ナタリー凌辱「雨の島」 著者:5_882様

「あの…以前、どこかでお会いしませんでしたか?」
窓職人の少女が、小首を傾げて質問した。百戦錬磨のくのいちは、一刹那程の逡巡の後、こう答えた。
「……人違いじゃないのかい? ずっとあたしは人目を忍んで仕事してきたからねえ」
「そうですか…ごめんなさい、変な事言ったりして」
「気にしなくて良いさ。それじゃ」
くるりと踵を返し、女忍者は音も立てずに歩いていく。窓職人の少女ナタリーは、その後ろ姿をじっと目で追っていた。
(…なんでだろう。あの人に、とてもお世話になった気がする…)遠い過去か、近い過去か。自分は、彼女と深く関わった気がしてならない。
(…忘れてしまえばいいのさ。あんなことは…)女忍者のケイトは、己の未熟さに歯がゆさを感じて仕方がなかった。…まさか、自分のことを覚えているなんて。
―それは、一つの悲劇。未だ雨の止まぬ、北の島での惨劇。

「お腹空いた…」降りしきる雨の中、一人の少女がとぼとぼと歩いていた。窓職人の技を持つ、ナタリ−と言う名の少女。
 窓の仕事のためにこのイルヤ島にやってきた直後、島は謎の光によって崩壊した。
街中に身を潜め、クールーク兵による略奪や蹂躙はどうにかやり過ごせたが、次にやってきたのは空腹と言う地獄だった。
いくらか水や保存食は携帯していたものの、尽きるまでは早かった。自分以外の人影が見当たらないこの島で、年端も行かない少女一人が生き延びるのは非常に困難だった。
もう、3日は食べていない。体がふわふわと落ち着かない。井戸を見つけたから水だけは飲めるが、それだけではいつか限界が来る。
―港のほうなら、何かあるかもしれない。最後の力を振り絞るようにして、ナタリ−は歩いていた。
「おい! そこで何してる!!」
後ろから怒号が聞こえた。びっくりして逃げようとしても、足に力が入らない。よたよたと逃げる彼女の腕を、無遠慮な手が掴んだ。
「…なんだ、ガキか。驚かせやがって…おい、ここで何してた?」
両腕をつかまれ、ぐいと上に引っ張られる。自分の周りを取り囲んでいるのは…クールークの兵士だ。無理矢理爪先立ちにさせられて、か細い声でどうにか答えた。

「…お腹、空いたんです…なにか、食べるもの、ありませんか…?」
「逃げ送れか。かわいそうになあ…」慰めの言葉には、しかし嘲笑がしっかりとにじみ出ていた。
「食いもんか。―いいぜ。宿舎に連れてってやるから、腹いっぱい食いな」
「あ…ありがとう…ございます…」腕を開放されて、思わず安堵でへたり込む。だから、周りを取り囲んでいる兵士の意味ありげな目配せには気づけなかった。

「いやあああああっ!! やめてぇええええええっ!! 」
「がたがたうるせえガキだな。おら、静かにしろや! …噛んだら、殺すぞ?」
「んんっ! ぐぅっ、ふぐっ!! うううっ…」
髪をつかまれ、無理矢理に男の怒張を口に含まされた。首筋に当たっているのは、きっと彼らの持っていた剣だ。
「おら、もっと舌使えや! 飯が食いたかったらよぉ!!」
「んっ…ふむぅん…んぐ…んん…」
涙が止まらない。何度も殴られたり蹴られたりした全身も痛いが、ナタリーの心はもっと痛かった。
宿舎に連れてこられた途端、彼らの態度は一変した。いきなり殴られて、押し倒されて、服を毟り取られた。
気づいたときには遅かった。…兵士達は彼女を使い捨ての『道具』程度にしか思っていない。いや、『道具』のほうがまだましな扱いだろう。
四つんばいにさせられて、自分の性器を露出させた男の股間に、涙でぐちゃぐちゃの顔が押し付けられた。異様な臭気に半狂乱で抵抗すると、無理矢理怒張を咥えさせられた。
「お…こりゃいいや。下手糞だが、なかなか味があっていいねえ…」頭を掴まれて、無理矢理前後にゆすられた。刃が薄く肌を切る感触があって、つうっ…と血が流れた。
「んーっ! んん! んんん!!」苦しさと痛みを訴えても、周りの男達は興奮するばかりだった。
「隊長だけずるいっすよぉ、…俺、犯っちゃっていいっすか?」かちゃかちゃと、金具を外す音がした。
―それが、悪夢へのプロローグだった。
「ああ好きにしろ。わしはこれで十分だ…可愛いお嬢ちゃんが、わしのモノを咥えて放さないんだからなあ…」
蕩けたような声が、頭の上から降ってきた。『隊長』とやら大分下種な嗜好の持ち主らしい。
「おや、可愛いねえ。まーだ毛の一本も生えてないぜえ?」ぐい、と尻を割り開かれ、無遠慮な声が幼い秘所を嬲った。
「……!!」自分が最も気にしていることを指摘されて、ナタリーはその場で舌を噛み切りたくなった。

