慟哭の果てに 著者:5_236様

 隣の部屋の明かりが消えてしばらくすると、規則正しい寝息が聞こえてきた。クレオ
が寝たのを確かめて、パーンは静かに部屋を出た。すでに真夜中を過ぎていた。やはり
クレオも眠れないのだろう。ここ数日は厨房でかなり強めの酒をもらってきては一人飲
んでいるらしい。
 普段から自分を律し、甘えを許さないクレオをそこまでさせるほど、グレミオの死は
大きな意味を持っていた。ただの仲間ではない。たとえ血は繋がってなくても同じ屋根
の下で暮らした家族も同然である。
 その無念はパーンとて同じだった。目の前で死んでいくグレミオに何もできなかった
自分。そんな自分を許せなかった。グレミオを死に至らしめたミルイヒ・オッペンハイ
マーは、リーダーであるティルの慈悲によって命を救われた。リーダーとしてやむなく
生かしたが、本当は殺したいほど憎んでいるはずだろう。
 だから…。だから俺がやる。パーンは拳を握り締めた。ティルができないなら自分が
やる。グレミオの死は、ミルイヒの命を持ってあがなうべきなのだ。装着した爪が満月
を反射してきらりと光った。

   *   *   *   *   *   *   *   *   *

 先日までついていた見張りの兵も、今夜から姿を消した。ミルイヒがクワンダ同様ウ
ィンディに操られていただけで、その呪縛が解けた今、解放軍に対してなんら攻撃を仕
掛けてこないということが分かったため、正式に仲間として迎えられたのだ。

 パーンは足音を忍ばせて部屋に入った。ミルイヒは城から持ち出したド派手な家具に
囲まれて、すやすやと眠っていた。深くナイトキャップを被っているため表情は見えな
いが、規則正しい寝息を聞いているだけでも殺意が湧いてくる。こんなやつのためにグ
レミオは死んだ。こいつさえいなければ…!
 振り上げた爪が唸りをあげた。躊躇なくミルイヒの顔面めがけて拳を叩きつけた。
「グレミオの仇!」
 手ごたえはなかった。ミルイヒはまるで起きていたかのようにすばやく身をかわし、
ベッドの上に立ち上がった。勢いがついて止められない拳は枕を突き破り、羽毛が飛び
散った。
「そこまでだ、パーン!」
 ナイトキャップを剥ぐと、それはビクトールだった。パッと明かりが灯される。フリ
ックとクレオが明かりを持って部屋に入ってきた。
「気持ちは分かるが、こんなことをしても何もならんぞ」
 フリックの後ろから、クレオが泣き出しそうな顔をしてこちらを見ている。
「クレオ、お前…」
「あんたの考えそうなことは分かる。やめてよパーン、こんなことしても坊ちゃんは喜
ばないわ」
 ティルの名を出され、パーンはカッとなった。
「クレオは何とも思わないのか?あんなやつのせいでグレミオは死んだんだぞ」
「ミルイヒを殺したって、グレミオは帰ってこないわよ」
「だからって、何もしないでいられる…」

 言い終える前に、パーンはクレオに頬を張られていた。涙と怒りで顔を歪めたクレオ
の唇は、ぶるぶると震えていた。
「そんなの敵討ちでもなんでもないわ!あんたはやり場のない怒りをぶちまけたいだけ
なのよ!子供と一緒だわ」
 クレオは馬乗りになり、何度も何度もパーンの頬を張った。女戦士として名を馳せる
クレオの平手打ちは、目が飛び出るほど痛かった。
「坊ちゃんが一人で悲しみに耐えているのに、なんであんたが我慢できないの!」
 クレオがここまで激しく感情を露にするのは珍しいことだった。何とも思わないわけ
がない。クレオもティルも同じ痛みを抱え、それを必死で耐えていたのだ。頬も痛い
が、それ以上に心が痛い。
「あんたがミルイヒを殺したら、坊ちゃんは悲しむ。あんただってここにはいられなく
なる。そんなのイヤ…。もうこれ以上誰もいなくならないで!私を一人にしないで!!」
 そう叫んで、クレオはパーンにしがみついて大声で泣いた。血を吐くような慟哭とい
うのは、こういうことを言うのだろう。痺れた頭でぼんやりと思った。
すがりつくクレオは思っていたよりずっと華奢で、強く抱きしめれば折れてしまいそ
うだった。こんな小さな体で男どもと互角に渡り歩いていたのだ。そう思うと、たまら
なくクレオが愛しかった。
気がつくと、パーンはクレオの唇を求めていた。初めて会ってから十年、ずっと自分
の気持ちを押し殺してきた。同居人であり家族であり仲間であり、そんな一線から超え
てはならぬと思っていた。だが初めてクレオの「女」を意識し、抑えていることができ
なかった。

