、たおせるの、あのひとしかしらない。」
子供のような驚きと尊敬。人魚はその感情の視線をフェリドに向ける。少し考えた後、
  いたい…
そう聞こえた。彼女は何をしたのか。アルシュタートが混乱していると、少し涙を浮かべた人魚が言葉とともに差し出してきた。

「うぅー、これ、やる。これで、なおる。」
人魚の手から受け取ったそれは極彩色の美しい光沢の鱗。まるでそれ自体が微かな光を発しているかのようだった。
そしてこれがアルシュタートの求める希望そのものだった。
「これ、くだいてのませる。そうしたら、きず、なおる。」
「あ、ありがとう!ありがとう!これで……」
初めて人魚が笑った気がした。
「じゃあな。つよいひとにも、よろしく。」
素っ気無い言葉だが喜びを混ぜて、人魚は帰ろうとする。
一度、こちらを振り向き微かな笑顔を向け人魚は温泉に潜っていなくなった。
アルシュタートはそれを見送り、これは夢ではなかろうか、こんなに都合良く…とも思った。
しかし掌に乗る光の鱗は確かに存在する。急ぎ砕いて飲ませようとする。
そこで問題発生。どうやって?
水の代わりはある。温泉があるのだから。しかしただ口の中に入れたのでは意味がない。吐き出してそれまでだ。
方法は一つだけ。したことはない。だが確実な方法をアルシュタートは知っている。
それでも迷いは一瞬。
「今は…わらわが助ける番!」
何を迷う事があろうか。この人は来てくれた。女の子なら誰でも一度は憧れる御伽噺のような体験を。
だから次は自分の番なのだ。
フェリドを優しく横たわらせ、温泉をすくおうと顔を近づけた時だった。
「そうだ、わすれてた。」
「きゃああああ!」
先程の人魚がいきなり顔だけ出して現れた。急に目の前に顔を出されてついあげた悲鳴は洞窟中に響き渡る。
「うぅー、うるさいぃー。」
「ご、ご免なさい。急に現れたから…」
耳を押さえてまた少し涙を浮かべながらも人魚は用件を伝える。
「わすれてた。それ、のませると、らんぼうになる。きをつけろ。」
「え……?」
「じゃあな。」
それだけ伝えると人魚は再びいなくなる。気になる言葉だけを残して。
「らんぼうに…なる…?」
副作用でもあるのだろうか。しかし助かるのならどんな事でもする!
覚悟は既に決めたのだ。あとは行動するだけ。
温泉をすこし冷まし、砕いた鱗とともに自分の口に入れる。
そして力尽きようとする青年の唇と濡れた艶やかな少女の唇は触れ合う。
それは一枚絵。比翼の鳥が命を分け与えんとする荘厳な一枚絵だった。

意識を失っていたのはどれ程だったのか。だがそんな事よりも中途半端な覚醒がまずかった。
頭は中で割れがねが鳴り響いている。脇腹の感覚がない。
それだけではなく手足を動かす事も出来ない。何も聞こえず、声を出すのも億劫だ。
唯一、視覚だけがぼんやりと映る。もどかしかった。
声が出せれば、安心するのに。痛みがなければ、戻れるのに。
手が動けば、その涙を拭えるのに。
一緒にいて、どれほど彼女に心動かされただろう。
怒った顔も笑った顔も綺麗だった。不謹慎にも泣いている顔さえ愛おしく感じる。
彼女となら……
ふとパズルのピースが当てはまる。カチリと心地良い音をたてて。
求めていたものはこれだったのだ。なのに。
(あぁ、駄目だろ。折角見つけたのに。今目を瞑ったら手からこぼれ落ちちまう…)
だけれども
(顔が近付いてくる…もう少し…見させてくれよ…)
何も感じないはずなのに。その感触は柔らかく瑞々しかった。
これは麻薬だ。全ての痛みが消えて、しかし脳は蕩けていく。
やめられるはずがない。とめられるはずもない。
しかし至高の瞬間は終わりを告げる。血が体を巡り出し、感覚を取り戻す。
未だ泣き止まぬアルシュタートの頬を撫でる。
「泣き顔も…綺麗なんだな…」
そんな場違いな言葉を発しつつ、自分でも馬鹿だなぁと思いながら。
「フェリドォ……う、うわあああぁぁ……」
涙は一層増えるだけなのに、全てを任せて抱き締めてくれる彼女への想いは止まらない。
子供のようにむせび泣く彼女の頭を撫でる。親が愛する子供にするそれと同じように。

そんな彼女が愛おしかった。狂おしいほどに。この麻薬がなければ自分は狂うだろう。
血が巡り出す。いやそんな生易しいものではない。
暴れている。沸騰している。もっとよこせ、と。
アルの体を引き離す。不意に離れた温もりが彼女を戸惑わせる。理性を保たせる事など不可能だ。
再び唇を求める。抵抗はない。受け入れたのだ!彼女は俺を!
「ん、んん〜っ!?ん、ん〜!」
これは歓喜の声なのだ。体を引き離そうとするがただ照れているだけだ!
身勝手な、独善的な考えしか浮かばない。必死にアルシュタートの唇を求め続ける。
求め、かぶりつき、嘗め回し、貪り尽くす。一方的な搾取。
  モノタリナイ
慣れた快感にもう用はない。まだしゃぶりつくせる所があるはずだ。
「あ、あ…」
アルシュタートも既に冷静な思考が出来なかった。
乱暴的な口付けは理解の外だった。頭が麻痺している。何も考えられない。
なのに理性は警告し続けている。目の前の男は危険だ、と。
優しく、力強く、豪快な笑いをする青年はもういない。この場にいるのは快楽に飢えた一匹の獣だ。
その逡巡がいけなかった。
「がああぁっ!」
「きゃああぁっ!」
フェリドは素早く両手を上手に抑える。接近してしまえば足など放っておいてもいい。
まずは邪魔なものを取り除く。こんな布はいらない。
ビリィッ!!
「いやっ、いやぁっ!フェリド、止めて!お願いですからぁっ!」
  何故そんなことを言うのだろう。俺を受け入れてくれたんだろう?
あの夜に見た胸を愛撫する。
「んっ、はぁ、やめ…んはぁ!」
  気持ちいいのだろう?素直になってくれ。もっと悦んでくれ!
「んぎっ!フェ、フェリドッ!い、痛い!止めてください!」
最早それは愛撫などではない。揉みしだき、指が喰い込むまで、乳房が形を変えるまで弄り回す。
その白い体に痕がつくとドス黒い感情が増殖する。快楽を引き出せ、痛みを引き出せ、と。
片方だけでは駄目なのだ。両方揃ってこそ、女は男に溺れていくのだ、と。
ピンッ…と勃った乳首を丁寧に弄る。
「ひっ!んぐ、はぁ、はぁ、そこ、だ…んはぁっ!!」
この声が病み付きになる。乳首を挟み、つねり、また優しく愛撫する。その繰り返し。
だがそれだけでは単調になる。
  まだまだだ…もっと溺れてくれ
「はあぁっ!ひう、はぁ、…えっ?」
顔が胸に近付く。それは当にしゃぶる、その表現しか出来ない。
味を確めるように、乳房に吸い付き嘗め回し、その頂を歯で齧り、舌で弾く。
「いやぁ…やだぁ…んくっ!?それ、だめぇっ!やめ、んふっ、はぁん…」
最早アルシュタートに何も判断は出来ない。未知の体験が故に抵抗など出来る筈もなく。
弄られる快感も、嘗め回される不快感も、噛み千切られるかの苦痛も全てが混ざり合い理性を削り取ってゆく。

