MYRIAM 1


北エスタミル。

100年前にクジャラート国がローザリア王国から奪って首都にしたこの町は、マルディアス全土で最も栄えている貿易都市だ。

もともとはローザリア領だから、町並みだけは今でもローザリア調で整然と美しい。

だけど、一歩通りを外れると、娼婦が客を引き、売人が麻薬を売っている。

南エスタミルのように、堂々と強盗や物乞いが行われる事こそないが、治安の悪さといったら、南と大差ない、そんな町。

この町で、あたいは生まれ育った。

 

+ + + + +

 

「ミ、ミリアム、もっと声出せよ。」

「ああんっ ああああんんっ」

あたいは、大袈裟に喘ぎながら、心の中で舌打ちしていた。

──── このっ…! 変態野郎!

馴染みの“客”だから油断してた。

あたいは両腕を革のベルトみたいなもので縛られ、天井から吊り下げられた鎖に繋げられていた。

両の乳首は、洗濯バサミをつけられている。

男はさっきからあたいの股の間に座り込んで、男のアレを模した“オモチャ”であたいを犯して楽しんでいた。

「ね、ねぇ… おっぱいのこれ、取ってよ…。痛いってば…。」

「ああ?」

男はオモチャをあたいの中に突っ込んで、立ち上がった。

「へへへ。痛いの? イイんじゃねぇの?」

男はへらへら笑いながら片方の乳首の洗濯バサミを指で強く弾いた。

「ひィッ!」

──── 痛ぇんだよ! このバカ!

「はず…はずしてよぉっ…!」

必死で言うと、男がやっと片方の洗濯バサミだけ外してくれた。

洗濯バサミが外れたとたん、ぶわっと乳首が熱くなる。

「へへ…。すげぇや。でかい乳首がひしゃげちゃってるぜ。」

言いながら男が乳首を摘まむ。

「痛いィッ!」

洗濯バサミで締め付けられ続けてた乳首に、触れられて激痛が走る。

「お前ほんとに乳の割に乳首でけぇよなぁ。エロい体してるよなぁ。」

男はあたいの乳首を摘まんだり捻ったりして遊んでいる。

そのたびに乳首はずきずきと痛む。

唯一自由になる足で蹴り殺したい衝動に駆られるが、相手は“客”だ。

ぐっと我慢する。

「でもこんなでかい乳首、やっぱりなんかつけたくなるんだよなぁ。」

ぱちん!

男が外したばかりの洗濯バサミを、またあたいの乳首につけた。

「ひぐゥッ!」

「へへへへへへ。似合うぜぇ、ミリアム。」

男のへらへら笑いが癇に触る。

「でもぉ、ミリアムちゃんは、でかいのは乳首だけじゃねぇんだよなぁ〜。」

男の手があたいの下半身に滑り込む。

「あんっ!」

男は再びあたいの股の間に座り込んだ。

そして、あたいのクレバスをかき分ける。

男の手があたいの敏感な突起を捉えた。

「はぁん・・・」

「ほらほら、これこれ。クリトリスもでか〜」

言いながら、男はそこに舌を這わせる。

「あ、…ふっ…!」

思わずあたいは背をのけぞらせた。

男は、あたいに突っ込んだオモチャを、また出したり入れたりしながら、尚もクリトリスを舌で嬲る。

「ああんっ… おぅっ… いいよぉ…っ!」

「すげぇ濡れてきた…。膝まで垂れてるよ。」

男の言うとおり、オモチャを出し入れしてるそこは、最初のにちゃにちゃという音から、じゅぶじゅぶという、やらしい水音に変わっていた。

「すげぇよ、クリがもっとでかくなったぜ。」

男が調子に乗って、あたいのクリトリスに歯を立てて吸った。

「あひィッ!」

歯を立てたまま、力を入れる。

「だっ… だめぇ… コリコリしちゃ、だめぇっ」

「へへへへ… すげぇ…」

「あっ! あああんっ だめだってばぁ… んはぁっ!」

あたいがイきそうになった、まさにその瞬間、男は不意にあたいの体から離れた。

「うぁ・・・?」

イきそうなところを寸止めされて、あたいは朦朧とした意識で男を見る。

男はあたいに背を向けて、何かやっている。

男が戻ってきた。

手に何か持ってる。

「こっちのでかいのにもつけてやらなきゃ、不公平だよなぁ。」

「あ・・・・・・?」

男の手が、またあたいのクレバスを探ったと思った途端 ──────…

ぱちん!