 クレオもパーンを受け入れた。二人は獣のように貪欲に互いを求め合う。いつの間に
かビクトールもフリックも姿を消しており、格子窓から降り注ぐ月の明かりは二人だけ
をおぼろに照らす。
パーンは自分の服を脱いでからクレオの服を脱がせにかかった。月明かりの下のクレ
オの裸身は美しかった。思わずパーンは声に出していた。
「綺麗だ、クレオ」
「綺麗じゃない…。傷だってあるし、筋肉だってついている」
 クレオは顔を伏せた。確かに実践で鍛えられた筋肉や、所々に古い傷跡が見える。だ
がそれも含めて美しい。クレオが生きてきた証だ。パーンは傷跡に唇を這わせた。クレ
オは小さくため息をつく。やがて手が乳房に触れる。豊かで柔らかな胸を揉み、片方の
乳首を口に含んで舌で転がす。
「あ…ッ」
 ため息と共に官能の喘ぎがクレオの口から零れ落ちた。敏感な体質らしく、愛撫ごと
に体が跳ね上がる。顔が喜びと羞恥で切なげに歪む。その顔を見ているだけでもたまら
なかった。パーンは空いた手を体のラインに沿って下腹部に運んだ。早く一つになりた
い。パーンのモノは、すでに痛いほど怒張していた。
 足は堅く閉じられていたが、乳首を甘噛みするとあっさりと力が抜けた。秘所はほん
のり湿っていた。包み込むように触れる。クレオの体が仰け反った。たちまちじゅっ、
と潤んでパーンの掌を濡らす。
 パーンは秘所への愛撫を重ね、やがて十分に湿ったところで指を一本、侵入させた。

「ヒッ!アッ、ア…ァ」
 クレオが首を左右に振って声を上げる。とたんに下腹部に力がこもり、侵入させた指
を締め上げていく。パーンはその圧力を撥ね退けるように指を動かしていく。
「アン、アフ…ッ、アウ…」
 続いて二本目の指を入れた。クレオの腰が宙に浮き、まるで自ら求めるような格好で
ある。すでに目の焦点は失われており、口から涎が溢れている。二本の指を膣の中でか
き混ぜるように激しく動かす。その刺激にクレオは激しく体を上下させる。
「アッ、ダメ、ダメェ…ッ!」
 足の先がピンと伸び、甲高い悲鳴が上がって一段と激しく体を仰け反らせたかと思う
と、クレオはぐったりとその場に沈み込んだ。指だけで達してしまったらしい。パーン
は指を抜き、片方の指をしゃぶってクレオの愛液を堪能し、もう一方の指をクレオの口
の中に突っ込んだ。半ば気を失っていたクレオは、朦朧としつつそれをくわえ込んで丁
寧に嘗めあげた。その唇の感触が、パーンを興奮させる。
 もう我慢できなかった。パーンはまだうつろなクレオの足を広げ、滾りたった欲望を
押し付けた。
「ヒィ…ッ!アアッ」
 とたんにクレオは覚醒し、苦痛に顔を歪ませた。いくら愛液で潤っているとはいえ、
パーンのモノは大きすぎた。体を裂くような激痛に、クレオは歯を食いしばって掌を握
り締めた。パーンは途中まで侵入したところで動きを止め、クレオの頬にキスをした。

