ゲオルグ×ベルナデット 著者:ウィルボーン様

二つの人影は、船着場でも特に人目を引いた。このご時世帯刀している人間は珍しくないが、左目を眼帯で覆われた青年は、抜き身の刀のような鋭さを漂わせている。もう一人は線の細い少年で、どことなく気品を感じさせる。どこぞの貴族とその護衛とでも言ったところか。ベルナデットは思わず視線をその二人に向けた。
「ゲオルグ!こっちだ!」
傍らで、父スカルドが大きく手を振る。青年は顔をあげ、小走りに近づいてくる。スカルドは大きく手を広げ、旧友にあった時のように肩を抱く。親子ほど年が離れているのに、そんな距離など問題ないようだ。
「お久しぶりです提督。相変わらずお元気そうで」
「15年ぶり…、いや、もっとか?お前も変わらぬな。目の具合はどうだ?」
「ええ、まあまです。それより提督」
ゲオルグと呼ばれた青年は、背後に立っている少年を前に押し出した。スカルドは、青年にしたように肩を抱こうとしたが、一瞬立ち止まり、そして恭しく一礼した。
「スカルド・イーガンと申します。殿下のお噂は群島にも聞こえております。こちらは娘のベルナデット。20歳にもなって色気もなく、わしの副官をやっております」
「だ、誰のせいです誰の!!」
ベルナデットは真っ赤になって怒鳴った。と、青年の驚いたような視線にぶつかる。
「もしや、彼女が末の…?ああ、確かに面影がある」
青年が微笑を浮かべる。喜びと嬉しさと、微かな悲しみの交じった笑顔を向けられ、ベルナデットは柄にもなく顔を赤らめた。低い声、眼帯で覆われた険しい表情、近寄りがたい圧倒的な威圧感。青年から受ける印象は色々あったが、なぜか彼は、悲しみを受け止めて微笑むことの出来る、心優しい人なんだと思った。
なぜか、と言われると分からないのだけれども。
「ゲオルグです。提督にはガキの頃お世話になりまして、生まれたばかりのあなたのオムツを変えたこともあるんですよ」
「わはは、その頃からまったく変わっとらんだろう、この娘は。いいかベルナデット、ゲオルグはファレナの女王騎士であり、今は王子殿下の護衛だ」
「ま、コイツは俺の護衛など必要ないんだが、まあ格好だけ、な」
そう言ってゲオルグは少年の肩に手を置いた。
王子殿下…?
「え…えぇっ!?このっ、この子がファレ…もがっ」
「ばか者。声に出すんじゃない。まったく、わが娘ながらどこまで鈍いのだ」
スカルドに口を塞がれたベルナデットは、まじまじと少年を見た。言われてみれば穏やかな物腰も線の細さも立ち振る舞いも、王族ならではの優雅さを感じられる。しかし、それにしても
「はじめまして、スカルドどの、ベルナデットどの」
「はっ、はじめまして王子殿下、その、無作法者で申し訳ないです…」
みるみる声が小さくなっていくベルナデットを、スカルドは笑いながら見ている。海賊や荒くれ者と立ち回りは出来ても、高貴な人と話すのは慣れていないのだ。
「あまり、かしこまらないで下さい。僕も困ります」
そう言って恥ずかしそうに笑う王子に、ベルナデットは親近感の覚えた。一国の王子殿下を前に親近感が沸くというのもおかしな話だが。

「ゲオルグどのは、群島の生まれなんですか?」
ニルバ島からエストライズへ向かう船の中で、ベルナデットはゲオルグと並んで甲板から遠ざかる景色を見ていた。王子と護衛の少女は船酔いで起き上がることも出来ずに、打ち上げられた魚のようにぐったりとしている。
「いや、群島で育ったけれども生まれは別だ」
確かに、ゲオルグには潮の香りを感じない。群島の人間なら、たとえ故郷を離れて何年たっても潮の香りは残っているものだ。
「ガキの頃提督にはお世話になったし、迷惑もかけた。いや、それにしても」
ゲオルグはまじまじとベルナデットを見つめる。
「あの時の赤ん坊がこんなに大きくなるなんて、俺も年を取るわけだ」
「いやだゲオルグどのったら、まだお若いですよ」
「他の兄弟はみな息災か?」
「ええ、それぞれ独立したり嫁いだりしています。何人か行方不明の兄たちもいますけど…。私は末っ子なので、上の兄たちの記憶はないんです」
そう言うと、ゲオルグは当時の記憶を思い起こすかのように目を閉じた。ベルナデットはそっと場を離れる。触れてはいけないものがある、そんな気がしたのだった。船室に入る時に振り返る。夕陽を浴びて佇むゲオルグはまるで一枚の絵のようで、なぜか胸が締め付けられた。

