【 飽食 】 side:ZORO
「餓えてんだ、てめェに。」
そう、耳朶に噛み付きながら囁いたとたん、クソコックの体はびくりと震え、そして一切の抵抗が止まった。
それまでの死に物狂いの暴れようが嘘のように。
「餓え」は、こいつが全てを享受するキーワード。
わかってて、口にした。
卑怯だと分かっていながら。
だって本当に餓えてたから。こいつに。
ずっとずっと触れたかったのだ。この肌に。
もう、ずっと前から。
だから。
だから、俺に、
─────喰われろ。
薄い絹地のシャツを、力任せに引き裂く。
女の悲鳴のような音がして破かれたシャツの下から、白い肌が覗いた。
コックの顔が、歪む。
気に入りのシャツを裂かれたからか。
それとも男に組み敷かれる屈辱からか。
そのくせ、抵抗は一切しない。
無造作に体を投げ出している。
普段の、うるさいほど饒舌な口も、頑固に引き結んだきり何も発しようとしない。
目を伏せ、視線すら合わせようとしない。
何をされても何も感じてないというふりでもする気か?
─────薄い胸板の下、こんなに心臓がどくどくと早鐘を打っているのに?
顎を掴んで強引にこちらを向かせ、反らして伏せていた目を覗き込む。
ビー玉がはめ込まれたみたいな、ひんやりと透き通ったアイスブルーの瞳。
こうして覗き込めば、いっぱしに睨み返してくる。
いい目だ。
ぞくぞくする。
その目でずっと見てるがいい。
誰がてめェを犯そうとしているかを。
これはきっと愛じゃない。
こんなものが愛であるはずがない。
こんな、相手を喰らいたいと思うような、薄暗い、薄汚い、こんな想いが、愛なんかであるものか。
目を開けたまま、奴に口づけた。
食い縛った唇をこじ開けて、口の中を貪る。
当然、奴の舌が答えてくる事はなかったが、構わずに、強引に舌を絡めた。
口腔に残る、タバコの匂いと味に、生々しく「サンジを犯している」と感じた。
それがいきなり下半身にキた。
くそ…。
挿れる前に、出ちまいそうだ。
すぐにでもこの痩身に、猛り狂った奴を捻じ込みたかった。
だが、口腔を陵辱するこの感触もまだまだ楽しみたい。
ようやく、触れる事の出来た、躰。
ガラにもなく、焦っていた。
執拗に唇を貪っていると、息苦しくなったのか、クソコックが緩慢に抗いだした。
顔を背け、「…っは…」と切れ切れに息を吐く。
「…てめ、しつけェ…」
小さく呟く。
しつこい、と言うだけで、やめろ、というつもりはないらしい。
そんなにも、怖いか。他人の“餓え”が。
気に食わない奴に、その体を惜しげもなく好きにさせるほどに?
イラついた。
自分で「喰わせろ」と言ったくせに、こいつがすんなりと抵抗をやめた事に。
どうしようもなく、イラついていた。
白い首筋に、かぶりつく。
一瞬、びくりと奴の体が震えた。
…何?
首筋を甘噛みしながら、皮膚の下の鎖骨の感触を、楽しむ。
奴の体が、また身じろぐ。
…ビビってんのか?
らしくもねェと思いながら、鎖骨から、胸元に舌を這わせる。
「………っ………」
微かに、吐息に混じって、本当に微かに、コックが声を上げた。
愕然とした。
違う。
ビビってるんじゃねェ。
…感じてやがる。
ごくり、と滑稽なほど喉が鳴った。
マジか、こいつ。
まだキスして首舐めただけだ。
それなのに、感じてやがんのか。
小さな淡い色の乳首を、爪で引っかく。
さっきよりもはっきりと体が震え、「くっ」と奴の喉が鳴るのが聞こえた。
さあっと、白い全身に鳥肌が立つ。
柔らかい乳首が見る見る形を変え、固く立ち上がる。
想像以上のエロさに、眩暈すらする。
エロコックの乳首を、揉み潰すように、乱暴に捏ねる。
もう片方の乳首に、歯を立てる。
コックの体が跳ねた。
見上げると、真っ赤な顔で歯を食い縛っている。
喉仏がひくひくと上下している。
わざと音を立てて、乳首を吸い上げてやった。
何度も何度も、爪で弾く。
「…ひっ…!」
ついに、耐え切れぬように、食い縛った歯の間から、はっきりと嬌声が漏れた。
たまんねェ。
なんなんだ、こいつのこの、エロさは。
男に姦られてんのに、感じてんのか?
不意に、内心を焦燥が駆けた。
まさか。
まさかこいつの体は…男に抱かれた事が…ある?
