■ サン誕小説 ■
はぁ〜
ゾロは、ぼんやりと甲板に寝転がりながら、ため息をついた。
「どうするかな…。」
一見、いつもの如く惰眠を貪っているとしか見えないその姿は、実は、今日は一睡も昼寝をしていない。(夜は熟睡した。)
ゾロは悩んでいた。
「誕生日プレゼントか…。」
青い空に青い海に白い雲。
晴天だ。
ナミが夕方には島に着くといっていた。
なら、気候はこの船の上とそれほど変わらないだろう。
夜はどこだかでコックの誕生パーティーだ。
「つーか、ガラじゃねェ。ぜってーガラじゃねェ。どのツラ下げてプレゼントだよ、俺。」
だいいち何をプレゼントをするかも決まっていない。
欲しいものはあるか、とサンジに聞けば、たぶん、十中八九、「鍵つきの冷蔵庫」、と即答されるだろう。
でも、誕生日のプレゼントに冷蔵庫ってなどうなんだ、と思う。
それに、そんな、みんなの目に入るデカイものをプレゼントするのは、ちょっと抵抗がある。
ぶっちゃけ恥ずかしい。
毎日みんながラウンジに集まって冷蔵庫を見るたび、これがゾロの愛の証の冷蔵庫、とかみんなに(特にナミに)思われるかと思うと、どうにもこうにもケツがカユイ。
そもそも鍵つき冷蔵庫なんて買ってやる金を、ゾロは持っていない。
ゾロの希望としては、
であれば、言うことはない。
本人に聞くのが早ェか。と思いながら、ゾロはラウンジに入っていった。
ラウンジの中は甘い香りが充満していて、サンジが、いつものように忙しく立ち働いていた。
小じゃれたカップが2つ並んでいるところを見ると、またナミとロビンに出すおやつの用意でもしているのだろう。
「ク─────」
ソコック、と呼びかけようとして、ゾロはためらった。
誕生日プレゼントの希望を聞くのに、「クソコック」はねェか、と、ふと思ったのだ。
じゃあなんて呼ぶんだ。「エロコック」か。
「エロコック」、なんて呼んだら、まず間違いなく、最後の「ク」を発音するかしないかのうちに蹴りが飛んでくるに違いない。
じゃ、「ステキ眉毛」か。…よくてアンチマナーキックコースだな。
絶対に「欲しいもの」なんて答えてもらえないに違いない。それ以前に会話すら望めない。即ケンカ突入だ。
といって、「サンジ」とは呼べない。
絶対呼べない。
少なくともお天道さんが顔を出してるうちは絶対に絶対に呼べない。
いいかげん夜も更けて、薄暗い格納庫の奥で、サンジの白い肌に酔いまくってる時のきわっきわの時に、一回だけやっとの想いでなけりゃ、とてもじゃないが口に出せない。
それくらいゾロにとっては特別な特別な意味を持つ名前なのだ。
呼びかける、という、会話の初歩の初歩でつまづいた剣士は、ラウンジのドアを開けたまま、一言も発せず立ち尽くしていた。
オーブンからふわふわの焼きたてホットビスケットを出して、バスケットに美味しそうに盛り付けていたコックは、出入り口に立ち尽くす不審な剣士を見て、小首をかしげた。
「どうした、クソ剣士。酒か?」
「いや… 」
ゾロも、ここですぐ、「誕生日何が欲しい?」と聞けばよかったのだろうが、思わず一瞬言いよどんでしまい、黙ったままテーブルにつく。
「酒呑まねェなら、茶ァ飲むか?」
サンジがなおも聞いてくる。
「俺に女どもと一緒にティータイムだのしろってのか。」
「アフタヌーンティーってんだ、アホ。誰がてめェにナミさんとロビンちゃんに供する高価なお紅茶を飲ませるかってんだ。ボケ。」
仮にも恋人に対して、アホにボケときたもんだ。
ゾロのこめかみに、びしぃっと血管が浮く。
犯すぞ、この野郎。
だがサンジはそんなゾロの様子など素知らぬ態で、
「そうじゃなくてよ。」
と、戸棚の中から小さな紙包みを取り出す。
「こないだ上陸した島でな、“新茶入荷”って看板出してた店があったんで、」
言いながら、紙包みの中身をさらさらと急須に落とす。
「試飲させてもらったらうまかったんだ。てめェの
急須に湯を注いで、注意深く蒸らす。
いつどこで買ったのか、渋い色合いの湯飲みを出してきて、茶を淹れる。
馥郁たる芳香が辺りに漂う。
すっと差し出された、美しい翡翠色の緑茶。
懐かしい香りに、ゾロは目を細めた。
お茶うけには、白菜ときゅうりの浅漬け。
一体いつの間に漬けていたのか。
これで握り飯があったら俺はもうむせび泣く、と思ったので、そう言ったら、サンジは薄く笑いながら、「塩握りでいいか?」と、すぐに小さめの三角おにぎりを2つ握ってくれた。
茶を啜り、漬物を齧り、握り飯をもさもさ食いながら、ゾロは、すぐにビスケットの盛られたバスケットに戻るサンジを見ていた。
いつもサンジが見せてくれる、こんな風な気遣い。こんな風な優しさ。
こんな風にたやすく、無造作なほどにさりげなく、ぽんと差し出してくれる、小さな幸福。
こんな風に人に与える事のできるサンジを、心底すげェ奴だと思う。
自分は人から奪うばかりだ。
何かを与えた事などない。
今こんな時、それをとても、歯痒く思う。
このコックに何かしてやりたいと、そう強く思う。
彼が望むものを与えてやりたいと。
サンジの誕生日。
何がいい?