「ベルナデット、早くおいでよ」
セラス湖のほとり、本拠地の脱衣所ですでにタオル一枚になったサイアリーズに呼ばれ、ベルナデットは慌てて身支度を整えてあとに続く。
スカルドの名代としてやってきて、すでに一月経っていた。ここにはファレナだけでなく様々な国や地域から人が集まっており、島国育ちのベルナデットにとっては、いるだけでも学ぶことは多い。父に遣わされたことを密に感謝した。
不思議なことに一番気があったのは、王子の叔母サイアリーズであった。気品を保ちつつ適度に奔放なサイアリーズは、普段は大人しいベルナデットにとって大きな刺激だった。生まれも育ちも身分も違うのに、なぜか気が合うのだ。
「見てごらんよ、今日から露天風呂がオープンだって。行ってみようよ」
「え、でもサイアリーズさま、露天風呂は混浴ですよ」
「いいじゃないか。まだ誰も来てやしないよ。浸かっちまえば一緒さ」
半ば強引に腕を取られ、ベルナデットは大浴場を抜けて露天風呂へと足を踏み入れた。まだ人影はなく、白く煙る湯気を縫ってセラス湖を一望できる絶景に、二人は息を呑んだ。

「いい景色ですね。戦争中だって、忘れそう」
「まったくだよ。それより、今更だけどあんたけっこうスタイルいいよね」
「!!いきなり何を言うんですか。サイアリーズさまこそ、スタイル抜群じゃないですか」
「あたしは普段から開けっぴろげだからさ。あんたみたいに普段はぴったり着込んでいて、その実…って方がグッとくるんだよ、男は」
ベルナデットは真っ赤になって両手で自分の体を隠した。
「駄目です。私のは何ていうか、単に凹凸があるだけで色気がないんです…」
常に父から色気がないと言われ続けていたが、悔しくもそれは図星である。海の男たちに囲まれて育った生育段階に問題があるのか、生まれ持ったものかは分からないが。
「色気なんて男が出来れば自然に身につくよ。いい人はいないの?ゲオルグとはどうなの?」
「ゲオルグどの…ですかっ?」
思わず口ごもって顔を赤らめると、サイアリーズはニヤニヤと意味ありげな笑顔を向ける。
「なんだい、そうだったのかい。仲がいいと思ってたけど、へえ」
「ち、違います。その、父の知人ということで、妹のように良くしてもらってるだけで…」
「確かに、二人で一緒にいても色気がないというか、まるで兄妹みたいだからねえ」
追い討ちをかけられたようでがっくりと肩を落としたベルナデットだが、気にかかることがあった。
「サイアリーズさま、私とゲオルグどのって、似てます?」
「二人とも群島育ちだろう?顔じゃなく、何となく雰囲気は似てるものがあるよ」
以前、女王騎士のカイルに誰かに似ていると言われたことがある。スカルドと親しいゲオルグ。赤ん坊の頃の自分を知っていた。そして、記憶にはない上の兄たち。
まさか、ゲオルグが自分の兄…なのか?
数々のピースが突如頭の中で合致して、ベルナデットは軽い眩暈を起こした。ゲオルグは知っているのか。だから良くしてくれるのか。
…私は、私はその優しさを勘違いして勝手に舞い上がって。
ベルナデットは、溢れそうになる涙を気取られぬよう湯船に顔を沈めた。
…大丈夫。まだちゃんと好きだったわけじゃない。優しくしてもらって、嬉しかっただけ。
「のぼせたの?大丈夫か…い…」
サイアリーズの視線が湯船の一点を凝視する。ごくりと息を呑み、悲鳴を上げる。
「虫っ!虫っ!虫が〜〜〜!」
湯船に大きいムカデのようなものが浮いている。悲鳴を上げて勢い良く湯船から飛び出したサイアリーズは、水に濡れた床に足を滑らせ思い切り転んでしまった。
「だ、誰か!誰か来てください!ミルーンさぁん!人を呼んで!」
頭を打ったのか、失神してしまったサイアリーズを抱き起こして叫ぶと、バタバタと足音がして、二人の男が飛び込んできた。

