ジョルディ×クリス 著者:6_970様

静かな水面を見ていると、唐突に「幸せ」で静かだったあの日々を思い出す。
カラヤで長く暮らし、草原の匂いにもなれたが、やはり俺の故郷は水辺なのだ。
あいつはどうしているだろう。孵った卵から生まれた子供は、俺に似ているだろうか。

ビュッデヒュッケの城に突き刺さった船の上、ジョー軍曹は一人水面を眺めていた。
ハルモニアの攻勢を何とか押し返して、落ち着いた先は見た目は寂れた古い城。
ゼクセンとシックスクランとの境目にある城は、ゼクセンの様式で建てられていたものの
空気はグラスランドのそれだった。吹き抜けていく風が気持ちいい。
カラヤクランの面々は城の中枢部を使用していたが、軍曹は時折この船の上を訪ねていた。
水の上に浮かぶ木組み、というシチュエーションが、彼に懐かしい感覚を思い起こさせる。

(今更だな。愛想を尽かされて、こっちが捨てられたっていうのに。未練か。)
ふっ、と自分自身を哂って、頭を現実に切り替える。

故郷に似た雰囲気の中で、ずっと美しい思い出に浸っていられるほど、
彼は暇でもないし老いてもいなかった。
(うちの小さな英雄に、稽古でもつけに行ってやるかな。)
やるべきことを見つけた彼は、船から立ち去るため振り返ろうとした。
横に首を向けた途端、思いがけないものを視界に見つけて、動きを止める。
数メートル先の甲板に、白銀の鎧に身を包んだ、ゼクセンの騎士団長クリスがいる。

別に、彼女がいることは何ら不思議ではない。ここは彼女達ゼクセン騎士団の使っている場所なのだから。
そのこと自体ではなく、気にかかったのは彼女の表情。
何度か敵として戦い、何度かは味方として肩を並べて戦った。
その時の彼女の顔は良く覚えている。騎士の顔、戦士の顔。戦場を鋭く観察し、敵を見定め殺す顔。
今の彼女の表情は、それとは対照的に、不安と寂しさが張り付いているように見える。
泣きそうな顔で、水面をただ眺め続けているのだ。

周りに、自分がいることにも気付かないのだろうか?
そう思ったものの、その疑問自体が矛盾していることにすぐ気がつく。
自分こそ、彼女がすぐ隣にいることにさえ気付かなかったではないか。いつから来ていたのかも分からない。
もしかしたら、自分自身も、今のクリスと同じ顔をして湖を見つめていたのかもしれない。

「白銀の乙女に、そんな顔は似合わない。」
どう声をかければいいか少し迷ったが、結局思ったことそのままを口にすることにした。

「えっ」
突然間近から聞こえてきた声に、クリスは敏感に反応した。
驚いた表情で振り返るが、そこにいるのが城にいる仲間の一人であることを確認し、とりあえずは落ち着く。
それから間もなく、言われた言葉の内容に気がついた。自分はどんな顔をしていた?
「私はどんな顔をしていた?」
狼狽が残っていたのか、彼女もまた心に思ったままのことを口にしていた。
彼から言われたことと、自分で言ってしまったことの両方が、あまりにも恥ずかしい。顔が火照る。
「聞きたいのか?あんたは多分、今以上に赤くなっちまうと思うが。」
今まで堅い女だとしか思っていなかった彼女のあまりに素直な反応がかわいく思えて、
ついついからかいの言葉を重ねてしまった。
「ならば、いい。失礼する。」
からかわれたことに当然気付いたクリスは、赤い顔のままその場を立ち去ろうと足を進める。

少し悪いことをしたかな、と思った軍曹は、しかし今このまま彼女を返してしまうのは惜しいとも思った。
ガラにもなく思い出に浸っていた彼の横で、クリスもまた過去に思いをはせるなどという偶然は、
今後そうそうあるものでもないだろう。それに、彼はクリスが何を思い出していたのかを知っている。
だから、口にした。
「父親に放って行かれた、子供みたいな顔だったぜ。」