「ひぎいィィィィィィィッ!!!!」

ものすごい激痛に、あたいは我を忘れて叫んでいた。

「あ… がっ…!」

激痛、というより、衝撃、に近かった。

男がつけた洗濯バサミが、あたいのクリトリスを挟んでいた。

あたいは激しくのけぞり、繋いだ鎖がガチャガチャと音を立てた。

ごとっ! と音がして、あたいの中に突っ込まれてたオモチャが床に落ちる。

「あれあれー? だめじゃん、落っことしちゃ。ああ、そっかぁ。そんな大きさじゃあ、もう物足りないんだよね、ミリアムちゃんは。」

そう言って男が取り出した、新しい“オモチャ”のバカデカさに、あたいは目を見張った。

「ちょ… 冗談… そんなの、入るわけ・・・」

男は、あたいの言葉になんか耳も貸さず、あたいを吊った鎖を、いきなり緩めた。

がががっと音がして、あたいは支えを失い、膝をつく。

手も床につきそうになったところで鎖は止まり、あたいは中途半端に体制を崩し、前につんのめった。

男があたいの腰を蹴る。

「はぐっ!」

その拍子に、あたいは男に尻を突き出したような格好になる。

「ほらほら、ちゃんと足開いてよ。」

「やめ…! そんなの無理…!」

「だ〜いじょぶだって。びちゃびちゃだもん。」

男が、その凶悪な形をしたオモチャを、あたいのそこに、力任せに挿入した。

「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・・」

「なぁんだ、全然余裕じゃーん。」

男は面白がって、そのオモチャを動かしている。

入口がいっぱいに広がってるのが分かった。

「さ、裂けちゃ… 裂けちゃうっ…!」

「何言ってんだよ。裂けるどころか、勝手にどんどん呑み込んでいくぜ〜?」

ずぶずぶと巨大な塊があたいの中に沈んでいく。

「ほ〜ら、根元までズッポリ。」

嬉しそうに男は言い、くけけっという耳障りな笑い声を立てた。

「あひっ あひゃ・・・ おあああ・・・」

あたいのお腹の中で、ごりっという感触がした。

「ひはっ!」

「お、底付きした。」

男はオモチャを捻りながら、何度も何度も、あたいの“底”をごりごりと擦る。

「はぐぅっ! かはっ・・・ あ、あああんっあんっ おお・・・」

たまらず、あたいはのけぞった。

お腹の中の敏感なところを、ごつごつした塊が突付き、こすりあげ、かき混ぜられる。

「ひゃううッ!」

ぷしぃっ!と、あそこから潮を吹きながら、あたいはイッた。

「吹いた吹いた! こんなん挿れられてイク女、初めて見たよ。─── 俺、もぉ我慢できねぇ!」

男は、“前”をオモチャで塞いだまま立ち上がり、あたいの腰を持ち上げたかと思うと、いきなり、あたいの“後ろ”に挿入いれてきた。

「あああーーーッッッ」

「うおっ… いいよぉ、ミリアム。すげぇいい・・・っ!」

男が容赦なくがんがんと突き上げるたび、乳首につけられた洗濯バサミが床に触れ、激痛が走る。

そのたびに男のモノを締め付けているらしく、男は、「うおっ」とか「おおっ」とか言いながらやみくもに腰を動かしている。

あたいももう、痛いんだかイイんだかわかんなくなって、喉が痛くなるほど声をあげた。

「ああああっ あっ あひぃっ ああぁあ あんっ ああああんっ!」

「ミ、ミリアムぅぅぅ いくよいくよ、いっちゃうよぉっ」

「ああんっ! き、きてえっ あたいにかけてぇぇぇぇぇぇぇぇ」

びゅくっ! びゅっ! びゅびゅっ!

男のモノが弾けて、あたいの背中に生暖かいものが降り注ぐのが分かった。

 

 