何をやれる?
ゾロの目はさっきからずっとサンジを見ている。
さらさらと横顔を隠す金の髪。
あの金の髪は、さらりと細くて手触りがいい。
隠された左側の顔は、ゾロがサンジを組み敷く時だけ、乱れる髪の下から現れる。
あらわになったサンジの顔は、ほんとに整ってる、と思う。
顔の造りが整ってる分だけ、ぐるぐるの眉毛の変さといったらない。
どっちの眉毛もぐるぐる巻いてて、すごく変だ。
すごく変だと思うのに、すごくかわいいとも思う。
つか、ゾロの中では既にそれはサンジのチャームポイントだ。
慣れとは恐ろしい。
今ではぐるぐる巻いてない眉毛なんて考えられないとまで思ってしまっている自分がなんとなく怖い。
サンジの瞳は、綺麗なアイスブルーだ。
ひんやりしていて、透明で、硬質で、どこか冷たい印象を与える瞳だ。
もしサンジの眉毛がぐるぐるでなかったら、あのツラはどこか取り澄ました、気取ったツラになったろう。
だから、あの顔は眉毛が巻いてていいのだ。
眉毛ぐるぐるで正解だ。
そういやいつだったか、メガネかけてたことがあったな。
アラバスタでか。
…メガネか。
メガネはどうだ。プレゼント。
…なんかイヤだ。
あの美しい色の瞳を隠してしまうのはもったいない。
ゾロから見るサンジの横顔の口元は、薄く笑っている。
機嫌がいいのだろう。
軽く鼻歌なんぞも口ずさんでいる。
こういうサンジは悪くない。
だが、あのアゴの無精ヒゲはどうなんだ、とゾロは思う。
だいたい、何だ、あの申し訳程度にちょびちょび生えたアゴヒゲは。
生やすんならもっさり生やす、剃るんなら綺麗さっぱり剃る。
どっちかにしろと言いたくなる。
もっともゾロは知っている。
サンジはあまりヒゲが生えない体質なのだ。
剃らずにいても、あのアゴヒゲはなかなか育たない。
あのまま伸ばしたとしても、変な怪しい中国人風どじょうヒゲにしかならない。
だから、あんなヒゲなんて剃っちまえばいいんだ。
あの細面にヒゲなんて似合わねェっての。
せっかくキレイなツラしてるんだから、小奇麗に整えやがれ。
お、これどうだ。
誕生日プレゼント。
電気シェーバー。
…ダメか。ダメだな。
蹴りが来る。本気の蹴りが。
じゃあどうする。
ゾロは再びサンジをじっと見る。
サンジは、メープルシロップを、ビンからハニーポットに移している。
その器用に動く指も、ゾロは好きだ。
サンジが何よりも大切にしている、手。
夜、裸になって抱き合う時、サンジの指はいつも、ゾロの胸の傷に触れる。
つうっと、サンジの指が傷に触れただけで、ゾロの全身は総毛立つ。
ちんこも勃つ。
あの指がゾロの傷を撫でたり、ゾロの頬に触れたり、ゾロの髪に差し入れられるだけで、あっけないほどにゾロを煽る。
決して細い貧弱な指ではないのに、しなやかで、繊細で、少し神経質な、指。
やべェ、とゾロは頭を振った。
やべェやべェ。
こんな事考えてたら、おっ勃つ。
昼間っからサカるのはさすがにどうか。
…あの指を飾る、指輪でも買ってやろうか。
─────指輪?
ゾロは、自分で自分の考えにギョッとした。
いや、やべェだろ、それは!
指輪?
俺が?
奴に?
なんて言って渡すんだ。
あの、ほれ、あの、青いビロードとかいう布のついた、こう、ぱっかんて開くいれもんに入ってるんだよな、指輪ってのは。
それをこう、見せんのか?
これやる、とか言ってみちゃったりするのか?
それじゃまるでそれじゃまるで…。
プ…
プロっ… プロポーズ…みたいじゃねェか。
プロポーズっ!?
