制裁(マティアス×イザベル) 著者:8_679様

「……許可する」

己の全てを支配する、そのひとの凛とした声が
いつものようにマティアスの耳朶を打つ。

イザベル様を侮辱した、この痴れ者に罰を。
徹底的な制裁を加え無力化した後に、相応しい場所へ投棄するという処分を。
生ける断罪の女神にその身を捧げたマティアスにとって、
それは幾度となく繰り返されてきた義務の履行に過ぎない。

だが、今彼の体を突き動かしているのは
ただの冷たい執行機械としての役割意識を超えた、見知らぬドス黒い衝動だった。

なぜだろうか。

痴れ者の頭髪を鷲掴んで地面に引きずり倒しながら、マティアスの中の冷めた一部分が
そんな疑問をふと浮かび上がらせる。
乱れた紅い前髪の下から自分を見上げてくる痴れ者の、慈悲を請うような眼差しのせいなのか。

痴れ者の右手が無様に地を這い、取り落とした剣を探るのを見て取り、
マティアスは容赦なくその手首を踏みにじった。
冷たい鋼鉄のグリーブが、しなやかな肉の下にある骨を踏み砕く感触。
痴れ者は頭を仰け反らせて甲高い悲鳴をあげる。
屠殺される寸前の豚のように。羽根をもがれてまだ死にきれぬ蝶がそうするように、
泥にまみれた全身を醜く痙攣させ、長く白い両足を激しくバタつかせながら。

足をあげて自由にしてやると、痴れ者はこちらに背を向けて、必死に地面を這いずり始めた。
上半身を這いつくばらせたままで、膝を立て高く持ち上げられた尻が、露出した瑞々しい両の太ももが、
痴れ者の前進につれて恥知らずにも左右に激しく振りたくられマティアスを幻惑する。

汗ばみ、太陽の光を受けて淫らがましく輝くその両足の狭間に
容赦なく槍の穂先を叩き込もうとして、マティアスはふと思いなおした。

――鎧がジャマだ。

なおも見苦しくあがき続ける痴れ者の傍らに膝をつき、マティアスは
左手で痴れ者の後頭部を掴み、力任せに地面に叩きつけてその動きを止めた。
細い裸の背中の上を滑らせた右手の指を、肉感的な尻のふくらみを限界まで露出させている腰当ての縁にかける。
痴れ者の両足が引き裂かれ、白い肌に赤い血の筋が刻まれるのにも構わず
力任せに引きちぎり投げ捨てる。

絶叫があがった。

もはや隠すものとてなく、白日のもとに曝け出された痴れ者の下半身は
これまでの抵抗とは全く異なる種類の必死さで激しく暴れはじめた。
股間にもぐりこませた指で繊毛に覆われた肉丘の頂を探り、柔らかくほころんだ裂け目の両側を軽く引っかいてやると
しっとりと濡れた左右の太ももがマティアスの手首をギュッと挟みこんで、
地面に押し付けられたままの痴れ者の唇が、くぐもった拒絶の声をあげる。

――やめろ。やめろマティアス……!!

やめられるワケがない。マティアスは、薄い笑みを浮かべながら
伸ばした中指を、必死に食い締められた秘裂に根元までもぐりこませ、
ろくに濡れてもいないちいさな空洞の内壁を、無茶苦茶にかき回し始めた。

痴れ者の痙攣が、一層激しくなる。

背後で、誰かが彼を呼んだ。マティアスは無視した。
もっと声が聞きたい。淫らな姿で男を誘い、神聖たるべき主の栄光を傷つけたこの痴れ者の
後悔と絶望に満ち満ちた悲鳴を。

衝動の赴くままに、マティアスは左手で掴んだ獲物の髪を力任せに引き上げ、
たまらず身を起こした痴れ者の上半身を、背後からがっちりと抱きしめた。

恥ずべき肉の最奥に突き刺さり蹂躙する指先から少しでも逃れようと、
膝立ちの姿勢になり上体を伸び上がらせた痴れ者の頭は、丁度マティアスの顔と同じ高さにあった。
甘やかに鼻腔をくすぐる、獲物の髪と肌と汗の匂いを存分に堪能しながら
マティアスは女の肩に顎をのせ、その朱唇からとぎれとぎれに漏れる苦痛の声に耳を傾ける。

