ナッシュ×クリス←クリスFC 著者:17様

「……馴れ馴れしい。クリス様にくっつきすぎだ」
 怪しげな蝶々型の仮面をつけ、真っ黒なマントですぽっと身体を包んだ男がちっと舌打ちをした。
 ブラス城を抜け出して2日。彼はある程度の距離を保ちつつ白銀の髪の女性と金髪の男の動向を見張っていた。
 そして今も村の酒場で彼の舌が満足しない安物ワインを口に含み、外にいる二人から目を離さない。
 グラスランド特有の鮮やかな色の衣装を身に纏ったウェイトレスや客が彼の方を妙な目付きで見ていることに彼はまったく気付いていなかった。
 そんな怪しげな窓際の彼の席の前にどかっと誰かが座り、構わずにその人物は窓の外しか見ていない彼に話しかけた。
「よぉ、ボルス殿」
「……っ!!」
 ボルス=レッドラムは固まった。
(……馬鹿な!俺のこの完璧な変装がバレただと!!)
 騎士の格好はしていない!尾行にふさわしい変装をしたのだぞ!
 だが、彼はその変装が逆に怪しいことこの上ないのを自覚していなかった。
 思わず腰の剣に手を伸ばしかけたが、今彼がいるところがグラスランドであることを思い出した。
(……落ち着くのだ、ボルス=レッドラム!ここで騒ぎを起こしたら、クリス様についてきたことがバレるし、騎士団に迷惑をかける……とにかく!クリス様に迷惑をかける!!)

赤の他人の振りをすればそのうち去ってくれるだろうと決め込んで視線を窓に固定したままボルスは返事をする。
「……ボルスなどではない!俺の名はシュトルテハイム=ラインバッハ3世だ!」
「なんだ、それ?それが同僚に対する挨拶ですかね?」
 ボルスが振り向くと行商人の格好をしたパーシヴァルにやにやと笑っていた。
「パーシヴァル!おまえ、なんでこんなところに!!」
「なぁにこそこそしているんです?そんな格好で」
「……そんなことおまえには関係はないだろう!」
 パーシヴァルが窓の外のクリスとナッシュを確認し、はは〜んとしたり顔で頷いた。
「……なるほど。クリス様が心配で追いかけてきたというところか」
 図星を挿されボルスが顔を紅潮させ反論をした。
「そんなことはない!ただ遠乗りに来て休んでいたところだ!!」
(蝶々仮面つけた怪しい格好の奴がどうして遠乗りするんだよ)
 内心でパーシヴァルは突っ込みつつもぽんぽんとボルスの肩を叩く。
「照れることはない。クリス様は皆に愛されていますからな」
「じゃぁなんでおまえはここにいるんだ!」
「俺は小遣い稼ぎにダッククランまで。光る玉を大量に仕入れたから。大儲けですよ」
 そう言って持っていた荷物をあけてみせる。確かに光る玉がぎっしり詰まっていた。
「おまえ、騎士の癖にがめついぞ!」
「商人国騎士の鏡と言ってほしいですなぁ……という冗談はさておき、本来の目的はおまえと一緒で、これはついでだ」
「パーシヴァル!おまえ、人のことをとやかく言えないではないか!」
「ま、それはそうだが。とにかく我らが麗しき団長の身に何かあってからでは遅いだろう。念には念を重ねようと思ったまでだ……って……おい、ボルス!!あれ!!」

「れ、レオ殿!!」
 農夫に扮したレオが鍬を片手に殺気全開でクリス達の所に飛び込もうとしていた。
 慌てて二人は酒場から出て、レオを羽交い締めにして捕らえ茂みの中に引きずりこむ。
「レオ殿!どうしたんです!!」
「あ……ボルスにパーシヴァル!!おまえたちどうしてここにっ!?」
「俺達もクリス様のことが心配で追いかけてきたんです」
「そうか……」
「それで、レオ殿。なんで鍬なんて持って襲いかかろうとしたのです?」
 憤怒の形相でレオは鍬を握り締めた。ぱき、と鍬の柄にひびが入る。
「……あの男は、クリス様の肩に手を置いたのだ」
「何だとっ!!」 「……そんなことぐらいで」
 ボルスは激昂し、パーシヴァルは肩を竦めた。
「わかってくれるか、ボルス!!」
「勿論ですとも!!」
 がっちりと二人は手を組む。呆れ顔で行商人の変装をした男は二人を見た。
「……それぐらいどうってことないでしょう」
「だが、パーシヴァル!あいつはクリス様に」
「純情な御二人ですなぁ。それぐらいなら挨拶程度でしょう」
「おまえはある意味あいつと同じ属性だからな」
 誉れ高き6騎士の中で女性関係の噂が唯一ある男をレオとボルスはじろりと睨む。

