ALBERT x GRAY


夜更けにグレイの部屋をノックする者があった。

出てみると、アルベルトが神妙な顔で立っていた。

「相談があるんだ。」

と言う。

珍しい事もあるもんだ、とグレイは思った。

アルベルトと知り合ってずいぶんたつが、アルベルトはいつもシフにべったりで、相談でも何でもシフにしていた。

そのアルベルトが、シフではなく、グレイに相談があるという。

してみると、シフには出来ない相談なのか。

グレイは、アルベルトを室内に促した。

「…あの、…クローディアは?」

「今夜はアイシャの部屋だ。」

知ってるくせに、とでも言いたげな口調で、グレイは返す。

今日の夕飯時、女性陣が何でだか盛り上がって、みんなでアイシャの部屋に泊る、という話になっていた。

それを、アルベルトも見ていたはずだ。

「あ、そ、そうだったね」

アルベルトがごもごもと呟きながら俯く。

普段、何事にもはきはきと受け答えするアルベルトにしては、珍しいリアクションだった。

「何だ? 相談ってのは。」

だから、グレイもうっかりと、そう水を向けてしまったのだ。

それが間違いだった。

顔をあげたアルベルトの口から、その、「相談」とやらが発せられた瞬間、グレイの目は点になっていた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

ものすごく間抜けに聞き返すグレイ。

口はあんぐりと開けたままだ。

「僕、真剣だよ。」

それは分かる。

見れば分かる。

幾分頬を赤らめてはいるものの、アルベルトの眼差しは真剣そのものである。

だからこそ、グレイは聞き返さずにいられなかった。

「…お前、なに言ってんだ?」

アルベルトは真剣な目をしたまま、もう一度それを口にした。

 

「君を抱きたいんだ。グレイ。」

 

「・・・・・・・・・・・誰が?」

思わず聞き返す。

「僕が。」

きっぱりした口調が返ってくる。

「・・・・・・・・・・・誰を?」

「君を、だよ、グレイ。」

さっきは聞き間違いかと思ったのだが、どうもそうではないらしい。

グレイは、まじまじと、目の前の、自分より6才も年下で13cmも低くて一回りも華奢な、金髪の坊やを見下ろした。

一体何を言い出したんだ、この坊やは。なんか悪いもんでも食ったか?ジャミル辺りと賭け事をしてその罰ゲームか?

抱いて欲しい、というのならまだ分かる。抱きたい、ときたもんだ。

この坊やが? 俺を?

だいたいこいつはシフと出来てたはずだ。シフとやりゃあいいじゃねぇか。それとも実は本命は俺だったのか?

一瞬のうちに、グレイの頭の中で様々な考えが駆け巡る。

たっぷり一分沈黙して、グレイは口を開いた。

「・・・・・・・帰れ。帰って寝ろ。」

「グレイ!」

たちまちアルベルトは必死の形相でグレイに取り縋る。

「グレイ! 待ってよ! お願いだよ! お願いだから!」

「離せ! なに考えてるんだ、お前は! 帰れ!」

「お願いだよ! お願い! 誰にも言わないから!」

「言われてたまるか! とっとと帰れ!」

「グレイ! 僕が男になれるかどうかの瀬戸際なんだ!」

「・・・・・・・・・?」

縋りつくアルベルトの首根っこを掴んで部屋の外へポイ捨てようとしていたグレイの動きが、その一言で止まる。

「…なんだって?」

訝しげに問い返したグレイを、アルベルトがおずおずと上目遣いで見上げる。

「…話を聞いてくれる?」

グレイは頷いた。

 

これも間違いだったのだ。

グレイはさっさとアルベルトを部屋の外へ蹴りだすべきだったのだ。

 

「こないだ僕ね、シフに告白したんだ。」

「ああ。」

相槌を打ちながら、グレイはちょっと驚いていた。

シフとアルベルトはとっくに出来上がってるものと思っていたのだが、そうではなかったのか。

「僕はずっとずっと好きだったんだけど…言えなくて…。でも、思い切って言ったんだ。好きですって。
こないだの、赤い月の夜に。
コンスタンツがね、告白をするならアムトの力を借りるといいって教えてくれたんだ。
そしたら、シフも僕のこと好きだって言ってくれたんだよ。」

