運動場の脇に生い茂っている木々からは、蝉の鳴き声
がひっきりなしに聞こえてくる。
昼休みが始まったばかりの時間──。
この時間は教室や校庭、学食等で昼食を採り、雑談や
遊びに夢中になっている生徒が殆どだ。
この学校の全ての校舎は、屋上出入り口の扉に鍵が掛
けられている。
生徒の安全の為らしい。学校の敷地内、一番古い南側
の校舎は木造で、埃っぽさの混じった木の香りを漂わせ
ている。ここも例外ではない。屋上への出入り口は、南
京錠で施錠されている。
夏休み直前の昼休み。殆どの生徒達はエアコンが設置
されている新しい校舎に移動してしまう。しかしこの古
い校舎でも、いくつか涼しげな空気を漂わせている場所
がある。
屋上への出入り口も、その一つだ。
そして今、この場所で身を固くしてしまっている少女
が一人いた。
井澤沙由理…。この高校に在籍する三年生の少女だ。
本人は至って内気で、大人しい性格をしているのだが、
何故か学内では目立つ存在になってしまっている。
とても素直な印象を持たせる真っ直ぐな長い髪。
透き通る様な白い肌。
うるんだ瞳はおっとりとした印象を持たせ、桜色の頬
とふっくらと控えめな唇が更に彼女に儚い印象を持たせ
ている。
つまりは、学校内で一番注目を集めてしまっている少
女なのだ。
もっとも、それとは裏腹に沙由理は、彼女が纏ってい
る空気と同じで、真面目で大人しい少女だ。浮いた噂も
無く、友人達に『眠そうな顔だ』とからかわれるばかり。
顔立ちや空気感だけではない。肉体的にも既に少女と
言うよりは、柔らかさを備えた大人のそれになってきて
いるにも関わらず、だ──。
自分が他人にどう見られているのか──。
彼女は、その部分に関しては、至って鈍感だった。
その沙由理が立っているこの場所。古い木造校舎の屋
上への扉を閉じている南京錠は、ずっと前から壊れてい
た。
仲の良い友人達を避けているわけでは無いが、一人を
好む彼女だからこそ見付ける事が出来たのだろう。
ちょっと工夫をすれば錠は簡単に口を開け、屋上に出
る事が出来るのだ。
その鍵が既に誰かに開けられていた。
この暑い時期。エアコンのないこんな場所に好んで来
る生徒は殆どいない。それに、この場所の秘密を知って
いるのは、沙由理と彼女の弟、二つ学年が下の雅之だけ
の筈──。
とすれば、考えられる事は唯一つ…。
『マーくん、いるんだ…』
沙由理はその内向的な性格の為に、弟離れが出来ずに
いた。だからそれは、彼女にとって嬉しい事だ。
弟の雅之を脅かそうと、音もなく、そっと扉を開ける。
眩しい日の光に目を細め、どこに雅之がいるのか沙由理
は視線を巡らす。すると、奥の方、人目に付きにくい場
所で雅之が誰かと一緒に食事を済ませたばかりの光景が
目に飛び込んできた。
雅之の隣には、一人の少女が満足そうに、ランチボッ
クスを側に置いて腰を下ろしている。
いくら、そういう事に無頓着な沙由理でも、どう言う
事なのかは想像が付く。胸に何かが刺さる様な痛み──。
雅之の隣で笑顔を浮かべている少女は、一度、自宅に
来た事のある少女だ。その時にも、沙由理は同じ感覚を
覚えた。
沙由理と同じで線の細い印象の雅之。その大人しそう
な印象の弟が連れてきた勝ち気そうな印象を持った少女。
雅之は、彼女がクラスメートであると沙由理に紹介した。
名前は藤村美里…。
長い髪を後ろにまとめていて、利発そうな、綺麗なう
なじが印象に残る少女。とても活動的で、まだ身体つき
に幼さが残っている。
少し切れ長で、表情豊かな瞳。そこには絶えず笑みが
浮かんでいて、彼女の意志の強さを伺い知る事も出来た
──。
『わたしなんかとは、全然違う……』
一度、雅之が彼女を自宅に連れてきた時に、美里と言
葉を交わした沙由理は自己嫌悪に陥ってしまった。
自分の弟が付き合っている相手なだけではないか。
どうして、こう言う時に、変に意識をして物怖じして
しまうのか。それだけじゃない。沙由理は、自分の小さ
な手の平に汗が浮かび始めている事も感じていた。胸の
痛みは益々強まっていく──。
「ふふふっ。美味しかった?」
自分の用意した昼食を雅之に食べて貰って満足してい
る美里は、照れ臭そうに雅之に語りかける。
その幸せそうな表情が、澱(おり)となって沙由理の心
に降り積もり、彼女自身を苦しめる。
「うん。かなり満足」
雅之のその言葉を耳にしただけで、沙由理はその場か
ら逃げ出したくてしょうがなくなってしまう。だが、彼
女の足は言う事を聞こうとはしてくれない。
「雅之君、良くこんな場所見付けたねぇ」
「ああ、見付けたのは姉さんだよ」
「ふうん──」
屋上のフェンスに背中を預け、美里は空を見上げる。
「ここって、気持ち良いね。ねっ、また一緒にここでお
弁当食べようよ」
「あ、助かるなあ──」
当の雅之は、呑気に返事を返している。それが沙由理
にはどうしても悔しい。
この場所を雅之に教えたのは自分なのに……。
雅之は姉の沙由理と同じで口数が少ない少年だ。美里
は、そんな雅之が好きなのだろう。マイペースでひねり
の無い雅之の言葉に更に顔を輝かせている。
「天気も良いし……風も気持ち良いし……」美里は言葉
を続けながら、雅之の肩にもたれかかる。
「ここってさ……誰も来ないの?普段から──」
沙由理が居る事に二人はまだ気が付いていない。気付
かれてしまう前に、この場所から離れようと思いながら
も、どうしてもそれが出来ない。
向こうにいる美里は、表情豊かな瞳で雅之を見ながら
返事を待っている。
「うん。来ないね。誰もここの鍵が壊れているって知ら
ないみたいだよ」
「んふふ。勿体ないね」美里は雅之の方に身を寄せる。
「こないだの続きだって出来そうだよね──」美里は雅
之の肩に頭をのせて、そのうなじを沙由理に見せつける
様な格好になった。
こないだの続き──?
先日、雅之が美里を自宅に連れてきた時に、何かあっ
たのか──?