「まぁいいや。俺らに抱かれりゃ、ちょっとは女らしくなっかもしれないぜぇ?」ごつごつとした指で秘所をいじられ、全身が粟立つ。
冷たく、ぬるぬるとした感触が秘所とその後ろの門を覆う。…手近にあった、食用油を塗られたらしい。
「ふひゃ…る、るめらい…やめふぇ…」いまだ、口内の怒張は萎える様子がない。彼女が乱されてゆくに従って、更に固さを増しているようだ。
「ああ? なんだってえ?聞こえねえよ…うおらっ!!」
幼さを残した秘所の入口に灼熱の塊が押し付けられ、一気に貫かれた。身を裂かれるような激痛に全身が硬直する。
「!!んぐうううっ!!」
「おおっ! すげえ締まるっ!! 食いちぎられそうだ…うおっ!」
狂ったように腰が打ち付けられる。結合部からは処女の証しがたらたらと流れ続け、やわらかな内腿を赤く染めている。
「んーんっ!んんっ!いらい、いらいいっ!!やめふぇ、やめふぇえええ!」
「こらこら、お口が留守だよ。もっとちゃんとしないと…おしおきだぞ? ほれ!」
頭をつかまれて、喉の奥まで性器を押し込まれた。あまりの苦しさに、呼吸が一瞬止まりかける。
「――――!!ぐうっ!んんんんんん!!んぐぐっ!!」
「だめじゃないか、よそ見をしちゃあ。もっとわしのことも可愛がっておくれ…」
頭を激しく前後させられる。そのせいで、ナタリーの口から卑猥な水音が漏れ始めた。
ジュッブ、ジュップ、ジュボ、ジュポ…その音に、興奮を押さえきれなくなった他の兵士が、彼女の体に次々襲い掛かる。
「あああ、我慢できん! おれのもその可愛いお手手でこすってくれや! おら!」
「先輩、ずるいっすよ!! 俺はこっちのお手手で…おおうっ!」
「ちっちゃい胸だねえ…お兄さんが大きくしてあげるよぉ…いっぱいいっぱい、吸ったり揉んだりしてあげるからねえ…」
「へへへ、ついでに後ろの穴もいじってやるよ。最初はいてぇかも知れねえけど、そのうちこっちだけで天国に行けるようになるからよお…」
大勢の男達によって、ナタリーはありとあらゆる部分を貫かれ、犯され、汚されていた。彼女の全身から、淫靡な音の止まることはなかった。

ジュブ…ジュププ、ジュップ、ジュブ…ヌチュ…グチュ、グチュグチュ、ヌチャ…
チュパチュパ、チュパ、チュパ…パン、パン、パン、パン!
(もう…やめて…助けて…やだよぉ…誰か…)彼女の瞳から、徐々に光が失われていった。既に抵抗する気力は失っていた。
(いたいよお…かあさん…とおさん…たすけて…)意識が闇に沈んでゆく。体の表面を這いまわるおぞましい手の感触も、体の奥底を貫く破瓜の痛みも、口の中の男根のすえたような匂いも、すべて別世界のことのように遠く感じ始めていた。
―彼女の意識を引き戻したのは、男達の言葉だった。
「おおっ、もう俺我慢できねえ!! 隊長、お先にイきます!」打ちつけられる腰が一段と速くなり、菊門内の指も激しく出し入れされる。
「ふう…っ、わしも、そろそろ…一度抜いておこうか…」前後させられていた頭が、ぐりぐりと押し付けられるような動きに変わった。
「はあ、はあ…ちっちゃな、おっぱい、かわいいよぉ…かわいいよおお…」胸を執拗に攻めていた男は、自分で男根を擦り、先端をナタリーの臍に押し付けた。
「はぁ、ふうぅ、もっと…そうだ、もっとしっかり握れ…おおお、おおおっ!」
「おら…こっちもちゃんと握れよ…うう、ううううっ!」左右の手を汚していた男達にも、限界が近づいていた。
(やだ…なに…きもちわるい…どうなるの…わたし…)
「…お嬢ちゃん、いまからたっぷりとコドモノタネを中に注いであげるからな? しっかり受け止めて、ちゃあんといい子を産むんだぜ?」
「そうだ…腹が減ってたんだよな…しっかりわしのも残さず飲むんだぞ…」
「うふふふ…からだ、べたべたになっちゃうけど…そのほうがきっとかわいいよ…」
「そうだな、全身べとべとになっちまうなぁ…さぞかしきれいだろうなあ…」
「あああ、全身セーエキ塗れの美少女!! 早いとこ見たいっすよお!!」
(…え? なに? 今、なんて? …コドモノタネ…こどものたね…子供の種…!!!)
「んうううう!! やらっ! らめっ! らひららめっ! ころもれひひゃう!!」
必死で抵抗するが、全身を屈強な兵士達に押さえられたこの状況では脱出は不可能だった。

