■ 裏切りの代償 ■


§ 危険な快楽 §

 

「や…め、ぁ…、もぉ、やめ、て、くださ…。」

切れ切れの哀願と、濡れた粘膜が出す淫らな音。

サンジは今、ささやかな幸せを築き上げてきた公団アパートの部屋で、夫婦の寝室で、ダブルベッドの上で、夫ではない男に抱かれようとしていた。

ゾロの口付けが体のあちこちに落ちるたび、ゾロの指先が体のあちこちに触れるたび、サンジの体は快楽に跳ねる。

浅ましいほど、貪欲に。

「…ゾロ、様…っ…。」

サンジが思わず口走ると、ゾロの顔がふと歪んだ。

「お前はもう、ロロノアのメイドではないだろう?」

その目が、残忍な光を帯びる。

「お前は、ポートガスの、奥様、だ。」

吐き捨てるように、言った。

何事か言いたげにサンジが潤み始めた瞳でゾロを見上げる。

けれど、言葉にはならない。

「淫乱。」

突然耳元で、低く囁かれた。

冷水を浴びせ掛けられたような、言葉。

「亭主じゃない男に犯られてんのに、随分と良さそうだな。」

その声音には、ありありと軽蔑が篭もっている。

「それとも、亭主裏切ってもなんてことない、か? あの時、俺を平然と裏切りやがったように。」

どくん、とサンジの心臓が音を立てた。

きつく目を閉じる。

そうだ。裏切ったのは、サンジの方だ。

これは、裏切りの代償。

 

だけど…ゾロ…だけど…

 

ゾロの愛撫はやまない。

冷たい言葉とは裏腹に、触れてくる指は、どこまでも優しい。

優しくて、残酷だ。

サンジの体を容赦なく快楽に叩き落す。

心はこんなにもズタズタなのに。

その事こそが、何よりもサンジの心を絶望に引き裂く。

「も、許し…許して…。」

嗚咽が漏れそうになるのを、必死で堪えた。

ゾロの指先はさっきから執拗にサンジの乳首を嬲っている。

「ふ…っ…、う、ンぁ…、んん…。」

乳首を弄られるだけで、びくびくと震える自分の体が恥ずかしい。情けない。いたたまれない。

なのに、拒めない。

ゾロの歯が、かり、とサンジの乳首を甘噛みした瞬間、

「んんッ…!」

サンジの体が細かく痙攣して、屹立した性器から白濁した蜜があふれ出た。

くっくっくっ、とゾロが冷笑する。

ゾロの指と舌から与えられる快楽は、暴力的なほどにサンジの体を蕩けさせる。

吐精したばかりの性器を、熱い口内に絡めとられ、サンジは全身をのけぞらせた。

「ひ、ぃあ…ッ ア…!」

ゾロがサンジのモノを咥えたまま、にやりとする気配がした。

かあっとサンジの顔に朱が走る。

逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。

 

逃げ出すところなど、どこにもないのだけれど。

 

ゾロの指が、サンジの後孔をまさぐり始める。

「んぅっ…!」

サンジの体が竦む。

「…力抜け。そんなにガチガチじゃあ指も挿らねェ。」

淡々と、ゾロが言い放つ。

それでもサンジの体に力が入ったままなのを見ると、

「今さら勿体ぶるのか? 早くぶち込まれてぇンだろう?」

と、その顔にどす黒い笑みを浮かべて、ゾロは言った。

その言葉だけで、サンジの心からは血が噴き出す。

 

この胸を切り開いて、血だらけの心をゾロに見せることができたらいいのに。

それでもゾロは、嘲笑(わら)うだろうか。

淫乱、と。

嘲笑(わら)うだろう。

だってそれこそが、ゾロの望んでいる事だから。

 

サンジの体がなかなか開かない事に焦れて、ゾロは強引に、サンジの後孔に指を捻じ込んだ。

「つゥッ…!」

その痛みに、サンジが声をあげる。

ちっ、とゾロが舌打ちした。

「ずいぶん狭いな。…もしかしてご無沙汰だったか? なるほど。それでがっついてやがんのか。」

わざと下卑た言い回しをしている、と思った。

サンジを蔑むために。

サンジを貶めるために。

ゾロをこんな風にしてしまったのは、自分だ。

それが何よりも悲しくて、サンジは唇を噛む。

ゾロの目が、ベッドサイドのベビーオイルを見つける。

迷わずゾロはそれを手に取りサンジの股間にとろりと垂らす。

「…ッ!」

冷たさに、サンジの体が竦む。

構わず、ゾロはベビーオイルをサンジのそこに塗りたくった。

ぽたぽたとシーツにオイルが滴り落ちるほど。

ぬめりに任せて、後孔に指を潜らせる。

「う、ゥ…ッ…。」

異物感に呻いたサンジに、ゾロは「せいぜい可愛らしく啼いてみろ。淫乱奥様。」と囁いた。

オイルまみれの後孔が、ぐちゅぐちゅと淫らな音を立てる。

羞恥で、死んでしまいそうだ。

「ン、く…ぁ、ッ!」

後孔を指で犯されながら、屹立した性器を舐められた。

時間をかけてゆっくりとほぐされた。

中の敏感なところをゾロの指で擦りあげられて、サンジは、すすり泣きのような声を漏らした。

抑えようなくこみ上げる射精感に、腰が浮いた瞬間、唐突に指は引き抜かれた。

ずるり、という抜かれる感触に、サンジは呻く。

後孔に押し当てられた熱い塊の感触に身を固くする。

「ゾ、待っ…!」

身じろいだその時、熱い塊が、ぐり、とサンジの中を穿った。

「ンンッ────!!!!!」

ぐぶぐぶと、己の中に、熱く固い肉が容赦なく沈んでいく。

焼け熔けた鉄で貫かれているのかと思うほどの、その熱さに、サンジはのけぞった。

「あ、あっ… うあ… ア、ああっ」

見開かれたアイスブルーの瞳から、涙が零れ落ちた。

生理的なそれか、それとも、感情のこもったものか。

ぎり、と、サンジを組み敷いた男の奥歯が、軋んで鳴った。

「力を抜けっ…!」

「ひ、ひぁッ! あ、まっ…待っ… ゾロ、あ…ゾロ…っ」

「く…っ…」

熱い塊が、何度も体の中を穿つ。

もう、やめて欲しいのか触れて欲しいのかわからない。

サンジは自分に覆い被さる逞しい体に、夢中でしがみついた。

5年前、何度も何度もそうしたように。

 

ゾロ、ゾロ。

 

────愛してる。

愛してる愛してる愛してる。

 

けれどそれは言葉にはならない。

してはいけない。

だって自分から離したのだから。この熱を。

 

「ゾロっ…、ゾロ、ゾロ、ぁ、ゾ、ああっ…、ゾロ…。」

熱に浮かされたように、ゾロの名を呼ぶ。

何度も。

ゾロの抽迭が一気に早くなった。

「あァッ! ひあ…、や、ゾロ…っ、んんっ…!」

サンジの中のゾロが、ひときわ熱くなった、と思った瞬間、サンジの意識は真っ白な闇に埋め尽くされていた。

 


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