ゲド×クイーン 著者:2_85様

 クイーンは新たに手に入れた紋章の宿るゲドの右手に触れた。
「この右手に…真の紋章が…こいつのせいで…
わたしのサナディは…」
 絞り出した声もゲドには聞こえていないらしい。
 むしろ何かが割れる音が耳をついて、ゲドは慌ててあたりを見回した。
「なんだか、外が騒がしいな」
「ああ…ゼクセン騎士団と、カラヤクランと、リザードクランが、
こんな小さな村に一緒にいるんだからね。騒ぎにならないほうがおかしいさ」
 そう答えたクイーンに、ゲドが訊ね返す。
「サロメどのが?」
「ああ…必死であの戦いがハルモニアの策によるものだと
説得しているが、ちょっと分が悪いわね」
 納得したように頷くゲドが我慢できず、クイーンはさらに続けた。
「多くの血が流れすぎたわ…」
「だろうな…だが放っておけば、もっと多くの血が流れる…。
ハルモニア軍に征服された地は…」
 考えにふけりそうになるゲドの言葉を、クイーンは自分で遮った。
「ゲド…それは、わたしが一番よく知っていること…」
「…すまなかった、クイーン」

 いつもは人のことなど考えないゲドがあまりに素直に謝ったので、
クイーンはまず驚き、それから笑い出した。
「“すまなかった”ですって?ゲド、あんたがそんなことを言うなんてね。
変な紋章のせいで、おかしくなったんじゃないのかい?」
「ふふ…そうかもしれんな」
 つられて笑い出すゲドなど珍しい。クイーンは少しその様子を眺めていたが、
突然その肩に手を添えるとゲドの口に自分の唇を重ねた。
笑いにゆるんだ隙間からしなやかに舌を差し込み、
あっけにとられているゲドの舌を絡め取って吸い上げる。
「ん…」
 小さく吐息を漏らしながらゲドの歯の裏を自分の舌でなぞり、
絡んだ舌に触れてぬれた音を立てる唾液を一息に吸い込んで、
クイーンはゲドを解放した。
「なんだ」
 ゲドがあきれて呟く。
「おかしくなったついでに、そっちの欲も人並みになってくれたんじゃ
ないかと思ったのさ」クイーンは悪びれもせず、頬にかかる汚れたままの
ゲドの黒髪を白い指でつまんだ。「それとも、真の紋章を継承すると、
これっぽっちも感じなくなっちまうものなのかい?」
 半ば恐れるような、半ば誘うような視線を投げかけるクイーンに、
ゲドは苦笑してはめたままだったグローブを外した。
 右手に焼き付いた真の紋章を、わずかに緊張したかのような面もちの
クイーンの視線が追う。

「もう…70年にはなる」
「そんなに長い間、男やもめをやってたってわけね」
 ゲドに皆までいわせずに、クイーンは決めつけた。
「あんたのことだ、行く先々で女をつくれるほどの甲斐性はないんだろう?」
「…言われたものだな。おれも…」
 さらに言葉を続けようとしたゲドを、クイーンは再び唇で遮った。
止めようとしたゲドの手を押さえて自分の背中に導く。
女とはいえ剣士にしてはくびれすぎている腰のあたりに、
紋章を宿したゲドの右手は不思議なほどぴったりと落ち着いた。
クイーンのもう一方の手が自分の服の留め金を外していくのを、
ゲドは止めようとしなかった。
 柔らかく絡める舌と似た動きで、クイーンの手がゲドの身体の線を這い、
ようやく露わになった胸元に指が滑り込む。
 かすかに冷たい指が触れるのを感じて、ゲドは少し身を引いた。
「…その気はないかい、やっぱり」
 クイーンは自嘲するようにくくっと喉を鳴らして首を振った。
照れ隠しに乱れた襟元を直す。
「わたしの母さんの、母さんの、そのまた母さんの時代から生きてる
あんたの気持ちなんて、わたしにはわからないけどね」
 クイーンは顔を上げ、舞い込んだ埃を焦がしてチリチリと音を立てる
ランプの明かりに目をやった。石造りの床を、未練がましく踵で叩く。

