その後の le BELLE et la BETE


【第六夜】のあらすじ

 

「なにやってんだ、俺ァ……。」

サンジは自室の床に、壁にもたれて座り込み、タバコをふかしながら天井のシャンデリアを見つめていた。

魔獣を洗ってやろう、と思っていただけだったはずなのに、気がつけば魔獣の性器をこの手で擦っていた。

あげく、「俺にかけろ」とまでねだっていた。

魔獣に射精されて、サンジもまた遂情していた。

ペニスに触れもせず射精したなんて、サンジは初めての経験だった。

射精してしまえば、男の生理は急激に醒める。

我に返ったサンジは、自分のした事に気まずい思いをしながら、自分と魔獣の体を綺麗にした。

魔獣も気まずかったようで、それから風呂を出るまで、一言も言葉を発しようとはしなかった。

「ほんと、なにやってんの、俺…。」

再度ひとりごちて、サンジは煙と一緒にため息をついた。

 

 

その日の夕刻、食堂に現れた魔獣を見たチョッパーは、魔獣の毛並みがさらっさらのもっふもふになっている事に気がついた。

サンジが魔獣の体を洗ってやったのだ、と知り、羨ましがるチョッパー。

そういえばメリー号ではチョッパーを洗ってやるのはゾロの仕事だったな、と思い出すサンジだった。

 

 

 

その日以来、魔獣は夜更けになるとサンジの寝所に忍んでくるようになった。

最初のうち、夜中に魔獣が布団にもぐりこんでくるたび、また強姦されるのではないかと危惧していたサンジだったが、魔獣はサンジを抱きしめて眠るだけで、性的な接触は全くしなかった。

魔獣が忍び込んでくる時、サンジは決まって寝たふりをしていたが、それもやがて面倒になり、就寝時になると、魔獣に、「おい、寝るぞ。」と、声をかけるようにすらなった。

 

褥を共にするようになると、二人の仲は格段に近くなった。

打ち解けるにつれ、サンジはどんどん無防備になっていく。

それと反比例するように、魔獣は決してサンジの肌には触れなくなった。

ただ毎晩、いとおしそうにサンジの体を抱きしめて眠る。

メリー号のゾロなら決してやらないそのしぐさに、サンジは何ともいえない寂寥感を覚えつつも、ゾロがこんな風に自分に接してくれるのなら、夢など覚めなくてもいいのかもと思い始める。

 

ある日、サンジはいつものように食事の支度をしながらチョッパーとおしゃべりをしていた。

話の流れでなんとなく家族の話になり、サンジは、姉や父が今どうしているのか心配な事をチョッパーに告げる。

その夜、サンジの元に現れた魔獣は、サンジに一つの鏡を手渡す。

それは魔法の鏡で、自分が見たい人の姿を映すというものだった。

さっそく家族の姿を見たがるサンジ。

すると、鏡に映ったのは、サンジがいなくともなんら変わりなく生活している家族の姿だった。

ゼフは元気そうに仕事に打ち込んでいるし、ロビンはサンジに代わって家事をこなしているし、ナミはルフィとのデートにはしゃいでいる。ルフィもサンジがいなくなったというのに、プロポーズしたことも忘れたかのようにナミといちゃいちゃしている。

そこにはサンジの場所などどこにもなかった。

サンジがいなくとも家族は機能しているし、サンジがいなくとも食卓には暖かな食事が出ているし、サンジがいなくとも家族は笑顔で過ごしている。

魔獣の元へ来たことは、確かに自分の意志だったし、偽善的なつもりなど毛頭なかったが、それでもやはり、心のどこかで、サンジの不在を嘆いて欲しかったという思いがあり、サンジは落胆を禁じえなかった。

そんなサンジを優しく慰める魔獣。

魔獣の胸に顔をうずめて涙するサンジ。

サンジの涙が止まったのを見計らって、魔獣は体を離そうとするが、サンジはそれを許さない。

そこで理性の限界が来た魔獣は、ついにサンジの体を押し倒す。

しかし、最初の強姦ときとは比べ物にならないほど優しくサンジを抱く魔獣。

飽くこともなくいつまでも抱き合う二人。

だからサンジは知らなかった。

団欒する家族が、サンジの不在にどうしようもない喪失感を抱えながら、お互いに他の家族を悲しませないように必死で笑顔を作っていたことを。

 

体を交わすようになり、サンジと魔獣の関係はどんどん密になっていた。

それにつれて、サンジの中でGM号のゾロと魔獣のギャップが大きくなってくる。

そんなサンジの心に気づいているのか、はたまた別の理由があるのか、魔獣もまた、時折酷く苛立った表情を見せるようになっていた。

すれ違い始める二人。

 