二人のいる場所は、確かに屋上のフェンスの側だが、
ちょうど、その場所は、校舎の下からは死角になってい
て見上げる事が出来ない。
直ぐ向かいに、林があるので、敷地の外から覗かれる
事も無いだろう。
「え、ちょ、ちょっと、まさか……ここで!?」
雅之は、突然の展開に慌ててしまう。そんな彼に美里
は悪戯っぽい視線を投げかける。
「わたしは、こないだ覚悟してたんだよ?なのにさ、怖
じ気付いちゃうし──」
美里は、雅之の肩にもたれかかって、ワザと不満そう
に頬を膨らませた。
「いや、あの、だ、だって姉さん、部屋にいたしさ──」
「声出さないように、我慢するつもりだった。それなの
に……いっつも逃げちゃうしさ。正直、ずっと待ってる
んだよ?」
美里の拗ねた声色。沙由理は微かに聞こえる二人の会
話に、そこまで関係が進んでいたのかと愕然としてしま
う。
「う……うん、その……その辺はごめん。ワルイ。反省
してる」
雅之の声は少し震えている。それは沙由理にも感じら
れた。
雅之の声の震えは、美里を更に大胆にさせる。悪戯っ
ぽく微笑む彼女の目がうつむき加減になる。
いつの間にか、二人を見る事以外何も出来なってしま
った沙由理は、背中に汗をかき始めていた。胸が早鐘の
様になり、息をする事がとても苦しい。
美里と初めてであった時、既に想像はしていた──。
雅之も、いくら大人しいとはいえ、思春期の少年なの
だ。美里の様な少女が身近にいて、彼の事を気に入って
いれば自然な事。いくら大人しいと言っても、そう言う
事に興味が無いと言う事は有り得ない。
だけれども、沙由理は、既に自宅でそこまで進展して
いたとは想像もしていなかった。一つ屋根の下。自分が
部屋に居る時に、既に──。
雅之は、意を決して美里の肩に手を回してしまう。
「じゃあ、いいんだよね──?」美里は、雅之に念を押
す。
「お、お、俺だってその……いいのか?本当に?」
すっかり動揺してしまっている雅之の様子に、美里は
日なたの様な笑顔を向け、彼の両頬にそっと手を伸ばす。
「わたしは問題なし。でも……雅之君はいいの?」
突然、美里は真顔になる。雅之には美里が何を知りた
がっているのか、理解できていない様だ。
「だって、ほら。普通こんなに言っちゃう女の子なんて
いないよ?遊んでる相手かもしれないよ?」
そう言いながら、美里はそっと雅之の唇を塞いでしま
う。二人を包んでいる空気がむせたものになっている。
それは、沙由理にとってがまん出来るものでは無い。
「でも、藤村、真面目そうだけど──」
「ふふっ……わかんないよ?う……む……」
美里は、雅之の口の中に舌を差し込んだのだろうか。
声がくぐもる。
「う……ん……」
雅之も、止まらなくなったのだろう。美里の両肩に腕
をまわして、強く抱きしめる。
「もう……苦しい……」
美里は含み笑いをして、言葉を続ける。
「雅之君の初体験は屋上でーす。ふふっ……あ……うぅ
っん……」
雅之は美里の唇から自由になると、困ったような声を
漏らす。
「それ以上言うと、止める」
「却下。ダメ。ノー」
そう言って、美里は雅之の首筋にそっと唇を重ねる。
美里の肩に回っていた雅之の手のひらは、いつの間に
かそのまま美里の胸を夏服の上からまさぐっていた。
再び唇を繋げた二人は、息荒く舌を絡ませ合う。雅之
の手の動きに合わせ、美里の息が少しずつ荒くなってい
く。
「はっ……はぁあ……雅之……くん」雅之のシャツのボ
タンを外していく美里の白い指先。その指がはだけた
シャツの隙間から入り込み、雅之の胸板を慈しむように
撫でさする。
『マー君……だめ、やめて──』
沙由理の頭は真っ白になっていた。
自分の弟が自分で無い、他の少女の身体を愛撫してい
る…。
自分の弟が自分でない、他の少女の愛撫を受けている
…。
気が付くと、美里の手の平は、沙由理に見せつけるか
の様に、雅之の股間に伸びていた。あぐらを掻いている
雅之の股間の不自然なしわは、そこに固いものがある事
を沙由理に想像させてしまう。
沙由理は完全に雅之の男性の部分があるその場所から
目を離す事が出来なくなっていた。
美里の手は、優しく、そっとズボンの上をゆっくりと
行き来していた。時々、思い出したかの様にその手を止
めて、その大きさや堅さを確かめる為に握る事があった。
それが沙由理を更に狂わせる。
『あれがマー君の……』
沙由理は無意識の内に、スカートの上から自分の亀裂
の有るところに手を伸ばしていた。美里の手の平が雅之
の股間を行き来するのと合わせる様に沙由理の躯も痺れ
ていく。
もう、自分が何をしているのか──。沙由理には理解
出来なかった。
そんな沙由理を余所に、雅之と美里の二人は、フェン
スに背を預けたまま、更に行為をエスカレートさせてい
く。
美里のシャツは全てボタンがはずされ、ブラの上から
雅之は彼女のまだ幼さの残る乳房に口を這わせていた。
雅之が舌先で美里の乳首を弾くと、美里は切なそうな声
を上げる。
「ねぇ……ねぇ……私も触ってみて……いい?」
苦しげな美里の喘ぎ声。
雅之のがむしゃらな愛撫に美里も精一杯返そうとして
いる。
「あ、あぁ……うん……」
美里の右手はあっという間に雅之のベルトを緩め、ボ
タンとファスナーを開放し、中に滑り込んでいく。それ
と同時に雅之は苦しそうニイ記を吐き出す。
「あついね……う……あ」
美里は、幸せそうに目を細め、雅之の高ぶりにそっと
指を絡ませて、手の平を滑らせる。雅之はたまらず、腰
を浮かせる様にして、美里の愛撫に身を任せる事しか出
来なくなってしまった。
「ふふふっ……気持ちいい?」
美里は雅之の乳首に舌を這わせながら悪戯っぽく問い
かけ、雅之は首を縦に振る事でしか返事を返す事が出来
ない。
そんな彼の左手に、美里はそっと手を伸ばし、自分の
股間の上まで引っ張る。
「ね……私のも、して……」
美里の言葉は呪文のように、雅之の手の平を奥に誘導
してしまう。そこにある亀裂に指先が触れると、美里は
肩を震わせ深く息を吐き出した。
「う、うわ……濡れてる……」
「うん……すっごい濡れてるでしょう?……うっ……う
ぅあ……ぁあっ、わたしも……ちょっとビックリ……」
雅之の指が美里の秘部をやわやわとまさぐり始める。
それに合わせて美里の腰が快感に耐えるようなうねりを
見せる。
「雅之君のもすごい……あぁ……。ねぇ……ねぇ……滅
茶苦茶にして……わたし……君だけのものなんだから…
…あ、あぁっ……」
美里は息も絶え絶えに雅之に懇願する。まだ、どこか
あどけなさの残る少女である筈なのに……雅之の愛撫を
受けている彼女は、同一人物とは思えない程に艶めかし
い。
そして、その二人の秘め事は、見ている沙由理をも狂
わせていく。
もう、沙由理の指は止まる事をしなかった。自分の濡
れた亀裂を愛撫する手が、そこにいる雅之の手の平だっ
たなら……。そればかりを考えていた。
美里の下着も、沙由理の下着も既に足首の所まで降ろ
されている。
愛液に濡れ、夏の日差しを反射している雅之の手の動
き──。
その動きに合わせ、沙由理は自分の手で自身の秘唇を
愛撫している。
『ああ……マーくんの……手が……あっ……はぁぁあ…
…』
声を出すまいとしても、自制も効かない。
夜、沙由理が自室のベッドの上で自身を慰めている時
と、極端に感じ方が違うのだ。溢れ出てくる蜜の量も違
う。自分のいやらしい部分から、自分でも信じられない
様な水気を帯びた音が聞こえてくる。沙由理は、完全に
雅之に愛撫されているつもりになってしまっていた。
『わたし……わたし……』
沙由理の思考は、そこから先の言葉を脳裏に浮かべる
事を拒む。
しかし、今、自分は姉でありながらも弟の雅之を目の
前で奪われ、激しく嫉妬している。
雅之の愛撫を想像しながら自慰に耽る沙由理は、その
気持ちを認めるしか無かった。そして、そんな沙由理の
視界に、雅之の欲求をむき出しにした男性そのものが姿
を現した。
もう、幼い頃にみた面影は何処にも残っていない──。
それに目を奪われる沙由理。そしてそれは美里も同じ
だった。
ただ、美里はそれに触れることが出来た。先端から滲
み出てきている液体が潤滑油代わりとなり、雅之を痛が
らせる事なく自由に愛撫する事が出来た。
既に、沙由理の目の前の二人は全裸に近かった。
「ねぇ……口でしよ」
