奉 公

悪い予感がしていた。長らく留守にしていたこの屋敷の主人が

久方ぶりに戻ってきて自分を呼びつけたときから。

世界は丸い、ということがわかり、未開の地への探検が巨万の富をもたらす時代。

主人は遠い南の大陸を探索に出ていたらしい。

荷役やメイドたちを指揮し、次々と運び込まれる、大小さまざまな怪しげな荷物。

こうした事態にも屋敷のほとんどのものは手慣れた様子だったが、

まだ新人のメイド、リアナはおろおろするばかりで、メイド頭に叱られ通しだった。

ようやくそれらの騒ぎが済み、夜になって主人の部屋に呼ばれたとき、

叱責を受けることは覚悟はしていたが・・・

「お、お暇ですか・・・?」

リアナは信じられない思いで、いま屋敷の主人にいわれた言葉を繰り返した。

主人に好印象を与えるためわざわざ着替えてきた、真新しいメイド服のレースが震えていた。

可愛らしく髪をまとめた、お気に入りの真っ赤なリボンも。

「そう。もうこの屋敷にお前の仕事はない。明日にでも故郷に帰りたまえ」

主人はなにかの書き物でもしているのか、窓に面した大きなデスクに向かったまま

背もたれの向こうから声だけで応えた。

「はじめの取り決めより1年も早く帰れるのだ。ご両親もお喜びになるだろう?」

リアナは足下から、すーっと力が抜けていくような気がした。

たしかに故郷に帰れるのは嬉しい。あの、やさしい父や母の顔を最後に見たのは

もう2年も前のことだ。だが、屋敷を追い出されて家に戻っても、

貧しい家庭に自分の居場所がないことも確かだ。

そして自分が帰ることより、毎月の自分の仕送りがなによりも役に立つこともリアナは知っていた。

「だ、旦那様、わたくしに至らない部分がたくさんあることはよく承知しております。

でもでも、もっと一生懸命働きます!お仕事ももっと覚えます!!それにそれに・・・」

少女は無言のまま冷たくはねつける、重厚な皮の背もたれに向かって

涙ながらに訴え続けた。

「・・・それに・・・なにかね?」

ぽつりと、背もたれの向こうから静かに問う声がした。

「そ、それに、他のメイドたちがいやがることでもなんでもします!だからだからここに置いてください」

ちょっとぐらい大変なことでも汚い仕事でもがんばろう。リアナは必死だった。

きぃぃ、と椅子がきしむ音がした。その音に涙でぐしょぐしょになった顔をあげると、

主人が背もたれを回してリアナを見ていた。

「本当かね?ほかのメイドがいやがることでも・・・かね?」

デスクを煌々と照らすランプが逆光になって、主人の表情はよく見えない。

が、リアナはその顔がかすかに笑っているように見えて安堵した。

ああ、許してもらえるんだ、やっぱり旦那様はいい人なんだ、と。

「わかった。では、ついておいで」

主人が先になって歩き出す。リアナはあわててその後を追った。

この屋敷の地下には広大な倉庫が設けられている。いうまでもなく、件の怪しげな荷物を

多数納めるために作られたものだ。

長い長い船旅を経て、いまそれらの荷物は静かにその価値を鑑定される時を待っている。

「この箱は南蛮人の武器だ・・・こっちは不思議な織物・・・これは植物だったかな・・・」

ひとつひとつを確認するようにつぶやきながら、主人は山積みにされた荷物の間を歩いていく。

そしていちばん奥にある、人が立ったまま入れるほど大きな箱の前に立った。

他の箱が周囲をしっかり梱包されているのに比べ、

これは分厚い板が隙間だらけに打ち付けられていた。まるで檻のように。

「お前には私の研究を手伝ってもらいたい」

ここにきてからはじめて、主人がリアナに向かって話しかけた。

「研究・・・のお手伝いですか。でも、わたくしなどがそんなことを?」

主人はそれには応えず、錠前をガチャガチャと外し、

屈んでやっと通り抜けられるぐらいの箱の入口らしき部分を開いた。

「さあ、ここに入ってくれたまえ」

なにが入っているか分からない箱に入るのは不安だったが、なんでもするといった直後である。

それに旦那様が一緒だというのもあった。おそるおそる暗い箱の中に入るリアナ。

「そのままでいたまえ。いま灯りをつけよう」

ごそごそ壁を探る気配がした。パチン、と弾けるような音がして、箱の中が白い光で満たされた。

まだまだランプが当たり前のこの時代、それは少女が初めて眼にする、電燈の光だった。

あまりの眩しさに眼を開けることができないままのリアナの耳に、主人の声が静かに響く。

「世界には不思議な生物がたくさんいる。私はその中の一種を持ち帰ることにした。なに、危険はない」

(生物?どんなのなんだろう?本当に危なくないのかな)

リアナはひりひりするような眩しさの中、薄目を開けて向こうを伺った。

自分の立っているのとは反対の隅に、一抱えもある大きなジャガイモのような肉塊があった。

呼吸をしているのか、それが時々、びくっびくっと身を震わせる。

気持ち悪い・・・。思わず後ずさったが、そのときガコン!と入口が閉まった。

はっ、と振り返ると板の隙間に、こんどこそはっきりと、ニヤリと笑う主人の顔があった。

ずるっずるっ、となにかが(もちろんあの生き物に決まってる!)

