日記


21 時代遅れ

 我が家は一家揃ってドリフターズが大好きです。もちろんお笑いの、です。元々は両親がドリフ好きで、ビデオやレコードがたくさんあって、だからと言っては何ですが、当然と言えば当然なほど、みんなでドリフ好きなんです。

 だからこそ、ことある度にいろんな人に勧めたり、電話をかけては勧めたり、テレビなんかでランキングが行われると投票を頼んだりしてるのに、名前を出すだけで、みんなが白い目で見るのです。


22 二回目のチュウ

 竹峰さんがロードレーサーに乗って、颯爽と走り抜ける姿がすごくカッコよくて、僕もロードレーサーを買いました。ヘルメットをかぶって、変な服を着て、スパッツみたいのをはいたコテコテの格好が、最初は恥ずかしかったです。

 だけど今では、歩道を歩く人や信号待ちをしている人々を横目に走るのが気持ちよくて、たぶん僕、自分に酔ってます。まあ、そんなこんなで、大分ロードレーサーにも慣れてきたんですけど、競争をするとまだまだ竹峰さんには勝てません。

 あっという間に差をつけられてしまって、車道の脇を僕も一生懸命にペダルをこぐのですが、全く追いつけないのです。悔しくて必死に走っていると、路駐していた車から突然人が降りてきて。そして馬鹿の顔。顔はまさにベストポジションで、顔と顔はぶつかりました。

 それが僕の二回目のキッス。そして初救急車。


23 真剣勝負

 机にヒジをついて手にアゴ乗せて、ぼんやりと窓の外を眺めていると、「真顔が怖い」なんて言われるのです。今晩の食事のことだとか、夜中のテレビのことだとか、真剣に考えているのにです。真顔が怖いって言われた暁には、一体どうすればいいのですか。

 真顔で告白、真顔でキス、真顔でプロポーズ。人生の要所要所で怖がられる真顔なんてありえない。一生笑顔でいればいいんですか。それはさわやかな笑顔を振りまきますよ。見知らぬ女性にも振りまきますよ。幼子にももちろん振りまきますよ。

 だけどそっちの方が怖がられる確率100だいたひかるなんです。


24 勝ち負け

 塀で囲まれた家々の間を、道路が碁盤目状に広がる閑静な住宅街にひっそりと、田中さんのお店はあります。脱サラをして始めたのですが、近くに大きな道路などは無く、夜になるとほとんど人を見ることも無い地域なので、お店の前を通っても、いつもがらんとしています。

 そこが店舗を経営するのに向いていない地域であることは、住人でなくともすぐに分かります。お母さんは、「あんな場所に店を出してもうまくいきっこない」と言っていました。それがさも阿呆のすることかのように。

 だけど、お店は田中さんの夢だったから、そんなこと言われると腹が立って。


25 思いやり

 僕はこう見えて、他人に思いやりの持てる人間だと思います。

 僕は病気や怪我で入院したり、死んだことがありません。だから、ちょっとした怪我や病気じゃ薬も使わないし、ましてや医者にかかることなんて考えられません。

 大きな病気や怪我をしたり、亡くなったりしてしまうのは、いつも僕以外の人でした。だから僕以外の人には、ちょっとした病気や怪我でもすぐに医者にかかることを勧めます。僕以外の人は、ほんの少しの油断でも、大変なことになってしまうからです。

 僕以外の人は死んでしまうから、僕は彼らに、思いやりを持って接しています。


26 三段活用

 小橋くんは、本当に良くしゃべる人でした。共通の友達を通じて知り合ったのですが、同じ授業が多いこともあって、良く一緒に学校まで行きました。待ち合わせの場所で会うと、小橋くんは前日の出来事を話してきました。バイト先での会話を再現して聞かせてくれたりしました。だけど、そんな話が興味を引くはずもなく、小橋くんと会うのは苦痛でした。

 中川くんは、映画に詳しい好青年でした。小橋くんを紹介してくれたのは、他でもなく彼で、今でこそ会う頻度は減りましたが、ゼミが同じで仲のよい友達でした。映画の話をしたり、旅行の話をしたり、ゲームの話をしたり、ジャンプの話をしたり、趣味が合うのでいつでも会うのに苦を感じない、自然体で接することのできる人でした。