さもあろう。シフのアルベルトへの態度は、誰が見ても好きだとしか思えない。

しかし、アルベルトのこの稚拙な告白はどうだ。

グレイはまるで、小娘の告白話を聞いているような気になってきた。

「…それで、それがさっきのお前のふざけた戯言とどう繋がる。」

聞くと、アルベルトはぽっと顔を赤らめた。いよいよ小娘のようだ。

「ぼ、僕は…、こういう事は、ちゃんと手順を踏んでからの方がいいと思うんだけど、
シフはもう、僕よりもずっと大人だから、
ちゃ、ちゃんと、お、大人のお付き合いをしたいと思ってるんじゃないかと思うんだ。
僕も、し、シフが、そうしたいなら、それは、全然、あの、嬉しいんだけど、」

「じゃ、いいじゃねえか。シフとすればいいだろう。」

グレイは、幾分うんざりした口調で答えた。

「それが、そうもいかないから相談してるんじゃないか!」

アルベルトが、キッと顔をあげる。

「二人の記念すべき初夜なんだよ! 失敗するわけにはいかないんだ!
レディに恥をかかせる事にもなるしね。
セッティングは完璧なんだ。一昨日、ブルエーレに寄ったろう?
あの時に、シフの生まれた年に作られた、最高級のブルエーレワインを注文したんだ。
北エスタミルで最高のガーネットの指輪も買ったし、…シフの指のサイズを悟られないように知るのは大変だったんだよ。
場所はね、ほんとは凍った城がロマンティックでいいんだけど、あそこはまだモンスターがいるからね。
コンスタンツに、バイゼルハイムの最上階を貸してほしいってフラーマにお願いしてくれるように頼んであるんだ。
知ってる? バイゼルハイムのてっぺんの窓からはね、バルハラントの雪原が見えるんだ。
夕日に輝く銀世界を見ながら、最高級のワインを飲んで、リングをプレゼントして、僕らは結ばれるんだよ。
ムーディーだろう?」

小娘のよう、どころではない。これではまるっきり処女の小娘の初体験ドリームだ。

グレイは開いた口がふさがらない。

アルベルトは、そんなグレイには全く気づかず、尚も続けた。

「そんな記念すべき夜に、だよ、グレイ。僕がまるで役に立たなかったり、シフを満足させられなかったりしたら、全て台無しになっちゃうじゃないか!」

「…お前、童貞か。」

聞かれて、アルベルトは恥ずかしそうに、こくんと頷く。

「なるほど。それで、事前に経験値を上げとこうというわけか。」

「そう! そうなんだ!」

アルベルトが嬉しそうに叫んだ。

グレイの目は据わっている。

アルベルトの話で合点はいった。合点はいったが納得がいかない。

「それが、何で、お前が俺を抱く、という話になるんだ?」

「だって、グレイが一番、シフと体形が近いんだよ。」

くらっ…。

アルベルトの言葉に、激しい眩暈を感じるグレイ。

まあ、確かにそうだ。

シフの上背は185cmある。グレイの方が2cmほど高いが、174cmのアルベルトにしてみたら、どっちもそう変わりはないだろう。

だからといって何故そう極端な話になるんだ!

「無理せずシフに教えてもらったらいいだろう? 俺の見るとこ、シフはそれなりに経験つんでるぞ?」

「僕がそれじゃ嫌なんだ!」

アルベルトは憤然と答えた。

「紳士たるもの、常にレディをエスコートする立場でなければいけないと、僕の姉さんが言ってた。
公の場だけではなく、プライベートでも常にそうあれ、と。
普段はシフの方が強いし、バトルでもシフに頼りっきりだから、せめて、ベッドの中では僕がリードしたいんだ!」

きっぱりと言うアルベルト。

その意気やよし。

意気は買うが、言ってることは、剣を持ったことすらない奴が彗星剣を打ちたい、と言ってるのと同じだ。

しかも何故、その為にグレイが犠牲にならねばならんのだ。

「別に男なんぞ抱かんでも、他にいくらでも実地で教えてくれそうな女がいるだろう?」

「実地で教えてくれそうな女って?」

「…バーバラとか。」

「バーバラは僕より背が低いよ。」

「だが、抱かせてくれといえば喜んで乗っかってくると思うぞ?」

「乗っかってくるんじゃ困るんだよ! 僕が乗っかんないといけないんだから!」

どっちが上でもいいじゃねえか、とは思うのだが、アルベルトにはそれこそが重要なポイントであるらしい。

「じゃ、ミリアムは。」

「ミリアムはバーバラよりも低いよ。それに、僕なんか眼中に入ってないよ。知ってるだろう?」

確かに。ミリアムの好みは、グレイやガラハドのような年上の筋肉質だ。年下で華奢なアルベルトなぞ、男の範疇にすら入ってないだろう。

グレイは押し黙った。

残りの女性はアイシャとクローディアしかいないが、アイシャはまだ子供だし、大切なクローディアをアルベルトに抱かせるくらいなら、それこそ自分がケツを貸した方がまだマシだ。