男に戒めを解いてもらうと、あたいの手首にはくっきりと赤い跡が残っていた。

ちくしょう。これじゃしばらく腕晒して歩けないじゃん。

男に許可も取らず、当然、という顔をして、あたいは勝手に男の部屋のバスルームを使って、体を洗い流した。

乳首もあそこもお尻もひりひりする。

バスルームから出ると、男はまだ素っ裸のまま、ビールなんぞを飲んでいる。

それを横から奪い取って一気に飲み干す。

「すっげぇよかったよ、ミリアム。」

「…どーも。」

「なぁ、これから飯食いにいかねぇか? うまい店があ・・・」

男の話を途中でさえぎって、

「悪いけど、あたいこれから行くとこあるんだ。」

と、あたいは答えた。

「……パブに行くのか?」

男が突然暗い声を出す。

あたいはそれに聞こえないふりをして身支度を整えていると、男が尚も、

「お前、この頃毎日パブにいるんだってな。」

と、怒ったような口調で言った。

確かにそのとおりだけど、別にこいつにそれを咎められるいわれは何処にもない。

「パブの“ねえさん達”が怒ってたぜ。“越境”すんなって。」

そんな事言われないでも知ってる。

あたいはこの頃、毎日のようにパブに通って、旅行者達を物色している。

町の連中は、あたいが旅行者相手の“商売”に鞍替えしたと思ってる。

旅行者相手の“商売”は、実入りが良かったから。

その代わり、リスクも大きいけど。

あたいのそんな行動は、当然、パブで旅行者相手に客引きしてる売春婦達の邪魔になっていたから、彼女達があたいを快く思ってないのは当然だった。

「なぁ、何でだよ、ミリアム! 金にでも困ってるのか?」

「・・・別に。」

本当は客引きのためにパブに行ってる訳じゃないけど、別にそんな事をこの男に言う気もなかった。

「だったらどうして! 旅行者相手なんて、何されるかわかったもんじゃないぞ? わかってるだろう? ミリアム。」

「・・・わかってるよ。」

よく、わかってる。

わかりすぎるほどに。

──── 母さん………

あたいは、一瞬脳裏に閃いた懐かしい面影を振り払い、男の鼻っ面に、手のひらを上にして突き出した。

「・・・金。」

男は一瞬面食らった顔をして、ムッとしたように、あたいの手の上に“本日のお花代”を乗せた。

乗せられた金額を見て、あたいは尊大な態度で言った。

「あと50金出しな。」

「なんでだよ!」

「2穴分だよ。」

前も後ろも使いやがって。

男がしぶしぶ追加料金をあたいの手のひらに載せると、あたいは取って置きの笑顔を作ってやった。

「毎度ありがとうございます。」

お愛想を言うと、くるっと踵を返して、さっさと男の部屋を後にした。

 

+ + + + +

 

パブに行くと、店の中で“客待ち”をしていた“お姉様達”が、あたいを見て、一斉に嫌そうな顔をした。

ひときわケバい“お姉様”が、持っていた羽扇で、いきなりそこら辺をぱたぱたやりだす。

「あっらぁ。なーんか下水臭いわー。」

“下水臭い”は、あたいの心を生爪で引っかくキーワードだ。

…危うく怒髪天を衝きそうになったが、ぐっとこらえ、あたいは店の真ん中を突っ切って、カウンターへ行く。

スツールを引き、座る。…座ろうとした。が、腰を下ろしたそこに、椅子はなかった。

あたいは、すてーんと、思い切り床に尻餅をついてしまった。

一斉に笑い声が起きる。

誰かが、スツールをもっと後ろに引いたのだ。

・・・こっ・・・の、ババア!

あたいは無言で立ち上がり、スカートの裾を払うと、隣に座っていた客の前にあったボトルを掴むと、あたいのすぐ後ろに座っていた“お姉様”の頭の上で、ゆっくりと、それを逆さまにした。

琥珀色の液体が、“お姉様”の頭にどぼどぼと降り注ぐ。

“お姉様”、一瞬何が起こったのか理解できないらしく、硬直している。

度数の高いアルコールのせいで、“お姉様”のケバい化粧は、見るも無残にはげていく。

片方の付けまつげも取れ、ほんとにお化けだ。

「な・・・!」

“お姉様”、ようやく正気に返ったようだ。

「なにすんのよぉぉぉぉぉぉっっっ!」

「あらごめんなさ〜い。手元が狂っちゃってぇ。」

「このっ…ガキ!」

「ばーさんは無理せずにタルミッタにでもすっこんでな!」

きいいいいっ!と奇妙な声をあげながら、“お姉様”が掴みかかってきた。

当然、あたいは応戦する。

思いっきり髪を引っ張り、引っかいてやった。

向こうもめちゃくちゃに、あたいをびんたしてくる。

パブはあっという間に大騒ぎになった。

マスターはおろおろしながら止めに入ろうとしてる。

と、その時、思いっきり馬鹿笑いする声が聞こえた。

あたいと“お姉様”は、一瞬手を止めて、声の方をキッと睨む。

店の奥で、灰色の髪をした男があたい達を見て笑い転げていた。

男は、あたい達の視線に気づき、慌てて笑いを噛み殺す。

が、まだおかしいのか、喉の奥でクックッと笑っている。

「いや、失礼。どうぞ続けて。」

続けて、と言われても、完全にその気がそがれてしまった。

だって ──────── ・・・

ふと、傍らの“お姉様”を見ると、ぽかんと口を開けて、心なしか頬を染めて、その灰色の髪の男を見ている。

たぶん、あたいも同じ顔をしていたと思う。

 

その男は、すごい“上玉”だったのだ。

 

細面の軟派な顔をしているくせに、えらいごつくて、逞しい。

一目で冒険者とわかる。

さっきから店中の商売女たちの目はその男に釘付けだが、そいつは、平気な顔をして酒をあおっている。

女のそういう視線には慣れている、という感じだった。

あたいは直感した。

 

こいつだ!

