詳しい登場人物と時系列 1
創造神ユージーノー
- 本名/稲生祐士(いのうゆうじ、1886(明19)年04月25日−1903(明36)年**月**日)
- 裕福な家庭に生まれたが幼い頃から病弱でサナトリウムに長期入院していた。
- ベッドから出られない稲生祐士は、自由な世界を空想することだけが毎日の楽しみだった。
- 稲生祐士は、箱庭を作るように、自分の頭の中だけに、世界を作り上げていった。
- 毎日毎日、彼は病床で、空想の箱庭世界に思いを馳せた。
- あまりに精巧に丹念に作り上げたために、いつしか箱庭の世界は本当に命を持った。
- 箱庭世界には木が芽吹き花が咲き乱れ、風が吹き、動物達が生まれ、人間が生まれた。
- 彼の空想から生まれた世界だったため、箱庭世界は現実の世界とは少し違っていた。
- 彼の箱庭世界には、人間や動物の他に、精霊や妖精や幻獣や魔物も生まれた。
- やがて箱庭世界の人間たちは集団生活するようになり、集落ができ、町になり、国になった。
- 人々は王を頂き、その名の下に国を発展させていった。
- 国は生まれ、そして滅び、また新たな国が生まれた。
- 人もまた生まれ、学び、成長して、老いて死に、そして新たな命が生まれた。
- その様子を、彼はそれをただひたすら神の視点から眺めていた。
- 来る日も来る日も、彼は彼の箱庭世界へと心を飛ばした。
- 彼の世界では何百年も何千年もたっていても、現実の世界では一週間ほどしかたっていなかった。
ヴェルメリオ・ジェラグ・シュタイム・アルクラトゥス・ルターニア
元々は稲生祐士が療養していたサナトリウム近接の森に生息していた白蛇。
アオダイショウのアルビノ。
プラチナのような金の光沢を持つ白い体にルビー色の瞳の小さな蛇。
療養所の中庭に迷い込んだ白蛇を、散歩していた稲生祐士がたまたま見つけ、その美しさに心奪われていた。
白蛇は時折、療養所の庭に現れるようになり、稲生祐士の無聊を慰めた。
稲生祐士は、白蛇の美しいルビー色の瞳から、葡萄牙語の「赤」を意味する「ヴェルメリオ」と名づける。
その後、稲生祐士は療養所の図書館で他国語の辞書を見つけ、ヴェルメリオに様々な名前を与えていく。
ポルトガル語で“赤”という意味の「ヴェルメリオ」の他に、ゲール語でも“赤”を指す「ジェラグ」、ヘブライ語で“2”を意味する「シュタイム」、アラビア語で“宝玉”という意味の「アルクラトゥスルターニーヤ」を繋げて真名としている。
直訳すると、「赤い赤い二つの宝玉」で、白蛇の瞳のことである。
箱庭世界へ心を飛ばす事を覚えた稲生祐士は、現実世界ではどんどん衰弱していった。
現実で意識を取り戻すたび、彼は不自由な体と苦痛に苦しんだ。
それでも体調が許す限り、稲生祐士は中庭に散歩に出てはヴェルメリオとの邂逅を楽しんだ。
だがあるとき、ヴェルメリオは病院関係者に発見されてしまう。
病院は大騒ぎになり、気づいた稲生祐士が止めようとした瞬間、ヴェルメリオは頭を踏み潰されてしまう。
頭を潰されたヴェルメリオを見た稲生祐士は激しくショックを受け、それは、弱りきっていた稲生祐士の心臓に止めを刺した。
稲生祐士はその場に昏倒し、そのままこん睡状態となった。
混濁する意識の中で、稲生祐士はヴェルメリオの事を強く強く想った。
そしてその想いを抱えたまま、稲生祐士の現実での命は終わりを迎える。
享年17(歳)。
だが、死んだ瞬間、彼の魂は肉体という軛から箱庭世界へと解き放たれていた。
彼の生み出した箱庭世界は、既に彼の認識を大きく越えるほどに成長していた。
ゆえに彼は、彼の世界に対して全知ではなかった。
だが彼は創造神であるがゆえに、彼の箱庭世界に対して全能だった。
彼は大気であり、大地であり、風であり、雨であり、雲であり、太陽であり、星であり、世界そのものだった。
そして彼の意識の傍らには、ヴェルメリオの姿があった。
稲生祐士の強い想いによって、ヴェルメリオは彼の箱庭世界へ転生していたのだ。
その姿は稲生祐士によって大きく変えられていた。
もう二度と人間に踏み潰されないようにと巨大な体、飛んで逃げられるようにと大きな翼、何者にも傷つけられないようにと硬い鱗、危険から逃れられるようにと高い知性、身を守るために鋭い爪、と、稲生祐士の心の思うままに能力を付加されて、最終的に、ヴェルメリオの姿は美しいプラチナの体を持つドラゴンになっていた。
意識体のまま箱庭世界を浮遊していた稲生祐士は、やがて、自らが一番心地よく感じる一つの山に自分を同化させた。
当たり前のように、プラチナムドラゴンとなったヴェルメリオもまた、稲生祐士の山を住処と定めた。
稲生祐士と同化した山は、神が宿ったがために箱庭世界で最も高い山へと成長した。
最高峰の山はあまりに大きかったので、世界中が見通せた。
彼は稲生祐士としての意識を保ったまま、肉体の死を迎える以前と同じく、彼の箱庭世界を楽しんだ。
時折、彼は彼の目に留まった人間や国に、“神の恵み”を与えるようになった。
完全に箱庭世界の住人となった神には、箱庭世界の生き物たちの声が届くようになったのだ。
強い強い切実な声にのみ、稲生祐士は神の意志を伝えた。
それは旱魃に苦しむ人々に慈雨を与ることだったり、許されない罪を犯したものを神雷で殺すことだったりした。
やがてヴェルメリオがそれに協力するようになった。
ヴェルメリオはユージーノーの意志を神託として人々に伝えた。
時には恩恵や天罰をヴェルメリオが与えることもあった。
その美しく勇壮なドラゴンは、まさしく神の使いにふさわしい威厳を漂わせていて、人々に神の存在を強く意識させた。
プラチナムドラゴンを敵視し、討伐しようと考える人間もいたが、稲生祐士によって「何者からも傷をつけられない」と強い加護を与えられているヴェルメリオは、人間の攻撃などでは傷一つつかなかった。
傷つかないどころか、ヴェルメリオは不老であり不死だった。
ヴェルメリオの命は稲生祐士とともにあり、稲生祐士の命は箱庭世界とともにあるのだから、実質、ヴェルメリオの命が終わるときはこの箱庭世界の終焉を意味していた。
人々は、美しいプラチナムドラゴンが必ず前人未到の山に帰っていく事に気づき、この山こそが神の住む霊峰なのだと知った。
霊峰は人々の信仰の対象となった。
プラチナムドラゴンから神の名を聞いた人々は、創造神ユージーノーを崇め、霊峰のふもとに彼を祀る神殿を建て、ヴェルメリオをユージーノーの神使として敬った。
ユージーノーは箱庭世界の主祭神であり、最も古い神であり、ユージーノーを祀る宗教がこの世界で一番大きい。
現在では、ユージーノーはあまり人間に干渉することは少なくなってきている。
同時に、プラチナムドラゴンも滅多に人界に現れなくなっている。
ユージーノーは、箱庭の神々の中で唯一、箱庭世界で人の姿を取ったことのない神である。
2015/12/23
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