そんなある日、見るともなく魔法の鏡を見たサンジは、ゼフが病に倒れている事を知る。

仰天するサンジ。

すぐさま魔獣に、家に帰りたい事を告げる。

魔獣は、その理由も聞かず、「帰りたければ勝手に帰れ!」と激昂する。

魔獣が何かを誤解しているような気がしたサンジは、ここから逃げたいわけではないこと、ゼフが病気であること、必ず帰ってくる事を必死で訴えるが、魔獣は聞く耳を持たず、部屋に閉じこもってしまう。

後ろ髪を引かれつつも、チョッパーそりで家に帰るサンジ。

 

家に着き、ゼフの寝室に駆け込むサンジ。

すると、息も絶え絶えだったゼフは、サンジを見るなりベッドから転げんばかりの勢いで跳ね起き、サンジの体を掻き抱き、サンジの無事を涙ながらに喜んだ。

サンジのことなど当に忘れ去って仕事に打ち込んでいるとばかり思っていたゼフの様子に、驚愕するサンジ。

そこへ、ナミとロビンが入ってきて、二人とも号泣しながら口々にサンジの無事を喜ぶ。

予想外の展開にサンジは驚いて頭がついていかない。

一緒に住んでいた頃はナミは意地悪だったし、ロビンはそっけなかった。

だというのに、この変わりようは一体どうしたことだろう。

鏡で見たときだってサンジの不在を嘆いているようにも見えなかったのに、と、戸惑うサンジに、ロビンが、ゼフの病はサンジの安否を気遣うあまりのことだ、と告げる。

サンジが魔獣に殺されてしまったのではないかと心を痛め、けれど、それをロビンにもナミにも言うことができず、ずっと心の中で思い悩み続けたせいで、ついに倒れてしまったのだと。

そして、そっけないと思っていた姉までもが、元気そうでよかった、と涙を流した。

嬉しいやら戸惑うやらでどんな顔をしていいのかわからないサンジに、ナミが、なぜ帰ってこれたのかと問う。

もしかして魔獣は死んでしまったのかと。

魔獣は今も城にいる、と答えるサンジ。ゼフの病を知って帰してもらっただけで、またすぐ城に戻るつもりだ、と。

それを聞いてナミはしばらく何事か考え込んでいた。

そんなナミ達に、久しぶりに夕飯を作ると申し出るサンジ。

喜ぶゼフ、ロビン、ナミ。

サンジの帰還に元気を取り戻したとはいえ、まだ病身のゼフを寝かしつけ、サンジは台所に立つ。

城のような大理石のキッチンなどではないが、慣れ親しんだ自宅の台所を懐かしく感じながら料理をしていると、ロビンがやってきて、手伝いを申し出た。

そんなことは初めてだったので驚いたサンジだったが、そういえば、自分が不在の間はロビンが台所に立っていたのだったと思い出して、それを快諾する。

二人で並んで調理をしていると、ロビンが不意に、「同じように作っているのに同じような味にならなかった」と呟く。

そして、サンジに詫びる。

ロビンは読書が好きな勉強家の姉で、本来ならば母親のいない家族の母親代わりとなるべき長女であったが、家事には一切やる気を見せず、ひたすら勉強に邁進していた。

父にも妹達にも一切興味がなく、全く不干渉でいた。

だから、知らなかったのだと。全ての家事が末妹のサンジによってまかなわれていたことを。

サンジがいなくなって、代わりにそれを担うようになって、それがどれだけ大変だったか知った。

更には、家族に無関心だったばかりに、父の仕事がうまくいってないことも知らなかった。

うまくいってないからこそ、父はとても遠方まで商談に行かなければならなかったし、少しでも旅費を浮かせるために、あの日、吹雪の中を歩いて帰ってこなければならなかった事も。

そして、平然と高価な外国の本をねだった自分を恥じた。

一本の薔薇だけをねだった末妹の心根の優しさを思った。

「本当にごめんなさい」と美しい長姉に頭を下げられて、サンジはすっかり動揺した。

焦りまくってうろたえながらロビンを慰め、そして、ロビンのその謝罪を嬉しく思いなから受け入れた。

夕飯の時間になり、食卓につくと、ナミがいなかった。

しばらく待つと、ナミが頬を腫らしながら戻ってきた。

その痛々しい様子に、誰がやったのかと激怒するサンジ。

だがナミは、何でもないと言い張り、明るい顔で食卓に着いた。

ナミの頬をしきりに気にするサンジに、ナミは、そんなことより、と居住まいを正し、サンジに頭を下げる。

ロビンに次いでナミからまでも謝られたサンジは盛大にうろたえる。

そんなサンジに苦笑しながら、ナミもまた、その思いを吐露する。

ナミはサンジに嫉妬していた。

サンジが亡き母譲りの金髪であること、なまじ自分の髪がオレンジだからこそ妬ましくて仕方なかったこと、自分よりもサンジのほうが父に愛されていると思っていたこと、そればかりかルフィまでもがサンジに取られたと思っていたこと。