「んんっ、も、やめぇ、狂う!狂ってしまうっ!」
あと一言、あと一言で堕ちてしまう。少女にこの暴虐に抗う術はない。
(ならば、いっその事、堕ちてしまいたい…!そうだ、狂わせてっ!)
「駄目だ。」
「えっ?」
アルシュタートは彼が変化してから始めて発する言葉に混乱する。
崖っぷちの理性を総動員する。だが意味が分からない。狂うのが駄目なら何を…
そして淡い希望も首をもたげる。冷静になってくれたのかと。
しかしフェリドの言葉はそのどれでもなかった。
「まだだ、まだだよ。こんなものじゃあ済まない。この程度の快楽じゃあ済ませない。」
絶望に叩き込まれるその言葉と同時に新たな感触に驚愕する。
クチュッ…
「ひゃああぁんっ!や、いや、そこは…!」
「言ったろう?まだだ、と。」
胸にばかり注意がいっていて、そこへの警戒は全くしていなかった。
現実へ引き戻された瞬間だっただけに感覚は数倍になる。
「やっ!?はぅっ!そんな、とこ、んあっ!」
どれだけ拒否の声を投げつけた所で股間への愛撫は止まらない。下着の上からこすりつけられ、なおも乳房への口撃は止まない。
上半身と下半身への同時の責めは直ぐに快楽を呼び覚ます。
「どうだ?ここを弄られるのははじめてだろう?」
「はぁ、ふぅ、ひゃっ!」
「こんなに濡らして…。初めてだろうにいやらしいやつだ。」
「ちが、うんっ!わらわの、わらわの意思では、うふぅっ!」
「何が違う?こんな声をあげながら?素直になれ…」
こんなことは望んでいない!その声をあげたかった。だが駄目なのだ。流される。
未知の感覚は激流となり、あらゆる思考を流してしまう。
もう本当は狂っているのではないだろうか。

「〜〜〜っ!」
何かが入って来た。快楽を受けていた脳が今度はダメージを受ける。
「フェリド!フェリドォ!ゆ、指がぁ!」
「そりゃそうだ。入れているんだからな。」
正しく快楽と苦痛のオンパレード。生まれて初めての異物の挿入に膣口は追い出そうと締め付ける。
それがまた刺激を生み続ける。追い出そうとするアルシュタート。より中へと挿入するフェリド。
休む暇などどこにもない。
「うぐっ、ひっ、はがっ!?も、やぁ…ひゃうっ!?」
涙は未だ流れ続けている。だらしなく開いた口からは涎も垂れ流している。
体面を取り繕うなどとうの昔に放棄した。
今はただ二つの考えしかアルシュタートの頭には存在しない。
終わらせたい。終わらせたくない。続けて欲しい。続けないで。
狂いたい。狂わせないで。狂う狂いたくない狂わせて狂いたくない狂う狂わせて狂いたく狂う――
「ふぅ、はぁっ!、おわ、らせっ、もど、もどかしいのぉっ!!」
ニタリ、そんな似合わない笑みが見えた気がした。
「これが、快楽の絶頂だ。」
指が触れる。感覚の中枢の蜜壷に。
「い、ひゃああああああぁっ!!!」
喜びが、開放が、そして何よりも悦びが、悲鳴に乗って洞窟中に木霊した。

「う…あ…はふ…」
ビクッ、ビクッとアルシュタートの体が時折痙攣する。
初めて味わった絶頂に体が言うことを聞かない。涙と涎で汚れた顔を拭う事すらままならない。
「どうだ?天にも昇る快楽だったろう?」
「ん…あ…けふっ…ふぅ…はぁ…」
どこを動かすのも億劫な彼女に答える事は出来ない。
口が酸素を求めるだけで、目はボウッ…と中空を見るばかり。
それでもただ悲しかった。結局、自分は求めていたのだ。
快楽の終わる事も、終わらせない事も行き着く先は一つしかなかった。
どう転んでも願いはフェリドの望む結果にしかならなかったのだ。
「さて…、次は俺の番だな…」
「え…ふぅ…?な…に…?」
何かが聞こえた。今、何と言った?ツギハオレノバン?
フェリドが顔元に近付き座り込む。ついでアルシュタートの体ごと引き寄せられる。
抵抗などする力もなく、ただその扱いも乱暴ではなかった。
「なに、俺はアルを気持ちよくさせたんだ。ならば次はアルが俺を気持ちよくさせなきゃいけないだろう?」
だがその言い草はあまりにも身勝手。望まぬ行為をさせられて尚、不条理が言い渡される。
ただそんな恨みにも似た感情は出せるはずもなく、アルシュタートはその言葉の意味を聞くだけ。
「な…ふぅ…にを…?……ひっ…!」
その答えは目の前にそそりたつ物体。
初めて見るそれはあまりにもグロテスクなフォルムを持つものだった。
知識はある。これが男性の性器だとは知っている。しかし想像の、理解の範疇ではない。
こんなものを――
「ど…う…しろ…と?」
答えを聞きたくない問いを発する。まともな思考が出来ないのか、すでに肉欲の熱に蕩けているのか――
「銜えるんだ。」
「むっ!?もごっ!?むぅ〜〜〜!」
暴れている。口の中で。訳が分からない。フェリドの、性器が、口の中――
「むぅ!?ふぇむ!はふっ、もごぉっ!!」
「ただ銜えるだけでは終わらんぞ?唾液を使って嘗め回すんだ。飴をなめるようになっ!」
その言葉が理解できたのかはともかく感触が変わる。
「むぢゅぅ、ひゃふっ!じゅばっ、ずる、ふぁあぁぁ…」
笑いがこみ上げてきそうになる。ついつい口元が緩む。
前からこうしたかったんだ!あのアルに!
全ての者を心安らかにする笑顔は今や涙と涎でぐしょぐしょだ!
「はぶぅ、もごごっ!?ぺちゃ、にちゃぁ、じゅるるっ!」
誰も触れた事のないだろう熟した果実のような瑞々しい唇が今は俺のペニスを銜えて離さない!
「も、ひゃめっ!ぐむっ!?ごぶぅ、ひゅぶるるっ!」
玩具を壊す。綺麗なものを汚す。なびかぬものを支配する。
今フェリドは最上の快楽と、至福の達成感を感じている。これを負の感情と言えるのだろうか。
これこそ人が人でいられる所以なのかもしれない。

「ひゃばぁっ!じゅるるっ!ぐちゅっ!」
後は仕上げの段階。既にアルシュタートを気遣う事はない。
そう、後はマーキングするだけ。この俺の汚らしい精液をその口に!喉に!体内に流し込み!
その透き通るような白い顔に!柔らかい雪のような銀髪にぬりたくるだけだ!!
変化を感じたのはアルシュタートも同じだった。
「ぶっ!?むぐっ!?じゅばぁっ!ぶふぁっ!?」
口の中の肉棒の動きが早い。何も考えずにしゃぶり、嘗め尽くしたそれはいまやガチガチの堅さで暴れている。
何!?何がどうなるの!?
「だ、だす、ぞ…!」
ドビュルルルッ!!
そんな音が聞こえた気がした。
「む!?むぅ〜〜〜〜〜〜!」
何、これ?
流れ込む。口の中を粘りつく液体が襲い掛かる。
いきが、できな。
「んぐっ!ごきゅっ!じゅるんっ!」
飲み干すしかない。しかし簡単に出来ない。生臭く、喉に絡みつく。
引き抜かれる。しかし、白濁液はまだ治まらず、アルシュタートの顔を、髪を、そして全身を汚していく。
「げふっ!ごふっ!ふわぁあぁ…」
フェリドは感じた。壮観だ、と。
快活で、笑顔が似合い、誰とも親しく接していた彼女が今や全身に自分の精液を被り放心している。
だらしなく開いた口からは飲み干せなかったであろう白濁液が零れ落ち、糸を引いている。
白い肌、銀髪からも垂れる白濁液は絡みつき、そして張り出す乳房に落ちていく。
全てが染められた。笑いが止まらなかった。
遂に征服したのだ。この俺が!初めて!
絶頂の悲鳴の次に木霊したのは、笑い声。
野太い声で太く笑うフェリドの声ではなく、それは狂気に満ちた雄の嗤い声であった。