「もうおせえよ…おら、孕んじまえ!! おらぁ!!」一際強烈に腰が打ち込まれると、体の中に熱い液体が注ぎ込まれた。迸る精液は膣内を駆け巡り、子宮内にまで到達を果たした。
「−−−−−!!!!! んんんんーーーーー!!!!!」まなじりが裂けるかと思うほどに、目が大きく見開かれた。
「くうっ! ほれ、しっかり飲め! 待望の『食い物』だ!」口内に、苦く青臭い味が広がった。喉が焼けるように苦しい。
「く、くうっ! …ふふふ…おっぱいも、おなかも、べとべとに、なっちゃえぇ…」
「は、はあはあ…そら、たっぷりかけてやるぜぇ!! …全身どろどろだなあ…」
「うおっ、はげしすぎっすよお、これ!! おれ、また勃っちゃいそう…」
胸・両手の三箇所でほぼ同時に、びくりと男根が爆ぜた。放たれた熱い液体が、全身をどろどろに汚してゆく。
 すでに涙は涸れ、目の光も消えうせ、白濁液がたらりと零れ落ちる口元は開いたまま。両手と胸にも白く濁った液体が点々と張り付き、赤く腫れ上がった秘所からは薄いピンクの『コドモノタネ』がだらだらと流れ落ちていた。
(…いたいよ、こども、できちゃうよ…)意識を、恐怖と絶望が支配する。生かされても地獄、…このまま殺されたとしても地獄。
「ふう、それでは次は、わたしがここをいただこうかな」
恐怖の時間は終わらない。ぐったりとした体を抱えあげられ、ナタリーは『隊長』と向きあわされた。
腫れ上がりうっすらと血の滲む膣口に剛直をあてがわれ、ずぶりとおぞましい感覚が再び体内を苛む。先ほど注ぎ込まれた精液と破瓜の血が愛液代わりになって、ぐじゅぐじゅと淫音が流れる。
もはや抵抗もせず、涙も見せず、人形のようにかくかくと彼女は突き上げられるままになっていた。
「痛いよ…いたいよ…」搾り出すように、それだけをただ呟きつづける。
「ああ、隊長、ずるいですよ…。じゃあ、僕はこっちを…ちょっと痛いかな?でもすぐに良くなるよお…」
後ろの穴は、冷たくぬるりとした何かに再び覆われた。その直後に熱い塊がぐいぐいと押し入ってくる感触があった。
体の奥を引き裂かれるような激痛に、ナタリーの全身が硬直し反射的に抵抗を始める。手や足がばたばたと暴れ、少しでも苦痛から逃れようとする。