「だからこそ、俺はあの男がそれぐらいで済んでくれる奴とは思ってませんよ」
 最悪の事態も考慮に入れたほうがいいでしょうな、と続けたところで血相を変えて立ち上った二人の襟首を掴んだ。
「……って『まだ』してないでしょうが!!殺すのは早いですよ、御二方!!」
「禍の芽は早急に摘んでおくべきだと思うが」
「鳴かぬなら、殺してしまえ、ホトトギス。攻撃は最大の防御だ」
 二人とも目が据わっている。
「ボルス、それ使い方間違っていると思うんだが……ゴホン!それはともかくとしてサロメ殿もロラン殿もいらっしゃらないから俺が言いますけどね、ここはグラスランドでゼクセンではない。我等ゼクセン騎士の起こした不祥事によって誰が一番迷惑を被ります?」
「……騎士団長のクリス様だ」
「そういうことですよ。わかったらおとなしくしてください」
「わかった。なるべく自重しよう……ああ、そう言えば」
「レオ殿?」
 クリスが振り返ったのを見て慌てて3人は茂みの中に隠れた。

「……いま、何か後ろの方で物音がしなかったか?」
「気のせいでしょ……クリス」
骨ばった手をクリスの頬にあて、僅かに上向かせる。
「何だ」
キスをするかのように彼は顔を僅かに傾けてクリスに近づけた。
「さっき食べたパスタのバジリコが唇についているよ……ちゃんと拭かないと駄目じゃ…」

ひゅん

「……ぃっ!」
 何かが彼の目の前を通りすぎた。

「………いまのは!?」
「………誉れ高き6騎士の心は一つということか。まさかロラン殿まで来ているとは」
 後ろを確認してパーシヴァルが頭を抱えた。
 背後の丘の上で馬に乗ったエルフの射手が弓を構えていた。
「さっきロラン殿も来ているということを言おうとしていたんだ……」
「「…………(後で、サロメ殿に怒られるな…)」」

 いつのまにかとっぷりと日は暮れて、闇色の草原の中で虫たちが思い思いの音を奏でているん中、誉れ高き騎士達は宿の側の大木の下でがっくりと肩を落としていた。
「なんで…よりによってサロメ殿を除く全員が追いかけてくるのか」
「それは皆がいるから俺一人くらい抜けてもなんとかなるかと」
「私もだ」
「まさか皆が同じ行動をするとは思いもしなかったですからな」
 吟遊詩人の格好をしたロランが溜息混じりで呟く。
「……俺もここまで付きまとわれるとは思ってもいなかったんだがね」
「あっ!?おまえ!!」
 金髪の男が腕を組んで4人の背後に立っていた。
「こんばんは、誉れ高き六騎士の皆さん」
「おまえいつの間に!!」
「こういう秘密裏の行動は得意なものでね。……というか、ずーっと蝶々仮面の怪しい男と行商人につけまわされて、それでもって矢が飛んで来たり、背後から鍬持って襲いかかられたら、さすがに話し合いにこなくちゃならないだろ?命が持たない」
 紙煙草のようなものを持った手でナッシュは波うった金髪を掻きあげる。
「「「「………」」」」
 行動はすべてお見通しだったらしい。
「ゼクセンの誉れ高き6騎士の皆々様はそんなに俺が信用できないですかね?」
「「「「できん!!」」」」
 ぽりぽりとナッシュは頭を掻く。
「んじゃ、その期待に応えなくてはいけないかな」
「なんだと!!!!」
 ナッシュの指に挟んでいた煙草のような物が光りだす。
 ぴっと指で丸めてあったそれを伸ばした。辺りが一面の白い光に包まれる。
「何っ!!」
 光が消えたときにはもうそこにはナッシュしか立っていなかった。 4人はその場に崩れ落ちている。
「胡散臭いってわかっているのなら何から何まで警戒してなくては。甘かったな」
 ナッシュは使用済の眠りの風の札をぽいっと地面に投げた。

