初めてのおつかい    作:うっひゃめさん

終太郎(授業もせずに、こんなことを…)
いつもの友引高校、よくつぶれるいつもの授業…
つぶれる授業の代わりに補習でもすれば良いのにと思うが
そっちのけでこの時期おこなわれるのが演劇祭の準備と練習である。
今回はカルメンを題材とした出し物で放課後は衣装の採寸をしたり、大道具を作ったりと何かと忙しい日が続いた。
終太郎(まぁいいか、主役は僕だし、相手役はラムさんとしのぶさんだ。監督が諸星というのがいまいちだが…)
そんなことを考えながら衣装合わせも終わったし自分のすることは今のところ何もなく
セリフ覚えでもしようかと脚本を手に取ろうとしたとき、女生徒の文句が聞こえてきた。
女生徒A「やだーこの色のビーズたりないわよ。」
女生徒B「こっちの衣装もう少しレースをつけたいのよね」
女生徒C「買ってこないとしょうがないわよ」
女生徒A「でも他にも手直ししたいところがあるのに店に買いに行く暇も惜しいわ」
そこで女生徒たちと終太郎は目が合った。
女生徒B「…面堂君お願いがあるんだけど…時間が開いてるなら商店街のスーパーに行って
お買い物してきてほしいの」
終太郎は一瞬、黒メガネを動員して持ってこさせようかとも思ったが
自分が使う必要な品物ならともかく生徒主催の学校の催し物で生徒以外の力。
すなわち面堂家の力を使うのは反則行為みたいなものだと思い直しスーパーへ行くことにした。

校の帰り、車で通り過ぎる風景の中で見かけるから場所は一応なんとなくわかる。
予算係の男子生徒を見つけて理由を言ってお金をもらう。
そんな面堂を見つけて声をかける諸星あたる。
あたる「よ〜面堂。買い物か?付き合ってやろうか?」
その表情は下心見え見えだ。
終太郎「別にかまわんでいい、お前の魂胆はわかっている。
安い買い物をして費用を浮かせて余り分を自分の懐に入れるつもりであろうが?」
あたる「ちっ、バレたか。」
終太郎「小物を買うぐらいだからそんなにお金はもらってないぞ、それにお前サボる暇あるのか?」
そんな会話をしているといつもの4人組が諸星のほうへやって来る。
大道具を持っているから劇の相談か何かだろう。
終太郎「まぁしばらく演劇祭が終わるまでは監督業に専念するのだな。」
そこで会話を終わらせて友引高校から商店街へ向かう終太郎。
一人で町中を歩くのは自分にとって珍しいことだ。
いつも自分には誰かいたから。
それはクラスメートであったり、黒メガネだったり…。
それに目に見える風景も違って見える。
車からの風景では判らない。
車では通り過ぎるだけだったが、歩いてみるといろんな物が見れる。
誰かの庭先の小さな花とか、塀の上にまどろむ猫とか、つたないピアノの音とか…。
自分にとっては珍しい物を見ながら商店街に入り目的のスーパーを見つけた。
終太郎(ここか…小さい店だな…)
終太郎から見れば小さな店に見えたが、周辺の家庭を支えている店でそこそこ大きい店だ。
もちろんデパートとまではいかないが…。
自動ドアを開ける。そしてその場所は終太郎にとって未知との遭遇であった。

