日記


21 オリンピック

 僕がまだ小学生のころ、それはそれは『キャプテン翼』が流行りました。翼くんや若林くんや日向くんといったサッカーの申し子たちに僕たちは憧れ、日夜彼らの妙技を真似したものです。小林さんは、そんな僕たちの中にまぎれた唯一の女子、今思えば、オーバーヘッドの習得に情熱を注ぐ少し変わった女子でした。

 そのころのクラスの女子といったら、そもそも『キャプテン翼』なんて見たことなかったりするわけです。もしくは一部の女子たちは、翼くんや三杉くんや松山くんに夢中で、一心不乱に彼らの似顔絵を描いていたりするわけです。なのに僕たちがサッカーをしていると一人混じっている小林さん。その辺の男子よりもサッカーのうまい小林さん。

 何に興味を覚えるか、それは本当に人それぞれで、だけどサッカーをする女子なんてきっと少数派で、だからその人通りの少ない道を今でも歩み続け、世界に羽ばたいていたりしたら面白い、そんなことを思います。


22 ポジティブ

 目を開けると、そこは一面の暗闇でした。自分は本当に目を開けているのか、それすらもわかりません。豆電球ほどの明かりもなく、暗闇は無限に広がります。ここがどこなのか分かりません。今がいつなのか分かりません。ただ暗闇の中に僕が立っているだけ。だけど、それがいいのです。

 明かりがあれば、周囲が見えます。どの道がどこまで続き、どこに障害物があるのか。この先は険しいのか。どっちにいけば楽なのか。どうすれば避けられるのか。見えないからいいのです。石に躓こうと、上り坂が急だろうと、目の前に壁があろうと、ただ前に進めます。前に進むための暗闇です。

 そうして踏み出した僕の右足は再び地面につくことなく、深い闇へと落ちました。


23 平等

 加藤くんてば、上戸さんの話ばかりするんです。いや、芸能人の上戸彩じゃなくて、アルバイトしているあるファーストフードで出会ったという、上戸さんの話ばかりするんです。上戸さんと一緒に、忍者ハットリくんの映画を見に行ったんでござるとか、このシャツは上戸さんと買い物に行ったときに買ったんでござるとか、ずっと彼女がいなかった分、そのうれしさは分かるんですけど、ちょっとはしゃぎ過ぎなくらいしつこいんです。

 この間も一緒に飲みに行って、互いに飲める方だからだいぶ盛り上がったんだとか。もしかしてこの男、お持ち帰りでもしたんじゃなかろうか。そんな不安がふと頭をよぎります。加藤くんは年下好きですから。だけどそんな僕をよそに、加藤くんがその時撮った写真を見せてくれるというのです。せっかくなので見せてもらいました。

 ちょっと加藤くん。紛らわしいから男をさん付けで呼ばないでください。


24 睡眠

 テストが嫌いなんです。テストでいい結果を出すための勉強に、全然身が入りません。努力も才能とはよく言ったものです。僕はもうすっかり、勉強の出来ない体になってしまったみたいです。

 この間もひとつ、資格試験があったんです。僕はそれが嫌で嫌で、そんなことを考えていると夜も眠れませんでした。目を瞑っても浮かんでくる試験のことが、僕の眠りを妨げるのです。寝ようとしても寝られない時間は、とても長く、それ以上に長く感じ、このままずっと、明日が来なければいいのにとさえ思いました。

 だけどその試験がやっと終わった今、僕はすごく眠いのです。家にいても出かけても、遊んでても仕事をしてても、あくびが絶えず眠気を誘い、ほんの少しの空き時間も眠りに費やしています。

 試験の後、気になる娘と遊ぶ約束をしたんです。それがとても楽しみでウキウキで、そのことを思いながらうつらうつらしている時間はとても幸せです。それに、そうしているとあっという間に時間が過ぎるので、きっとすぐに約束の日になるんです。

 楽しみな予定に良眠を、憂鬱な予定に不眠を。


25 空腹

 言葉が人を感動させることがあります。それは時に歌として、時に文字として、人やものを媒介し、僕たちの心に届きます。泣いた子供を笑わせ、悲しみにくれる大人を立ち上がらせる。言葉には、そんな力があります。

 そしてここに、オペラ歌手がいます。彼女が奏でる音は美しく、言葉以上の何かが胸の奥にしみるような、そんな言葉では言い表せない感動を経験させてくれます。ただ、問題は僕の空腹。鳴り止まないおなかの前では、どんな歌姫も意味がなく、どんな言葉も届きはしないのです。


26 比較

 黒澤くんは一人暮らしをしています。お金に執着がまったくなく、マイペースで、のんびりとした性格の黒沢くんが一人暮らしをはじめるときは、本当に大丈夫なのか心配したものです。だけど彼、どうにかうまく生活しているようです。

 この間久しぶりに黒澤くんとこに遊びに行きました。夜通しお酒を飲んで、みんなは馬鹿騒ぎを繰り広げていましたが、僕はといえば酔うとお風呂に入りたくなるのです。そこで、僕はお風呂を拝借し、熱いお湯をため、服を脱ぎ、お湯で体を流し、ふたを開け、湯船につかりました。

 いい気分で鼻歌を歌っていると、突然酔っ払いたちが風呂を覗きにきたんです。彼ら、なんか笑ってるんです。何かと思えば、ふたを半分しか開けずに湯船に使っている僕が、妙につぼに入ったらしく、それで僕は改めて、他人はこうして風呂に入らないことを思い知ったのです。





























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