二人だけのChristmas   作: ももさん

鬼娘と煩悩少年が住む町……
ここは友引町…。

季節は、タンポポの綿帽子のような雪が舞いおりる冬。
人々はコートに身を包み、恋人達は互いの暖かさを分けあうように、寄り添って歩いている。
時折、北風が嘲笑うかのように人々の頬を氷のような手で触っていく。

今日はクリスマス・イヴ…。
誰もが、それぞれの思いを胸にクリスマスの前日を過ごしている。
ある人は、家族への感謝を込めて…。ある人は恋人へ思いを伝えるために…。

某デパートではクリスマスの買い物客で大混雑。
通りのショップではサンタクロースに扮装した店員が大きなプラカードを片手に買い物客を呼び込んでいる。
お客達は我先にと家族へ、恋人へのプレゼントを求めてショーウィンドーへ群がり溢れていた。

その中、ふと目に飛び込んできたのは、隠れるように辺りを伺っている一人の女の子。
緑色の髪がとても印象的な可愛い女の子だった。

変装のつもりなのか、長い髪をアップにして帽子へおさめ、建物の中だというのに薄いグレーのサングラス。
いや、変装の意味が分かっていないのかもしれない。
というのは、服装が虎柄のビキニにブーツ、上半身が隠れる程度のコート。
いくら建物の中とはいえ、この寒い季節にこの格好は目立たないわけがない。
目立つ理由はまだある。サングラス越しでも分かる程の超かわい子ちゃんである事だ。

注意して周囲を見渡すと、何人かの男が遠巻きに伺っているのを見てとれる。
その内のひとりが、女の子に声をかけたが相手にはしてもらえなかったようだ。
女の子には目的があるらしい。周囲をキョロキョロしながら何かを探している。
端から見ると怪しい人物に見えるが、買い物に夢中になっている人たちには目に入っていないようだ。

まもなく女の子の視線が止まった。視線を釘付けにしているのは一人の男の子。
その格好はGパンにトレーナー・ジャンパー、足下はスニーカーと何処にでもいそうな普通の男の子。
その男の子を真剣な眼差しで睨みつけていた。

男の子はというと、買い物をしている女の子達に片っ端から声をかけていた。
クリスマス・イヴの買い物客、ましてや年頃の女の子といえば恋人へのプレゼントを
選んでいる子が殆どであり、ガールハントに引っかかる訳がない。
声をかける度に、男の子の頬には紅葉のような手形が増えていった。

片隅から様子を見ていた女の子の周囲を青白いオーラのようなものが立ちこめる。
パリパリッと時折音がするくらいの放電の音が聞こえるようだ(…いや、聞こえた)。
どうやら目的は、この男の子だったようだ。

女の子の名前はラム、鬼娘である。男の子の名前はあたる、見てのとおり煩悩だらけの少年。
二人は、何の因果からか同じ屋根の下に夫婦(?)として、あたるの両親と共に同棲中である。

今日、二人はデートをする事になっていた。デートといっても、デパートでショッピングをするだけだ。
でも、ラムにとっては素晴らしいイベントであり楽しみでもあった。
外で落ち合う二人が約束していたのは17時。今は16時、約束の時間には早いすぎる…。
ここでの待ち合わせを提案したのはあたるだが、今日は早くに飛び出していった。
それで、ラムは気になり後をつけてきたのである。
いつもは約束に遅れてくるあたるなのに…。と、一瞬考えに耽ったとたん、あたるの姿を見失ってしまった。
あわてて探すが見つからない。しかたなくラムは、待ち合わせの場所で待つことにし、
デパートの吹き抜けホールの噴水前に向かった。
待つ時間は長く感じられた。あたるが他の子にちょっかいを出していると思うと悔しくて泣きそうになる。
途中、何人かの男が声をかけてきたが、機嫌の悪そうなラムの顔を見て引き返していった。


約束の時間になると珍しく、時間どおりにあたるは現れた。
ガールハントの目撃により機嫌の悪いラムではあったが、
せっかくのデートをつぶすつもりはなく、心の底にしまっておく事にした。
今、問い詰めれば逆上したあたるによって、デートが中止になるのは目に見るより明らかだ。
問い詰めるのは家に帰ってからでも出来る、そう判断したラムは賢かった。