その嗤い声がとても怖かった。アルシュタートは全身に白濁液をかけられ呆然としたままそう感じた。
先程の絶頂も、そして欲望の捌け口となった自らの体を省みずただ目の前の男を見つめる。
そして悲しかった。惹かれていた男の欠片がどこにも無い事に。
人魚の言っていた「らんぼうになる」とはこの事だったのだと理解する。
これが望みだったわけではない。それでもこうする事しか出来なかった。
原因が人魚にあった訳でもなく、当然フェリドにある訳もない。
全ては自分の迂闊さにある。叶わぬ想いを、届かぬ願いを持ってしまった自分に。
嗤い声が、止む。
「そしてこれからだ。これでアルは俺のモノになる。」
モノ。その言い様がとても悔しかった。本当に彼は変わってしまったのだ。
そしてその意味も理解する。拒否権はない。
「…犯してやる。」
抱く、のではなく犯す。絶望の交響曲の終焉。
もう、いい。叶わぬのならば、届かぬのならば、報われぬのであれば。
全てを、捨てよう。

愉快だった。滑稽だった。初めからこうすれば良かったのだ。
つまらぬ柵も、自らを縛る理性も捨てて欲しいものを手にいれれば良いのだ。
障害など薙ぎ払え。邪魔をするものは切り殺せ。
彼女の躯を喰らい尽くすのだ。
「あ……」
押し倒す。もう抵抗の動きも声もない。
邪魔な服も下着も剥ぎ取る。完全な美しさだ。それを阻害するものはいらない。
完全なものを汚した。これからさらに汚すのだ。
嗜虐心が膨れあがる。自らの欲望を、彼女の濡れそぼった秘所にそえる。
彼女の体内へ、胎内へ。誰も触れない、そして触れさせない場所へ挿入するのだ!
俺が彼女を少女から女にするのだ!
その時、彼女の手が顔に添えられる。
そしてただ一言、
「フェリド。」
掠れそうな声、しかし確かな意志を持った言葉が涙とともに零れ落ちていった。

頭に冷水をかけられる。脳に凍えた針金が刺さる。
  ナニヲシテイル
アルシュタートの怯えた瞳が突き刺さる。
違う、そんな顔が見たいんじゃない。
涙が綺麗だったのは自分に安心して流してくれたからだ。自分に怯えて流す涙なんか見たくない。
それ以上に、あの温泉での星空の下で見せてくれたあのすこし恥ずかしそうな照れた笑顔が見たいのだ
綺麗な顔と可愛い顔。それらが同居する顔を見たいのに。
なのに俺は。そんなお前を汚し――
瞬間、理性が呼び戻される。
「う、あ…、うわああああああぁぁ!!」
離れなければ!これ以上彼女を汚す前に!
「なんてことを…、なんてことをぉっ!!」
涙が零れる。許される筈がない。
体が震える。償いようもない。

驚いた。例え想いが通じていなくとも全てを捨てる覚悟の為の呼びかけだった。
それが結果的に通じた想いはフェリドの理性を呼び覚ます。
だけれども
「…フェリド。」
もう一度呼びかける。ビクッ、とフェリドの体が震える。
怯えている。そこには野太く笑う男も、狂気に嗤う雄もいない。
いるのは縮こまって、まるで母親から怒られる小さな少年のように怯える男だけだった。
愛おしく感じる。もう心に恐怖も諦めも存在しない。
「…フェリド。」
怯えさせないように柔らかい声で。驚かせないようにゆっくりと近付こうとする。
「こ、来ないでくれ!近付かないでくれぇっ!」
悲痛な叫び。
「どうして?何もしませんよ?」
対して優しい音色。
「い、今、来られたら、お、俺は、また、襲ってしまう。
 ち、近付かれたら、また、お前を、汚してしまう。こうしているのが、精一杯。だから――」
「…でも苦しいのでしょう?」
「だけど!だけ――」
どこまでも優しく包み込む。駆け付けてくれた時、泣いている自分がされたように。
安心出来る場所はここにあるんだよ、と教えるように。
怯えることはない、楽園はここにあるんだよ、と。
泣いている子供をあやす母親がいた――

温もりが渇きを癒す。許されるはずのない罪を犯して消えてしまいたかったのだけれど。
涙が零れ、頭を撫でられる。それだけなのに。
それは途轍もない幸福だった。
散々泣き喚いた後、顔を上げる。
柔らかい笑顔。どちらからということもなく、互いの唇を求め合う。
一方的な搾取ではなくお互いの想いを交錯させるように舌を絡ませる。
相手の唾液を吸い取り、自分の唾液を飲み込ませる。自分の味を覚えこませようと。
「う…ぷはぁ…フェリドォ…」
「アル…!アル…!」
そこにアルシュタートの下腹部に再び感触が当たる。
「あ…」
そこには未だそそり立つフェリドのペニス。早く吐き出させてくれと言わんばかりに暴れている。
「また…こんなにして…」
「す、すまん、アル!落ち着くまで――ぐあっ!?」
手が添えられる。滑らかなアルの指が男のものを握る。
「ア、アル…!?な、なにを…」
「苦しいのでしょう?今わらわが楽にして差し上げますから。」
ぞわり
フェリドの背筋をそんな感触が通り過ぎる。
それは娼婦の微笑み。妖艶で逆らいがたい魔性の微笑み。
思考が麻痺する。そしてためらいがたい快楽が全身を駆けずり巡った。

はしたない女だ、とアルシュタートは自分の事を思う。
先程まで自分の口内で暴れていた狂気と同一のものとは思えない。
ビクビク震える一物はかわいらしく、大切な所を握られたフェリドはとても愛おしい。
今度は自分が変化してしまったのかとも考えたが頭の中はあくまで冷静。
少しばかりの悪戯心と気持ち良くさせてあげたいという奉仕の思いが募る。
「んちゅっ…ぺちゃ…はむ…ふぅ…っ」
ペニスにキスをする。まずは全身を嘗め回す。フェリドの味を再確認する為に。
「ふふっ…こんなに硬くなって…いけない子ですねぇ…」
口と同時に握った手で上下にしごく。唾液を含ませ滑らかに。アルシュタートの責めにフェリドは悶絶する。
「う…がぁ…あ、あ…」
その顔がとてもいじらしくアルシュタートは更に妖艶に微笑む。
「どうです…?わらわの指と掌の感触は?ふふふっ、こんなに震えて…」
しごかれる竿の部分。だけれでも物足りない。
先程から亀頭部分にチロチロと舌先で舐められたり、キスをされるだけだ。
そんなフェリドの微妙な変化も今やアルシュタートはつぶさに感じ取れる。
「これだけでは駄目なのですか?ふふっ、こらえ性のない人ですね…」
悪魔の囁き。しごく手の速度を緩め、どこまでも妖艶に囁く。
「どうして欲しいのです…?掌でしごいて欲しいのですか?
 それとも先程のように口で咥えてもらいたいのですか?わらわの口の中を味わいたいのですか?」
「あ…あ…く、ちで…うあがっ!?」
手に少し力を篭め、暴れる肉棒を締め付ける。
「聞こえませんよ?もっと…はっきりと…仰って下さらないと…」
さらに力が篭められる。逆らえない。恥も外聞も捨てフェリドは叫ぶ。
「口で…咥えて下さいっ!ア、アルの口の中に入れさせて下さいっ!!」
「ふふっ、よく出来ました。」
快楽が駆けずり回る。柔らかく熱い口内はより感覚を鋭敏にさせる。