「それにやっぱり、“初めての女性ひと”はシフがいいんだもの。」

どうやらアルベルトの中では、男相手ならシフへの貞節は守られる、という脳内ルールがあるらしい。

「だからってなんで俺なんだ。ジャミルにでも教えてもらえばいいだろう。」

「ジャミルだって僕より背は低いよ。それに、ジャミルにはダウドがいるから悪いよ。」

えっジャミルとダウドってそうだったのか? とグレイは頭の中で一人突っ込み。

「俺にだってクローディアがいる。」

「男と女は違うもん。」

何が違うんだ、何が。

「シフと同じガタイがいいんだったら、おっさんだっていいだろう!」

ホークの事である。

「僕にだって選ぶ権利があるよ!」

「おっさんに失礼じゃないか!」

「グレイだっておっさん呼ばわりしてるじゃないか!」

「おっさんをおっさんといって何が悪い!」

「30はおっさんじゃないよ!」

「ああ、そうだな! シフもそろそろ三十路だからな!」

「シフはまだ28だよ!」

脱線している。

それに気づいて、アルベルトは咄嗟に胸の前で手を組み、子犬のような上目遣いでグレイを見上げた。

必殺おねだりポーズである。

「グレイ、…お願い!」

その破壊的な可愛らしさに、グレイが一瞬絶句する。

そもそもグレイはこういう小動物を思わせるタイプに弱い。

クローディアとどこか似たところがあるのもまずい。

思わず頷きかけて、すんでのところで踏みとどまった。

俺にはクローディアがいる。最愛の人、クローディアが。

その時だった。

 

トントン

 

小さなノックの音がした。

二人でギョッとドアを振り向く。

かちゃりとドアの開く音がして、顔を覗かせたのはクローディアだった。

「クローディア…。」

「ケンカ、してるの?」

争う声が、外に聞こえたらしい。

「いや。」

「してないよ。」

グレイとアルベルトは同時に答える。

クローディアは、ホッとした顔をして、部屋に入ってきた。

「あの、ね、グレイ…。」

「なんだ?」

グレイはありったけの愛をこめた微笑をたたえて、クローディアに聞き返した。

見よ、アルベルト。この俺達の仲を。お前の馬鹿みたいな“相談”が割り込む隙間なぞ、俺達の間にはないのだ。

しかし。

「アルベルトの相談に、乗ってあげてくれない?」

ぐらり、とグレイの世界がかしいだ。

「クククククローディア、クローディアは、アルベルトの相談の内容を…?」

グレイの背中をだらだらと嫌な汗が流れる。

「知らないわ。」

その一言に気を失いそうなほどホッとする。

「でもね。アルベルトがここのところ、何かを悩んでるのは知ってたから、力になってあげたかったの。でも、私には言いにくいっていうから、それならグレイに相談したら?って言ったのは、私なの…。」

何でそんな余計な事を・・・と思ったが、口には出せなかった。

クローディアが、心底グレイを信頼しきっているような口ぶりで、

「グレイなら、何でもできるし、私の知らない事でもいっぱい知ってるし、それに優しいし、アルベルトを助けてあげられるんじゃないかと思ったの。」

と続けたからだった。

優しいのはお前にだけなんだ、クローディア。

大声でそう叫びたい気持ちを抑えつつ、グレイは、クローディアとその横のアルベルトを見据える。

二人は揃って胸の前に手を組み、揃って上目遣いでグレイを見上げている。

アルベルト一人でも堕ちそうだったのだ。

それが今、二人になってパワーアップしていた。

「ね? グレイ、お願い…」

クローディアの瞳うるうる攻撃。

グレイは陥落した。

「…わかった…。」

 

*     *     *

 

クローディアが安心してアイシャの部屋に引き上げた後、アルベルトには相談の内容についてはクローディアには絶対に絶対に絶対に絶対に言うな、としつこいほどに念押しをして、グレイは腹を決めた。