「どうした!敵か!?」
「ゲオルグどの、カイルさん!サイアリーズさまが転んで…」
飛び込んできたのは、着替え途中で着崩した格好のカイルとゲオルグだった。カイルはベルナデットの説明を皆まで聞かず、羽織っていた上着をかけてサイアリーズを抱き上げた。
「シルヴァ先生のところに行ってきます!」
慌しくカイルが出て行くと、広い露天にはベルナデットとゲオルグが残された。ベルナデットは今更ながら自分が全裸であることに気づき、今度は自分が失神しそうだった。飛び込むように湯船に浸かる。
「あ、ありがとうございました!あとは大丈夫ですから出てください」
「いや、ちょうど風呂に入るつもりだったから、ちょうどいい」
そう言ってゲオルグは着ているものを次々と脱いでいく。ベルナデットは悲鳴を上げて顔を両手で覆った。
「駄目ですゲオルグどの!早く出てってください!」
「露天は混浴だろう?嫌ならそっちが出て行くんだな」
「そんなぁ…」
ゲオルグは湯船の中を逃げるように這いつくばるベルナデットをおいかけ、背後から抱きしめた。
「ひゃ…!」
「そんなに怯えることもなかろう。お前が俺をどう思っているかわからん程、鈍くはないぞ」
肌が密着し、風呂の熱気と相まって本当に失神しそうだった。生暖かい息が耳にかかり、火照っているのに鳥肌が立つ。
流されてしまう…。いや、駄目だ。ベルナデットは渾身の力を込めてゲオルグを跳ね除けた。
「ゲオルグどの、知ってるんでしょう?知ってて、それでもこんな真似ができるんですか!?」
弾かれたように、ゲオルグは棒立ちになる。
「知っていたのか」
…やっぱり。ベルナデットの瞳から涙が溢れた。
「すまない、黙っていた方がいいと思ったんだ。よけいな負担をかけさせたくなかった」
「知っていて、こんなことが出来るなんて…見損ないました!」
「決して軽い気持ちじゃないんだ。分かってくれベルナデット」
「口では何とでも言えるんですね。実の兄妹で愛し合うなんて…獣だわ!」

「ちょ、おま、何だそれ。誰と誰が兄妹だって!?」
「わ、私とゲオルグどのが…。違うんですかっ?」
「違う違う!お前の兄貴は、俺の親友だよ。ずいぶん影響受けたから、似てる部分はあるかもしれんが」
ベルナデットは放心したように湯船にへたり込んだ。自分の勘違いに苦笑いと安堵のため息が漏れた。兄妹じゃないんだ…。ゲオルグは呆れたように笑いながら、ベルナデットを抱き寄せた。再び密着する体の熱さに驚き、思わず身を引く。
「どうした?兄と妹じゃないから問題なかろう?」
「でも…」
「じゃあ何か?いったん風呂から出て服を着て、お前の部屋でもう一度服を脱ぐか?」
言葉に詰まって黙り込むと、許可の証とでも思ったのか、唇を塞がれた。流されているなぁ、と心の隅で思いつつ、そっと心に蓋をした。自分の意思を持って流されるなら、それは流されているとはいえないだろう。
ベルナデットはおずおずとゲオルグの背に手を回した。触れるだけのキスから、次第に激しさを伴うキスへと移行する。呼吸するために少し唇を離して息をすると、その隙に舌が差し込まれて口内を蹂躙される。
「んふぅ…っ。んん…」
体を内側からぞろりと嘗め上げられる感触に、ベルナデットは軽いめまいを覚えた。しがみつく手にも力が入らなくなり、ずるずると湯船に沈みそうになる。
「おっと、これ以上湯船で続けると、どっちかが溺死するな」
ゲオルグはひょいとベルナデットを抱え、湯船を出た。
「あ、あのっ、誰か入ってきたらどうするんですか?」
「心配するな。俺とカイルが入る時、掃除中の看板を下げておいたから誰も来ない」
にやりと笑い、ゲオルグはベルナデットを浴槽の縁に座らせて、その辺に脱ぎ散らかしていたマントを床に敷いた。
「まあ、これで少しはラクだろう。ホラ、おいで」
マントの上に正座すると、あっという間に押し倒された。背中に石の硬い感触があるが、そもそも風呂場なのでどうしようもない。
「風呂場でやると、脱がす手間もないからラクだな」
茶化すゲオルグのわき腹を軽くつねる。お返しとばかりに胸の突起をつままれる。
「…っ、ん、あぅ…ん」
片方を指で捏ねながら、片方を口で含んで嘗めあげる。ベルナデットは声をあげぬように歯を食いしばるが、いつの間にかすすり泣くような声を上げていた。ゲオルグはうてば響く反応を楽しみつつ、手を次第に下腹部へと伸ばしていった。