すっかり上気している美里は雅之にキスを繰り返す。
唇から首筋。胸板から腹部。じらす様に根本付近で唇を
這わせる。
いつの間にか横たわっている目の前の二人。美里は自
身の秘部を雅之の顔の方にもっていき、雅之の自身の先
端に軽くキスをする。
「あ……ああ……」
沙由理の頬を涙が一滴、こぼれ落ちる──。
『え──』
どうして、こんな事に……。沙由理の目からは、次々
と涙の雫がこぼれ落ちていく。
もう、認めるしかない。
自分は、雅之を沙由理の元から奪い去ろうとする美里
に、強く嫉妬している。自分は、雅之のことを──。
彼女の場所からは雅之の顔は美里の腰の影になってい
て伺う事が出来ない。
今、彼女の目の前に見えるのは雅之の逞しい分身と、
それに両手と口を使い、熱心に愛撫する美里の上半身だ
け。
『見せつけている──?』
そんな沙由理の疑念を余所に、雅之と美里は、互いの
躯を慈しむ事に夢中になってしまっている。
「あぁ……そう……雅之君……な……中も、なめてっ…
…あっく…くぅ……はあぁ……ん」
「く……う……うん……」
雅之は、自分の欲求に従い、美里に言われるままの愛
撫を続けている様だ。蜜を啜る音が沙由理の耳元にまで
届いてくる。
快感に表情を歪める美里。その快感に応えるように、
彼女は右手で雅之の性器のサオの部分を柔らかく撫でな
がら先端を口に含む。彼女の左手は袋の部分を軽く持ち
上げるように愛撫する。
「お……あぁっ……」
強い快感を訴える雅之の声。
そんな二人の有様は、沙由理の知っている二人とは別
人の様だ。
「ね……、ふっ……んうっ……指も……指もぉ……あぁ
っ……そう、掻き回して……あぁうっ」
男性を経験した事が無い沙由理でも、美里の雅之への
指示と愛撫は慣れているとしか思えなかった。
美里の花弁に口を当てながら、雅之は指も様々な場所
に這わせて愛撫しているのだろう。
「きゃ……あぁぁぁぁぁぁ……そこだめ……ダメ……あ
ぁぁあっ、はぁあっ」
それに合わせるかの如く、沙由理の両手も自身の股間
のあらゆる場所をデタラメに愛撫する。
右手の手の平は丘の様になっている所を押さえ、指は
最も敏感な部分をかすめるように花びらの中に入り込ん
で蠢いている。
そして、左手は後ろから回り込み、蜜をこぼし続けて
いる亀裂と、もう一つの小さな穴を愛撫する。
『マー君……マー君っ……すごい、凄いの……きもち…
…いい……の……』
沙由理も、もう、後戻り出来ない程に快楽に身を焦が
している。
「っ……あぁ……美里……ごめん……出る……」
苦しそうな雅之の訴えを聞き、美里は心得ている様に
雅之の先端を口に含んだまま愛撫を続行した。
「くぅぅ……う……あ、あぁっ……」
雅之は果てた。美里は雅之の精液を飲み干そうとする
が、初体験の雅之の射精の勢いは想像以上だったらしい。
あまりの量に咳き込んでしまう。
「けほっ……けほんっ……あ、あはは……いっぱい、出
ちゃったね」
美里は自分の愛撫で雅之が果てた事が嬉しくてたまら
ないらしい。
「へへへ……のんじゃう……」美里は可愛らしくそんな
事を雅之に言う。
「ば、バカ、よせったら」
ぶっきらぼうに言葉を返す雅之を悪戯っぽくにらみ返
し、美里は満足そうな表情で口の中の精液を飲み込んで
しまう。
「うえ〜……変な味」
「本当に飲まなくても……」
沙由理の胸がまた苦しくなる。でも、沙由理の視線は
一点に集中していた。
雅之の分身はまだ収まっていない。
自分の弟の分身……。自分がそれを欲しがっている…
…。
自分の弟なのに。自分は何を望んでいるのか……。
そんな絶望を感じている沙由理を余所に、美里が唯一
身に付けている丈の短いスカートのポケットから、何か
を取り出す。
美里は満足そうに雅之の分身にもう一度キスをした。
「すごいね。全然、元気なまま──」
「こ、こら……う……あ……」
口での愛撫を繰り返しながら、美里は手に出した小さ
な袋を破り、雅之の分身にゴムをかぶせてしまう。
そうして、雅之の股間の袋の部分や、足の付け根に舌
を這わせ、その小さく柔らかな舌先は腹部へと上がり、
雅之の臍(へそ)をくすぐり、徐々に上がっていく。
美里は全身に舌先を這わせながら、雅之を快感に引き
つらせてしまう。
『私には、あんな事なんて出来ない……』
沙由理の視界は二人を足下から覗く構図となる。
二人の性器は、まだ結合をしてもいないのに、互いの
愛撫でぐっしょりと濡れているのが遠目にも解る。
「雅之君……」
「う……ん?」
「ねえ……雅之君……」
「なに……?」
「ふふふっ……ねえ、わたし、雅之君の事、好きだよ?」
幸せそうな声──。
美里は、それだけでは足りないかの様に、雅之の性器
の上に位置する自分の腰をもじもじと動かす。
二人は上半身を密着させる様に抱き合い、舌を絡ませ
ているのか。ぴちゃぴちゃという音と、荒い息づかいの
音が耳に届く。
美里の腰の動きは、まるで雅之の性器の先端を探して
いる様に見えてしまう。
雅之は美里の背中に両腕をまわして、ただがむしゃら
に愛撫するだけ。
だけど、そのひたむきで不器用な愛撫は、美里を更に
燃え上がらせる。亀裂から蜜が溢れ、雅之の分身に滴り
落ちる。
沙由理の花弁に差し込まれた右手も、湯気を上げるほ
どに濡れていた。この手のひらが、雅之の手の平、雅之
の屹立した分身だったらどれだけ良かったことか……。
美里の濡れた花唇は、そんな沙由理の嫉妬を見透かす
かの様に、雅之の性器の先端に触れた。
「うっ……うぁ……」雅之は、そのもどかしさにあえい
でしまう。
沙由理の目の前にある雅之の腰は、美里の中に入り込
む為に必死で持ち上げられる。
「あ……あは……うふふっ……もう」
美里はワザと雅之と繋がらないのだ。彼女は熱い高ま
りをそのまま受け容れる事をせず、花弁で雅之の先端を、
ゆっくりと撫でる動作を繰り返す。
「多分ね……、そのまま入っちゃうよ……これ」
美里は吐息混じりに雅之にそう告げ、手を添えもせず
腰をゆっくりと下ろしていく。
言うとおりだった。
二人の性器は、何の抵抗もなく正しい位置で交わって
しまった。
「ふぅっ……あぁ……はっぁ……ああっ……雅之君……
ほら、ね?は、入っちゃったよ……ああぁ……」
美里の声は笑っているようにも聞こえる。
「う、うん……す、すご……い」
雅之は美里の花弁にくるまれた瞬間、何も考えられな
くなったのだろうか。
雅之の両手のひらは美里の腰を鷲掴みにしていた。そ
して、下から突き上げられる雅之の腰の動きは、相手を
慈しむと言うよりも、本能に突き上げられて腰が跳ねて
いる様にしか見えない。
「はぁっ……ダメ、そんなに強くしたら……あっ、あん
っあんっあんっあぁっ……あぁぁぁぁあ……あんっ、雅
之君、雅之君っ……すごい……いいよぉ……あっ、はっ」
美里の悦びの声は、沙由理にとって、苦痛でしか無か
った。
「好きだよ……ああっ……雅之君……好き……あっ……
ああああっ」
二人の結合部からは、いやらしい音と、愛液の飛沫…
そして湯気が出てきている。
「もっとっ、もっとっ、ね……ね……。あぁ……あああ
あ……来る……来るよぉ……ああああっ」
狂おしい程に雅之を求めている美里の姿。それは、雅
之の姉である沙由理まで完全に酔わせてしまう。
弟の情事を見ながら耽る自慰は、沙由理を完全に快楽
の虜にしてしまっていたのだ。
『好きなの……マー君……好きなのォ!!』
沙由理は、雅之から愛撫を受けているつもりになって
しまっていた。
目の前の二人の性の交わりは、更に激しくなっていた。
再び雅之に限界が訪れる。そしてそれは沙由理をも高
みへと誘った。
「くっう……おぁぁぁぁ……っ」
雅之は、思わず美里を強く抱きしめてしまう。
同時に、美里も絶頂を迎える。
「き……あぁぁぁ……ああああああ」
そして、美里の歓喜の声に引き込まれる様に、沙由理
も、これまでの自慰で経験した事が無い程の快感に全身
が包まれてしまう。
「ぅぅっ……あっ……はぁ……ぁぁああん」
そして、果てると同時に、沙由理は声を殺しながら泣
くしか出来なくなってしまっていた。
沙由理の目の前で激しい逢瀬に身をやつした二人は、
疲れ果てたようにして息を荒ている。沙由理の視界にあ
る美里の背中は、汗の粒で太陽の光を反射しながら蠢い
ていた。
『こんな事──』
認めたくないと思っても、その情景はこれが現実だと、