「いらしゃいませ、いらしゃいませ」
「奥さ〜ん、夕食の献立決まったか〜い!!」
「安いよ、安いよ。もうすぐタイムサービス始まるよ!!」
人の怒号のような声。一つのコーナーに群がる女性の集団。
店内の商品を案内するスピーカーからの声。
何故か鉢巻をしてはっぴを着てメガホンを持っている男。
ドアのところでびっくりして固まっていると後ろから
「なにしてるの?はやくどいてよ」と見知らぬおばさんの声。
あわてて脇へ飛びのく。
まさかこんな騒がしい場所とは知らなかった。
面堂邸内にも黒メガネたち使用人の利用する施設で似たような場所があるのは知っていた。
面堂邸で働く者達はさまざまな職種の者達がいる。
その種類は数え切れないものだ。
その者達が店が閉まっている時間に帰宅のため邸外に出ても困らないように、
また24時間いつも誰かが起きていて働いているので
使用人の居住区ではレストランや必需品を販売している場所、映画館なども完備されている。
一つの町が面堂家の敷地内にあるといっても過言ではない。
終太郎は前に居住区へ行き面堂邸内デパートを見回ったことがある。
でもそこはこんなに騒がしくはなかった。
こんなに人が忙しそうに歩き回ってはいなかった。
とりあえず人の流れを観察しているとみんな入り口近くのかごを持って欲しい商品を入れている。
そして出口付近で店員にお金を渡している。
自分もかごを取り店内を回ってみることにした。
店内は雑然といろんな物が置かれている。
食品コーナーを見てみた。
生鮮食料品コーナーは人が大勢いたので避けてお菓子コーナーへ行ってみた。
ちょうど甘いものが食べたくなってチョコレートでも買おうかと思ったからだ。
しかしそこも未知との遭遇だった。

銀紙に包まれているチョコレートらしき物。
でも何故か赤や青のコスチュームをした人が5,6人何かポーズを決めた絵が描かれ、
何か異形の怪物がいっしょに爆発したような物が描かれている。
他を見ると色が鮮やか過ぎる昆虫の繭のようなお菓子。ゼリービーンズと書かれている。
手に取ったものは細長い四角の箱。終太郎「酢こんぶ…って何だ?」
さっぱりわけが判らない。そんな不思議そうに探索する終太郎を見る店の人たち。
それはそうだろう。学生が長居するような店ではない。
しかも白い制服ではその人物がどこの誰か直ぐにわかる。目立つことこの上ない。
しかし終太郎はマイペースで店内を探索していく。自分の知らない妙な物が見れて面白い。
頼まれた品物のことなど綺麗さっぱりと忘れている。
お買い得コーナーに行ってみた。終太郎「これって何だ?」木で出来た物体。
細長い棒の先に猫の手のような物がついている。値札とともに名前が書かれている。
終太郎「孫の手…」使用目的を色々考えたがわからない。
こんな物は邸内デパートにも置いてなかった。
終太郎(今度黒メガネたちに聞いてみよう、
それにしても世の中にはまだまだ自分の知らない奇妙な物があふれているなぁ…)
そして手芸コーナーに来たときやっと自分がどうしてここへ来たのかを思い出した。
頼まれていたビーズとレースその他を探してかごへ入れ人が並んでいるところに自分も並ぶ。
しかし予期せぬことが起こった。

店員「お客さん、これじゃあ足りませんよ?」もらったお金では少し足りなかったのだ。
財布からカードを取り出し店員に渡す終太郎。
店員「お客さん、うちではカードを扱ってないんですけど。」
終太郎「えぇ!?」
店員「大きなデパートならともかくうちみたいな店ではクレジッカードなんか扱っていませんよ」
まさかカードが使えない店があるとは知らなかった。
これも新しい発見だ。
とりあえず1万円札を出す。しかし店員は文句を言った。
店員「今、お客が多い時間帯で小銭が足りないんです。もう少し小さなお金はないですか?」
しかし財布の中身は1万円札しか入ってない。自分は普段お金は使わないほうだ。
クラスメートのようにいつも買い食いしたり、竜之介さんがいる購買部を利用したこともないからだ。
だから小銭がない。しかし困った…そう思っていると意外なところから助けが来た。 
 