それまで立ち去ろうと歩を進めていた彼女が立ち止まり、
鋭い表情で軍曹を見返してくる。やはり、図星だったようだ。
今のは、彼女の気を引いて足を止めるための言葉。けれど、もうこれ以上からかうつもりはない。
「あいつの…ジンバのことを思い出していたんだろう?」
責めるようなクリスの視線を受け止めて、これまでよりも違う柔らかな口調で語りかけた。

揶揄されたのかと思い振り返ったが、彼女の見た軍曹の顔は思いのほか真剣だった。
からかってくるつもりではないようだ。話がしたいと、目がそう語りかけてくる。
「…ジョー軍曹。なぜ、私が父の子のことを思い出していると?」
「俺も今そうしていたからさ。ただし、俺の思い出していたのは別れた女房と子供のことだが。」
思いもかけない答えに、クリスは少し戸惑うが、納得もした。
彼もまた、自分と同じような感情でいたのだろう。戦士には不釣合いな、未練。

「せっかくだ。座って話さないか。ジンバのことなら俺も少しは教えてやれる。」

そういうと軍曹は、スタスタと甲板の端に向かって歩き出し、湖に足を投げ出す形で座った。
クリスもそれに続き、先ほどまで眺めていた湖を座って再び眺める。

クリスと共に船の端に腰を下ろし、足を投げ出す。ダックである俺は水に落ちようが気持ちのいいだけだが、
鎧を着込んでいるクリスは落ちたら危ないな。まぁ、無用な心配だろうが。

しばらくここで日向ぼっこでも決め込むか、と思い、パイプを取り出そうとしたが、
それより前にクリスが話しかけてきた。
「父は…どんな人物だった?」
「いきなり本題に入るんだな。もっと長くお喋りを楽しむ気はないのかい?」
「べっ、別にそういうわけではない!貴方の気分を害したのなら謝る。」
「は?…はははははは!」
単純なからかいに至極まじめな返答をされてしまい、俺はついつい笑ってしまった。
軍議の時はこんなからかいには絶対ひっかからないと思うが、今日の彼女は違うらしい。
「なっ、馬鹿にしないでいただきたい!!」
「ああ、悪かった、謝る。ジンバ…あんたの知ってる名前ではワイアットの話だったな?」
機嫌を損ねて去られない内に、こちらも本題に入ることにした。
「…そうだ…聞かせてくれないか?」

「ああ。どんな男だったか、か。そう問われると難しいものだな。
デュナン統一戦争の後、1年も経ってなかったか。
突然ルシア族長が連れてきたのさ。信用の置ける男だからと。
俺のような奴もあそこでは受け入れられる。ジンバをカラヤで受け入れることに誰も文句は言わなかった。
その後は、あの場所に溶け込んで共に生活をしていたよ。強い男だった。
強かったが、カラヤの火のような激しさではなく、受け止めて包み込んでしまうような強さだったな。
真の水を受け継いでいた男だったと聞いた時は、納得したよ。」
昔を思い出しながら話す。といっても、そう昔のことでもないが。
ついこの間まで、共に戦場を駆け抜けていたのだ。

それを真剣な表情で聞いていたクリスが、質問を投げかけてきた。
「家族の話は…何かしていたか?」
それを聞かれるとは思っていたが、俺は少し返答に困った。あの男は自分の過去を語ることをしなかったのだ。
「いや……していなかったな。俺たちは長く共にいたが、お前たちゼクセンと戦っていたから。
きっと、話すことができなかったんだろう。」

