カイル×ミアキス 著者:11_103様

「ミアキス様…!もういいんです…もうやめてください!!」
「ごめんなさいリオンちゃん…でも王子も知ってるでしょう?
女王騎士は絶対に降伏しちゃいけないんです。だから…私に言うことを聞かせたかったら
―――私を倒してください」
大粒の涙をこぼし、微笑みながらそう言った彼女は王子の棍の前に破れた。
「ず、ずるいですよぉ王子…いつの間にそんなに強くなっちゃったんですかぁ…」
弱弱しく笑みを浮かべふらふらと足をもつれさせながらも、
ミアキスは気丈に膝をつかなかった。
「ミアキス様!一緒に王子のお城に行きましょう!」
「そうだよ、僕もミアキスがこっちについてくれたほうが…」
ファルーシュは一歩足を踏み出しミアキスの目の前に手を差し伸べた。
しかし、ミアキスはびくりと身を硬くし、後ずさる。
「ミアキス…?」ファルーシュは不思議そうに首をかしげた。
「王子…わたしは…」ミアキスが目を伏せ小さく呟いたそのとき、
「王子ー!」カンカンという足音と共に待機メンバーのはずだったカイルが
息を切らして3人のほうへと向かってきた。
「ルクレティア様からの伝言です。すぐに街門の方へお戻りになるようにと…」
そこまで言って、満身創痍のミアキスに気付いたカイルははっと息を呑んだ。
ファルーシュはちらっとリオンに目配せをすると、軽くうなずき城の門へと足を向けた。
リオンは少し戸惑ったようにミアキスのほうに目を向けたが、慌ててファルーシュの後を追う。
ファルーシュはカイルの横を通り抜ける際に
「ミアキスの傷を治療して…本拠地のほうへ連れて帰ってきてくれないかな」
と言い残して出口へと向かった。

ファルーシュとリオンの姿が見えなくなったとたんミアキスはよろけるようにその場に座り込んだ。
「ミアキス殿!大丈夫ですか!?」カイルはミアキスに走り寄り、その小さな体を抱き起こした。
「ふふ…王子ったらぁ、ぜんっぜん容赦ないんですよぉ…」
擦過傷やあざを白い肌に浮き上がらせながらも、いつも通りの明るい口調で振舞うその姿は見ている方が
痛々しく感じられた。
「でも、王子とリオンちゃんが先に戻ってくれてよかったですぅ…」
「ミアキス殿ー、さすがの俺でも怪我をしてる女の子を口説くほど人でなしじゃないですよー」
ミアキスを元気付けるためにカイルは緊張感の無い声で軽口を叩いた。
「とりあえず、怪我したところを見せてくださいねー。そして早く王子のお城に」
「カイル殿!」ミアキスはカイルの言葉を遮って、傷口に向けられた手を掴んだ。
「そのことです…私は王子のお城には行けません…。」
「ミアキス殿、心配しなくても王子はミアキス殿のことを怒ったりなんかしてないですよー」
カイルはなだめるようにミアキスに笑いかけた。しかし
「違うんです!そうじゃ、そうじゃないんです…」ミアキスは今にも泣き出しそうに顔を歪め、口を開いた。

「わたし…太陽宮が落ちてから、ギゼル殿の命令で、ザハーク殿やキルデリクや…衛兵たちの相手を
していたんです。姫様の見ていないところではずっと…。毎日毎日調教され続けて、それでも姫様の
前ではいつも通りに振舞って…ばれないようにしてきたのに―――姫様が戴冠式を拒んだときに
見せしめとして姫様の前で…」
カイルはただ黙って聞くことしかできなかった。
「ギゼル殿の策略だったんです。姫様の態度のおかげで家臣が辱められ、しかも調教によって姫様の見ている前で
乱れてしまうことも、姫様がギゼル殿におとなしく従うようになるための脅しです…。
その後は戴冠式に出席した一回きり以外はもう姫様に会わせてもらえなくなってしまったまま、
ドラートへ来たんです…」ミアキスは自身の肩をぎゅっと抱きしめ爪を立てた。
「こんなこと王子には絶対言えませんよぉ…わたしがこんなに穢れた体になってしまったなんて…。
今だってカイル殿に触れられているのがいやでいやでたまらないんです…わたしのせいで
カイル殿まで汚れてしまいそうで…」
「ミアキス殿っ!」カイルは一喝するように強い語気で言い放ち、ミアキスを強く抱きしめた。
「…あ」
「そんなバカなこと言わないでください。ミアキス殿は汚くなんかないですよ。悪いのはギゼルやザハークたち
じゃないですか!被害者のはずのミアキス殿にそんなことを言わせるなんて…!」
「……カイル殿ぉ…」今までのつらく残酷な日々に、リムスレーアのためと耐えてきたミアキスにとって
太陽宮がまだ平和で楽しかったころと変わらない、志を同じくした同僚の言葉は深く響いた。

ミアキスはしばらくの間泣き続けた。

「ミアキス殿、怪我の治療も終わりましたし、そろそろ行きましょうかー?」立ち上がるカイルの
服のすそをミアキスは握った。
「…最後に一つだけお願いがあるんですけどぉ…」床に腰を下ろしたままのミアキスは下を向き
カイルと目を合わせずに呟いた。
「やっぱりこの状態で王子のところには行きたくないんです。―――カイル殿ぉ!」
カイルを見上げたミアキスの目は潤み頬は赤みがさしていた。
「お願いしますぅ…。わたしを…抱いて、きれいな体にしてから連れていってください…」

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