ロイ×リオン 著者:7_737様

全ては自分の責任である。

眠る――果たしてそれは、本当に眠っているといえるのか――王子の傍らに立ち、リオンは首を振って手にしていた長巻の刃をしまった。
あの日から自ら命を絶ってしまいたいという衝動に何度駆られたか分からない。
この場でこの身体を一突きすれば、王子の温もりを感じながらも死ねるのだ。これ程幸せなことはない。
けれど、それはただの逃げに過ぎないのだ。あの日、王子の偽者である山賊に怒りをぶつけ、王子に彼を倒せと焚き付けたのは。
本来ならば全身全霊を賭けて守らなければならない人を、一時の感情に身を任せ、こんな状態にしたのは他の誰でもないリオン自身なのだ。―それなのに。
死んで罪を償えるなどとは欠片も思っていない。
王子の蒼白な顔色を、少しも震えない長い睫を、二度と開かれることはないのではないかと思える瞼を眺めていると
胸が押し潰されそうに痛むのがただただ辛いから。自分の身が可愛いが故の、それは単なる。
「ごめんなさい、王子、ごめんなさい…」
耐え切れず、リオンは両手で顔を覆った。
あの夕日の下で誓った王子との約束は、こんなにも容易く壊れてしまった。否、自分がこの手で砕いたのだ。

「なんだよ、やらねぇのか?」
「…!あなたは…いつの間に」
「さっきからずっと居たぜ。見張りの奴を撒いてこの部屋に入ったら、いつかのむかつくカノジョが死のうとしてたからさ」
扉の前で、腕を組んで笑っていたのは、あの日王子と戦った後捕らえられた山賊の少年だった。
本来ならば処刑されてもおかしくはない筈だけれど、ルクレティア様に何か考えがあるのか、未だに生かされていた。
目の奥が怒りで紅に染まったような気がして、リオンは目を閉じる。
いくら最近睡眠も食事もろくに取っていない状態だからとはいえ、人間の気配に気が付かないとは、なんとも情けのない。

「出て行ってください。あなたの顔なんて見たくもない」
「そんな青白い顔して言われてもなぁ。あの時の迫力は、どこいったんだよ?」
金色の瞳を細め、口端を吊り上げて笑う。この男が、王子と瓜二つ?そう言った人は、本当に目が二つ付いているのか疑わしい。
「俺がつけた傷は、もう完治してるんだってな」
「…」
ゆっくりとした足取りで、男―ロイは、リオンの手の届く範囲まで近付いてくる。彼に何もしないという自信がないので、一歩下がって隣のベッドの横に立った。
「なのにどうしてこの王子さまは目覚めないんだと思うよ?」
けれどロイが手を伸ばし、王子の顔に触れようとしたその瞬間、リオンは弾かれた様に彼の腕に掴みかかった。
「王子に触らないで下さい!あなたに、あなたにそんな権利はありません!」
「じゃあ、あんたにはあるのかよ、その権利とやらは」
リオンはハッとして目を見開く。ここで、動揺してしまったのが不味かったのだ。
その隙を見逃さず、ロイは王子の眠る隣のベッドにリオンの肩を掴み返し力任せに押し倒した。
「っ、何を…」
「わかんねえの?思ったよりも鈍い女だな」
布団の上とはいえ、叩きつけられた背中が軽く痛む。頭の回転すらも鈍っているのか、自分がどういう状況に置かれているのか理解出来ない。
分かっているのは、両手首を押さえられ、両足を膝で挟み込まれ全く身動きが取れない事と、
その状態に追いやったのはリオンの上に笑みを浮かべ圧し掛かっているロイだという事。
そして視線を少し傾ければ、美しく、同時に絶望的な悲しみを感じさせる王子の横顔がよく見えるという事だけだった。

次にリオンが言葉を発する前に、素早く唇を塞がれる。
唇を割り口腔に生暖かい何かが差し込まれて、初めてリオンは顔を強く横に背けた。唾液が頬に線を引く。
ああ、そうか。この男は自分を――。
「なんだよ、もっと抵抗してくれてもいいんだぜ。あんた強いんだってな、そう聞いたよ。それに大声を出せば、人だって入ってくるだろ」
「…」
ロイは、王子が倒れた日と同じように、品悪く鼻で笑って言った。
この世の物とは思えないほどの嫌悪感が全身を貫く。まるですぐ傍で轟音が響いているかのように、耳が痺れていた。
身体が弱っているとは言え、これ程強い負の力をロイにぶつければ、この状況を打開するのは然程難しくないように思えた。
それなのにどうしてだろう、今の自分には、指一本動かす力さえ湧いてこないのだ。

―全ては自分の責任である。

背けた視線の向こうには、守りたくて堪らなかったあの人が静かに眠っていた。
潤んで歪んでしまったこの瞳では、その表情すらも写せはしなかったけれど。

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