沙由理を打ちのめす。
涙で歪む自分の視界に、沙由理は自己嫌悪に陥ってし
まう。
『マー君は弟なのに──』
そのまま声を上げて泣いてしまいたかった。
しかし、それは出来ない。
覗いてしまった事は二人を傷つけるだろうし、何より、
弟を寝取られた事で泣いてしまっている自分が惨めだ。
沙由理は、なんとかその場所からそっと離れるだけで
精一杯だった。
彼女の頭の中は真っ白のまま…。
沙由理の潤みがちの瞳からは、涙が枯れる気配が微塵
も無い。
『こんなの……マー君だって……迷惑に決まってる……』
沙由理には、自分の異常さを自覚すると共に、この感
情が、もうどうすることも出来ないものだと言う事を思
い知るしか無かった。
沙由理は、衣服を整えて、足早にその場から逃げ出す。
もう、今日はこれ以上、学校に居る事に耐えられない
と思った。
雅之と、雅之と躯を重ねた美里がいるこの学校から、
早く逃げ出したいと考えていた。
大切なものを奪われた沙由理。
結局、自分は逃げ出すことしか出来ない。
その心の弱さは自身を更に惨めなものに感じさせた。
【第一話・了】
【扉の向こう、窓の向こう・第二話】
その日の事は、雅之にとって、とても大きな出来事だ
った。
初めて異性と身体を重ね合わせてしまったのだから。
今の雅之には、いつもの様に美里と一緒に下校する勇
気も無く、逃げる様に教室を飛び出すだけで精一杯だっ
た。そういう所を、美里が気に入っている事は、雅之も
知らない。
学校から自宅までは歩いて二十分程かかる。
住宅地を横切って、途中から丘を這う坂道を上ってい
く。
その丘を上る坂道の途中、とは言え、その道をかなり
登った所に雅之の住む家がある。
今はまだ、住宅地を突っ切る道の途中で、丘の麓にも
辿り着いていない。まだ、その道程の半分にも到達して
いなかった。
その日の帰路は、とても長く感じられた。
早く帰宅して、自分の部屋から住み慣れた町を見下ろ
して気を紛らわせたいと雅之は考えていた。
姉の沙由理とはもちろん別々の部屋だが、二人とも二
階に部屋がある。
そして、それぞれの部屋からは、自分達の住んでいる
町を見下ろす事が出来る。
姉弟は二人揃って、その見晴らしの良い窓からの眺め
が好きだった。
「はぁ……」
無意識の内に、溜息が漏れてしまう。
雅之は、不安なのだ。
少年特有の、好奇心と抑えがたい欲求。何より、自分
が好きな少女だからこそ、雅之は美里と身体を重ねる事
が出来た。
だのに、その後の雅之は、美里と顔を合わせるだけで、
必要以上に舞いあがってしまう。
空回りする自分に不安を感じるのだ。
そして、その不安は、美里に対する雅之の態度を、更
にぎこちないものにしてしまった。
今にして思えば、一緒に帰った方が気は楽だったかも
しれない。言葉を交わすうちに、気が紛れ、不安は消さ
れたかも知れないのだから。
「は〜あ……」
自分から逃げ出したにも関わらず、彼は再び溜息を漏
らしてしまう。
その瞬間だった。
何かが雅之の足を巻き込むようにぶつかってきた。
「痛っ!」
「あははっ。ごめんごめん」
雅之は前につんのめりながら、驚いて振り向くと、そ
こには自転車に乗った美里がいた。
きっとワザとぶつかって来たのだろう。
あんな事になったのにも関わらず、前と全く変わらな
い悪戯っぽい笑顔で雅之に目を向けている。
「何かなあ?今日はわたしの事、おいて帰っちゃうし…
…憂鬱そうな溜息……」
雅之は、今のを聞かれてしまったのかと、慌ててしま
う。
「ふふふっ。これは納得いきませんねー」
屈託の無い心地よい笑い声が雅之の耳をくすぐる。
猫の様に表情豊かな瞳を嬉しそうに細め、美里は、自
分を置き去りにして帰宅している雅之を困らせようとす
る。
この少女が自分の相手なのだ。そう思った瞬間、雅之
は再び照れてしまう。 彼には、怒った振りをするので
精一杯だった。
「イったいなぁ……」
「ごめんごめん。ちゃんと謝るから。この通り」
そう言いながら、美里は、突然拗ねた表情をする。
「でもね──」
高校に入学してすぐの頃から美里と付き合い始め、毎
日の様に、一緒に帰宅していたのだ。
それを、今日に限って、雅之は逃げる様に美里を置き
去りにしてきたのだ。
「何だよ──」
聞き流す事も出来ず、雅之はついつい聞き返してしま
う。美里は少々不満そうだ。
「何?雅之君、とぼけちゃうの?」
根が大人しい雅之は、簡単に、鼻白んでしまう。
「さ、さあ、何のことだか、さっぱりわかんないよ」
返事もおぼつかない。手の平に汗が滲んでしまう。別
に、悪い事をした訳では無い。心の中で、そう開き直っ
てしまう。
それでも、雅之にとって、これはあまりにもバツが悪
い。
喉がカラカラになってしまう。
そんな、雅之の様子に、美里は勝ち誇った様な視線を
投げかけてくる。彼女は、少しだけ微笑むと、しょうが
ないと呆れた表情で雅之に言葉を投げかける。
「溜息は禁止。それに、そんなに深刻になるの、よそう
よ」
美里は頬を仄かに染めながら言葉を続ける。
「あたしは、嬉しかったんだからさ」
彼女の言葉に、雅之はまた逃げ出したくなってしまう。
美里の顔も真っ赤だ。
「……それとも、やっぱり雅之君、嫌だった……かな?」
一瞬、心臓が止まりそうな程に雅之は動揺してしまっ
た。顔から火が出てしまいそうだった。
「な、な、な……何て事聞いてるのさっ!」
抗議の声も、裏返ってしまう。
美里もさすがにやり過ぎたと思ったらしい。
「あ、あははっ……。だよね、そうだよねっ。何聞いて
るんだろうね。わたしってば、あははは」
美里も、それ以上は追求してこなかった。
そうやって家路を進むうちに、住宅地を縦断する道と
丘を上る坂道との別れ道に差し掛かった。二人が一緒に
帰宅するのは、何時もここまでだ。
美里は自転車を止めて雅之を見上げる。
「やっぱり……聞きたいな……」
静かな声だった。そして、何よりも、美里の目は思い
詰めた色を浮かべている。
もう、これ以上とぼける事は出来ないと思った。それ
は、美里に対して酷い仕打ちにしかならない。
それでも、自分に自信を持てない雅之は、美里に聞き
返してしまう。
「今日の事──?」
美里は、きゅっと口元を噛んで、小さく頷き返してき
た。美里も不安なのだ。
雅之は、焦る心を落ち着かせる為に、少しだけ深く息
を吸い込む。
高校に入学して直ぐの時、美里と大喧嘩をした事があ
る。雅之が用事で急いでいた時に、思い切り彼女の足を
踏んでしまったのだ。
その時、彼は時間ばかりを気にしていて、美里への謝
罪がおざなりになってしまった。美里にしてみれば、か
かとで思い切り自分の足を踏まれたのだ。痛みは相当な
ものである。
それなのに、雅之のいい加減な態度。それは負けん気
の強い美里をたき付け、二人はそのまま大喧嘩へとなだ
れ込んでしまうという事件になってしまった。
しかし、その喧嘩のおかげで、互いに気が合う事が分
かり、やがて二人は、色々な事を相談できる程の友人と
なっていた。
そんな二人が恋人の様な間柄になるのには、長い時間
は必要ではなかった。
同級生達のやっかみも、かなりのものだった。
そして今日、二人は、その関係を新たなものにした─
─。
雅之には、夢の様な話に思えてしまう。
ただでさえ、美里は可愛らしい。思いを寄せている男
子生徒も多い。
そんな少女と、彼は繋がったのだ。
「うん。してない──後悔してないよ」
雅之は、自分の気持ちを確かめるように、美里に言葉
を返した。
そのまま、二人は何も言えなくなり、俯いてしまった。
後悔は微塵も無い。むしろ逆だ。
「じゃあ、私も後悔してない。ううん。嬉しかった」
俯いた美里の表情は見えなかったが、彼女の耳は真っ
赤になっていた。
雅之は、思わず、彼女の肩に手を伸ばしたい衝動に駆
られてしまう。
その瞬間…。
美里は、にやりと顔を上げて手を振り上げた。
こう言うときは、彼女はロクな事を考えていない。
「じゃ、また明日ね!」
そのまま振り上げた手で、思い切り雅之の背中を叩く。
背中で乾いた音が鳴ると同時に、目が飛び出そうな痛
みが背中に広がる。
雅之はその痛みに息が詰まり、声も出ない。
「ぃぃぃぃぃぃっ……もうちょっと……加減を……っ」
しかし、美里はころころと笑い声を響かせながら、自
転車のペダルを漕いで逃げ去っていく。
徐々に小さくなっていく美里の後ろ姿を見送りながら、