クソコックにプロポーズ!?
いや、それは、あの、だけど、ゆ、ゆくゆくは、考えなくも、いやあの、奴がどうしてもって言うなら俺もやぶさかでは、いやその…
だあああああああああああっっっっ!!!
ダメだダメだダメだダメだダメだ!!!
指輪はなしだ、指輪は!
うあ、焦った。
何で野郎の誕生日プレゼント考えるだけで、俺、こんなに汗だくになってんだ。
そうだ、プレゼントだよ、プレゼント。
メガネもダメ、髭剃りもダメ、指輪もダメ、で、あと何がある。
服でも買ってやるか?
しかし奴は服の好みうるせェからな。
だいたい服なんざ、着せるより脱がす方が好きだしなぁ。
着やせすんだよな、あいつ。
あれで、脱ぐと結構ちゃんと筋肉がついてる。
俺の筋肉とはまったく種類は違うがな。
柔らかで、しなやかで、敏捷な、猫のような筋肉だ。
あいつの場合は山猫か。
機嫌を損ねると毛を逆立てて怒りやがる。
それを組み伏せて肌に噛み付くと、最初こそ口汚くののしってくるが、だんだんその声は喘ぎに変わっていき、最後はおとなしくなる。
そん時の奴は、ハンパじゃなく、エロい。
何度でもヤレんじゃねェかってくらい、エロい。
俺のでけェのをつっこんでやると、歯を食いしばりながら腰をくねらせる。
もう壮絶にエロい。
だいたいあの細っこい腰に俺のブツが入ることが信じられない。
ケツの孔だってむちゃくちゃ小さいのだ。
奴の体はどこもかしこも色素が薄いから、乳首もケツもピンクだ。
何べん舐め回しても、突っ込んでも、次の時にはもう、男に突っ込まれた事なんかありません、てなピンク色に戻っている。
こんなとこに俺のを入れたら壊れちまうんじゃないかと思えるほどだ。
実際、初めての時は裂けちまって大変だった。
さすがの俺も、尋常じゃない量の血が奴のケツから滴ったのを見たときはかなりびびった。
でも、さすがにエネルの電撃を2度も受けても死ななかった奴だけのことはある。
奴のケツはとっとと治ったし、そのあと、回を重ねたら、俺のブツを根本まで咥え込めるようになっちまった。
奴の感度もどんどん上がっていって、今じゃ、ケツに突っ込んだだけで射精しちまうくらいだ。
あのケツはイイ。
最高に気持ちがいい。
根本まで思いっきり突っ込むと、中でぐにぐに孔が動くんだ。
まるで俺のを呑みこもうとしているみたいに。
そん時の奴の顔がまたエロい。
奴は喘ぎ声を俺に聞かれるのをすごく嫌がる。
だからいつもやり始めの時は声を押し殺している。
だが、奴の体ははっきり言って過敏症なんじゃねェかってなくらい敏感だ。
ちょこっと舐めただけでびくびくってなりやがる。
だから突っ込んだ時なんかはもう、奴の頭はぶっ飛んじまってる。
あの掠れた声で喘がれたり、俺の名前を切なげに呼ばれたりすると、もうたまんねェ。
いっつも人を小ばかにしたように見る、あの瞳が、とろんと潤んでくる。
目ン玉えぐりだして食っちまいたいほどにエロい。
正直、俺はもっと持つ方だと思ってたんだが、いつも奴の痴態に追い立てられるようにイッちまう。
本当はもっと、優しくしてやりてェとも思うんだがな。
たまにはあの金髪頭を撫でてやったり、もっと、あんなふうに性急にじゃなく、ゆっくりと、穏やかに、抱いてやりたいとも思う。
1回か2回、ヤッちまったあとなら、もう少し余裕ができると思うんだが。
奴はコックだから夜遅くて朝早い。
だからいつも、ヤる時は1回か、いいとこ2回までだ。
もう1回やらせてもらえば、もっとてめェを良くしてやれる、そう思うんだが、コトが済んだ後、奴はさっさと服を着て格納庫を出て行く。
ぶっちゃけ俺は1回や2回じゃ足りない。
できるなら、一晩中でも抱き合っていたい。
それは絶対に奴も同じはずだ。
奴は俺とヤる時、いつでも最後にはもっともっととねだりながらしがみついてくる。
奴だって足りねェはずだ。
もっと俺にやられたいはずだ。
あいつ相手なら俺のちんこは何度でも使用可能になる気がする。
10回くらいは楽勝でできる。
きっとできる。
もしかしたら20回とかできるかも知れねェ。
今日のサンジの誕生パーティーは、夕方につく予定の島で外食、とナミが言っていた。
って事は、夜は宿を取るんだろう。
宿を取る。って事は、一晩中ヤリまくるチャンスだ。