「やだっ! やだぁっ! やだよおおおおおっ! 痛い、いたいいたいいたいいいっ!!」
「だめだよ、大人しくしなきゃ…みんな、ちょっと押さえてて」
一休みしていた兵士達が、腕や足を次々に抑えこんだ。押さえ込んだ足や手をしゃぶり、舐め、咥え、愛撫を加え始めるものもいた。
「やめてっ! お願いですから、やめてください!! 痛いのぉ!」
「ごめんね、止まらないや…よいしょっ! やっと入ったよぉ…」
普段は出て行くばかりの器官に、外部からの強引な侵入者が訪れた。激しく苛まれ続ける秘所に続き、菊門からも暴行による血がたらたらと落ち始めた。
「−−−−−−−!!!!!−−−−−−−−−」声無き絶叫。全身を押さえ込まれて、痛みを紛らわせようと暴れることもできない。
「むう、一段と締め付けが強くなった…すぐにも気をやってしまいそうだよ、お嬢ちゃん」
涸れたかと思われた涙を流し、頭と顎をがくがくさせ続けるナタリーの顔に、『隊長』は口付けた。そのまま、べろべろと涙に濡れた頬を舐めつづける。
「気持ちいいよ…君の後ろ、僕をぎゅうっとくわえ込んで放さないんだ…」
後ろの男が、両手で胸を愛撫する。先ほど放出された精液を潤滑油代わりにして、ぬるぬると幼い乳首をこする。可憐な耳朶に貪りつき、舌で耳の穴まで犯してゆく。
 薄皮一枚隔てて暴虐の限りを尽くす二本の男根。どちらの結合部からも、苦しみの徴であるぽたぽたと赤い液体が落ちている。泣き続ける彼女にかまわず、−いやより興奮して−男達は彼女を弄んだ。
「もう泣くのはおよし。本当は気持ちいいんだろう…お嬢ちゃん?」
「そうそう。気持ちいいのならすぐにでもやめてあげるよ。痛がってるほうが面白いからね…」
(−鬼! けだもの!!)心の中で罵声を浴びせる。だが、恐怖で喉からその言葉は出てこない。
そして、「やめてあげる」の声に惑わされ、必死に『気持ちいい』振りをナタリーは始めた。
「ああ…はい、わたし、気持ちいい…です。だから…もう、やめてください…」
精一杯の甘えるような声。無理矢理媚びるような笑顔を作り、懇願をする。その一言に兵士達は却って勢いづいた。

「おお?気持ちいいのか、そうかそうか…では、もっと気持ちよくしてあげよう。かわいいお嬢ちゃんのために頑張らねばね…」
「さっき処女じゃなくなったのに、もう気持ちいいんだ? うわぁ、随分淫乱なんだねえ…」
「こりゃいいや。二人とも、がんばってお相手したげな! 俺たちも協力すっからよぉ!!」
「…!! なんで?! だって、やめるって…」
「だって気持ちいいんでしょ? だったらもっと楽しもうよ…ねえ?」きつく耳を噛まれ、痛みが背筋を駆け抜けた。
自分をさらに苦しめるための方便だと、気づいたときには遅かった。体の中の二本の異物は、ますます硬度をまし彼女を傷つける。
じゅぶじゅぶ、ぐぶぐぶと二つの音が耳から嫌でも流れ込む。前後を二人の男に同時に貫かれ、兵士達の手に思いのままに貪られ、ナタリーの体は限界寸前だった。
「もう…やだ…しにたい…よ…」
絶望と厭世に満ちた言葉が漏れた。このまま慰み物になり続けるより、死んでしまったほうがましだろう。
「死にたい? まだまだだよ。わしらが満足するまではな…むん!」
一際強く腰を打ち付けると、再び白濁液が傷ついた膣内に満ちた。収まりきらない分がだらだらと結合部から零れ落ちる。
「そうだよ。もうちょっと僕らに付き合ってよね…ううっ!」
今度は直腸内に熱い液体が注ぎ込まれた。傷ついた内部にどろどろとした粘液がしみて、新たな痛みに襲われる。
「…いたい、よお…しにたい、よお…」
壊れたように呟くナタリー。二本の男根から開放され、床に再び打ち捨てられる。下半身はもはや白濁液にまみれ、性質の悪い春画のような凄まじい光景になっている。
「次! つぎは俺ですからね!!」
「ちょっとは休ませてやれば? ほんとに死んじまうぞぉ?!」
「まあ、そのときはそのときだな。死体が一つ増えたくらいじゃ誰も驚かんよ」
「それもそうですね…んじゃ、いただきまーす」
弱弱しい呼吸を繰り返す少女に、再び暴虐が迫ろうとしたとき。一陣の風が吹き、その場にいた兵士達は全員床に転がった。目を限界まで見開いて絶叫し、喉を掻き毟り、しかし男根からはとめどなく精液を吹き上げつづけている。

「里の秘伝、『男殺し』の味はどうだい? 本当はもっと薄めて使うんだけど…こんな小娘相手に本気でサカってるような馬鹿どもにはちょうどいいかと思ってねぇ…」
よくよく見れば、全員の首筋に小さな刀傷がある。声の主の右手には真っ黒な小刀−毒を塗っている証だ−が握られ、左手にはマントに包まれた少女が抱え上げられている。
「ついでにシビレエイの毒も入れといたから、じわじわと体力が無くなってくよ。…どっちの毒にやられて死んじまうのかねぇ…」
楽しそうな口調とは裏腹に、氷のような視線が床の兵士達を一瞥する。自分の精液にまみれ、それでもまだ射精し続ける惨めな男達を。
「まあでも、『死体が一つ増えた』くらいじゃ誰も驚かないものねぇ? この人数じゃちっとは驚かれるだろうけどね…それじゃ、せいぜい頑張りな」
傷ついた少女を抱えた影は、ゆうゆうと入口から出て行く。邪魔な兵士の死体は蹴飛ばされ、仲間の白濁液の中に顔をべちゃりと埋めた。