雅之は背中の痛みとは裏腹に、気持ちが軽くなっている
自分に気が付いた。
自分の顔の筋肉が、だらしなくなっている事も良く解
る。
結局、いつも美里に助けられてしまう自分も情けなく
さえ思えてしまう。
この美里とのやり取りのおかげで、残りの自宅に続く
坂道が、雅之には少しも苦にならなかった。
実際、その坂道の事が気にならないまま、あっという
間に自宅に辿り着いてしまった。
坂道の途中にある、ごく有り触れた二階建ての白い壁
の家。
玄関先から二階を見上げると、左右に大きな窓が二つ
目に入る。
左側の窓があるのは、姉の部屋。そして右側の窓があ
るのは、自分の部屋。
姉弟そろって、窓の外の景色を眺めるのが好きなのだ
が、雅之は特に夜更かしをしながら外を眺めるのが好き
だった。
微かな日の出の光に徐々に照らされていく風景が、自
分を包んでいる空気が、そういった諸々が微妙に変化し
ていくのを感じるのが心地良いのだ。雅之はずっと昔か
らそれを満喫するのが好きだった。
玄関のドアに手をかけた時、雅之の腕時計は夕方の五
時を既に回っていた。
「ただいま──」
扉を開けるのと同時に、食欲をそそる匂いが雅之の所
まで漂ってくる。それと一緒に、平和そうな母親の声が
彼を出迎えた。
雅之と沙由理が、線の細い大人しい姉弟になったのは、
この呑気で物静かな母親譲りなのだろうと、幼少の頃か
ら、隣近所の住人に言われ続けて来た。彼等姉弟の母親
はそう言う人だ。
最近では、雅之自身も納得してしまっている。
母のその声は、雅之に、そんな事を考えさせてしまう
程に、穏やかな響きを含んでいた。
雅之は、喉が渇いていたので、そのまま台所へと向か
った。
「あれ、姉さん、先に帰ってたんだ──」
母の隣には既に普段着に着替えて、夕食の準備の手伝
いをしている姉の沙由理がいた。
「うん……おかえり……」
それだけ言うと、直ぐに目を逸らしてしまう。
何か様子がおかしい。大人しい姉だが、こんなに塞ぎ
込んだ様子は、今まで殆ど目にした事が無い。
どちらかというと、穏やかで遠慮がちな笑顔でいる事
が多い姉だから──。
しかし、今、雅之の目の前にいる姉の表情は、泣き出
す寸前ではないかと思わせた。
「ん?どしたの?」
具合が悪いのだろうか…。普段から仲の良い姉弟なの
で、自然と心配する言葉が口から出てくる。
「ううん。大丈夫」
母もあまり出しゃばらない様に気を配りながら、直ぐ
側で、聞き耳を立てている。
沙由理は、雅之と母二人が、彼女を心配している事に
気が付いて慌てた。
「あはは。本当、なんでも無いよ。ちょっと考え事して
ただけだから」
そんな返事をされると、雅之も、放って置いた方が良
いかと納得するしかない。
母も「そう」と答えただけで、あまり深入りしなかっ
た。
だが、それは、母が冷たいと言うわけではない。
「何が有ったか知らないけど、あまり無理しないでね」
沙由理は床の一点を見ながら頭を振る。
「動いていた方が紛れるから…」
そう返事をする彼女の声は、かすかに震えていた。
雅之は、冷蔵庫から良く冷えたお茶の入ったポットを
出し、グラスになみなみと注いで沙由理に声をかける。
「姉さんが深刻に悩んでるのって初めて見るけど……元
気だしたよ。俺だって何かあったら、協力するよ」
それは、雅之にとって、何気ない、ごく自然な一言で
しかなかった。
伏し目がちだった姉の視線が、ついと雅之の目と絡む。
何か訴える様な視線。彼女の唇は、一瞬開きかけるが、
直ぐに遠慮する様に閉じてしまう。
そして再び、彼女の視線は、伏せられてしまう。
その表情の短い変化は雅之の胸を締め付けた。
実は、雅之自身、常日頃から沙由理の存在を嘘の様に
感じていた。
自分の姉だと、頭で理解していても、憧れの様な気持
ちを持っている事を自覚する時すらある。
余程の事が有ったのだろう。雅之は、それ以上踏み込
まない方が姉の為だと思うだけに留まった。
そっとしておくのがいいのだろうなと考えながら、二
階の自室に向かう雅之に、母親が声を掛ける。
「晩御飯の前に、眠ってしまっちゃだめよ」
『それはムリだ…。』
雅之は心の中でだけ、そう反論した。
案の定、部屋に戻ってからの彼は、抜け殻の様になっ
てしまい、ただボンヤリと時間を過ごす事しか出来なか
った。
意味もなく、ただ時間が過ぎただけ──。
やがて、ごく普通の会社員をしている父も帰宅し、夕
食の時間になった。
沙由理の様子がおかしいという事には、無口な父も、
直ぐに気が付いた様だ。
ただ、沙由理の落ち込んでいる理由が、いじめ等では
無い事を確認しただけで「相談できる事だったら何時で
も言うんだぞ」と言ったきり、雅之や母と同じように、
静かに食事を続けるだけだ。
母と同じで、父親も沙由理と雅之の姉弟に対して強い
信頼を寄せている。そして、二人は、姉弟が助言を求め
てる時には、嫌な顔ひとつせずに話を聞いていくれる。
そういう両親なのだ。
普段は、たわいのない話題で、笑い声に溢れる平和な
食卓を囲む一家なのだが、さすがに今日は、とても静か
な空気に包まれてしまっていた。
沙由理は、その空気を自分自身が作ってしまっている
事を逆に気にし始めた。
「お父さんも、お母さんも、ごめんね。大丈夫だから…
…」
彼女は、精一杯の笑顔を見せながら、自分を心配して
くれている家族に謝った。雅之には、そんな姉の姿が痛
々しく見えるだけだった。
やがて、食事も済み、後片づけを済ませ、居づらさを
感じていた沙由理は、一人逃げ込むかの様に風呂場へと
向かった。
娘の背中を見送りながら、母は父に声をかける。
「あの子の事だから、しばらくは思い詰めちゃうでしょ
うね」
その言葉には、自分の娘をを信じているゆとりがある。
「ですなあ……まあ、大丈夫さ」
父の返事にも、同様の信頼が伺える。
両親は、落ち込んでいる沙由理をあまり気にしない事
に決めた様だ。
それは、雅之も同じだった。彼も自分の姉が、ああ見
えて強い所が有ると言うことを充分理解しているのだ。
それに、彼一人でも心配していると、姉はきっと、そ
の事で余計に落ち込んでしまう。
雅之が小学校に入学した頃から、ずっとそうなのだか
ら──。
そこまで考えて、雅之は、小学校に入学したばかりの
頃を思い出してしまう。当時の沙由理がどんな姉だった
か。今の姉と比較すると、可笑しくなってしまう。
当時の沙由理は、確かに大人しい性格だったが、反面、
かなりの頑固者だった。
雅之は、一度だけ、沙由理の頑固さが原因で喧嘩にな
った場面に出くわし、姉を庇おうとして、上級生に殴ら
れてしまった事がある。
丁度、その頃から沙由理の頑固さは表に出なくなった
と雅之は記憶している。
取り留めもなく、そんな過去を振り返りながら、雅之
はテレビに見入ってぼんやりと時間を過ごしていた。
もう、美里と身体を重ねた後から、帰宅直後まで頭を
悩ませていた虚脱感は無くなっていた。
やがて、入浴を終えた沙由理が、濡れた長い髪をバス
タオルで拭きながらリビングに戻ってきた。
湯上がりの火照った身体にTシャツとトランクス姿。
その姿に、雅之は昼間の出来事を思い出してしまう。
しかも、姉の身体は、美里のそれよりも刺激が強い。
とてもふくよかな胸の膨らみ、なだらかに引き締まっ
ている腰、それを整えるカーブが足まで伸びている。そ
れだけでは無い。姉の沙由理は弟の雅之が呆れる程、綺
麗で儚い印象を与える顔立ちをしている……。
今日の美里との事を、雅之は連想してしまいながら、
今の姉の姿を、友人達が目の当たりにしたら、きっと激
しく興奮するのだろうなと、何とはなしに考えてしまう。
姉の沙由理に憧れている男子生徒の数はそれだけ多い
のだ。
「マー君、ね──?」
「う、うん?何?」
「お部屋のゲームで遊んでいてもいいかな……」
「あ、ああ……うん。いいよ」
いつもの事──。
姉の部屋には、テレビやラジカセの類はあるが、パソ
コンやテレビゲームと言った物がない。
そのくせ、沙由理はかなりのゲーム好きだったりする。
最近は、何か戦闘機のフライトシミュレータに凝って
いる様だ。昨日など、悲鳴を上げながら地面に激突して
いた。
雅之の部屋で二人、口数少なく言葉を交わしながら、
沙由理はテレビゲームに夢中になる。
それは既に、何年も前からの沙由理の習慣になってし
まっている感がある。
