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(森の姫クーヤと毒の姫アリス)
大陸の南東部の大森林地帯にある異種族も含めた諸部族の連合体が大森林共和同盟です。この地方の大半は平野(東方には山岳地帯がありますが)ですが、草原はほぼ一切なく、すべて森林で覆われています。境界線付近は湿潤温暖で一般によく見られるような森林が続きますが、内部になると亜熱帯に近いような気候になります。これは大地の活動ポイント(地脈の集結地)の一つがこの大森林地帯にあるからだ、と言われています。このため、非常に多岐にわたる植物が繁茂しており、昔から薬剤の原料地として重宝されていました。傷薬・特効薬…こうした薬はこの地方の特産品です。 こうした多くの薬剤を求めて、人間達はここに集まり、そして住むようになりました。また、森の民エルフもここには多く居を構えており、彼らが密猟や過度の伐採を控えて森を護るというところから、大森林共和同盟は発足しました。国名からもわかる通り、ここには他の国のような明確な統治というものは存在しません。集落ごとにおいてリーダーは存在し、重要な会合の時だけ集まるような形式をとっているので、それぞれの生活環境も文化も違いますし、集落自体も移動する部族もあり、非常に曖昧なものです。主産業は林業です。 さて、薬に関しては、この国はトップを誇ります。そしてそれは同時に禁断の薬の発明や流布にも繋がります。そうした薬(毒といった方が正しいですが)の取り締まり、そして薬の生成の研究・援助。輸入輸出に関する取引とその監査などのために、この国では組合(ギルド)が存在しています。これは中央部に組合の建物(巨木をくり抜いた)があり、またリーダー達の会合を行う場所でもあるため役所的な立場にあります。 ここの長は世襲制です。前組合長は非常に厳格な男性で、この世襲性に関しても腐敗を招く根本になってはいけないと、民主主義の雛形の意味として指名制度に切り替え、彼の後継者を薬草師の中でも香りの研究で長じていたクーヤに任命しました。まだ少女である彼女を指名したのは「薬の姫」と呼ばれるまでにあった才能と、研究や生成にとどまらず販売まで手がけていたため薬の一連の流れを把握していたこと、それと人に好かれる性格をしていたことが理由でした。また改革を進めるためにもそれまでの制度に慣れ親しんできた人を任命するわけにはいかないということもありました。 ところがこれに納得のいかないのが彼の娘アリスでした。それまで組合長になるものだとばかり思い、寸暇を惜しんで努力を重ねてきた彼女にとっては同年代のクーヤにその役をとられたのは屈辱以外の何物でもなく、思い詰めたあげく、指名制度に変更し、その任期をまもなく終える予定だった父を毒殺してしまい、我こそが正統なる後継者だと言い張りました。 今現在、この争いは組合員だけでなく諸部族も交えて、正統派(アリス派)と、王道派(クーヤ派)に分かれて論争が繰り広げられています。(ただし大半は、どちらでもよいと思っています。それでも役所内の喧嘩に目を向けざるを得ないのは、薬剤の生成と取引、それから後述の戦争に関わるからです。) この中に始まったのが、第9次大陸戦争「渇望の大陸」です。戦争において組合はこの大森林共和同盟の指令所となり、各部族のリーダーが行った会合で決定した事項の運営や指示を行わなければなりませんが、分裂状態の組合ではそれも満足に行うことができませんでした。いつもなら薬と治療員の無償派遣を条件に中立宣言を行い、戦火から逃れるところですが、それも遅れて戦争に突入してしまうことになりました。 森の姫クーヤ: 植物・鉱物その他の物から香りを抽出して、販売する香り屋さんです。ただし、一般の薬も十分に扱えます。単に香りが特に得意だというだけです。基本的に真面目で明るい性格です。本人は組合長に任命されたことにどうしたものかと悩みあぐねていますが、与えられた任務を放って迷惑をかけたくはないと思っています。アリスについては何故対峙されるのかいまいち心底が理解できておらず、なんとか理解してもらえるようにしています。 戦闘時には、広範囲に効果が広がる香り玉をつかい、目鼻の自由を奪い、そこに弓矢を打ち込む戦法を使います。 毒の姫アリス: 薬に詳しい父を毒殺しただけあって、毒に関する知識と技術は他と比べ物になりません。濡れたような黒髪は同年代と娘とはちがった美しさをもっていますが、指名制になったあたりから陰気な性格に拍車がかかり、近寄りがたい雰囲気を醸しています。正統派を自ら称して、大勢を占めていた王道派と対等に渡り合っていたのは、その頭の回転の速さがあったため。本人としては誰かに止めてほしいとどこかで思いながらも暴走した自分を止められないでいる。 武器は各種毒。彼女の所持するものに毒がないものは一つもないと言われるくらいで、本人は抗毒薬を服用してその危険を逃れている。 |