「ちょっとぐらいなら、立て替えてあげるわ。」
振り向くと髪をまとめあげた女性。どこかで会った様な、誰かに似ているような…
「めずらしいわねぇ、面堂君がこんなスーパーにいるなんて」少し笑いながら話しかけてくる。
思い出した。
終太郎「諸星のお母様…」
いつまでもレジ付近で話し込むわけにも行かず諸星の母親がお金を払ってくれて、
商品を持って2人並んでスーパーをでた。
終太郎「助かりました。ありがとうございます。」
諸星母親「いいのよ、でも後でお金返してね。うちは貧乏だから」あっけらかんと笑う母親。
悪意のない笑い方に好感が持てる。
終太郎「すごい荷物ですね。自分の荷物は少ないですから持ちますよ、みんな食料ですか?」
諸星母親「うちは扶養家族が多いから…たまに家族以外の人やら猫とかが来るから大変なの」
唐突に現れる謎の怪僧。コタツ猫。ラムさんの友人。諸星になつく人外のもの。確かに大変だ。
終太郎「確かに大変ですね。面堂家邸内には邸内で働く人用にデパートとかあるんですけど、
こんなに買い込む人は余り見ませんでした。」
諸星母親「外のスーパーは面堂君初めてでしょ?珍しそうに色々見てたもの、
スーパーにいた人みんな面堂君のほう見てたわよ。
あんなところでゆっくりじっくり品物見てる人そういないわ」
終太郎「見てた?…気づきませんでした。」
諸星母親「しばらくあのお店、面堂家の御曹司がスーパーに来たって話に花が咲くわね。」
終太郎、気まずそうに持っていた諸星の母親が購入した商品を右から左へ持ち替える。
終太郎「それにしてもたくさんありますね。」
諸星母親「今日は特売日だったから自分が持てる以上に買っちゃった。
それに家は朝昼晩全部作るからこれくらいはすぐになくなるわ。
面堂君がちょうど居て助かった」
終太郎「朝昼晩一人で作るんですか…」
諸星母親「毎日作っているんだから少しは感謝してくれたらいいんだけれど…」
終太郎「諸星はお昼は綺麗に残さず食べてますよ」
諸星母親「お昼じゃなくってその前に、でしょう?」
2人はクスクス笑った。荷物を持って並んで歩く2人。知らない人が見ると親子のようだ。 
諸星母親「それでも感謝の言葉やお花でも欲しいわ。」
終太郎「お花ですか…?」
諸星母親「女性はね、お花をもらうと嬉しいものなのよ、お弁当のお礼でもね」
終太郎「では諸星のお母様にはスーパーでのお礼として面堂家温室の花を差し上げます。」
まるでカーテンコールに答える役者のように片手を胸に合わせ
諸星の母親に向かって礼をする終太郎に笑う諸星の母親。
諸星母親「本当?うれしいわ」
そんな会話をしているうちに諸星家へついた。
終太郎「それでは諸星のお母様、僕は学校へ戻りますから、演劇祭の準備で今日も諸星たちは遅くなると思います。」
諸星母親「じゃあ面堂君の初めてのおつかい記念にこれあげる」
ポケットからあるものを取り出し、終太郎に渡す。終太郎、渡された物を見て苦笑い。
諸星母親「お菓子コーナーでずいぶん長く迷ってたようだから」
終太郎「それでは失礼します」
外に出て諸星の母親からもらった物を手の平へ置いて見る。手の平にあるのはキャンデーだった。口に入れて友引高
校へ向かって歩き出す。
終太郎(母親って毎日お弁当やご飯を作ってくれるのか…)
自分には母親から何かをもらったり作ってくれた物は一つもない。
終太郎(諸星は贅沢だ。作ってもらったお弁当を感謝もせずに食べるだけ。)
少し腹が立ったが、それが一般の家庭というものだろう。
口の中、甘くておいしい。それに短い時間だったが面白く興味深い時間をすごせた。
たまにはこんな日も良いだろう。
そして後日、諸星家に面堂家からピンクや黄色などの色とりどりの美しい薔薇の花と諸星の母親が立て替えてくれた金
額をはるかに超えた商品券が届けられたのであった。


挿絵:響屋さん


 〜一言感想〜
世間知らずの面堂終太郎が市民の日常に触れていくという、終太郎ファンにはたまらないお話でした!
情景がまざまざと浮かんでくるような細かい風景描写と、実に巧妙な場面転換が素晴らしいと思います。
また、終太郎とあたるの母親との会話には、今まで気づかなかった終太郎の新たな一面を見たような新鮮さを感じました。
心がくすぐったくなるほうな温かい小説、ありがとうございました!


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