「じゅるっ!ずちゅっ!くちゅ、はむぅ、べろっ、ひゅふぅ…」
唾液が纏わり付く、舌が絡み、舐め回す。
「ふふっ、ぺろっ、ぐちゅっ!ひゃぶっ!かぷ、ごぷっ…」
時折、歯と唇で甘噛みをしてアクセントを付ける。
「うああぁっ!ア、アル!あぁ…うおぁっ!」
フェリドの体に電気が走る。ガクガクと震える。
「じゅるっ!ぷはぁ…、ふふふっ、あなたに教えられた通りですよ…はぶっ…」
そう、それをアルシュタートの体に叩き込んだのはフェリド。
快楽だけでは駄目だと、苦痛も味あわせないと。自らの身をもって教わったそれを今度はお返しする。
「ふむっ、くちゅっ!はぁ…うんっ!かぷ、じゅる、ひゃんっ!」
そしてアルシュタートは知らず知らず自らの秘所をさする。
肉欲の熱に中てられたのか、下腹部がもどかしい。
「うんっ…!ひゃぶぅ…ぐちゅり…はむぅっ!?」
駄目だ、擦るだけでは。指を入れる。散々湿っていたそこは簡単に飲み込む。
自らの指で慰め、口には男のものを咥え込んでいる。
いやらしい女だ、と自虐しながらも指と舌と口は止まらない。
「う…あ、あ…」
最早、フェリドは言葉も出せない。与えられる快楽のせいだけではない。
淫靡な音をたてて、自らを慰めている少女という視覚効果はより頭を痺れさせた。
アルシュタートも変化を感じる。口内の肉棒はガチガチで暴発寸前だ。限界が近いのだと。ならば。
「ずじゅっ!ぐちゅっ!じゅばぁっ!ひゅぶるっ!」
口内をすぼませペニスの全身を絡め取り、動きを早くする。そして求める。
「ふぇりふぉっ!出してぇ!かふぇてぇっ!!」
「あ…あ…で、るっ…!!」
ドビュルルルッ
二回目の噴射。その量は先程と同等かそれ以上。
ドクドクドクッ
口の中に流れ込む粘り気の液体を今度は迷いなく飲み込む。
不快さなど感じない。今は気持ちよくさせられたとの達成感がある。
フェリドは無意識に腰を引き、再びアルシュタートの顔と髪に白濁液が降り注ぐ。
失神寸前の朦朧とした意識の中、フェリドは見た。
精液が触れていない場所の無いほど浴びたアルシュタートが舌を出し、精液を舐め取り飲み干し淫靡に微笑むのを。

よくぞこんな真似が出来たものだと、アルシュタートは零れ落ちる精液を舐め取りながら自虐的に嘲笑する。
自分自身ですら我が身が先程と同一の人物だと思えない。
今日の朝までは性の事は知識の上、しかもかなりの大雑把なものしか知らなかった。
それがどうだ、今では進んで男を悦ばせ、その男がだした白濁液を嘗め回し味わっている。
ましてや途中までは自分で自分を慰めながらだ。
熱に中てられたのだと言い訳も出来るが、そんな事はしない。望んでやった事なのだ。
目の前には腰を抜かしたように倒れこんでいるフェリド。
その下腹部には未だ天を向き、ビクッ、ビクッと震えている一物がある。
既に蕩けているアルシュタートは自然にまたそれを咥え込む。
「ずるっ!ずちゅっ!じゅるるぅっ!」
一滴も逃さないように、べたつく液体を吸出し、飲み込む。
これがフェリドの味なのだと実感しながらその臭いも噛みしめる。
「んぐっ…ごくっ…ふふぁ…」
そしてそのまま体をずらしフェリドに覆い被さる。
「あ…あ…アル…」
未だ焦点の定まらぬフェリドを妖艶な笑みで見下ろしながらそのまま倒れこみ再び口付けをする。
垂れる精液はフェリドの体にも流れ落ち、お互いの口の中では精液と唾液の混ざったものが行き交いする。
自分で自分の精液を飲むのはどんな気持ちなのだろうと不埒な考えがつい浮かび笑いそうになる。
このまま溶けてしまいたい。
その思いは再び熱となり求め合う。
「んんっ、ふむ、ちゅぱぁ、ちゅくっ…」
口付けを交わしながらアルシュタートは自分の胸をフェリドに押し付ける。
ぐにゅっ、ぷるんっ…、と豊かな胸はその形を変えながらフェリドの性欲を増長させる。
左手で胸を愛撫し摩りながら、右手は再びペニスを刺激する。
少しばかりの硬度をうしなっていたそれは瞬く間にガチガチに硬さを取り戻す。
そして愛する者へ想いを伝える。そこには妖艶さも淫靡さも感じさせず、ただはっきりとした意志。
「フェリド…抱いて。わらわを少しでも愛しているのなら、抱いて、下さい。」

それはどれだけ勇気が必要だったのだろう。
フェリドとて今回のことは全て覚えている。ただの欲望でなくアルだったからこそあそこまで変化してしまったのだ。
どんな事があろうと言い訳をするつもりはない。それなのに。
アルは確かな声で「抱いて」と願った。あんなに酷く辱めたのに。
あの怯えた表情の中でもまだ自分を信じてくれていたのか。
申し訳なさと同時に、より愛しさを感じる。次こそは怯えさせないように。
「少しなんかじゃない。」
「…フェリド?」
「お前の全てを愛している。」
歯の浮くような台詞も自然に出る。
アルシュタートをもう一度抱き締めて、優しく横たわらせる。
「フェリドォ……」
浮かべる涙はこれから起こる事への歓喜からか、恐怖からか。
困惑しているアルシュタートに再びキスをして
「愛してる。」
もう一度囁いて己の一物をアルシュタートの秘所に添える。
そしてゆっくりと挿入する。
「う、あぁ!ううぅ…」
数回の情事ですっかり濡れそぼっていたもののそのきつさは並大抵のものではない。
指よりも遥かに太い侵入者を膣口は容赦なく締め付け追い出そうとする。
「ひっ!ぐぅ!あぁ…」
痛みで空中に漂わせる両手を自分の体に抱き締めさせる。
アルシュタート愛しい人の体に触れ、強がって微笑む。
これでは痛みを長引かせるだけだ。ならば多少強引にでも進むしかない。
「アル。一気に入れたほうがいい。大丈夫か?」
「ふぅ…はぁ…。わ、わらわの事なら、気に、しないで下さい。
 ここ、で、やめるなんて、言わない、で。愛する、人と、最後まで…!」
言葉が終わり、フェリドは頷く。
そして一気に奥に突き進む。否、抉り取る。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
言葉にならない沈痛な叫びと、苦痛の為にアルシュタートの指がフェリドの背中を喰いこむ。
そのまま動かず、アルが落ち着くのを待つ。
「ひぐっ、ぐすっ、フェリ、フェリ、ド。ごめ、ごめんなさい。」
「アル?大丈夫か?辛いのか?」
急に謝るアルシュタートにフェリドは心配する。どこか裂けてしまったりでもしたのかと。
「ちが、ちがう、の。ひくっ、背中、ゆび、が。」
息も絶え絶えに相手の事だけを心配するアルシュタート。
「気にしないでいい。それで少しでも、アルが楽になるのなら。」
「フェリドォ…ぐすっ。わらわの、わらわは大丈夫、だから。動い、て?」
「だが…あまりにも辛そうなのに。」
「フェリドッ!!」
涙混じりに怒られる。
「わらわも、女です。女は多少痛くとも、愛する人に気持ちよくなってもらいたいのです!
 最後まで、最後まで、胎内で果ててもらいたいのです!」
揺らぐ事なき決意。これは女の強さ。
気恥ずかしさを感じる。そしてここまで自分を思ってくれる相手にキスをする。
「ならば、動くぞ。だけど、辛かったら何時でも言うんだぞ?」
「そんな事、絶対に、言いません!」
プンスカと強がる彼女に苦笑する。ならば信頼に応えないとな。
「うああぁっ!うぐっ!ああああぁっ!!」
腰を動かす。
「うおあっ!?」
思わず情けない声が出る。幾分時間が経ち、愛液が分泌されたのはいいのだが。
(んなっ、なんて締め付けだ!?)
最初の拒絶感はもうない。その代わりに粘膜は間断なく纏わり付く。
腰を引けば逃がすまいと捉えかかり、腰を進めば離さないとばかりに絡みつく。
「ひうっ、はぁ!ふぅ、うああっ!」
気持ちが良いなんて生易しいものじゃあない。脳に電気は走りっぱなしだ。
女を喰う、なんて下劣な言葉があるが、これでは喰われるのは自分のほうだ。
このまま果ててしまいたいが、それも勿体無い。まだまだ味わっていたい。