俺が言葉を濁したことに気づいたのか、慌てて手を振りながらクリスが言う。
「す、すまない、言いにくいことを聞いてしまって。私のことなど、話せるわけがないというのは分かってる。
あの…違うんだ。本当は、父が私のことをどう思っていたかとか、そういうことが気になっていたわけじゃないんだ…。
父の記憶は、魂と共にここにあるから私を思っていてくれたことも知ったから。」
そういうと、クリスはすっと手の甲を差し出した。うっすらと浮かび上がる真の水の文様。
「だから、もう父に対するわだかまりはない。そうじゃなくて、あの時、もう少しだけ早くあそこに着いていたら…
破壊者よりも前に、父と出会えていたなら…。」
「こうやって共に景色を見て、語り合うこともできたろうに、か?」
俺がそう口を挟むと、クリスは驚いた顔でこちらを振り向く。

「別に、驚くことじゃないさ。読心術を使ったわけじゃない。俺も、同じことを考えていたから。
戦いから帰って、今の仲間達と騒いで、酒を飲んで。何かに不満があるわけではない。
俺にいろいろなものを与えてくれている精霊にはいつも感謝している。
しかし…こうして、静かな風景を見ていると、ふと思い出すんだ。失くしてきたものを。」
対岸が見えないほど広い湖を見渡しながら、そう呟いた。
横から、クリスの「ふふっ」というどこか寂しそうな笑いが聞こえてくる。
「もしかしたら、ここに父もいたのかもしれない。貴方と私と父とで並んで、一緒に湖を眺めていたかもしれないのに…。」
「ああ、そういうものさ。もしかしたら横には俺の妻と子もいたのかもしれないな。」
俺もそう呟き、それからしばらくは二人で湖を眺めていた。

ふと気づくと、クリスの頭が俺にもたれてきていた。彼女の銀髪が肩にかかる。
綺麗な髪だ。戦場で会った時には、これが燃えるように見えていたものだが、
今はどこかに流れていってしまいそうな不安な色に映る。
俺は、羽を伸ばして彼女を抱きこんだ。
「貴方の羽は…気持ちがいいなぁ…。暖かくて。私は、もう一度だけ父に抱きしめてもらいたかったんだ。」
「俺の羽でいいならいつでも貸すさ。」

彼女のこんな弱くて素直な姿を見れるとは、さっきまでは予想もしていなかった。
そのままじっとしていれば、安心しきった彼女の口からは軽い寝息が聞こえてた。
ただ、羽を貸すとは言っても、父親代わりだとかベッド扱いにされるのは少し癪に障った。俺は、こう見えても伊達ダックなのだ。
クリスは鎧を身に着けているが、普段よりはずっと軽装。他の陣営のものの手前、一応着込んでいるといったところか。
安心しきっている彼女の背中に左手を入れ、防具を慎重に外していく。
鉄頭の装備を一応研究しておいたのがこんな形で役に立つとは。
一通り外し終わったところで、服の上から乳房を手で包みこんで愛撫する。
俺の、羽に包まれた手でもちょっと余すぐらいのサイズ。さわり心地もいい。
「ん…ん…?」
目を閉じていた彼女が少し起きそうになっている。どうせだ、起きてもらおう。
俺は、彼女の白いうなじにふっと息を吹きかけた。
「ひゃぁ!?な、何が…。!!!!軍曹!?な、何をしているんだ!?」
「何、せっかくリラックスしてるみたいだから、俺がさらにほぐしてやろうと思ってね。
なぁに心配するな。他種族の女の扱いも知っている。俺が相手をできないのはリザードだけだ…。」

混乱する彼女をよそに、俺は彼女の背中を受け止めていた方の手でも乳房をつかみ、
両方の胸をもみ始める。
「や、やめてくれ軍曹!あっ…!」
「その呼び方は味気ないな…ジョルディと呼んでくれないか。」
鎧を取ってしまえば服は薄着。俺は服の上から彼女の乳首を見つけて、それを弄ぶ。
同時に、彼女の下半身に手をやってなでる。羽繕いと要領は一緒だ。
「ジョルディ…やめて…」
彼女が身をくねらせて何とか俺の羽から逃れようとする。返って好都合。
これで彼女の秘所に逆に手を伸ばしやすくなった。下穿きを指を這わせて、そっとそこに触れる。
「そこはっ!」
「大丈夫だ。」
言いながら、下から上に這わせるように羽を動かす。
羽毛が彼女のそこに触れないように、離れないように、微妙な位置と角度で。
「ひぁぁぁぁん!」
いい声で鳴いてくれた。俺たちの手は、どうやらヒト族にとって快感を呼ぶらしい、
と知ったのは随分前。いい反応をしてくれるのが楽しい。