一度やると決めたら万全を尽くすのがグレイという男である。

「まず、シャワーを浴びてこい。体を洗ってくるんだ。」

事務的な口調でアルベルトに命令する。

「隅々までちゃんと洗ってこいよ。モノは特に念入りにな。──── お前、包茎か?」

あからさまな問いに、アルベルトは耳まで赤くなった。

「たっ…勃てば、…剥ける。」

小さな声で答える。

「仮性か。なら、皮もむいて中もちゃんと洗え。亀頭に顔が映るほど洗え。よほどマニアな女じゃない限り、大概の女は不潔な男は嫌いだからな。」

嫌い、という一言に、アルベルトがびくりとする。

それに構わず、グレイは

「今日はいいが、本番の時に相手より早くイッちまいそうな気がするなら、シャワー浴びながらこっそり一回抜いとけ。」

淡々とレクチャーしながら、アルベルトをバスルームへと追いやった。

それから、自分は、荷物の中から傷薬を取り出した。

数種類の薬草を、花の種からとった油で練り合わせたものだ。

基本的にオイルなので、潤滑剤の代わりになる。

何で貴重な傷薬をこんな事に使わなきゃならないんだ…と、口の中でぶつぶつと呪いの言葉を吐きつつ、グレイはズボンを脱ぎ捨て、下着を半分ずらして、それを、己の肛腔に塗りこめる。

塗りこめながら、ゆっくりとほぐす。

誰かに見られたら、かなり滑稽な光景に違いない。

クローディアのためだ、クローディアのため。と己に必死で言い聞かせる。

肛門をマッサージする事の何がクローディアのためなのか良く分からないが、そう言い聞かせてないとこの場で発狂しそうだ。

アルベルトが部屋に戻ってきたとき、グレイは寝巻に着替え、ベッドの上で仰臥していた。

そして、ちらりとアルベルトが全裸なのを見て、

「お前…いくらなんでもバスローブくらい着て来い。」

と言った。

アルベルトは慌ててバスルームに逆戻り。

「…そっか、お揃いのローブかガウンもあった方がいいな…。クリスタルシティで薔薇の刺繍の入ったバスローブを…。」

等と、あれこれ算段しながら、宿屋の備え付けのバスローブを着てくる。

「ねぇ、グレイ、見て見て。」

「何だ?」

アルベルトは得意そうにバスローブの前をはだけて、グレイに自分の股間を見せる。

「剥けて見える?」

仮性包茎を多少なりとも気にしたらしい。萎えているが、皮を剥いてある。

「・・・・・・・・・・しまえ。」

グレイは脱力しながら答えた。

「灯りを消してこっちへ来い。」

いちいち構ってられるか、と、相手にしない事にした。

アルベルトはやや不満げに、それでも言うとおりに灯りを消し、グレイのベッドに近づく。

ベッドサイドの仄かなオレンジの光だけが、グレイの端正な顔を浮かび上がらせている。

ちょっとドキドキするね、と小さな声で囁いて、アルベルトは、仰臥したグレイの上に覆い被さった。

「…キスの経験は?」

「えと、シフとちょっと。あと、姉さんとちょっと。」

「姉さん?」

「あ、いや、あの、こっちの話…。」

どういう姉弟だったんだ、と思いながらも、まあいい、と、グレイはアルベルトの顔を引き寄せる。

「目くらい閉じろ。」

「あ、はいっ。」

慌てて目を瞑る。

唇が触れ合う。

グレイの唇は、ブランデーの味がした。

戸惑うアルベルトの唇を、グレイの舌がこじ開ける。

「んっ……!」

グレイの舌がアルベルトの舌に一瞬絡まり、誘うように、すっと引く。

思わずアルベルトの舌がそれを追う。

そこを強く吸われる。

二人の舌が熱く絡まりあう。

アルベルトの口腔をさんざん弄りまわして、グレイの唇が離れた。

へなへなとアルベルトが崩れ落ちる。

「グレイ… すごい…。」

その目がとろんとしている。

「へたくそ。」

グレイの一言斬り。

アルベルトが目をむいた。

「ひどいよー!」

「クローディアでももうちょっとマシなキスを返すぞ。」

せせら笑われて、アルベルトは、いたく傷ついた。

傷ついたが、ここでくじけるわけにはいかない。

僕はシフとめくるめく初夜を迎えるんだ!