雅之の部屋で、そんな事をやってる沙由理は、外では
決して見せない無邪気な顔を見せてくれる。
もちろん、学校では笑わないという事は無いのだが、、
雅之の部屋の中での比では無い。無防備な笑顔。それは
きっと、学校で沙由理を見ている男子生徒には、想像も
できないだろう。
自分の部屋で遊んでいる姉の沙由理を邪魔に感じる事
は無い。今の沙由理の沈んだ気持ちを紛らわせる事が出
来るのであれば、それは良い事だろう。
沙由理の後に父や母も入浴を済ませ、夜も更けていく。
雅之はコーヒーを飲みながらテレビを横目に課題のレ
ポートをまとめ始めた。
姉弟そろって学業には真面目なので、両親も口うるさ
く自分の部屋で勉強しろと言う事も無い。
それに、この場所で勉強していると、母がお茶や果物
を用意してくれるので、まだまだ食欲も旺盛な雅之には
丁度良い場所なのだ。
夜の十時を過ぎ、両親は一階の寝室に入っていった。
両親が眠りに就いてしまうのは、いつも早い。
雅之はテレビを消し、入浴する事にした。
この日、雅之はいつもよりも倍近い時間、湯船に浸か
っていた。
目まぐるしい一日を振り返ってしまったのだから、そ
れはしょうがないのかもしれない。
まして、美里の身体の感触は、まだ、雅之を高ぶらせ
てしまう程にリアルな記憶なのだ。それを鎮めるのにも
時間が掛かってしまう。
磨りガラスの外からは虫達の涼しげな声が聞こえ、少
しだけ開けている窓から吹き込んでくる冷たい風は雅之
を夢見心地にする。
そして、そこから覗き見ることが出来る夜空の月の光
……。
とても幸せなのだと実感できる。
考えに耽りすぎたのがいけなかったのだろう。雅之は
酷い湯当たりの状態になってしまった。
なんとか身体を拭い、シャツとパンツだけを身につけ、
極度の脱力感に襲われながら、自分の部屋へと向かった。
部屋へと続く階段も、こう言う時は、嫌になって来る
程に長く感じられてしまう。
自分の部屋のドアを開けると、沙由理がテレビの前に、
ちょこんと正座してゲームをしていた。
見慣れている姉の後ろ姿。テレビに向かってコントロ
ーラーを握っている姉の後ろ姿は、何処か愛嬌がある。
彼は、そんな事を考えながら、ひんやりとした床に寝
転がった。
「ううう──」
沙由理は驚いてゲームを中断する。悪い事をしたなと
思いながら雅之は画面に目をやった。やはり、最近やり
込んでいる戦闘機のゲームだ。
ただ、機体選択の画面なので、ゲームそのものの邪魔
にはならなかった様だ。雅之は、少し安心して根を上げ
てしまう。
「やばいくらいに、のぼせた……」
沙由理は心配そうな表情で、雅之の顔をのぞき込む。
「大丈夫、マー君?」
「うーん、う〜ん、うん」
雅之の返事は会話として成り立つ様なものではない。
沙由理は、優しく口をとがらせながら雅之を咎める。
「もう……。お風呂の火、消してきた?」
「いや、ちょっと今、無理。後で……、後で」
今の雅之には、冷たい床の心地良さを満喫する事の方
が大事な事に思えた。沙由理の含み笑いが彼の耳をくす
ぐる。
「いいよ。消してくるから……横になってて」
「ああ……ごめん……姉さん」
声をかける間もなく、沙由理は静かに部屋から出てい
ってしまった。
雅之は所在なく天井を見上げ、息を吐いて苦しさを紛
らわせるので精一杯だ。
彼は、そのまま目を閉じ、窓から吹き込んでくる風の
心地よさに身を任せ、浴槽で聞いていたのと同じ虫の声
に耳を傾ける。
耳朶をくすぐる虫達柔らかで涼やかな鳴き声。
その、穏やかな空気と音に包まれながら、自分の身体
が少しずつ楽になっていくのを雅之は感じていた。
沙由理が静かに階段を上ってくる足音が近づいてくる。
扉が開く音が聞こえても、雅之はそのまま瞼を開こう
とはしなかった。
普段よりも寂しげな沙由理の声。
「そんな格好で床の上にねちゃったら……風邪ひくよ?」
「大丈夫……大丈夫……」
何が大丈夫なのか、雅之の返事も苦しさから適当なも
のになっている。まるで酔っぱらいだと、自分に呆れて
しまう。
「はい。ジュース持ってきたよ」
そう言ってグラスを雅之に渡そうとする沙由理の笑顔
には、微かに悲しみの影が差している。
「あ、ありがと……ごめん。気ぃ使わせちゃって……」
沙由理の瞳が少し潤んでいたので、雅之は思わず息を
飲んでしまった。
雅之は、何故、沙由理が学校の男子達の憧れの的なの
か、改めて納得してしまう。
どうして自分の姉に、こんなにどぎまぎしないといけ
ないんだ──。
彼は、受け取ったグラスの中身を慌てて一気に飲み干
した。
良く冷えたレモンスカッシュに氷を浮かべたものなの
で、その刺激はかなり強い。
思わず雅之は顔をしかめながら、眉間を押さえてしま
う。
「ふふっ、ふふふっ……あはははっ」
「な、なんだよ……そんなに笑わなくてもいいじゃない
かよ」
「ごめんね。でも、そんなに慌てて飲まなくていいのに」
「今のは効いた」
沙由理の表情は、今の雅之の失態で無邪気で静かな笑
顔に変わっていた。
雅之も、照れ笑いしながら再び床の上に横になり、悲
しみの影が薄れた事に少し安心する事が叶い、再び冷た
い床板の上に横になった。
「ひんやりしてて気持ち良いい──」
当たり前の感想だが、こう言う時に口に出してみると、
更にその心地よさは強くなる。
そして、雅之は再び目を閉じた。
「もぉ、風邪ひくって言ってるよ?」
沙由理の咎める声が耳をくすぐる。
「うん」
まだ、気怠さが少々残っている雅之の返事も大して意
味のあるものでは無い。そのまま横になっていると、雅
之の耳元で姉が立ち上が気配が感じられた。
「夏休み前に風邪だなんて、勿体ないんだから」
沙由理は、ぼやきながら雅之にタオルケットを掛け、
雅之の耳元に座った。
「マー君、頭上げて」
沙由理がこう言ったら、膝枕の事だ。雅之は有り難く
沙由理の太股の上に頭を乗せて、瞼を閉じた。
いつも自分を甘やかしてしまう姉に、雅之は冗談を言
ってしまう。
「なんか俺……偉そう」
「ほんと。もうちょっとお姉ちゃんの事、大切にしても
いいと思うよ」
沙由理の声は、何処か寂しげだ。
そこで再び、雅之は姉の様子が、おかしかった事を思
い出してしまう。
おかしかったと言うよりも、過去に一度だけしか見た
事が無い程に落ち込んでいたと言った方が良いかも知れ
ない。
少しでも楽になれるなら…。雅之は沙由理に声を掛け
てみた。
「姉さん」
雅之の声の調子が気遣わしげだったのが表に出ていた
のだろうか。沙由理は、やや驚いた様に目を見開いて雅
之を上から見下ろす。
「なに?」
沙由理の長い髪が、雅之の頬をくすぐる。
「何かあった?」
沙由理の表情の変化は一瞬だった。息を飲むかの様に
詰まってしまう雅之の姉。雅之は、そんな姉を怪訝な表
情で見返してしまう。
「……」
「聞いちゃ、まずかったかな……」
「……」
沙由理は何も答えない。ただ、口元をきつく締めなが
ら、息が震え始めていた。雅之は、自分の無神経さを呪
った。
「あ、ごめん……今のナシ」
姉を見上げながら謝るしか出来なかった。
「ううん。ありがとう。そうだよね。心配掛けちゃって
るよね……」
雅之は、こんな寂しげな笑顔は見たくないと思った。
沙由理の瞳から幾筋かの涙がこぼれ落ちてきた。
「あ──」
沙由理は、自分が涙を零してしまった事に戸惑の色を
浮かべてしまう。
「あ……、あれ?ごめんね、大丈夫だから。うん。本当
に、大丈夫だよ」
でも、涙の雫は、後から後から、止むことなくこぼれ
落ちてくる。
「姉さん……」
「あは……。あ、あんまり、見ないで。ね?」
沙由理は、優しく雅之の目に右の手の平をかぶせ、そ
のまま額へと滑らせる。
再び沙由理の長い髪の毛が、雅之の顔まで届く。雅之
は沙由理の香りの中に包まれながら、自分には何か出来
ないだろうかと考えていた。
沙由理のか細い、小さく震える声がそっとささやく。
「ごめんね……」
「い、いや、俺が無神経だったから……今のは俺が悪か
ったよ。ホント、ごめん……」
「ううん。うれしいよ」
そう言いながら、沙由理両方の手の平で雅之の頬をそ
っと包み込む。
「マー君──」
「えっ──」
突然の事だった。
沙由理は、それ以上何も言わずに雅之の唇に自分の唇
を重ねてきたのだから。
触れ合う二人の唇は微かに震えていた。
沙由理の唇は、雅之の唇にそっと重ねられたまま、形