「服を脱げ。汚してもつまらん」
 顔色も変えずに口にするゲドを驚いて見つめ、クイーンは苦笑した。
「まったく、色気のないことを」
「………」
 黙ったままのゲドをそのままにして、クイーンは立ち上がり服を脱いで
側の樽の上に載せた。ランプの明かりだけで薄暗い部屋のなかでも、
くっきりとした稜線を持つ影は浮き上がる。
「わたし一人にみっともない思いをさせるつもりなの?
それともご奉仕されるのが趣味なのかい?」
 目を伏せて髪飾りを外すクイーンに問われ、ゲドは答えないまま
汗を吸って重い服の袖から腕を抜き、床に落とした。
傷と疲れを癒すために塗られた薬油の薄荷香がわき上がる。
クイーンは床に落ちた服を拾い上げて椅子の背にかけると、
鹿のように長い足を折ってゲドの膝の上にかがみ込んだ。
「…軽いな」
「わたしも女なんだよ。それよりバカ言ってないでさ」
 クイーンがゲドの背中に手を回す。見せつけるように身をそらせ、
すっきりとのびた白い首筋に、ゲドは唇を落とした。
息を感じたクイーンが甘い声を上げる。
「…そんなことまで仕込まれたのか」
「下らないことに関心してないで…あっ!」
 クイーンの揶揄がおわらないうちに、ゲドは身体を入れ替えて
クイーンを堅い寝台に横たえていた。

 自分を覆う大柄の影のせいで、クイーンにはゲドの表情があまり見えない。
「なんだい、渋ってたけど意外にその気じゃ…ぁは…」
 ゲドは形の良い乳房を両手でゆっくりと幾度かもみしだくと、
片方の乳首に口を添えた。舌先でそっと湿り気を与えてやっただけで、
クイーンは身体を振るわせゲドの腰に回した腕を堅くした。
「あまり大げさにやっていると、日が暮れるぞ」
「なに言って…んふ…はぁぁ…」
 首筋よりもさらに白い乳房をもみ、乳輪に舌を這わせ、乳首に軽く歯を立てる。
ゲドの動き一つごとにクイーンは嬌声をあげ、ゲドの背に爪を立てた。
痛みというほどではない刺激ではっきりとクイーンの感覚を知らされながら、
ゲドはしつこく唇と舌先で立ち上がった乳首を弄ぶ。
「んっ…ぅ…ゲド、それじゃ…まるっきり
大きな子供じゃない…か…はぁ…っ」
「やはり気が短いのだな」
「や…ぁりって…っ」
 クイーンが唇を噛むのとほぼ同時に、扉が軋み男の声が響いた。

「おいクイーン、大将はまだ…」
 言いながら部屋に入ってきたエースを見もせずに、
ゲドは片手で出ていくよう合図する。
「ゲド、元気になったみたいだけど、なにしてるんだ?」
「アイラ………向こうで…ソーダを……」
 開きっぱなしの扉の向こうでこちらをきょとんと見ているアイラを、
ジャックが無言のまま引っ張っていった。
 ジョーカーが咳払いをして扉を閉める。
 不意をつかれたクイーンがただエースの表情を見つめていると、
エースはしばらく呆然としたあとで困ったように頭をかいた。
「ええと…大将、気がついた…みたいですね」
「心配ならそこで見ていてもいいぞ」
「そんなぁ、勘弁してくださいよ」
 エースは視線をそらせて後ずさった。「と、とにかくキモチ良くなったら
来てくださいね、外はちょっとした騒ぎなんですから」
「卑猥な言い方するんじゃないよっ!」
「わかった」
 クイーンが顔を紅くして怒鳴りつけるのと、ゲドが何事もなかったように
答えるのが重なる。エースは身を翻して戸口をくぐると、閉まっていることを
確かめるようになんどもしつこく扉を軋ませた。

「まったく…あんなこと言うなんて、どういうつもりな…」
 抗議の言葉を封じるように、ゲドはクイーンの艶やかな唇に自分の唇を重ね、
漏らすため息を邪魔するみたいに舌を絡めた。クイーンもそれに答え、
湿った音を立ててゲドの舌を味わう。首筋に手を添えたクイーンが
柔らかく唇を吸い上げ始めると、ゲドは堅くなりかけている乳房をさらに
両手で愛撫した。
「はぁっ…」
 クイーンがため息をつく。少しのけぞる細い身体を覆うように
ゲドが身をかぶせると、そそり立ったペニスがクイーンの下腹部に強く当たって
茂みを濡らした。
 クイーンがそこに伸ばそうとする手を、ゲドが掴んで止める。
「ぅ…なに…?」
「余計なことをするな」
 そう呟くと、ゲドはクイーンの下のほうへと手を伸ばした。
すでに蜜にぬれた恥部に軽く触れ、ねっとりとした液の絡んだ手を
太股から膝へと滑らせてクイーンの脚を大きく開かせる。
 ゲドの指が愛液をぬぐうようにして陰核を探し求めると、クイーンは
ゲドにしがみつくように腕に力を込めた。