キッとその目を上げ、アルベルトは、やにわにグレイに掴みかかり、今度は自分から口付ける。

先刻グレイにされたように、誘うように焦らすようにじっくりと舌を使う。

「まあまあだな。」

それなりに誉められ、気を良くしたアルベルトは、キスを、グレイの唇から、首筋へと移す。

「…痕はつけるなよ。本番では強く吸ってやれ。そこと、…そう。…あと耳朶。うなじが弱い女も多いな。」

アルベルトのキスを受けながら、淡々とグレイはレクチャーを続ける。

「ただ強く吸うだけじゃダメだ。舌でなぞるようにしてみろ。あまり涎をべたべたつけるな、嫌われるぞ。
時々は歯で優しく噛んで…優しくだ! お前は吸血鬼か。もっと優しく…そう…。」

アルベルトは、言われた事を忠実にこなしていく。

「そうやってる間に相手の服を脱がすんだ。もたつくとみっともないぞ。キスの前に相手の服を見ておくんだ。
服の構造を頭に入れとけ。出来そうになきゃ先にシャワーを浴びてバスローブに着替えさせとけ。」

アルベルトの手が、グレイの胸元を滑る。

「いきなり乳首に吸い付く奴があるか! 最初は優しく乳を揉んでやれ。優しくだぞ。
いきなり乱暴に揉むと、がっついてると思われるからな。…そうだ。それから乳首を優しく咥える。…………っ!」

不意にグレイの声が途切れた。

アルベルトが顔をあげる。

「グレイ…もしかして、乳首弱い?」

悪戯っ子の目だ。

グレイは軽く舌打ちをして、アルベルトの額をこつん、と叩く。

「次いくぞ。乳を吸ってりゃ大体の女は、体の力が抜けてくる。腰が浮いてくるようになったら下着を脱がす。
女の下着は金がかかってる事が多いから、絶対に手荒には脱がさない事。足を使ってずり下げるなど言語道断だ。
間違いなく二人の仲はそこで終りだ。」

“絶対”だの“言語道断”だの“二人の仲はそこで終り”だの言われて、アルベルトは、真剣な顔に戻る。

言われたとおり、丁寧な仕草で、グレイの下着をおろす。

「…あ…っ…!」

姿を現したモノのサイズに、アルベルトが息を呑む。

「どうした?」

先刻からの熱心な愛撫のせいで、それは半ば勃ちあがりかけていた。

思わず、自分のサイズと見比べるアルベルト。

「おっきー…。」

「そんなに眺めてるんじゃない。さっさと咥えろ。」

「えっ???」

ギョッとするアルベルト。

「え、じゃないだろう。経験値をつみたいんだろう?」

「だ、だって… シフにはこんなものついてないよ。」

「こんなものとはなんだ、人の大切なものを。男にこんなこと頼んでるんだ、ついてて当然だろう。嫌なら帰るんだな。」

ニヤニヤと笑いながら言うグレイ。

このくらいの役得は当然だと言わんばかりだ。

「わ、わかったよ…。」

意を決して、アルベルトは、グレイのそれをぱくんと咥え込んだ。

瞬く間に、口の中でグレイのモノが硬度を増す。

「いい子だ。」

「ん…っ んぐ…。」

「ま、女にも似たようなもんはついてる。これも優しく扱ってやれ。…いきなり指で皮を剥いたりするなよ。
い…今みたい…に、口で、やる方がいい。要…領…は、…っ…今と一緒…だ。……っ」