「あ…駄目、そこは…」
「何が駄目だ。もうびしょ濡れじゃないか」
「それはっ!お風呂に入っていたからですっ」
必死になって訂正するベルナデットを見て、ゲオルグ喉を鳴らすようにして笑う。胸からわき腹、へそを通って禁断の場所へ。そこはすでにお湯ではない粘り気のある分泌物によってじんわりと湿っていた。
「んっ…!」
入り口付近に浅く指を差し入れると、ベルナデットは体を弓なりに反らした。
「んん、いやぁ…っ」
強烈な快感に、思わず逃げようと体をよじるが、ゲオルグは両手を捻りあげて片手で押さえ込み、体重をかけて圧し掛かって逃げられないようにした。そして徐々に指を深く挿入していく。やがて根元まですっぽりと飲み込む。
「いやぁ、ダメ、ダメぇ!ヘンになりそう…」
ベルナデットの目じりには涙が浮ぶ。だがゲオルグは容赦なく指を中で激しくかき回す。
「あーッ!や、ダメ…ッ!」
ぷしゅっ!と何かが薄く弾けるような音がして、飛沫が飛び散った。
「あ、あああ…っ」
ベルナデットはグッタリと弛緩し、顔を伏せた。
「だから、ダメっていったのに…っ」
恥ずかしさのあまり、死んでしまいそうだった。だがゲオルグは掌にかかった飛沫をぺろりと嘗め、強引にベルナデットの口の中に突っ込んだ。
「なに、恥ずかしがることはないぞ。小便ではなく、潮を吹いただけだ。鯨と同じだ。海を生きるお前には当然の生理現象だ。むしろ、俺の技がすごかったことを誉めて欲しいな」
「また…冗談ばっかり」
「本気だ。ご褒美をいただけますかな」
ゲオルグはにやりと笑って、ベルナデットの手を己のそそり立ったものに触れさせた。思わず握ると、ゲオルグが小さく呻く。ベルナデットは手を上下させてそれを扱きはじめた。ベルナデットにとってそれは初めての行為だったが、誰に教わるまでもなく自然に手が動いていた。時に強弱をつけ、包み込むように、搾り取るように扱いていく。やがて、ベルナデットは吸い寄せられるように顔を近づけ、存在を主張するそれを口に含んだ。アイスを嘗めるように舌で転がし、それから口をすぼめて一気に吸い上げる。
「く…っ、どこで覚えたんだ」
「は、初めてですっ」
ベルナデットは真っ赤になって叫ぶ。そもそも、男女の交わりだって経験が豊富なわけではない。風呂場で、真昼間から、ゲオルグとこんなことをしているなんて我ながら信じられなかった。