を確かめる様な動きをする。
そして、慈しむように雅之の頬に当てていた手の平の
動きを止め、額にキスをし、涙の雫を降らせながら、沙
由理は自分の気持ちを告白した。
「すき……よ……私、マー君の事……好き」
「……え、ちょ、ちょっと……姉さん?」
突然の信じられない様な出来事に、何が起こっている
のか理解できていなかった雅之は、やっと、声を上げる
事が出来た。
彼は、早鐘の様に激しく鳴り響く自分の胸の鼓動を感
じていた。
「姉さん……何言ってるのさ。だ、だめだよっ」
雅之は姉を押し返そうとするが、沙由理は頑なにそれ
を拒んだ。
「いやっ。じっとして……お願いだから……」
沙由理の舌は、雅之の口をこじ開け、そして進入して
くる。沙由理は必死に雅之の舌に絡みついてくる。それ
は、昼間、美里がしてくれた様な、相手の性感を高ぶら
せる為の動きとは違う。
沙由理の舌の動きは、むしろ縋り付くかの様な、雅之
になにか懇願している様な動きだった。
「私、マー君の事、好きだよ──」
沙由理は、いつの間にか雅之に覆い被さっていた。
二人の呼吸は、咽せる様に荒くなっていく。
雅之は、沙由理の両肩に手をやり、再度、抵抗を試み
ようと目を開いた。
そこには、今まで見た事も無い、頬を赤らめた沙由理
の顔があった。
いつも潤んだ印象の二つの瞳。少しだけ開いた目の奥
のそれが、これ以上は無い程に雅之に救いを求めている。
息が詰まった。
どうして、自分の姉は自分に──。
姉は雅之の目を真っ直ぐに見つめながら、目を細め、
再び雅之に唇を重ねる。
今度は、再び、微かに触れるだけのキス。そのまま沙
由理は雅之に触れている唇を首筋近くまでそっと移動さ
せた。
沙由理は、雅之の背中に両腕を回し、耳元に苦しそう
な息を吐き掛けながら、再び口を開く。
「どうにも出来ないの」
「どうにもって、そんな、だめだって……」
「だって、このままじゃ、マー君……」
沙由理はそう言いながら、雅之の胸板を慈しむように
撫でていた手の平は、ゆっくりと下の方に降りていき、
既に猛り狂っている雅之の分身をパンツ越しに触れてき
た。
「男の人も、濡れるんだね……」
沙由理は、細い指先を下着越しに人差し指で軽く引っ
掻くような動かす。
雅之は目をきつく閉じて、苦しげに息を吐き出してし
まう。
その雅之の様子に、唇で雅之の頬や額を慈しんでいた
沙由理が気遣わしげな声で問いかけてくる。
「い、痛かった……?」
雅之には首を横に振る事しか出来ない。
沙由理は、頬を更に桜色に染め、照れ臭そうに目を細
める。
「ふふっ……よかった……」
そう言いながら、彼女は雅之の膨らみの頂まで頭をず
らし、布地越しに唇をそっと宛ててくる。
沙由理の口が開き、その猛々しい支柱の頂きに唇を当
て、舌先で円を描く様な愛撫を繰り返し始める。
普段、清楚で遠慮がちな姉との淫らな行為…。それだ
けでも酷く扇情的であるのに、沙由理の舌による刺激は
雅之の腰を跳ね上げさせる。
「マー君、静かにしてないと、父さん達が起きちゃうよ」
沙由理に言われなくても、雅之は声を必死に押さえて
いた。
「姉弟じゃ無ければよかったのに……、そうしたら、ず
っと……」
もはや、沙由理の気持ちは明白だった。
雅之は、もうそれ以上考える事も出来ず、ただ、天井
の蛍光灯を見上げ、下着の先端に滲む液を吸い取る様な、
沙由理の愛撫に震える事しか出来なかった。
ようやく、沙由理は唇を雅之の支柱から離し、代わり
に手の平で優しく包み込みながら上体をずらしてもたれ
かかってくる。
「きもちいい──?」
沙由理は、問いながら再度、雅之に深い口づけをして
くる。最初の焦りが含まれた風情は、もう消え去ってい
た。
雅之の舌をおずおずと探し求る、姉の拙い舌の動き。
いつしか、雅之は薄く目を閉じ、求めてくる沙由理の
舌先に応えていた。
二人の舌は絡み合い、途端、沙由理は、そっと雅之の
頭に両腕を回し、抱きついてくる。
「離れたくない。私、マー君と離れたくないよ──」
沙由理の愛撫には、その想いが込められていた。それ
だけで雅之に襲いかかる快感は何倍も強いものになって
いく。
もう、雅之には、苦しげに喘ぐ事しか出来なかった。
「明かり、消すね──」
不意に、沙由理の身体が雅之から離れる。
雅之は深く息を吐きながら、姉の後ろ姿に目をやった。
部屋の明かりは落とされ、二人を照らす光は月明かり
だけになってしまう。
月の青白い光の中、沙由理は身に着けていた衣類を脱
ぎ去り、雅之の目に全てを晒した。
遠慮がちに、左手を胸元に当てながら、沙由理は、雅
之の側に腰を下ろした。
雅之の目は、月明かりに薄く照らされている沙由理の
美しい肢体に吸い寄せらた。彼は、視線を逸らす事も出
来ず、食い入る様に上体を起こした。
そこにいる少女の豊かに張り出した双房、その頂きは、
はっきりとした形になり、その堅さも容易に想像する事
が出来た。
白くきめ細やかな肌と、身体全体を魅力的に見せる為
に、しなやかにくびれた腰のライン。
そして、若草が薄く茂る秘丘。
見ると、沙由理の秘められた場所を挟み込む太股の内
側は、既にその奥から滴る愛液が幾つかの筋を作り出し
ている。
「ねえ……触ってみて……」
沙由理は、雅之の手を取り、弟の手の平を豊かな胸に
押しつけた。
「ほら。すごく、どきどきしているの、わかる?」
「ね、姉さん……」
「おかしいよね。姉弟なのに……」
そう言った瞬間、沙由理は再び泣きそうな顔をしてし
まう。
「姉弟なのに……こんなの変だよね……マー君、迷惑だ
よね……?」
沙由理は、雅之の唇を啄みながら、壁に寄りかかっい
る雅之の衣類を、もどかしげに剥ぎ取り、二人は、一糸
纏わぬ姿になってしまう。
沙由理は、秘所を雅之の太股に押しつける様に跨り、
雅之の背中に両腕を回す様にしがみついてきた。
太股に直に感じる、姉の亀裂と、そこから溢れ出す熱
い蜜の感触──。
そして、彼女は雅之の頬に自分の頬を擦り寄せてきた。
豊かな沙由理の乳房は、その弾力を主張しながらも、
二人の間で押し広げられている。
沙由理は、雅之の太股で自身の花唇を擦り始め、切な
げな吐息を漏らし始めた。沙由理の愛液は、ぬらぬらと
した感触と共に、蠢く秘唇の存在を主張している。
そして、沙由理は身体を延ばし、雅之の耳に舌を這わ
せ始めた。
「う……あ」
雅之はたまらず、声を漏らす。
「気持ちいい?」
沙由理は、そう言いながら、再び雅之の男根をその白
いほっそりとした指で包み込み、先走りの液を亀頭全体
に薄く伸ばすような愛撫を始めた。
まるで、背筋を電流が駆け抜けるような快感──。
雅之は、思わず姉を、きつく抱きしめてしまった。
「はあっ──」
沙由理は、それだけで感極まった吐息を漏らした。
それは、更に雅之を興奮させる。
雅之は、我を忘れ、沙由理の豊かな乳房に自分の顔を
埋め、その頂きの乳首に吸い付いてしまった。
「あっ……あぁ……もっと、して……マー君……マーく
……ん……あぁ……」
沙由理の胸の柔らかさ。雅之は更に強く沙由理の胸に
顔を押しつける。
舌先で感じている沙由理の左の乳首は、既に固くしこ
っている。
雅之は左手で、右の乳房をすくい上げ、親指で乳首を
押してみた。
右の乳首も既に固い──。
沙由理は、雅之の太股に更に強く花唇を擦り付けてき
た。それだけ、彼の姉は快楽に我を失い始めている。
なにか、めくれた、柔らかなものが自分の太股の上を
行き来している。それは、姉の秘唇。そう思うと雅之は
更に興奮し、彼の分身は固く反り返る。
雅之は、沙由理の顔を見上げた。月明かりの下、沙由
理の美しい顔は幸せな表情に包まれている。
沙由理の潤んだ瞳は、雅之を真っ直ぐ見つめていた。
「マー君……あのね……お願いがあるの」
「な、なに……?」
「私の……奪って……」
雅之には反論する余地も与えられなかった。
沙由理は何も言わずに、太股の上を嘗め回すかの様に
行き来していた花唇を持ち上げた。
そして、彼女の右手は、これ以上無い程に反り返った
雅之の屹立している分身を指で支え、そのまま花唇にあ
てがい、一気に、躊躇いもなく腰を下ろしてしまう。
雅之は、強く押し込まれる感覚に顔をしかめた。
それは、まだ男を迎え入れた事の無い、沙由理の中に
ある壁。
柔らかく、熱く潤っている秘唇の中にある壁だった。