「ひぃっ!?ふぅ、はぁんっ!はぁ、ああ、ああん!」
心なしかアルシュタートの声色にも嬌声の色が混じる。もっと気持ちよくなってもらいたい。
両手で乳房を揉みしだき、乳首に吸い付く。
「はぁん!ああ、フェリ、ドォ…フェリドォ…!」
嬌声が増す。お互い何も考えられずお互いの躯をむさぼる。
フェリドが乳房に吸い付けば、アルシュタートはフェリドの指先をしゃぶる。
限界が、近い。
「ア、ル…!そろそろ…やばい…!」
「じゅぱぁっ!フェリド!わらわも…わらわも!」
唇が再び重なり合う。
「アル!アル、アル、アルッ!アルゥーッ!!!」
「フェリド、フェリド、フェリド!!!」
ドビュルルルルッ!
絶頂を同時に迎える。今日三回目とは思えぬほど大量の精液が胎内に流れ込む。
ドクッ!ドクッ!ドクッ!
フェリドはまさに満身創痍。力尽き倒れこむ、という表現通りだった。
ドクッ……ドクッ……ドクッ
アルシュタートには白い光が見えた。今は茫然自失のまま下腹部に流れ込む熱を感じる。
それでも。
無意識のまま、繋がったまま、二人は口付けを交わし抱き締め合い、心地良い眠りに落ちていった。

「ん…うぁ…?」
「お早うございます、フェリド。」
目が覚める。そこにはアルシュタートが一糸纏わぬ姿で頬杖をつきながらこちらを見ている。
一瞬遅れ、覚醒し現在の状況を省みる。
(そうか、あのまま眠ってしまったのか…)
「フェリド、お早うございますは?」
「んお?お、お早う。」
「ふふ、よろしい。」
屈託のない笑みを浮かべ見つめられる。想いが通じ合った中だとしても気恥ずかしい。
赤くなってしまったかもしれない顔をすこし逸らせ、話を振る。
「あ、アルはいつから起きてたんだ?寝てない事はないだろう?」
「ええ、貴方より少し前におきたばかりですよ。
 あまりにも可愛い寝顔でしたので、ついつい見続けてしまいました。」
さも当然と言わんばかりの台詞に目を丸くする。
「お前…そういう性格だったのか?」
「どれを指して言っているのか分かりませんが…わらわは元々こうですよ?」
「特大の猫被りだ…」
「ひどいですねぇ。それに貴方だって本気の強さを見せてくれなかったではありませんか。」
頬を膨らませ、口を尖らせる。まただ、また。自分の知らなかった彼女の素顔を遠慮なく見せてくれる。
それはとても幸福な事で。やはりお互いが結ばれて――
そこではっとする。血の気が引いていく。過去が鮮明に浮かび上がる。
「あわわわわ……」
「フェリド?」
「ご免なさい許してくださいもうしませんええもう二度と致しませんからお許しを〜〜!」
「あ、あのフェリド?」
急に姿勢を正して土下座するフェリドに困惑するアルシュタート。
「すいませんワタクシが全て悪いんです浮気もしませんだから犬の餌は止めてください〜〜!」
「フェリド?あの?」
どれだけ呼びかけても訳のわからない事ばかり喋り平伏するフェリド。
これでは埒が明かないと思ったアルシュタートは、
「フェリドっ!!」
「は、はひぃ!!」
大きな声で呼びかけ、ようやく頭を上げる。もっともビクビク震える所は変わってないが。

「…ふぅ。無論、浮気などしようものなら只では済ませませんが…何をそんなに謝っているのです?」
途中に何か空恐ろしい言葉が聞こえたが、それは今は流しておこう。
「え…だって、その…、最後はともかく、最初は無理矢理襲ってしまった訳で…」
今度はアルシュタートが目を丸くする。そしてつい吹き出してしまう。
「あ、あの、アルさん?」
(どこまで真面目な人なのでしょう。)
あの時はあんなにも歯の浮くような言葉を言っておいた人が今はオドオドして挙動が不審だ。
そのギャップが可笑しかった。
「ご、ご免なさい。その事も含めてお話がしたいのですが…」
「ですが?」
「あ、あの、あちらの温泉にでも浸かりながらでどうです?
 その…あれだけ汗をかいて砂が付いてますし、その、わらわには、…液がかかりましたし。」
今更ながらにアルシュタートを見るとあちこちに精液が付着している。
特に髪の毛には未だに粘り気があるものまで残っている。
フェリドは下腹部に集まりそうな血を無理矢理抑えて返答する。
「そ、そうだな。体を綺麗にしながら話でもしようか。」
大きくなりそうな愚息を見せないよう翻ったのだが、
「あ、あの!申し訳ありませんが、肩を貸してもらえませんか?
 その…少し…歩きにくいものですから。」
どうやらこのデカズラー(愛称そして誇張)を見せないというのは諦めたほうが良さそうだ。
諦めて、それでも早足でアルシュタートの傍に近付く。
「……フェリド。」
地獄の底から聞こえてくるような底冷えのする声。

(怒ってる〜、呆れてる〜!)
「あの、仰りたいことはわかるのですが、その、不可抗力というものでありまして…そうだ!」
声を上げるとほぼ同時にアルシュタートの体がふわり、と浮かぶ。
「フェ、フェリド!?これは!」
「あ〜、そのお姫様抱っこというものでありまして。」
「それは聞いたことがあります!ではなくて!」
一転、狼狽するアルシュタート。そこには少しの喜びがあったかどうか。
「これなら、見なくて済むだろう?」
そう自信満々に答えたものの、
「…腰の辺りに当たっています…」
「すいません、腕上げます!」
コプリ、コプリ
「ん?」
「あああぁ……」
何かの音がする。
「何だ?」
「駄目!フェリド、駄目ぇっ!!」
何かが垂れたのだ。顔を動かしみてみると何かピンク色のものだった。
今もまた垂れた。アルが何か言ってるが気にせずその大元を辿ってみると…
「あ。」
そこはアルシュタートの膣口。中に出された精液が破瓜の血と混ざり、それが体の位置を変えたことで垂れ流れたのだ。
瞬間、凄まじい殺気。今まで味わったことのない恐怖、絶望。
ギギギギギ…と油の切れた機械のような音をたてて恐る恐る腕の中の人を見る。
バチィンッ!!!