「もういい。これ以上続けたら俺のほうが持たん」
「え…?あ、キャッ!な、なに…?」
ゲオルグが股間に顔を埋め、秘所に舌を這わせて来たのだ。驚いて押しのけようとするが、絶妙な舌使いに体中の力を奪われ、ただ力なくゲオルグの頭を抑えるしか出来ない。
「ああッ!あ、あ…ぅッ、やぁ…」
後から後から蜜がこぼれ、ゲオルグはわざと激しい音を立てて吸い上げる。舌のざらついた感触が脳天から突き上げるような快感をもたらし、ベルナデットは息も絶え絶えに、ただすすり泣くような喘ぎ声を漏らすだけだった。
やがて顔を上げたゲオルグは、ベルナデットの両足を持ち上げ、膝を立てさせた。もはや身も心もすっかり蕩けきっているベルナデットは抵抗することもない。ゲオルグは狙いを定め、自身の猛ったものをその場所に押し当てた。
己の中に、異物が侵入してくる。その感触が、呆けていたベルナデットを覚醒させた。
「あ…!ああっ!」
そこは十分濡れそぼり、迎え入れる準備が整っていてたため、痛みはなかった。ただ、それがどうしようもなく自分を圧迫する。
「あ、あん!!あ!あぁ…ッ」
ベルナデットの声に呼応するように、ゲオルグは己を激しく叩きつける。
時に最奥まで抉るように、時に浅く擦るように。
そして繋がったまま抱き起こし、座位の態勢になる。ベルナデットは自らゲオルグの背中に腕を回し、体をぴったりと密着させてきた。豊かな胸が、くりゃりと形を変える。
「はぁ…はぁッ、も、ダメぇ…」
ゲオルグもだんだん限界が近づいてきた。最後の力を振り絞るかのように小刻みに体を震わせ、そして己の思いの丈を、一滴残らずベルナデットに注いだ。

その後、二人は改めて風呂に浸かっていた。先ほどまで肌を交えて激しく乱れていたベルナデットだが、正気に戻ると理性が勝つらしく、きちんとゲオルグから距離をとっていた。その生真面目さが、ゲオルグには愛らしく見える。
「もうちょっと近くに来たらどうだ」
「駄目です。これ以上は危険です」
「何が危険だ。もうやることやっちまったじゃないか」
「ゲオルグどの!」
真っ赤になって怒鳴りつつ、ベルナデットは心持ちゲオルグに近づく。

「それにしても、俺とお前が兄弟だ何てどんな妄想だ。人の話を聞かずに思い込みが激しいのは、一族の血なのか。提督も兄貴もそうだぞ」
「…反省してます。ところで、私の兄って今は何をしてるんですか?」
ベルナデットの質問に、ゲオルグは言葉を詰まらせた。
「ゲオルグどの?」
「…亡くなったよ。人間、いい死に方なんてないと思うが、それでもアイツにはああして死ぬのは苦ではなかったんだろうな…」
「側にいらしたんですか?」
「ああ。俺が上手く立ち回れていれば、防げたかもしれないと思うと、やはり、な」
そう言って、ゲオルグは俯いた。あの時の出来事が甦る。あの時、もっと何か出来たのではないだろうか。二人を失わずに済む何か別の方法が。そう思うだけで、罪悪感と後悔で胸が潰れそうになる。自分がこんなにも脆く弱い人間だったのかと、自分を詰りたくなる。大事なものを守ることも出来ないで、何が女王騎士だ。お前はその贖罪のために王子を守ってるだけじゃないのか?また今度も失ったらどうするのだ?
と、背中からベルナデットがふわりと抱きついてきた。
「私が兄に代わって許します。だからもう一人で背負わないで。兄もきっと、ゲオルグどのが辛そうにしているのを見たくないはずです」
振り返ると、ベルナデットの顔が近づき、そっと眼帯にキスしてきた。天使が舞い降りたかのような、軽やかで慈愛溢れる口付けだった。
「大丈夫。海の男は全部水に流しちゃうんです。次に同じ間違いをしなければ、それでいいんです」
ベルナデット、お前は許してくれるのか。お前の兄と義姉を助けられなかった俺を。なあベルナデット。いつかお前に話してやりたい。お前に良く似た瞳を持つ男の話を。人を愛し国を愛し、そのためには自ら傷つくことも厭わない、強い男がいたってことを。ゲオルグはベルナデットを抱きしめた。精一杯の感謝と愛を込めて。
「ゲオルグどの…?」
ベルナデットが不思議そうに首をかしげ、くすぐったそうに笑う。
その笑顔は太陽の光を反射して輝く、深く碧い海の煌きに似ていた。

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