それはそのまま、ぷつっと弾ける様な感触を先端部分に
伝えてくる。
沙由理は必死に痛みを堪え、悲鳴を噛み殺す──。
「くぅぅっ……うっ……うううう……」
雅之の背中に回されていた沙由理の手の平は強くわな
なき、その爪が雅之の背中に刺さる。
「うっああ……マー君……マー君……っ」
雅之は、強い痛みと快感に襲われ、根元に沙由理の柔
毛が触れるのを感じ、とうとう自分が、姉の処女を奪っ
た事を実感した。
二人はそのまま、しばらく身動きもせず、互いの唇を
吸い合っていた。
姉の舌と互いの唾液を交換し合い、絡み合う雅之の舌。
薄く目を開くと、沙由理は眉間に皺を寄せ、苦しそう
に息をしている。
「姉さん、止めよう……かなり辛そうだよ」
沙由理の表情を見ながら、雅之は心配になり、そんな
事を口走ってしまう。
「うっ……ううん、大丈夫……平気だから……」
涙でくしゃくしゃになった沙由理の表情が嬉しそうに、
慎ましやかな笑顔に変わる。
「だから、最後まで……お願い……あ、はぁ……う」
雅之の胸板に頬を預けて来る沙由理のそのいじらしさ
は、柔肉に包まれている雅之を更に猛らせる。
脈打つように、血が流れ込む感触は、そのまま沙由理
伝わり、雅之の腕の中にあるしっとりとした沙由理の身
体を、もっと熱くする。
「うっううん……す、すごい……また、大きくなったね
……」
沙由理は雅之の胸に強く吸い付きながら、うめき声を
漏らす。
「すき……大好き……私、本当に……マー君の事、好き
だよ……」
そう言いながら雅之を見上げ、沙由理は再び唇を重ね
てくる。
やがて、沙由理は静かに、おずおずと腰を動かし始め、
痛みを堪えるように強く雅之にしがみついてくる。
汗ばみ、柔らかな姉の身体は、まるで雅之の身体に吸
い付いて来るかの様だ。
雅之は、自分のいきり立っている分身が沙由理の柔肉
の摩擦に晒される快感に酔いしれ、つい声を漏らしてし
まう。
「う……ああ……姉さん……姉さん……」
「あっ……あっ……ああっ……嬉しい……嬉しい……よ」
それでも、沙由理はまだ苦しそうな表情を浮かべてい
る。雅之はそれだけで、身動きをする事が出来なかった。
その痛みを堪える為の沙由理の腰の律動は、時に小休
止し、まるで息継ぎをしている様でもある。
どれ位の時が経過しただろうか──。
やがて沙由理の吐息が甘い響きを含む様になってきた。
それと共に、雅之自信をくわえ込んだ花唇は柔らかさ
を増し、蜜の量を増やし、沙由理の腰の動きを滑らかに
していく。
「は、あん、ああ……あん。マー君……」
雅之の目の前にある沙由理の表情にも、恍惚としたも
のが含まれ始めた。
「いいの……いいの……ね……マー君も、動いて、お願
い……一緒に……ね?ああぁ……」
沙由理は、雅之の頭にしなやかな両腕を回し、唇に吸
い付いてくる。
自分の身体に密着して、たおやかな律動を繰り返す、
姉の身体。その皮膚の感触。くすぐる息づかい……。
全てが雅之の理性を流し去り、快感を信じられない程
に強いものにしていく。
雅之は沙由理のすべすべした腰に手をそっとあて、徐
々に腰を動かし始めた。
「あっ……あっあっあっ、はあっあん……すご……い…
…こんな風に……ああ」
沙由理は、長い髪を振り乱しながら、指を噛み、必死
に嗚咽を堪える。
雅之の分身にまとわりつく沙由理の熱く潤っている内
壁は収縮を繰り返しながら、彼を離そうとはしなかった。
「うん、う……ふっ……あっ」
二人の腰の動きは徐々に早くなっていく。
「あぁぁ……ぁ……ぁぁ……すごいよ、くる……くるの、
マー君、わたし……わたしっ……」
雅之の耳元に呟く様に沙由理は訴える。
耳に掛かる沙由理の吐息に、雅之はくらくらしてしま
う。
「う……うあ……で、でるよ……姉さん……俺……もう
……」
「うん……いって…わたしも、もう、も……う……あっ
ああっ……ああああぁ」
雅之はたまらず、腰を引き抜こうとした。その瞬間、
沙由理の足は雅之の腰に絡みつき、秘唇は収縮を繰り返
しながら、雅之の高ぶった分身をを刺激する。
「うっ……姉さんっ……ああああ……っ」
「あっ、あっ、ああ……お願いっ。中に……中……に…
…あ、はあぁぁ……っ」
沙由理の秘所は今にも爆ぜそうな雅之自身をくわえ込
んだまま、離そうとはしない。
背筋を引きつらせる様な熱い快感の波が広がり、沙由
理の中で自分自身が脈打ち始める感覚。
「だめだよ……うっ、うあぁっ……」
しかし、未熟な雅之は、快楽の波に打ち勝つ事も出来
なかった。彼はとうとう沙由理の中で爆ぜてしまった。
「うっくっ」
「はぁぁぁっあ……熱いっ」
柔らかな沙由理に包まれたまま、雅之は何度も何度も、
熱い塊を吐き出し続ける。
「マー君……マー君……あ、ああ、あああああああああ
っ!」
沙由理の絶頂の喘ぎが雅之の耳元に漏れる。
雅之を包む柔肉が、精を吸い取るかの様に収縮を繰り
返す。
同時に、蜜壺の中から、二人の愛液が溢れ出すのを、
雅之は自分の足の付け根で感じ取る事が出来た。
雅之にしっかりとしがみついていた沙由理は、二度三
度と激しく痙攣し、しばらくして、その幸せを確かめる
様に唇を重ねてきた。
沙由理の口づけに応えながら、雅之は、快感の余韻に
軽い脱力感を感じていた。
そして、それと同時に恐怖感にも襲われた。
姉と身体を重ねたばかりか、事もあろうに、姉の中に
精を放ってしまった…。
雅之は、震える声で沙由理に問いかけようとした。
「姉さん……どうして……」
だが、沙由理にも、雅之が何を言いたいのか解ってい
たのだろう。そのまま彼女は、雅之の口を指でそっと塞
いで返事をする。
柔らかな指先の、少しだけ甘い、姉の香りが鼻をくす
ぐる。
「ううん。言わないで……。私も……私も、怖いの……」
雅之の胸にすがる沙由理は、肩を震わせ、じっと弟の
目を見つめていた。そして、何かを決心したかの様に雅
之に語りかける。
「でもね、聞いて。私……凄く嬉しいよ」
「だけど、だけど、俺達って姉弟だよ。なんで……」
「好きだから。マー君の事」
そう言いながら、沙由理は頭を雅之の肩に寄せてきた。
「そんなのって…」
「ううん。片思いでも良いの。わたしがマー君から離れ
たくないだけ……」
沙由理の甘く呟く様な声は、沙由理の中にいる雅之の
分身を再び、力強く屹立させる。
「あ……ん……」
沙由理は雅之を見上げ、ほの白い月明かりの下、微か
に頬を赤く染めた。
「ふふふっ……なんか、うれしいよ」
「だっ……だめだって……やめよう……う……」
無節操な自分の分身に慌てる雅之を、沙由理は柔らか
な笑顔で見つめてくる。
姉は繋がったまま、そっと身体を後ろに倒し、今度は
雅之に上になってもらおうとして手を差し伸べてくる。
見下ろすと、自分と繋がったまま、床に背中を預け、
沙由理はこちらを見つめている。
「もっと、して──ね?」
ねだるような沙由理の表情。
「だめだって……」
雅之は何とか抜け出そうとするが、腰に絡まったまま
の沙由理の足は離してくれそうも無い。
「お願い。マー君」
沙由理は、雅之を見上げながら、彼をくわえ込んだま
まの花唇に右手をやり、こんなに濡れていると主張する
かの様に結合部を、指で開いて見せる。
そこは、月の光を浴び、怪しげなきらめきを雅之の目
に映し込む。
沙由理の柔肉の亀裂は、切なげな収縮を繰り返し、雅
之を締め付けてくる。
しかし、未だ沙由理の表情には、破瓜の経たばかりの
痛みを感じさせるものがあった。
「ね、来て……お願い……」
雅之から離れようとしない沙由理は、床に仰向けに寝
そべったまま、不器用に腰を使って弟を求めてくる。
目に映る沙由理は、雅之を酷く興奮させ、いつの間に
かその快感は全身を駆けめぐる様になっていた。
もう、雅之には抗う術も残されていなかった。
雅之は、沙由理に覆い被さり、姉の幸せそうな表情を
見つめながら、自分の高まりを沙由理の中で掻き回すし
か出来なかった。
彼も、沙由理に溺れてしまったのだ──。
「うれしいっ、ああっ……ああああっ」
沙由理の頬を伝う涙を見ながら、雅之は、姉の美しさ
に見とれていた。
同時にそれは、美里に対する強い罪悪感になった。
窓から差し込む月の光は、静かに、激しく交わり合う
姉弟を照らし続けていた──。
【二話・了】
※この後、雅之、美里、沙由理の三人の物語が展開する
事になるが、諸事情に因り、筆を置くことになりまし
た。