この時の出来事からフェリドは決してしてはいけない事と努力をしなければいけない事を学ぶ。
それは何だったのか。とある人物が聞いて回り、ある人が言うには――
「あぁ、そう言えばぁ、時々怒られてましたねぇ。何か部屋の真ん中で正座させられてたの見ましたぁ。
 確かぁ「今度逆らったら…どうなるか分かりますね…?」って言われてましたぁ。
 すっご〜くションボリしてましたよぉ!え?どうして見てたのかって?
 それは乙女のひ・み・つ・ですぅ。でもこんな事聞いてどうするんですかぁ?
 まぁ、デザート全部を奢ってもらえるだからいいですけどぉ。あ、そうだ王子ぃ!
 今度は満漢全席デザート編で手を打ち――」
…後半は記憶から消去。と部下だったM(ホントの年齢は17歳ですぅ:プロフィールより)は語る。
またある人が言うには――
「え?閣下ですか?そうですね、印象的だった事ですか…。
 頼まれて探っていた情報をお渡しした時にですね、「空気を読むって大変だな…」って仰られましたね。
 苦手なんでしょうね。腹芸が上手いと言われてたのは陛下に調…ゴホン!教育されたそうです。
 あ、殿下、今後とも調査迅速、秘密厳守、真実一路の――」
とかつての同僚のS(現在名はO)は語る。
(まったく、あの人は…。空気を読むなんて簡単じゃないか。)
だが大事な時に「笑ってくれる?」などと言う辺りしっかりとその血は受け継いでいるらしい。
もっともそれは次代の猪突猛進女王にも言えることだが。
閑話休題――

「あの、アルさん。まだ、駄目ですか。」
「駄目です。」
一刀のもとにバッサリと斬り捨てる一言にフェリドは温泉に入れぬまま、ションボリとする。
しかも正座で温泉の反対側を向いたまま。
後ろでアルシュタートがパシャッ、パシャッと温泉を浴びる音だけが聞こえ、生殺しの様相である。
フェリドの頬には未だ赤い紅葉の花が咲いている。
「まったく…、ふぅ。もういいですよ。一緒に浸かりましょう。」
まるで餌を与えられた仔犬のように満面の笑みを浮かべ、歩み寄ってくる。
「ふぅっ…、こいつはいいや。宿のより断然気持ちいいな。」
「ええ、とても。…あの、そちらに寄っても構いませんか?」
「ん、おお。勿論勿論。ドンと近付いてくれ。」
まるで新婚の夫婦のように、フェリドが後ろからアルシュタートを抱き締めるような形で一緒に温泉に浸かる。
アルシュタートはフェリドの広い胸に頭をもたれかけ、フェリドはアルシュタートの髪をクルクルと弄る。
「フェリド…まずは謝ります。全てはわらわの責任なのです…」
そしてアルシュタートは語る。フェリドのために古代ガニと戦った事。
そして重傷を負ったフェリドを治すには人魚からもらったものを使うしかなかった事。
それの副作用の結果なのだと。
「………」
「だから、貴方の責任ではないのです。全てはわらわの迂闊さにあるのです。」
表情が沈むアルシュタート。そんな恋人にフェリドは優しく諭す。
「だが、あれは俺の心の奥底にある願望でもあったんだよ。正直に言えば、望んでいたのかもしれない。
 それを全て薬のせいだなんて言わない。俺の心の弱さでもあったんだよ。」
「フェリド…」
どこまでも優しい愛しい人にアルシュタートはもう一度唇を求める。
「んっ…。っと話ってのはこれだけか?まだあるように思えたが。」
「いえ…まだです。…フェリド。わらわを連れてどこか遠いところに行きませんか?
 ここより遠く、もっともっと遠い所へ。」
思わず笑い飛ばしそうになるが、その真剣な表情に笑顔を止める。
「お前とどこかへってのは賛成だが…。何か重大な裏がありそうだな。
 それも言ってくれないと答えようがないぞ?」
「そう…ですよね…。隠さずなんて都合が良すぎますよね…。」
「お前と一緒、って所に異存はないさ。だが遠い所へ、ってのが腑に落ちん。」
「ありがとう、フェリド。…全てお話しします。
 まずわらわは、わらわの本当の名はアルシュタート・ファレナス。ファレナ女王国の王家の一員です。」
「な…!?」
「群島諸国へは見聞のための外遊…これは本当です。ですがそろそろ戻らなければなりません。
 しかし国へ戻ればわらわの為の闘神祭…わらわの婿を決める闘技大会が行われます。
 でも嫌なのです!わらわには心から愛する人が出来てしまったから!だから…だから…!」

最後の方には涙を浮かべていた。暗い顔で嗚咽するアルシュタートを抱き締め落ち着くのを待つ。
「ひっく、ぐす、ごめ、ご免なさい。騙していて…」
「まさか、本当にお姫様だったとは…。」
恋人の正体がわかった所で混乱するフェリドだったがまだ疑問に思う所もある。
辛い質問かもしれないが聞かないわけにもいかないだろう。
「なぁ、アル。」
柔らかな声で尋ねる。
「お前が俺の事を好いてくれてるのは本当に嬉しい。これは偽らざる思いだ。
 だがとりあえずそれは置いておいて、お前に聞く。本当にそれでいいのか?
 それは逃げることになるが、いいのか?」
アルシュタートにとって予想だにしなかった答え。「逃げる」その言葉を聞きたくなかった。
それは本当のことだから。
「そうですよね…。そんなこと出来るわけありませんよね…。
 結局わらわは王家の人間で、フェリドは普通の人。わらわには王家の義務を行わなければなりませんしね!」
怒りの声が、悔しさの声が混じる。
「結局貴方にとってはわらわなど、どうでもよかったのですね!
 わらわが、あの下劣な貴族の子息達に抱かれても平気なのですよね!」
知らなかったから。だけど知ってしまった。愛する人と一緒にいる事がこんなにも幸せだなんて。
「貴方が他の女を抱いている時に、わらわは他の男に抱かれる!
 所詮、昨日の事など犬に噛まれたとでも思えといいたいのでしょう!?」
「おい…!」
腕を捕まれてハッとする。そこにあるフェリドの目はただただ静かな怒り。
「ふざけるなよ。そんな事俺が許すと思っているのか。
 許すものか。アルに触れていいのは俺だけだ!お前の肌も、髪も、唇も、胸も!
 触っていいのは俺だけだ!」
それは誓い。言いように品がないとは言え、真っ直ぐな誓い。
「フェリド…、フェリドっ!!」
また泣かせてしまったな、と申し訳なく思いながらまた静かに諭す。
「お前は強いな。逃げてもいいのに、それは駄目だって分かってる。
 ちゃんと自分のするべき事をみつけている。俺とは…大違いだ。」
「そんな、わらわは…」
「分かってる。自分の国が好きなんだろう?それは誇りに思って良いことだ。
 何もみつけられずにブラブラしていた俺よりお前は偉いよ。」