少女に近づく音が背後から聞こえる。

「だ、旦那様、どうして・・・お願いです、ここから出してください!」

ドンドンと板をたたくリアナ。しかし、主人は冷たく言い放つ。

「お前はいったはずだ、なんでもやると。まあそれに、

他のお屋敷からお預かりしているメイドたちにはとてもこんなことはさせられないからな」

リアナは悟った。暇を出すというのは口実だったのだと。

故郷の家が貧しく、問題にならない自分を、ここに連れ出すための。

「な、なに!?」

その手足や首に、ぬるっと粘り気のある触手がしゅるしゅると巻き付いた。

抗うことのできない強い力で無理矢理に身体が生物の方に向かされた。

ジャガイモを大きくしたような本体のあちこちから不気味な色の触手が伸びて

リアナを拘束している。しかしそれよりもその中心に

怪しげな粘液を滴らせながらそそりたつ何本もの槍状の肉棒・・・これは・・・

「危険はない。危険はないが、そいつは女を犯す。とくに生娘が好みのようだな」

主人がさらりと言う。

その意味を少女が理解するまで少しの間があった。

そして理解したとき、あまりのおぞましさに総毛立ち、悲鳴を上げていた。

触手にメイドの制服が引きちぎられ、白い胸が露わになる。

下着もいつのまにか破り取られ、薄桜色の襞を触手の先端が蹂躙する。

「ちょっとしたショウを金持ち連中を相手にはじめようと思ってね。

馬や犬を相手にするより、物珍しさが段違いだと思うのだがどうだろう?」

含み笑いをしながら主人は傍らの椅子を引き寄せて座った。

サーカスの仕上がりを確認する興行主のように。

脚を大きく開かされた。

醜い肉塊が、リアナの華奢な身体に荒々しくのしかかってきた。

もっとも恥ずかしい部分に、極太の、槍状の肉棒の先端が押し当てられる。

人間とは異質の温度。粘りつく液体の感触。びくんびくんと波打つ先端。恐怖にリアナはあらん限りの声で叫ぶ。

「旦那様、助けてください!お願いです!わたし、わたし、はじめてなんです、お願いです!」

ぐっ、と先端が、肉壁を押し破って進入していく。

うっ、とリアナが呻いた。

「いいぞいいぞ!その調子で観客を盛り上げてくれよ、いい表情だ」

興奮した面持ちの主人は、充血した目を見開きリアナの懇願など眼中にない。

ぐぐっ、ずちゃっ。さらに肉棒が奥へ。灼熱の火箸で突かれるような感覚。

「いや!いや!痛い痛い!やめてやめて」

精いっぱいの抵抗で入り口を締めつけるリアナに、肉棒が動きを止める。まだ、その鎌首までも入ってはいない。

だが、力を溜めるかのように一瞬膣口まで退くと、容赦なく一気に奥まで少女を貫いた。

ずぶっ!ずぶずぶずぶ!!

「いやいやいやーーーーーー!ママ!ママ!ママーーーー!たすけて・・・たすけ・・た・・・マ、マ・・・」

処女を貫かれる痛みに、少女の泣き声が途切れ途切れになる。

反対に、地下室の広大な空間に、ぐちゅぐちゅと湿り気のある肉同士が摺りあう音が響きわたる。

「ふふふ、案ずることはないぞ、こいつで孕むことはない。存分に快楽だけを味わいたまえ」

煌々と照らされた箱の中、か細い嗚咽を漏らすだけの少女を相手に人外の陵辱が幕を上げた。

膣のみならず、やわらかな尻にもふっくらとした唇にも、凶暴な原始の本能が突き入れられる。

いまだかつて誰も見たことのない、凄惨で、淫美な、美醜の交わりであった。

自ら始めたこととはいえ、想像以上の興奮に、主人は思わず生唾を飲み込んだ。

それから幾日かが経った夜。

屋敷の主人の部屋に、地方の領地から選りすぐりの美しい少女たちが集められた。

揃いの真新しいメイド服を着て立ち並ぶ少女たちを見渡しながら、主人は告げた。

「お前たちには特別な仕事を与える。給金もほかのものより多い。さぞ故郷のご両親も喜ばれるであろう」

緊張の面々もその言葉を聞いて、互いに顔を見合わせて表情を緩ませる。

主人の表情は背後のランプの明かりのため、逆光で良く見えないが、

その口ぶりからして、親しみ深い微笑を浮かべているのであろうと、少女たちは思ったので。

その意味するところはともかく、すくなくとも表向きに関していえば、それは間違いではなかった。

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