「気持ちいいのは分かるんだが、少し声が大きすぎる。誰か来たらどうするんだ?」
そういいながら、細心の注意を払ってくちばしで彼女の耳を甘噛みする。
ヒトの口より硬いから、本当は危ないんだが。
「ふ…!あぁっ……」
クリスは口を手で押さえて必死で声を抑えている。良かった。
どうやら痛みを及ぼさない程度に噛めたようだ。
その間にも、彼女の秘所にやった手は止めない。ゆっくりと動かしていた指を一本、中に入れる。
「やぁっ、中に…入れないで…」
「悪いがそのお願いは聞いてやれないな。」
そう言って、指を出し入れする。もちろん、もう一方では彼女の乳首を弄びながら。
本当はもう一本入れてやりたいが、俺の指では一本が限界というところだろう。
指の動きにあわせて、クリスの声が押さえている手から漏れる。快感に耐えようと身をよじる。
どんな種族でも女のよがる姿は最高だが、ヒトはきっとその中でも一際長く激しいだろう。
それも、ヒトの中でももっとも白く美しい女が俺の手で悶えている。
その興奮で、俺の指の動きも激しくなる。クリトリスをつまみ、指を出し入れし、
彼女の快感を引き出し続ける。
「ひぁぁぁぁ!ジョルディっ、もう、無理…!」
「いけよ…」
「やぁぁぁぁぁぁーーー!!」
もう抑えきれなかったのだろう、大きな悲鳴を上げながら、彼女は高みに上った。

俺に外された装備を身につけながら、彼女は俺に背を向けていた。
快感の余韻が残っているのか、その動きは遅いが、どこか俺を拒絶しているようにも見える。
いや、どこかどころの騒ぎじゃないか。寝ていたら突然情事で起こされてイカされたのだから、
大いに文句があることだろう。俺も、よくも殺されなかったもんだ。
それに、烈火の騎士辺りに見つからなくて良かった。なます切りにされていただろうな。
いや、騎士連中なら誰でも同じか。見つかったが最後、今夜のディナーにはダックの丸焼きが出されちまう。
我ながら大胆なことをしたもんだ、と思いながらパイプに火をつける。
燻らせていたところで、着終わった彼女が背を見せながら声をかけてきた。
「軍曹…人が油断しているときにああいう行動をとるのはやめていただきたい。」
「ああ、悪かった。だが、気持ちよかったろう?」
こういう口を利いてしまうのが俺のまだ若いところか…。
今天上の雫を撃たれたら確実に死ぬと頭の中では分かっているのだが。
「…!失礼するッ!!」
案の定腹を立てたらしい彼女は、そのままツカツカとこの場を後にしようとした。
殺されなかっただけでもめっけもん、か?そう思っていると、彼女が急に立ち止まった。
「気持ち悪いわけでは…なかった。貴方の羽からは…やさしい匂いがしたから。」
そう一言だけ背中で呟いて、今度こそ彼女は去っていった。

あれは、どういう意味だろうな。まんざらではなかった、という意味か。
次にもう一度やろうとしたらクリスは怒るだろうか。
いや、本人はともかくとりあえず次はもっと安全な場所を選びたいものだ。
そうだ、次はヒューゴの奴を連れてきてやろうか。あいつも女を知ってもおかしくない年だし、いい交流になる。
いやいや、そんな場面が見つかったらゼクセンとシックスクランの同盟が危ういか…。
もんもんと実のない考えを頭に浮かべながら、パイプを燻らせて湖を見る。
ジンバと一緒に見たかった、と思いつつ、この場にジンバがいなくて良かった、とも思ってしまう。
俺も馬鹿なダックだ。

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