 ナタリーを助けたのは、忍び装束に身を固めた女性だった。マスクで口元を覆い、皮肉げな切れ長の瞳が妙に印象に残る。
彼女の体を沸かした湯で清め、傷口に薬を擦り込む。最も被害の深刻な秘所や膣内、菊門の内部にまで丁寧に治療が施された。
「あんまり痛かったら我慢するんじゃないよ。こんな傷…すぐに治るさ…」
ゆっくり丁寧に、とろりとした油薬が塗られた。ほんのちょっと染みるような感覚があったが、あの凄惨な暴行に比べればささやかな物だ。
体のあちこち、薬をぬった個所に薬草らしき大きな葉と、さらにその上から清潔な包帯が巻かれ、柔らかな寝台にナタリーは横たえられた。
「もう大丈夫だ。ここはあたしの隠れ家だから、安心してお休み」瞳がほんの少し細くなる。微笑んでいるように見えるのは気のせいじゃないだろう。
「…どうして、わたしを…?」
「…さあね、どうしてだろう。昔生き別れになった妹分に似てる…とでも言えば納得するかい?」
口調は皮肉げだが、彼女の瞳の奥底には暖かい光が見える気がした。
「ごめんなさい。もっと先に言わなきゃいけない言葉があったのに…」
「…? なんだい?」
「助けてくださって、ありがとうございました。すぐにはお礼はできませんけど、いつか必ず…」

ナタリーの言葉に、目の前の女性は苦笑した。そして―
「…じゃあ、いますぐできる『お礼』がある。手伝ってくれるかい?」
「は、はい! なんでもしますから!!」
「そうか。それじゃあ…あたしの目をよく見るんだ…」
(…目を…?)いぶかしみながらも、恩人の言う通りに目を見つめる。―瞬間、体が動かなくなる。
「−次に目が覚めたときには、今日起きた事を全部忘れてしまうんだ。いいね? あいつらにされたことも、あたしに会ったことも。全ては夢だったのさ」
「え…なんで…」瞼がだんだん重くなる。なぜか、彼女の言葉に抗えない。
「あんまり一般人に顔を知られるとね、まずい人種ってのがこの世にはいるんだよ、お嬢ちゃん」
「でも…わたし…なんにも、お礼、できてないのに…」今にも閉じようとする瞳から、一粒ぽろりと涙が落ちた。
「だから、これがお礼なのさ。『あたしの顔を忘れる』のがね…」
「そんな、そんなのって…」次々に涙が落ちてゆく。目の前の大切な恩人の顔を必死で焼き付けようと、重くて仕方のない瞼をこじ開ける。
「体と心が元に戻るまで、ゆっくりお眠り。あたしも側にいてあげるよ、傷がきちんと癒えるまでは」
そっと頭を撫でられ、頬に優しくキスをされた。それがきっかけとなって、ナタリーの意識は急速に闇へ沈んだ。
(だめ…眠っちゃ…お礼…しなきゃ…)ナタリーの体は、くたりと女の腕の中に倒れこんだ。

 次に目覚めたとき、ナタリーは何時もの服を着てベッドに寝ていた。なんだか体のあちこちが痛い気もしたが、傷一つついてない。
確か、食べるものを探してうろうろしていて…多分、この家に潜り込んだのだろう。家主には悪いが、しばらくここに身を潜めることにした。
幸いにも、ここは茶店か何かだったらしく、米や小麦粉、保存食が見つかった。ちょっと切り詰めれば、一月は持つだろう。
その間に、助けが来れば良いのだが…。しかしなぜか彼女の胸中には、「助けはきっとくる」という一種の予感めいたものが宿っていた。
 食事の後にこっそり外へ出て、廃墟となったイルヤの町並みを眺めるのが日課になった。いつか、自分の窓でこの街をきらきらと輝かせてみせる−そんな決意を胸に秘めて。
雨はまだ止まない。でも、降りつづける雨もない。きっとまた、この雨の島にも光が差し込むだろう。

−破壊されたイルヤ島の様子を見に来た同盟軍の船長に、ナタリーが発見されたのは間も無くのことだった。
同じ島で仲間になった女忍者に、『生き残りらしき女の子がうろうろしているのを見た』との情報を得てのことだったという。

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