この男に決めた!

 

あたいは、掴んでいた“お姉様”の胸倉を離した。

バランスを失って、“お姉様”がテーブルの上に派手にひっくり返るのを尻目に、あたいは、思いっきり気取った仕草で、その男のテーブルに近づいた。

テーブルに手をついて、取って置きのポーズで決める。

「あんた、冒険者ね?」

男はあたいには全く目もくれず、

「女を買う気はない。」

と、あっさり言い放った。

つれないったら。

それっくらいで引き下がるようなあたいじゃないけど。

「“商売”するつもりはないよ。」

どきどきする。

でも、あたいは精一杯平静を装った。

 

「あたいはミリアム。術法を使わせたら、ちょっとしたもんよ。どう? 仲間にしてみない?」

 

そう、あたいは、“仲間”を探していたんだ。

このゴミ溜めみたいな町から出るために。

 

灰色の髪の男は、ちょっと驚いた顔で、あたいを見上げた。

やった。

やっとちゃんとこっちを向いてくれた。

うわあ、この男、髪だけかと思ったら、瞳も灰色グレイだ。

キザっぽい美形なのに、眼差しがぞくぞくするほど冷たくて、心が震える。

ウェーブのかかった長い髪を無造作に後ろで束ねている。

これは・・・ちょっと女がほっとかないタイプだわ。たまらん。

「間に合ってる。」

灰色の髪の男に見惚れていると、突然別の方から声がして、あたいはびっくりしてそっちを見た。

あ、連れがいたんだ。気がつかなかった。

一目でローザリア人とわかる、短髪でゴツい顔をした、いかにも剣士という男が、隣に座っていた。

灰色に気を取られてたけど、こっちもすごくイイ男だ。

でも、硬派っていうか、お固そうで女嫌いっぽいな。

・・・負けるもんか。

「何が間に合ってるのさ。見たとこ、あんた達二人とも武器使い筋肉馬鹿だろ? 魔術師が必要なんじゃないのかい?」

「女の子が行けるような所へ行くわけじゃないんだ。他を当たりな。」

ここまできて引き下がれるかっつーの。

さっきから“お姉様達”の視線も背中にびしばし感じるし、後になんか、引けない。

「このミリアム様をそこらの女の子と一緒にしてもらっちゃ困るな。何なら今この場であんたを丸焼きにしてみようか?」

ローザリア人は、小馬鹿にしたように首を振ると、そのままあたいを無視して、灰色の髪の男の方に視線を戻そうとした。

その態度に、あたいはちょっとムカッときた。

「なにさ。野郎の二人旅じゃ、むさくるしかろうと思って、花を添えてやろうってんじゃないの。それともあんた達、ホモ?」

言った途端、ローザリア人が、飲みかけていたビールを思いっきり噴いた。

「なっ…なにを…ばかなっ…!」

くっくっ、と、灰色の髪の男が笑いだした。

よく笑う男だ。

「ガラハド、お前の負けだよ。」

「グレイ。」

ガラハド、と呼ばれたローザリアの剣士が、憮然とした顔を灰色の髪の男に向けた。

なるほど。灰色グレイ・・・ね。まんまじゃん。

「確かに術の使えるのは欲しかっただろ?」

あたいはそれを聞いて嬉しくなった。

「じゃあ・・・!」

「だがな、ガラハド こいつ の言うとおり、俺達は生半可なところへ行くわけじゃないんだ。
女だからっていちいち気は使ってやれないし、野宿だって覚悟してもらわなきゃいけない。それでも俺達と行く気はあるか?」

あたいは胸をはって即答した。

「もちろん!」

グレイが、決まりだな、というふうな仕草をして、席を一つ開けて、あたいに座るように促した。

あたいはとびっきり優雅な仕草で、そこに腰掛けた。

ガラハドはちょっと憮然としていたけど、そんなあたいを見ながら、ボソッとつぶやいた。

「お前・・・、自分の顔見てから気取った方がいいぞ。」

あたいは、一瞬、なによっ! と思ったが、ガラハドが指差した方を見て、全てを理解した。

鏡張りの壁面。

その鏡に映ったあたいの格好ときたら、ひどいものだった。

“お姉様達”とのケンカで、髪はぐちゃぐちゃ、顔は傷だらけ、胸元のボタンは2〜3個引きちぎられている。

あたい・・・こんな格好で今までかっこつけて話してたのか・・・。

ちくしょう、最初くらいカッコつけたかったのにィ! ミリアム様一生の不覚…。

鏡の前で呆然とするあたいを見て、グレイはまた吹きだしていた。

 

こうして、あたいは、グレイ、ガラハドと一緒に旅をする事になったんだ。

 


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