「今日は一緒の部屋、か」
用意された部屋は簡素なツインベッドしかない部屋だった。
「こんな小さな村の宿では仕方ないだろ。他の部屋は満室だったんだから」
「寄るなよ。ここからこっちに入ってきたら、たたっ斬るからな」
そう言ってクリスは窓側のベッドに服のまま横になった。邪魔だと感じたのか腰に下げていた剣をベッドの側のサイドボードに置く。
「はぃはぃ、わかりましたよ………って大の大人が大人しく引き下がるとでも思うのかい?」
「!?」
反射的にクリスが剣に手を伸ばそうとするが、ナッシュの方が動きが速かった。
ワイヤーで剣を絡めとり、そのまま部屋の隅に放り投げる。
そして茫然としているクリスを組み敷いた。
「剣が無ければただのお姫様、だな」
「おまえ……!何を……っ!!」
組み敷かれて間近に迫るナッシュの表情にクリスは薄ら寒いものを感じた。
「何をって、この状況からわからないとは本当にお嬢様育ちだな。まったく、旅の間も手を出さないとは君の傍にいる騎士の方々は本当に騎士の鏡と言えるくらいに紳士だったようだ……おそらくは初めて?」
 ナッシュの言わんとしたことをようやく理解し、怒りでかっとクリスの顔に血が上る。
「ふざける……んっ」
 クリスの唇が開いたのを見て、すかさずナッシュが唇で塞ぐ。
 左手でクリスの両手首を押さえつけ、器用に服の隙間から右手を入れてクリスの胸を揉みしだいた。
「お、結構あるなぁ」
「…おまえ……っ!ぁ……ちょっ……ぁ、はぁっ」
 ジタバタとクリスはもがいて身体を捩ろうとするが、右肘で左肩を、太腿の付け根のあたりを膝で押さえられていて動けない。

 顔を横に背けるとナッシュが耳を舐った。
「ひゃぁぁぁっ!」
「可愛い声出しちゃって。そんな反応されるとオジさん嬉しくってもっと可愛がってあげたくなるじゃないか」
 口だけでナッシュはクリスの上着のボタンを外していく。
 時々肌に触れる唇が熱を帯びていて、そこからの刺激でわけのわからない疼きが生まれた。
(……舐められて……胸を揉まれているのに、何だ?この感覚は)
 外気に晒されていく場所が増えていくことで、クリスの白い身体が強張る。
「大丈夫、御互いに気持ち良くなるだけだ」
「おまえの性欲処理のためだけだろう!」
「……そう?じゃぁ君のココが主張している快感も否定するんだな」
胸の双丘の頂きを甘噛みし、舌先で転がすようにして玩ぶ。
「……ぅ……っんぁっ!!」
(………何で、こんな、変な声を出すのだ!?私は!)
「こんなに気持ちよさそうに鳴いているのに?」
 もう上着のボタンはすべて外れてクリスの上半身が露にされていた。ナッシュは巧みにクリスに快感を与えつつ、徐々にその愛撫の手を下へと下ろしていく。
 クリスの方も性感が高まってきたのか、時々反応して気だるいような吐息を漏らしはじめた。白絹のような身体も上気して熱をもち、力も抜けてナッシュのされるがままだ。
「ぅふぅ……んぅ……っ……ぁやめ、ろ……」
 だが、喘ぎ声を漏らしながらもクリスはまだ抵抗の意思を見せていた。
こんな醜態を晒すわけにはいかない。

「まだそんなことを言っているのか?……ほら、ここだって気持ちいいって蜜を溢れさせているぞ」
 そう言って、ナッシュはクリスのズボンを膝のところまで引き下ろした。
 そして、膝を曲げさせてできた空間から腕を差しこむ。
 クリスのお尻の方から前の方に向かって、ショーツ一枚だけになったクリスの秘部を布越しに触ると、そこはしっとりと湿っていて女の匂いを漂わせていた。
「ほら、花弁まで形がわかるだろ?」
「……言ぅな…………っ!」
 認めると、自分じゃなくなる気がした。なのに、指摘されて、触れられて、身体中の熱と感覚がそこに集まってしまったかのようだ。
 ナッシュはクリスの柔らかな胸に顔を埋め、舐めまわしながらも、そのまましばらく布越しに秘部を弄くっていた。
 時々気まぐれの様に肉芽を摘んだりするので、その度にクリスは嬌声をあげた。
 やがて視界が白くフェードアウトするような感覚が襲ってきてクリスが声をはりあげた。
「ぁあああああああっ!!」