「辛い…か?」
 クレオは首を横に振って、少し状態を起こしてキスを返した。再びパーンが侵入を開
始した。力を抜いたせいか、クレオの顔から苦悶の表情は薄れた。パーンは愛する人と
共にある喜びを体中で味わいつつ、ゆっくりと最奥部まで到達した。まるでその場所は
初めから収まることが決まっていたかのように、すんなりとパーンを迎え入れた。
パーンはゆっくりとクレオの中で動き始めた。はじめはゆっくりと、次第に激しく突
き上げる。
「ヒ…ッ!ウゥン!ン、ンンッ!アフ…ッ」
 クレオが体を震わせる。すでに体は弛緩しており、突き上げられる度に体が揺れる。
愛液がこすれて交じり合う淫猥な音が、闇夜に途切れることなく響く。たがが外れたか
のように、パーンはクレオの両足を肩に担ぎ、ひたすら自分の欲望のままにクレオに自
らを叩きつけた。
「アン、アン、ア…ン!」
 再びクレオの声が高まった。同時に、パーンも高まりを押さえられなくなってきた。
担いでいた足を下ろし、腰を引いてモノを抜き出そうとした。しかしクレオが足をパー
ンの腰に絡ませてきた。
「いいから…っ、中で、出して」
「ク…。ウ…ッ」
 言葉の途中でクレオが自ら腰を突き上げた。思いもよらぬ大胆な行動にパーンの忍耐
も限界を迎え、クレオの中に精を迸らせた。久々であり、しかも長年抑えてきたものが
一気に放出されたのだ。なかなか止まらなかった。接合部から白濁液が収まりきらずに
溢れてくる。

 クレオは二三度痙攣し、やがて気を失った。しばらくして目を覚ましたクレオは、パ
ーンの逞しい胸板に鼻をつけて甘えるように囁く。
「ねえパーン、約束して」
「なに?」
「私を一人にしないで…」
 返事の代りに、クレオにキスをした。パーンの胸に、一つの決意が生まれていた。

   *   *   *   *   *   *   *

「いったん退却!各自陣形を乱さぬように注意して引き上げる!」
 怒号と悲鳴の飛び交う戦場。ティル率いる解放軍とテオ率いる帝国軍との戦いは、解
放軍の敗北で終わろうとしていた。帝国軍の軍勢はすぐそこまで迫っている。リーダー
たるティルをこんな場所で殺させるわけにはいかない。
 パーンは背後に迫るテオの軍勢の足音を確認し、叫んだ。
「クレオ、坊ちゃんを頼む。俺はここで食い止める」
「無理よ!テオさまにかなうわけがないわ!」
 クレオは悲鳴を上げた。
「あんたが残るなら私も残る。言ったじゃない、一人にしないでって!」
「クレオ、俺は死ぬつもりはないよ。必ず戻るから。だから俺とグレミオの代わりに坊
ちゃんを守ってくれ」
 パーンはすがりつくクレオの腕を振り解いた。見上げたパーンの瞳は死を覚悟したも
のではなく、生きようと燃える目だった。クレオは息を呑んでティルの手をつかんだ。
「パーン、待ってるから!私あんたの帰りを待ってるから!」
 一行の姿が見えなくなるのと、砂塵の中からテオの姿が現れたのはほぼ同時だった。
「パーンか…。お前が命を捨ててティルを逃がそうというのか」
 テオはゆっくりと馬から下りた。数人の兵士がパーンを取り囲もうとしたが、テオは
それを制して一歩ずつパーンに向かって歩み寄った。
「前までの自分だったら、そう考えていたでしょう。でも今は違います。待っていてく
れる人のためにも、俺は死ぬわけにはいきません」
「私にも守りたい人がいる。どちらの信念が勝つか勝負だ、来い!パーン」
 パーンはテオに向かって走り出した。生きて帰って、もう一度この手にクレオを抱き
しめるために。

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