「フェリド…」
「なぁ、アル。その闘神祭…だっけ?それ、俺でも出れるのか?」
「え?」
何を言っているのだろうとアルシュタートは思う。いや分かり切った問いなのだが――
「フェリド?何を…言って…?」
「いや、その闘技大会で優勝すればお前と結婚出来るんだろ?
 だったら俺が出場して優勝してしまえば何の気兼ねもなしに一緒に居られるじゃないか。」
優勝するのがさも当然と言わんばかりに豪語する。
「そんな!?どんな強さの人がでるのか分からないのですよ!?」
「俺の強さは分かってるだろう?」
「で、でももし怪我なんかしてしまったら…!」
「多少の怪我もせず勝てるやつなんていないぞ?」
「それに例え優勝してもそこに自由なんてないのですよ?
 そこにあるのは汚い思惑と権謀術数…そんな世界に貴方を…!」
「それは気が早いと思うんだが…。まぁ、そこは大丈夫。慣れてるから。」
(今何て言った?慣れてる?)
「実は俺も隠し事があってだな…。俺のフルネームはフェリド・イーガンって言うんだ。」
「フェリド・イーガン…イーガンってあのイーガンのですか!?」
「やっぱり、お姫様なら知ってるか。不本意ながらスカルドの長男だ。」
「な、な、なんで…」
「いやまぁ、掻い摘んで言えば、あの男とは違う道を進みたかったんでな。
 同じ道ではあの男を超えられないと思ってだな。だからその辺はまぁ大丈夫だ。」
「…信じていいのですか?貴方が優勝するのを。」
「なぁに、待っててくれたらいいだけさ。迎えにいくだけだしな。」
「ええ、ええ!待ってます!貴方がわらわの元に来るのを!」
少しばかりの偶然と、少しばかりの寄り道の中、二人の想いは今実を結ぶ。

どれぐらい抱き合っていたのだろうか。あまり長いことこの場に留まっているわけにもいかない。
そう思い、離れようとしたのだがフェリドはアルシュタートを離さない。
何事かと思いながら目で問うと真面目な顔でフェリドが口を開く。
「ところで物は相談なんですが。」
嫌な予感がする。口調がおかしい。
「…何でしょう。」
訝しげな様子を表に出さず聞く。
「え〜と、お互いこれで公認の恋人関係になったと言うことでありまして。」
ますます口調がおかしい。沈黙で先を促す。
「ならばお互い本音は包み隠さず言ったほうがいいのだと思われます。」
「…そうですね。大っぴらに言えることではありませんが好き合っているのですから。」
「それで早速で何ですが協力してもらいたいことがありまして。」
「…わらわに出来る事なら。」
「それはもう!いや、アルさんにしか出来ないんですよ!」
予感的中。
「フェリド。」
「は、はい。」
「貴方は魅力的で知性も溢れ、また世の情勢も読むことが出来る人です。」
「いやぁ、それほどでも。」
「……。ですが一つだけ読めないものがありますね。」
「いえ、アルさんの心なら何時でも読んでみせますよ?」
フェリドの声が上擦る。怒り爆発。
「な・ら・ば!空気ぐらい読みなさい!折角の良い雰囲気にあからさますぎます!」
「え?あ、あの…」
「白を切るつもりですか!?口調を変えて論理的に持っていこうとも!
 さっきからわらわに当たっています!」
「あぁっ!?俺の意志とは勝手に!?」
(どうして、この人はもう!)
再び縮こまるフェリドと主人とは反対にそびえ立つフェリドのデカズラー(愛称、以下より略)。
「ふぅ…、仕方ありませんね…」
「本当か!?」
「調子に乗らないっ!!」
「はいぃ…」
この二人が将来の女王と女王騎士長などとは思える人間は誰もいなかった。

「それで、どうしてほしいのです?い、いきなり本番ですか?」
あんなに乱れたとは言え、まだ処女を失って一夜。
豊富な知識などないアルシュタートはフェリドに手綱を任せようとする。
「そうだなぁ…あっ!」
まるで悪戯でも思い浮かんだようにフェリドはニヤリとする。
(男の夢!願望がこのけしからん体なら出来るぅっ!)
「ア〜ル、こっちに来てくれ。」
まるで鼻歌でも歌わんとばかりにウキウキとしているフェリドを不審に思いながら寄り添う。
「そこで膝をついてしゃがんでくれないか?」
岩場に腰掛けるフェリドの前でそんな格好をすればいくらアルシュタートでも一目瞭然。
「…また、口でするのですか?…まぁ、今更何も言いませんが…」
不審な笑顔の割には特別変なことではない。だがフェリドの企みは少し違っていた。
「ま、それもあるが、だけどメインは胸だっ!!」
「は?」
「その胸で挟んでもらいたいんだよっ!これぞ男の夢!男の本懐っ!
 ありがとう、海よ、島よ、群島よ〜!俺は今っ!猛烈に感動しているぅっ!!」
「………」
(この人は、こんな人だったのか。ハァ…)
呆れながらも許可したのだからしょうがない。
「さあ!いざ、いざ、いざっ!」
壊れてしまったフェリドの声は聞き流しながら両手で胸の谷間にペニスを挟み込む。
その見た目は両者にとって刺激的だった。
「うおおっ!?これはっ!」
「んっ…す、凄い…胸から、んんっ、生えている…」
「よ、よし。胸を上下に動かすんだ。」
「こ、こうですか?あっ…んっ…」
シュッ、シュッ
胸から一物が生えては引っ込みまた生える。
その視覚効果も相成り強烈な刺激を生む。
「こ、これはまた、胎内とは違った感触がまた強烈、うおあっ!?」
「んんっ…こう、したほうが…滑りやすくて、あんっ、いいです、ね…うふっ…」
アルシュタートはある意味飲み込みが早かった。
自らの唾液を垂らし、潤滑油としたのだ。
フェリドはそれを嬉しくも思ったが同時に空恐ろしさも感じる。
(俺、本当に逆らえなくなるかも…)
「うんっ…はぁ…んっ…ぴちゃあ…じゅるっ…!」
「ア、アルぅ?」
そして果てには口も使い始める。上に進んだペニスを待つのは咥内。
舌先で舐められ快感の所で引っ込められる。ペニスを包み込む圧力とは別方向の快楽にフェリドの腰はガクガクになる。

「んっ…じゅばっ…ひゃうっ…ぺろっ…」
その圧迫感と目に映る淫靡さと可愛らしい声にフェリドの限界は近付く。
「あ…ア、ル…もっと、早く…」
「ふむっ!?ふぅ、じゅっ、んっ、じゅるり…」
「で、出る!!」
「ふむぅっ!?」
ドビュルルッ
「あ…あ…すっ、げ…」
「むぅ…ごくっ、んぐっ、ごきゅっ…ハァ…」
アルシュタートの口内で再び射精する。出る瞬間こそ驚くものの彼女は最早何の躊躇いもなく飲み干す。
「ふぅ、はぁ、また口の中で…、そんなに気持ち良かったのですか?」
少し息を切らせてフェリドが返事を返す。
「あ、ああ…それよりも…別に飲み込む必要は…なかったのに…おいしく、ないだろうに…」
「確かにお世辞にも美味しいとは言えませんが…折角のフェリドのですから…溢すのが勿体無くて…」
頭を金槌で殴られたような衝撃が走る。
「フェリド?」
「…が悪い。」
「?」
「アルが悪い。」
「え?え?」
「そんな可愛らしい台詞言われて興奮しない男がいるか〜!」
「フェ、フェリド!?」
アルシュタートを押し倒す。湯煙の情事はまだ終わりそうになかった――