「なにをしている」
「んぁ…あんたこそ…」
「痛い思いをするのは嫌だろう」
 ゲドは触れていた二本の指をそろえ、震えているクイーンの襞の間に
するりとそれを差し込んだ。
「ぁからっ…そういう…ん…言い方…っ」
「…あまりフリをするな」
 深く沈めた指を少し曲げながら抜き差しすると、クイーンは
逃れようとするかのように腰をよじった。すっかりぬれたゲドの指は
動くたびに淫靡な音を立て、それに合わせて液体が流れ出て敷布を濡らす。
「ん…ぁんて…」
 クイーンの息は上がってもうはっきりとした言葉にならない。
化粧気のない目元が潤んで、細いランプの火をちらちらと映している。
「ん…っふ…はぅ…」
 クイーンの声がやや息苦しそうになるのを聞き、ゲドは指を引き抜くと、
反り返った逸物の先を秘口にあてがった。
「…ぃんだよ…ためらったり…しないでさ…」
「望んだのはお前だろう。お前が先にイってしまったら、やめるぞ」
「そん…ぁ…ッ」
 クイーンは抗議のかわりに自分から腰を浮かせ、ゲドの腰に脚を絡ませた。
「…そんな…勝手なこっ…」深く息を吸って
言葉を繰り返す。

「おいおい…」
 ゲドはぼやいたが、クイーンが身体を動かすのに合わせて、
少しずつ腰を進めていった。
 普段の気丈さからは想像もつかないような甘い声を上げるクイーンの肉壁は
熱を帯びてゲドのそれにしっかりと絡みつき、締め付ける。
 根本までクイーンのなかに自分を収めてしまうと、ゲドは叩きつけるように
腰を揺らした。動くたびに流れ出す愛液がなまめかしい音を立てるが、
クイーンはため息以上の喘ぎ声を立てる様子がない。
 ゲドは一旦身体を止めた。
「大丈夫か」
「病み上がりの…あんたに…心配されるなんて…ね」
クイーンは必死で息を整えて答えた。「あいつらに…聞かれたら…
悔しいだけさ」
「既に見られたが」
「…あんたがそんな…バカだとはね」
「それに、いずれは忘れるだろう」
「わたしの…ことも?」
「…………」
 聞き慣れた沈黙に、クイーンは腰を回し、ゲドの分身を締め付けた。
「…………っ!」
 思いがけない刺激に、ゲドの口からため息が漏れた。

「ふふ…ゲド、あんたも一丁前に感じるのね」
 クイーンがからかうと、ゲドは無言で彼女の中を突き上げ始めた。
「あっ…はぁッ…」
 クイーンは押さえきれずに喘いだ。
 ゲドの動きが徐々に速く、激しくなる。それに合わせて揺らしていた
クイーンの腰が不意に止まり、ひときわ強くゲドを締め上げた。
「くっ………」
 ゲドはその刺激をこらえきれず、クイーンの中に精を放った。
 彼女の膣は少しでも多くを搾り取ろうとするように痙攣を繰り返す。
ゲドは塗れた肉棒をクイーンの身体から引き抜くと、荒い息のまま
藁布団に身を沈めた。
 耳元でクイーンが小さく笑う。
「なんだ」
「ご大層な啖呵を切った癖に、不甲斐ないよ」
「………満足できなかったのか」
「冗談さ。それより、あいつらの所に行ってやらないとね…」
「そうだな」
 そう答えたものの、ゲドはなおも少しの間起きあがろうとはしなかった。

 服を身につけ、剣を握って部屋を出たゲドを迎えたのは、
隊員達の好奇の視線だった。
「どうした」
 ゲドは相変わらずの平静さで訊ねる。
「大将も隅におけませんなあ」
 エースがにやにや笑いを浮かべながら延びをする。
「どういうことなんだ?ゲドもスケベなのか?」
「むっつりスケベってやつだな。男らしい俺と違って陰湿だ」
 アイラに答えるエースの背を、今部屋から出てきたばかりのクイーンが
力一杯どつく。
「あんたは男らしいどころか、まるっきりサルじゃないか」
 エースが悲鳴を上げて抗議する傍らで、アイラが首を傾げる。
「むっつり?ジャックもそうなのか?」
「いや、おれは…」
「…行くぞ」
 ゲドは何事もなかったかのように階段に足をかける。クイーンがそれに続き、
残りの者たちも急いで後を追った。

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