悔しくて妬ましくて憎くて、ずっと意地悪をしていた。

魔獣の城に行くと決まったときもいい気味だと思っていた。

サンジがいなくなって初めて、その喪失感に愕然とした。

父が倒れて、何故サンジが城に行けばいいなどと言ったのだろうと心から後悔した。

「ごめんなさい」とナミが泣きながら謝罪するのを見て、もうサンジはパニック寸前だった。

なんとかその場を取り繕い、食事を再開する。

ナミは泣きながらサンジの作った料理を食べ、すごくおいしい。と笑顔を見せた。

そして、「もう二度とサンジ君に意地悪などしない。サンジ君はあたしが守って見せる。だってあたしはお姉ちゃんなんだもの。だから、またみんなで一緒に暮らそう?」と、サンジに訴える。

家族は愛しい。だが、魔獣のことも捨てられないサンジは、戸惑い、返事が出来ない。

どうして家に戻ると言ってくれないのか、とサンジに詰め寄るナミ。

家の事を心配してるなら、ゼフの仕事はロビンがその知識を生かして手伝うようになったし、ナミも家事を協力してサンジ一人の負担にさせないようにするから、と言うロビン。

戸惑いながら、それでもサンジは、けれど自分は城に戻らなくてはならない、と皆に告げた。

「そんなのあたしが何とかしてあげるから!」というナミに、サンジは必死で首を振る。

そして、みんなが恐ろしいと思っているあの魔獣は、それほど悪い奴ではない。ただ不器用で、純粋なんだと、しどろもどろになりながら説明する。

魔獣がどれだけ自分に心を砕いてくれたか。

ゼフが手折った薔薇を、魔獣がどんな風に慈しんでいたか。

自分が作った料理を、魔獣がどんな顔で食べてくれたか。

魔獣がどれだけ暖かいか。

必死になって言葉を尽くすサンジに、怪訝そうな顔になる家族。

そしてついにロビンが、「あなたまさか魔獣を愛しているの?」と尋ねる。

みるみるうちに真っ赤になるサンジの顔を見て、ナミが急に、引きつった悲鳴を上げる。

何事かと家族が見る中、ナミが真っ青な顔で、サンジを救おうと、ルフィを魔獣討伐に行かせた事を告げる。

ナミの腫らした頬は、全てを知ったルフィからの愛の叱咤の一発だったのだ。

ルフィが魔獣を殺しに行ったと知ったサンジは、すぐさまその場を駆け出した。

 

速攻で城に戻ると、城はルフィたった一人のせいでぼろぼろになっていた。

あの馬鹿野郎、と毒づきながら、サンジはルフィと魔獣を探す。

慌しく魔獣の部屋に駆け込んだサンジが見たものは、ルフィに「刀」で袈裟懸けにされる魔獣の姿だった。

血しぶきを上げて倒れていく魔獣の姿が、鷹の目に斬られたときのゾロの姿とダブり、思わずゾロの名を絶叫するサンジ。

怒りに任せてルフィを蹴り飛ばし、魔獣を救うサンジ。

魔獣の体を抱き起こしながら、サンジは、「何で抵抗しねぇ!死にてぇのか、このバカが!」と怒鳴る。

それに弱々しく笑みを返し、「もうお前は帰ってこないのだと思った」と呟く魔獣。

そして、「サンジがいないなら生きてても仕方がない」と弱音を吐く。

 

サンジ「仕方なくなんかねぇ!てめぇは生きるんだよ!生きて、大剣豪になるんだろうが!!」

魔獣「大…剣豪…?」

サンジ「お前は大剣豪になって、俺はオールブルーを見つけるんだ!それまで死ぬとか許さねぇぞ!俺の飯食ってんのに死ぬとか許さねぇからな!!ゾロ!!!」

サンジ「俺の惚れたロロノア・ゾロはこんなとこでくたばる男じゃねぇだろうが!!!」

 

その瞬間、魔獣にかけられていた魔法が解ける。

魔獣の姿が見る見るうちに、サンジのよく知った、ロロノア・ゾロの姿になる。

ルフィの斬った傷は、そのままあのよく知ったゾロの傷として、その体に刻まれている。

唖然としてそれを見つめるサンジ。

思わずへたり込むサンジに、血まみれのまま、ゾロがにやりと笑う。

「心配しなくても大剣豪になるまで俺は死なねぇよ。だからてめぇは俺の傍で一生飯作ってろ。」

そう言って、力任せにサンジの体を引き寄せ、噛みつくように口付けるゾロ。

涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、それを全身で受け止めるサンジだった。

 

2015/05/14

 


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