まさかまだ薬の効果が残っていたのかと思ったが――
「い〜や、やめられない、とまらない!あんなそそる台詞を聞いて!それで止まるはフェリド・イーガンにあらず!
 大丈夫!群島の守護神…じゃ親父になるからだめだ。う〜ん、そうだ!
 群島の愛獣、海もさもさに誓って優しくするから!」
「そんなものに誓われても困りますっ!」
アルシュタートを困惑させている理由はこの格好だ。
四つん這いにさせられてフェリドに抱かれようとしているのだ。
「あ、あのする事に異存はありませんが、せめてちゃんとした格好でっ!?」
不意打ち。予告も宣言もなく股間を触られる。
「おやもう、少しばかり湿っているな。そうか俺の咥えながら興奮してくれていたんだな!」
「あうっ!?そんなっ、んくっ、爽やかに言わなくても、ああんっ!」
アルシュタートからは何も見えない。それが余計に感覚を鋭敏にさせる。
昨日とは違い、次にどこを触られるか分からない不安がより一層声を上げさせる。
「よしよし、凄く可愛いぞ。アルは感じやすい体質のようだな。すぐに濡れてきたぞ。」
「そんな、ふうに、あはんっ、いわ、ないでぇ…んんっ!」
だが、確かに体が熱を持つのをアルシュタートは分かっている。
フェリドが見えないという不安もあるが、それでも愛する人の愛撫に身をよじらせ、嬌声が口を出る。
「うむ、もう十分だが、まだ味わいたいな…」
「フェリドォ…わらわは、もう…ひゃあぁっ!?」
ジュルリ
そんな音が聞こえた。
「フェリド…!これはっ、んひゃっ、なに…んはぁっ!」
指とは違う、まるでナメクジが這いずり回るようなこの感触は――
「ん、あひふぁいたら、ふぃたで。」
「ああんっ、息が、って息?ま、まさかフェリド!?」
「ずちゅうっ!…ふぅ、いやアルの味を確めたくて。」
アルシュタートの困惑など何処吹く風と言い切る。
「だからと言って、本当に口で、ああっ、だめっ、そこはっ、ひゃめぇっ!」
再びアルシュタートのお尻に顔をうずめたフェリドは舌で一番敏感な場所を開き、つつき、弄ぶ。
敏感なその場所を弄られ、アルシュタートはガクガクと躯を揺らし姿勢を維持することが出来ない。
「もうっ、らめぇ…はぁっ、ひぃっ…」
(名残惜しいが、そろそろ止めるか。後が怖いしな…)
「ぷふぅ、すまんすまん、アル。口はこれまでにする。次は…わかるよな?」
「やめてって、言ったのにぃ…ひくっ、ぐすっ。」
「ご、ごめん。次はちゃんとするから、な?」
「むぅ〜〜、キス、して?キスしながらなら、いいですから。」
四つん這いの体の上半身だけ捻り、フェリドはその体が倒れないよう支えてからキスをする。

「んん…くちゅ、じゅるっ、あふぅ、はあぁぁ…」
「ん、ちゅっ、じゅぱっ…挿入れるぞ?」
ズヌリ
「んはああぁぁっ!!」
アルシュタートが嬌声を上げる。昨日の比ではないような長さを感じる。
「すごっ、こんなぁっ、奥までっ!入ってる、入っちゃってるっ!!」
快楽も半端ない。奥にコツリ、コツリと当たるたび脳が蕩けていく。
そしてフェリドも驚愕していた。
「う、あっ、すっ、げ…」
締め付けは昨日以上。膣中の粘り気、絡み具合はまるで生き物のようだ。
「んんっ、あはぁっ、すご、いっ!こんな、こんなにぃ!」
ただ無心に腰を振る。
「もっ、とっ!もっとぉ!奥まで、きてぇっ!」
全てをフェリドに委ねたアルシュタートは歓喜の叫び声を上げ、ひたすらに貪欲に求め続ける。
「あはぁ…すごい…こんなにっ、なっちゃってる…」
力が入らず、頭を地につけるとそこから見えるものは前後に揺れるたわわな乳房と、
恋人のペニスを飲み込んで卑猥に形を変える自らの膣だった。
「こいつは…たまらん…!」
フェリドのほうも溢れ出る快楽にひたすら耐え、快楽を請う恋人をもっと乱れさせようとする。
腰だけではなく、両手を伸ばしアルシュタートの二つの果実を揉みしだく。
「ふわぁ、フェリドぉ、すごいのぉっ!わらわの、わらわのがグシャグシャにぃっ!!」
フェリドの手が伸びてきた時、歓声を上げそうになる。
これでもっと快楽が得られると。形を変え、グニャリと歪む自分の乳房に悦んだ。
「アルッ、アルゥッ!」
恋人が呼んでいる。顔を上げ体を捻りキスを求める。
「フェリド、フェリドッ!」
お互いの名前を呼び合い、舌を絡ませ、絶頂へと近付こうとする。
「アル、アル、アルッ!!!」
「んはっ、んああああああぁっ!!!」
同時に絶頂を迎え、再びフェリドからアルシュタートの膣中へ注ぎ込まれる。
力尽き、倒れこんでも二人はまだお互いの唇を求め合っていた。

「あいたたた…」
先程と同じように抱き合いながら本日二度目の温泉に浸かり、砂を落とした後だった。
「どうした!?何があった!?」
服を着替えたフェリドがいきなり駆け寄る。神速とはこの事か。
「い、いえ、少し腰が痛くて…」
「あ〜、張り切ってたからなぁ。」
「だ・れ・の・所為だと思ってるのですか。」
静かな声が逆に恐ろしい。
「はいすいません、ワタクシが全て悪う御座います。」
最早、逆らうことは許されないと知っているフェリドは間髪入れずに平伏す。
「まったく…しかもしっかりと膣中に出すのですから…」
果たして後の軍神がこの時仕込まれたかはともかく――
「それにしても…こんな外套だけでは少々冷えますね。」
アルシュタートは今はフェリドの外套を羽織っているだけ。
服はフェリドの暴走時に布切れに変化してしまった。
(下着も付けず、少し風が吹けば丸見えか…やばっ!)
その状況を想像しただけでまた下半身に血が集まりそうになる。
「さて、行きましょうか。」
そう言うもののアルシュタートは座り込んだままだ。
「あれ?行くんじゃないのか?」
洞窟はどこまで続いているか分からない。ならば少し苦労をしてでもカニの上に乗り穴からでるべきなのだが――
アルシュタートは平然と答える。
「あら、お姫様抱っこで運んで下さるのでしょう?」
「ええっ!?」
途轍もない難題に驚くフェリドに、今まで見せた中で最上の笑顔を浮かべ軽やかに言い切る。
「わらわの服を破り捨てたあげく、大切な処女までもらっておいて、まさか断るなんて仰りませんよね?」
この二日間、男が得たものは恋人と、永遠に逆らうことの出来ない上司だった。

<完>

「ひぃ、ふぅ、はぁ、はぁ…」
「ふふふ、その調子ですよ。落としたりしたら…捻じ切りますよ?」
「はいぃっ!絶対に守りますっ!」
「そうそう、早く戻らないと……あ。」
「ふぅ、ふぅ、どうした?はぁ、はぁ…」
「…忘れていました。」
「へぇ、へぇ、何を?」
「……ガレオン。」
「………」
「………」
「「ああぁーーっ!?」」

その頃、港のほうでは…
「おお、おおおぉぉ…。陛下ぁ、へいかあぁーっ!!
 申し訳ありませぬ!このガレオン姫様を、姫様をぉーっ!
 済まぬ、シルヴァーっ!我輩はここで死ぬっ!死んで罪をぉ!」
男泣きに暮れ、錯乱して自決しようとして島民に止められる男がいたとか――

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