 吉野さんは、黒髪の似合う、顔の小さな人でした。中川くん同様、ゼミが同じで毎日のように会っていました。一緒に映画を見たり、飲みに行ったりして、休みで会えないときは苦痛でたまりませんでした。だけどまた会える、そのことが毎日の生活を支えていたのに、もう、会えないなんて、僕は、死ぬしかないのでしょうか。


27 スノースマイル

 冬のいいところは寒いことです。冬は寒いから、冷えた右手に息を吹きかけてもらったりして、そのまま彼女の左手を握り、ポケットで暖めることができるんです。

 真白な息をはきながら、夜から降り積もった雪に足跡をつける。そんなことを夢見ながら、二人で空を見上げて雪が降るのを待ったあの日、翌日には二人で風邪を引いたっけ。やっと積もった冬の贈り物に、二人でやった雪合戦がすごく楽しくて、翌日には二人で風邪を引いたっけ。

 そんな冬の思い出を作るべく、そろそろ彼女が欲しいです。


28 はじまりはいつも

 雨の滴は涙を隠してくれました。愛する人を失って。信じる友に裏切られて。そんな格好のよい理由じゃなくても、試験に落ちたとか、映画で感動したとか、きっとそんな、誰も知らない涙を誰もが流しているんです。そんな恥ずかしい涙を隠すため、雨に打たれてみたりするんです。

 雨の音は声を隠してくれました。大きな雨音は、その泣き叫ぶ声を押し消してくれて、まるで悲しみを洗い流してくれるようで。なんてドラマの主人公ぶって、ロマンティックな気分で歌う鼻歌を隠してくれるので、いつもより大きな声で歌えます。ついでに口の動きも傘が隠してくれるんです。

 傘もささずに大声で歌い走ったあの日も、びしょ濡れになって駅からの帰り道をうなだれて歩いたあの日も、雨は僕の心を隠してくれました。そして今日も、雨のしみは小便のしみを隠してくれました。お風呂、入ってきます。


29 低年齢化

 加奈子ちゃんは近所に住む女の子で、小学生の頃から知っています。小学生の加奈子ちゃんは、朝や夕方によく会うと元気に挨拶をしてくれる明るい子でした。それは可愛らしい顔で、まだ成長の見えない上半身や、あまりに無防備な下半身を見ていると、僕の息子も元気に挨拶……はしませんけどね。まだそこまで変態ではありませんでした。

 しかし、加奈子ちゃんも高校生になり、お年頃になりました。可愛らしかった顔にはメイクが施され、髪の毛の色は変わり、周囲に強烈なニオイを振りまきながら歩いています。飾り彩られた彼女を、かわいくなったと言う人もいるけれど、僕にはどうも受け入れることが出来ないのです。

 別に加奈子ちゃんは自分のものだと言う気はありませんし、彼女の魅力を存分に理解することのできる人が、きっとたくさんいることでしょう。だけど、幼かった頃の、ありのままの飾り立てない加奈子ちゃんを思い出すと、僕の息子はどうしようもなくいきり立ってしまうんです。

 不自然に飾り立てる女性が増える中で、自然でありのままの女性を見ることができるのは、もはや小学生くらいしかいないのです。なのに、彼女らもが飾り立ててしまったら、自然を愛する僕らは、誰を愛せばいいのですか。


30 金遣い

 「おごる平家は久しからず」という言葉があります。あの有名な平清盛が率いる平家は、源氏を倒し栄華を極めました。平家有頂天、貴族のまねをして、毎晩のように宴を開いたことでしょう。貴族の女に貢物をしたり、庶民には到底考えられないような金額を、他人におごったりしていたのでしょう。しかし、そんな贅沢が長く続くことはなかったことは、皆さんのご存知のとおりです。

 菅さんは大学の先輩で、今は社会人として働いています。在学中、仲良くしていたよしみで、今でも給料が入ると食事をおごってくれたりします。同じように仲のいい人を集め、その夜は宴会騒ぎです。そんな毎月恒例の宴に、僕たちはほとんどお金を払ったことがありません。そのため、菅さんは給料のほとんどを一週間ばかしで使いきり、その後は知り合いに借金しながら給料日まで大人しく過ごしています。

 「おごる平家は久しからず」という言葉があります。だから僕はおごりません。
















































































































































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