さて、今日あたるとラムがデート(ショッピング)をする事になったのは、
ラムがあたるの両親にプレゼントを買いたいとねだったからである。
もちろんプレゼントは買う予定だが、それよりもデートの方がラムにとっては重要だった。
年に一度のクリスマス!恋人達の一大イベント!!その日を二人で過ごしたかったラムの作戦だった。
今日一日を楽しもうと、ラムは多少のあたるの悪癖も、笑って(?)かわしながらデートを楽しんでいた。

あたるの両親へのプレゼント選びを真っ先に終わらせて、ウインドーショッピング・デートへと移行していった。
クリスマスイベントの福引きもした。
テンへのプレゼントも買った(帽子とマスク…俺が買った事を言うなと口止めされた)
喫茶店では特製パフェをラムが注文。
あたるはコーヒーだったが、ラムがパフェをスプーンで差し出すと食べていた。
普通のカップルなら"仲が良いね"ですむが、あたるとラムでは違和感がある。
あたるの様子が、いつもと明らかに違う。
普段なら"そんな、恥ずかしい真似ができるか!"と言って食べないだろう。
そう思いながらも、ラムは普通のデート(異常…?)を楽しんでいた。
ラムは周りの恋人達のようなデートに憧れていたので今回のデートに大満足していたのだ。

楽しい時の時間が過ぎるのは早いもの…、二人のデートも終わりが近づいてきた。
デパートの入り口を通り抜けると、外はすでに夕闇に包まれている。
歩き出すと、冷たい風が首筋を掠っていくき、思わず首をすくめる二人だった。

あたるはジャンパーのポケットに手を入れて歩き出す。
右ポケットの中には、赤いリボンでラッピングされた箱が一つ。
その箱は存在を示すかのように、あたるの手をつついている。

ラムは、あたるを追いかけて避けようとする腕を無理矢理組んだ。
体をあずけて歩き出すと、あたるは歩調を少し小さくする。
そんな、あたるの小さな優しさをラムは嬉しく思った。

家への道のりを歩きながら…その間、二人は言葉を交わさず時間だけが過ぎていった。
音といえば、二人の足音と降り積もる雪の音だけ…。

そんな中、あたるはプレゼントをどうやって、いつ渡すかタイミングをつかめずにいた。
いつも、喧嘩しているような仲だが、こんなシリアス状態でのデートはあまり経験がない。
まして、プレゼントを渡すなんて事は一度も…(チェリーのくれたリボンくらい…か?)
そんな、こんなで悩んでいたあたるだったが覚悟を決めて、不意に歩みを止めた。
ラムに小さな箱を差し出し一言…。

"MerryChristmas!"

きょとんとしていたラムの頬が急速に赤くなっていく。瞳は潤んで涙がこぼれそうになる。
箱の開けると中にはピアスが一組。
淡いブルーのスポンジの上にピンク色のハートの形をしたピアスがチョコンと座っている。
あたるは、そっとピアスを取りラムの耳につける。
あたるの触れた耳が熱くなっていた。

"MerryChristmas!"

そう言ってラムは、どこから取り出したのかマフラーをあたるの首にかけた。
手作りのマフラーという事は一目でわかった。
雪のように真っ白で、端にはブルーのイニシャルA・Mの文字が見える。
ラムの思いのこもったマフラーはとても暖かく、心まで暖かくなっていくのが感じられた。
ラムがマフラーを首にまわした時、ヒヤリとしたラムの手が首筋に触れた。
寒いのに、無理して腕を組んだりするから手が冷たくなっていたのだ。

あたるは貰ったマフラーを外し二人の首に巻き直し微笑む。
そして、ラムの手を取り自分のジャンパーの左ポケットへ入れた。
手をつないだまま…。ポケットの中はとても暖かだった


そして二人は、雪の舞い降る町を背に消えていった・・・。



お・わ・り


〜一言感想〜
色彩溢れる、クリスマスならではの小説でした!
はじめから「あたる」「ラム」と記するのではなく、「男の子」「女の子」としてあるところのセンスを感じました。
プレゼント交換のシーンでは、二人は言葉ではなく心で繋がっているということを実感させられたように思います。
風景描写もとても綺麗でした。ありがとうございました!


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