指先で掻き分け続けた痴れ者の肉襞が、じわじわとその潤いを増し
やがて淫らな水音とともに、肉丘を覆うマティアスの手のひらに、腕に、
隠しようもない夥しい量の樹液を滴らせ始めるに及んで
おしつけた頬の滑らかな感触を直に伝わってくる痴れ者の吐息にも、明らかな快楽の徴が見え始めた。

――もう待てない。
マティアスは、女の裸の尻の下から濡れそぼった右手を引き抜くなり
自力では身を支えられないほど乱れきった女の体を、再び地面に投げ出させた。
もはや抵抗する気力すらないらしい痴れ者が、無事な左の手でノロノロと股間を庇おうとするのを
力任せに払いのけ、うつ伏せになった相手の肩に手をかけ仰向けになるようグルリと回転させた。

激しい呼吸に合わせて上下する胸当ての隙間に両手をかけて左右に引く。
金属のちぎれる音とともに、胸当ては下の着衣ごとたわいもなく引きちぎられ
一切の拘束を失った輝く両の乳房と、その先端に色づく薄桃色の乳首が
欲望に濁ったマティアスの両目の前に、隠すものとてなく鮮やかに舞い踊った。

「……これは制裁だ」

言葉もなく、荒い息をつきながら自分を見上げてくる痴れ者に
マティアスは愉悦に満ち満ちた断罪の言葉を投げかけた。

隠しようもなく、自分の顔を彩っているであろう嗜虐の色を
窮屈な下穿きの中で、欲望の徴を見せて痛いほど膨らんだ肉の槍を自覚しながら
痴れ者の恐怖と期待に歪んだ端正な頬を撫で、汗と泥にまみれてへばりついた紅い髪をかきわけ、
マティアスは、黒い情動のありったけをこめて、その名を呼ぶ。

「イザベル……!!あなたの全てを、今ここで奪いつくす……!!」

誰にも渡しはしない。生身の人間として、一人の女としての、ほんの僅かな表情ですら許すことはできない。
至高の支配者、己の唯一の存在意義として崇めたその名を呼ぶマティアスの意思は
果てしない憎悪にも似た、赤黒く燃え盛る業火に満たされていた。

濡れた地面を背にして、イザベルの白い裸体が踊る。
腰の後ろ側に手を回して抱きかかえたまま、がむしゃらに腰を打ちつけて肉の割れ目を抉るマティアスの動きに合わせて
支えもなく放り出された上半身が、右へ左へと大きく揺れ動きながら地面にぶつかり、跳ねる。

豊かな両の乳房が、汗の雫を跳ね散らせながらたわみ、その頂で尖りきった桜色の先端が震える様も
鮮やかな紅い髪を振り乱しながら絶え間ない嬌声を迸らせ続ける美しいその顔も、唇も、
何もかもが男の欲望を刺激するに十分すぎるほどの光景だったが、

――こんなものなのか。

ようやくのことで遂げた欲望の先に待っていたものは、意外にも寒々しい空白でしかなかった。

なおも激しくイザベルの最奥を責め立て続けながら、マティアスは思う。
恥ずかしげもなく男根を咥え込み、乱暴な愛撫にはしたなく声をあげるイザベルの痴態は
これまでこの女に対して抱いてきた、深い尊敬と畏れの念を跡形もなく打ち砕いてしまった。

ただの女。泥の中で瀕死の魚のようにのたうち、与えられる快楽をただひらすらむさぼるだけの、
淫らがましく湿った肉の塊。
とぎれとぎれに自分の名を呼びながら、必死ですがりついてこようとするその仕草さえも厭わしい。

――お前はもう、私の敬愛したイザベル様ではない。

マティアスは、両手でイザベルの両乳房をおし包み、柔肉がひしゃげ潰れるほど強く押さえ込んだ。
地面に磔にされた女の口から、苦しげな声が漏れるのにも構わず、固定され逃げ場を失ったイザベルの最奥へと
自らの欲望と怒りに膨らんだ怒張を、繰り返し繰り返し突き入れる。