「………………ぅっ」
「……前戯だけでイッたようだな。どうだった?」
「……わけがわからない」
 頭を押さえつつクリスがうめいた。どうやら、気を失っていたらしい。
「敏感なんだよ。じゃあ今度は俺も気持ち良くさせてもらおうかな?」
「ぇ!?」
初めて見る反り返った男のソレを見て唖然とした。
(なに、これ……)
「え?じゃないって。コレを挿入れて大人が愉しんだ結果、君や俺が生まれたんだよって、……何で俺はガイドの他に性教育までしてるんだ」
 クリスが固まっている隙を狙って、ナッシュはぐっと腰を進めようとした。
「……い……痛いっ!……や………やめろっ!」
 力一杯クリスが抵抗する。
「息吐いて力を抜けって!まだ先しか入っていない!濡れているからそれほど痛くはないから」
「嫌だっ!………やめ………っ!」
クリスがナッシュに拳を突き出したその時だった。

がっしゃーん

「な、何だ!?」
窓から何かが入ってきて、ナッシュの口の中にその人物は何かを突っ込んだ。
ナッシュは沈黙の後に………………………………………………………………
……………………火を吹いた。

ジタバタとクリスから離れ、ナッシュは火を吐きながら床の上を転がりまわっている。
「大丈夫ですか!クリス様!!」
フライパンと皿をもったルイスががばっと起きあがる。
「ルイス……おまえ……」
クリスは茫然としていたが、裸であることを思いだし、顔を真っ赤にして慌ててシーツを胸元にかき寄せた。
突然の従者の登場に驚いたことよりも、目の前のナッシュの状態にクリスはこの従者が何をしでかしたのか不安に感じた。
「……ルイス、おまえ……ナッシュに何を食わせたんだ」
「はい!できたてカニパンチ丼です!」
「………。」
「ええと、ナッシュさん?サロメさんからの伝言です。『私はクリス様が不快に感じる行為を行わないという条件で了解したはずです。もしもクリス様が望まない行為をするのなら、早急にあなたの上官にも報告はしますし、然るべき措置を執り行わさせて頂きます』とのことです」
「……はぁ、はぁはぁ……。な……っ!ちょっと待て!!」
「クリス様も女性という自覚を持ってくださいね。僕達はクリス様のこと大事に想っていますから……そういうことですから、僕達はブラス城に帰ります。クリス様、お気をつけて」
ぺこりとルイスはお辞儀をして入ってきたのと同じ様に窓から出ていった。
「僕『達』って……ルイス?」
木の陰に隠れていた4人を引きずってルイスは歩いていった。
「あいつら……心配してきてくれたのか」
クリスの胸の奥がじんわりとした暖かい気持ちで満たされる。が、外から冷たい風が入ってきてその表情は一変した。
「ルイス……おまえが壊した窓を私が弁償しなければならないのか!?」

「……ルイス……おまえまで……」
「当たり前じゃないですか、僕はクリス様の従者なんですよ?・・・・・・・それに、僕はサロメさんから許可を頂いて来ましたから」
「「「「・・・・・・・・」」」」
無断で飛び出してきた四人は押し黙る。
「しかし、サロメ殿も人が悪い。我らが城を抜け出してくるのがわかっていて引きとめないとは」
レオのぼやきにルイスは困ったような笑みを浮かべた。
「そのことなのですが、職務をさぼった罰として1週間ビックリ漬をつくってください」
「「「「何っ!」」」」
「ええと、『誉れ高き6騎士が揃いも揃って職務放棄とは何事か。これでは他の騎士たちに示しがつきません』だそうです。ああ、帰還が1日遅れるたびにペナルティ期間が1日延びますよ」
「何だと!!ブラス城に帰らねば!!」

4人はブラス城に向けて一斉に走り出した。

<了>

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