もちろん奴はまたぎゃーぎゃー言うだろうが、そんなもん強引にちんこの一つも舐めてやりゃあ、どうせすぐにあんあん言い出すに違いないのだ。
サンジのアノ時の声だとか。
ちょっと舐めただけですぐに透明の液を漏らすブツだとか。
ひきしまった腰だとか。
感極まった時に束の間見せる甘えたような仕草だとか。
ひくひくとゾロのモノを掴んで離さない穴だとか。
あんなことだとかこんなことだとか。
妄想で悶々としていたゾロの前に、サンジが怪訝そうな顔で近づいてきた。
ゾロは慌てて神妙な表情を作る。
とはいえ、どんなに頭の中をピンクの妄想でいっぱいにしていたとしても、それをみだりに顔に出すような真似はしていないはずだ。
頭の中のサンジはそりゃもうすごい事になっていたけれど、ゾロの顔はずっと平然としていたはずだ。
完璧に。
けれど、サンジはなんだか妙な顔をしてゾロを見ている。
怪訝そうな、というか、不審そうな。
というか、気味悪そうな。
「クソ剣士。」
嫌そうに口を開いた。
「鼻血たれてんぞ。」
* * *
その夜。
「HAPPY BIRTHDAY! サンジ!」
クラッカーぱーん
シャンパンぽーん
ロウソクふーっ
拍手ぱちぱちぱちぱち
クルー達はいつにも増して賑やかな雰囲気に包まれていた。
ナミが選んだレストランの料理は、どれもこれも地元の料理でとてもおいしかった。
「たまには食うだけってのもいいな。」
「サンジ! これも食え! これもうまいぞ!」
「なぁなぁサンジ、この料理ってサンジも作れるか?」
「サンジ君、はい、プレゼント。」
「ああ〜っ俺なんにも用意してないぞ、プレゼント!」
わいわいがやがやと実に賑々しいクルー達をよそに、ゾロは、密かに口元に親父のようなスケベ笑いを浮かべていた。
宴もたけなわになり、それぞれが好き勝手に行動を始めた頃、ゾロはサンジを外に連れ出した。
「どこ行くんだよ。ナミさん達がまだ………。」
「ナミ達はもう、後、適当に宿に引き上げるだけだ。」
ゾロはサンジをぐいぐい引きずってどんどん歩く。
その先にはホテル街のネオンが光っている。
こんな時のゾロはなぜか迷子にならない。
一心不乱にホテル街目指してずんずん歩いていく。
「ちょ、ちょっと待てよ、ゾロ!」
必死でもがくサンジ。
それを、ゾロは力任せに押さえつける。
「いいから、こい! クソコック!」
「クソコックたぁなんだ!離しやがれ、クソ剣士!」
このままではサンジが蹴りを繰り出して甘い雰囲気も何もあったもんじゃない、と判断したゾロは、おもむろに、がばっとサンジを抱きすくめた。
面食らうサンジ。
「な、に…」
「今日、てめェの、誕生日だな。」
突然真剣な声で言われ、サンジは目をぱちくりさせる。
「なん、だよ、突然…。だからさっき、みんなで飯食ったんだろうが。」
言いながらも、サンジの頬は、照れたのかほんのり赤くなっている。
「誕生日プレゼント。」
「は?」
「やる。」
「え?」
サンジの顔が見る見る赤くなったかと思うと、にわかに挙動不審になる。
いや、そんな、てめェにそんなものもらえるなんて、とか、どんなツラして野郎にプレゼントだよ、とか、視線をあちこちにさまよわせながら言い募っている。
どうやら盛大に照れてるらしい。
そんなサンジがとてつもなくこの上なく可愛らしい、と思ってしまうあたり、ゾロもかなり終わっている。
「だから、その辺で宿取ろうぜ。」
そう言って、ゾロは再び、サンジを引きずってホテル街へ向かおうとする。
その唐突な展開に、「え?」「え?」とサンジが間抜けな声をあげている。
「ちょっ…待てよ、ゾロ! なんでわざわざ宿取るんだよ。」
「わかんねェ奴だな、だから祝ってやるって言ってんじゃねェか。」
「は?」
ゾロはくるっと恋人を振り向いた。
「てめェの19歳の誕生日だろ?」
全開の笑顔だ。
「だから、19回ヤッてやる。今夜は寝かせないぜ。サンジ。」
全開の笑顔だった。
その場で、サンジが今まで培った蹴り技の全てを華麗にご披露した事は言うまでもない。
END.
2004/03/05
この小説はゾロ誕話と対になっています。なのでこの小説にもタイトルをつけませんでした。ええ、タイトルウェアです。
サンジ君が作中で作っている「ホットビスケット」は、クッキーのような奴ではなく、いわゆる「ケンタッキーのビスケット」です。
あのパンっつーかケーキっつーかな奴。