舐られ、グレイのモノはアルベルトの口に収まりきれないほどに大きくなる。

それを、アルベルトは必死に咥え込み、嘗め回す。

さすがのグレイも、声が上擦る。

「…くっ……」

「気持ち…イイ? グレイ…」

「・・・・・・・・・・・・・ああ・・・。」

それを聞いて、アルベルトは尚も一生懸命、剛直を吸いたてた。

「…アルベルト… 出るぞ。」

その言葉に、アルベルトは慌てて口を離そうとした。

が、一瞬早く、グレイの手が、アルベルトの頭を押さえつける。

「んっ!!! んんんーーーーーーーーーっっっ!」

口の中でグレイの剛直が跳ね、喉の奥に熱い奔流が迸った。

「飲めよ、アルベルト」

グレイはアルベルトの頭を押さえつけたまま離さない。

「んーーーっ! んーーーーっ!」

アルベルトがじたばたともがく。

が、逆にそのせいで、ごくり、と口の中に出されたものを飲んでしまった。

それを見て、グレイがようやく手を離した。

涙目が上を向く。

「ひどいよ、グレイ。」

グレイがくすくすと笑い出す。

「まぁ、そういうな。…こいよ。」

グレイが、すっと足を開いた。

その、なんという事はない仕草に、アルベルトは不意にどきりとする。

グレイは時々、やたらと色っぽい。

男だと分かっているのに、男以外の何者にも見えないのに、アルベルトは、時折、グレイに対して胸が高揚する自分のいることを、以前から自覚していた。

それが、“予行練習”の相手に、グレイを選んだ最大の理由かもしれない。

その想いに、アルベルトの股間は、素直に反応した。

グレイの膝頭を押さえて、更に開かせながら、足の間に体を割り込ませる。

「俺は男だから、今日はこっちを使うしかないが、シフの時に間違うなよ。」

笑い交じりでそう言いながら、グレイはアルベルトを導く。

アルベルトは、熱の先端を、グレイの窄まりに当てた。

「ほんとに、いいの?」

「ここまで来ていいのも何もないだろう。こいよ。」

促され、アルベルトは思い切って体を進めた。

「・・・・・・・っ・・・・・!」

思いの外、侵入は楽だった。

グレイの中は気持ちが良かった。

アルベルトの背筋を、ぞくぞくと愉悦が走る。

本能に突き動かされて、アルベルトは無我夢中で腰を振った。

「ぁ…っ…アルベルトっ…! も、もっと、ゆっ…くり…だ…っ!」

グレイが喘ぐ。

「無理、だよ、グレイ。やめらんないよ…っ」

「く…っ! うっ…」

「グレイっ! 僕、もう…っ… イクっ…!」

アルベルトの全身が震え、グレイの中に己の熱を解放する。

全ての熱を吐き出し終えると、アルベルトは、放心しきった様子で、ぺたん、とその場にへたり込んだ。

萎えたものが、ずるりとグレイの中から引き出される。

グレイが小さく呻いた。

それでも、努めて平静を装ってグレイは言った。

「相手の状態も見ずに勢いに任せてがんがんヤるやつがあるか、バカ。」

一呼吸置いて、更に続ける。

「終わっても背を向けて寝たりするんじゃないぞ。相手を抱きしめてキスの一つもしてやれ。腕枕もいいな。」

するとアルベルトは、おもむろにグレイに覆い被さり、その首に縋りついて、抱きしめた。

軽くその唇にキスしてから、アルベルトはにっこりと微笑んだ。

「すっごくよかったよ、グレイ」

「バカ。本番でシフに言えって言ってるんだ。」

「だって、本当に良かったんだもの。ちょっと自信ついたよ、僕。」

また唇が重ねられる。

「僕、いい生徒だった?」

「…まあまあだな。」

グレイが、薄く笑って答える。

ふと、アルベルトの股間が、半ば勃ち上がりかけているのに気がついた。

おい、と声をかけようとするより早く、アルベルトが、

「どうしよう… またしたくなっちゃった… 」

と、囁いた。

「おい、ちょっと待て…!」

「復習、復習。ね?いいでしょ?」

言いながら、アルベルトは再びグレイに覆い被さった。

何でそんなに元気なんだ、というグレイの抗議は、柔らかなキスに塞がれた。

 

結局、グレイが解放されたのは、明け方近くになってからだった。

“復習”と称して、アルベルトが何度その精をグレイの中に放ったのか、数え切れなかった。

さしものグレイも疲弊のあまりベッドの上で微動だに出来ないような状態だった。

そのグレイを尻目に、アルベルトは、よーしがんばるぞーと言いながら、びょんとベッドから飛び降り、鼻歌交じりで着替えると、意気揚揚と引き上げていった。

何でそんなに元気なんだ……

アルベルトを目だけで見送りながら、グレイは、若さというものを呪いつつ、泥のような眠りに引きずり込まれていった。

 

*     *     *

 

数日後。

夜更けに、またしてもグレイの部屋をノックする者があった。

出てみると、ジャミルが神妙な顔で立っていた。

「グレイ、…相談があるんだ。」

 

グレイは、無言でそのまま思いっきりドアを閉めた。

END.




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