意外なほど従順に肉棒を受け入れる蜜壷の中で、じわじわと絶頂が近づく。
マティアスは、ますます腰の動きを加速させながらイザベルの裸身を抱きかかえ、
いっそこのまま砕けよとばかりに力を込めて抱き締めた。

「イザベル……、イザベル、イザベルっ!!」

繰り返し呼びかける自分のその声の、なんと酷薄に響くことか。
構うことはない。この女が自分の上に立つことは、今日を境にもう二度とないのだ。
自分が壊してしまった。もう元には戻らない。

まるで軟体動物のように、自分の腕の中で柔らかくひしゃげ歪んでゆくイザベルの肉体にかすかな違和感を感じながら
マティアスは遂に、ありったけの劣情を込めた白濁を、その胎内に迸らせた。

……そして、突然視界を覆う薄闇。
「……っ!?」
かすかに、背中から地面に落ちたような墜落感。いまだ半分以上眠りの中にあった意識が次第に覚醒していき、
マティアスは、自分の体を包む柔らかなシーツの感触を、次いで、天井から吊るされたカンテラの投げかける
控えめな明かりを知覚する。

――ここは……

とぎれとぎれに息を吹き返した記憶が、やがて意味のある形をとって浮かび上がってくる。
セラス湖に浮かぶ、解放軍の本拠地。その一室。
主であるイザベルと供に、亡国の王子に手を貸すこととなった自分は、この城に部屋を与えられ、そして。

「……!!」
まさに冷や水を浴びせられたように、急激に意識を取り戻したマティアスは
ベッドの上で身を起こすなり、すぐ横にあるもうひとつのベッドの上へと視線を走らせた。

……敬愛してやまぬ女主人の、安らかな寝姿がそこにあった。

ちょうどこちらに背を向けた姿勢で、寝乱れた様子すらなく毛布に包まって眠るイザベルの規則正しい寝息に耳を澄まし、
マティアスはようやくのことで、深い安堵のため息をつく。

――自分は、声を出していたのだろうか?

想像するだけで冷や汗が噴き出す。

もしもこれが、二人で交代して一つの寝具を使いながら、片方が常に見張りに立つ野営中のことだったら。
いやそれ以前に、半覚醒状態で正気をなくしたまま、現実にすぐ傍に居るイザベル様に向かって
訳も分からずその手を伸ばしていたら。

ベッドの上に座り込んだまま、マティアスは、しばらく呆然とした気持ちで、先ほどまで酔いしれていた狂夢を反芻した。
ただの夢だ、と切り捨てることはできなかった。
自分は愉しんでいた。その気高さに心の底から心酔し、命に代えても守り続けると誓ったはず女性を
自らの手で辱め、地に落とすあの夢の中の行為を。
そして、その愉悦の中で確かに感じていた。主君に対して押さえようもなく湧き上がる、ドス黒い憎しみに似た激情の波を。

「……私は……」

なにも考えたくなかった。できることならこのまま横になり、朝の光が差し込むまでただ眠りを貪りたいと思った。
だが、この場所に、イザベル様の甘い香りが漂ってくるこの場所に、今の自分は決しているべきではない。

イザベルを起こさぬよう、細心の注意を払ってベッドを抜け出し、マティアスは、そっと寝室を後にした。

人ひとり通らない深夜の城内を密やかに歩き、湖の水面に接する足場まで降りると
着衣を解き、夢精で汚れた下帯を黙々と洗い清めた後、ひとり沐浴して身の穢れを落とす。

そして、無人の修練場に赴き練習用の矛を手にとると、何時間にも渡って延々と素振りを繰り返した。
限界まで体を痛めつけることで、少しだけ気が楽になった気がした。

朝日が昇る直前になって、マティアスはようやく寝室へと戻っていった。

……イザベルは、まだ静かに眠っていた。
彼が出て行ったときと全く同じ姿勢、一糸乱れぬ等間隔の、規則正しい寝息を立て続けながら。

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