ざわり、と、心の中の嫌な部分を、何かに無造作に引っかかれた。
俺の他に、この体に触れた男が、いるかもしれない。
心の臓を一掴みにされたような、衝撃。
視界が、瞬く間に真紅に染まる。
なんだ、この、どす黒い、赤は。
すぐに思い至った。
そうか。これが…────────嫉妬か。
目も眩むような、己の中の醜い感情。
ぎり、と奥歯を噛み締める。
意識して顎から力を抜いて、奴の乳首を舐め上げ、歯で引っ掛けて、くっと強く、噛んだ。
「…うっ…!」
痛かったのだろう、咄嗟に奴の手が押しのけるように俺の頭に触れた。
すぐに、ためらうようにその手は離される。
本気で俺にてめェを“喰わせる”気らしい。
このまま…この乳首を食いちぎっても、お前は無抵抗でいるつもりか?
乳首を咥えた歯に、力を込める。
奴が息を呑むのが聞こえた。
腹筋に力が入る。
それでも奴は、「痛い」とも「やめろ」とも言わなかった。
おもしれェ。
なら、てめェの内臓まで、屠ってやる。
さんざん弄ってから解放した乳首は、うっ血して薔薇色になっていた。
奴の肌の白さのせいで、それは鮮やかに目に飛び込んでくる。
たまんねェ。
こうして見ると、こいつの体は傷だらけだ。
肌が白いからそれは余計に際立つ。
打撲の痕やら切り傷やら…、きめの細かい白い肌に、無数の傷。
惜しい、と、刹那思い、ぎょっとする。
惜しい、だと?
男の傷は勲章だ。そいつの戦いの歴史だ。
誇りこそすれ、傷を惜しい、などと思うのはどうかしてるとしか思えなかった。
…いや…
すでに“どうかしてる”のだ。
こうして、紛れもない男の体を思うさま舐め回している時点で。
この肌を傷一つないままに美しく残しておきたいと思う時点で。
この肌に傷をつけるのは俺一人だけだと思う時点で。
奴のズボンに手をかけて、下着とまとめて一気にひん剥いた。
滅多に陽に当たらない下腹部は他の肌にも増して、白い。
そして、髪の色と同じ、金色の叢。
そこに、半ば勃ち上がりかけたモノをみとめて、我知らず、口元に笑みが浮かぶ。
ためらわず、それを口に含んだ。
奴がにわかに慌て出す。
「て、めェっ…! 正気、かっ…!?」
正気なわけ、ねェだろうが。
とっくの昔に、イカレてるんだ。
てめェに。
根元まで咥え込んで、そのまま丸ごと呑み込むみたいに、吸いながら締めてやる。
奴の体が面白いように跳ねた。
「っふ…う…っ んんっ…!」
舌で鈴口を何度も何度も擦り上げる。
「ひっ、アッ! くぅっ…!」
じゅるじゅると音をたてながら、根元から先端まで、舐め回す。
「ふあッ! あ、────や、め…!」
このまま食いちぎってやりたいような衝動を何とか抑えて、奴のモノを根本まで咥えて、大きく何度も頭をグラインドさせた。
「ゾ、ロ…っ!」
奴が切羽詰った声をあげた。
そんな声で名を呼ばれるのも悪くない。
悪くないどころか、────煽られる。
「ふっ… うぅっ…!」
奴が腰を浮かせた。
イクのか?
惜しいな。
咥えてると、エロコックのイク面が見れねェ。
「…くっ!」
奴の体が震えた。
熱い奔流が、口の中に流れ込んできた。
イキやがった。
俺に咥えられて、舐め回されて、イキやがった。
顔を上げると、奴は唇をかみ締めて顔を背けていた。
その唇が震えている。
視線に気がついて、奴がこちらを見た。
奴の目を捉えたまま、わざと喉を鳴らして、奴の吐き出したものを飲み込む。
かあっと奴の頬が朱を注ぐ。
唇を噛み直して、奴がふいっと横を向いた。
ふん、と鼻で笑ってやって、奴の太股に手をかけた。
太股から膝まで撫でて、膝頭を掴んで、持ち上げる。
奴の体が、ぎくりと強張った。
これから何をされるのか、想像がついたに違いない。
膝を立たせ、引き締まった白い尻を両手で押し広げる。
固く閉ざされた薄い桜色をしたそれに、触れる。
「…ッ…!」
奴が呻いた。
期待でもしてんのか?
しかし、そこはかたくなに閉ざしていて、触れる指の侵入を、それ以上受け入れようとはしない。
「力を抜け。」
それでも奴の体は強張っている。
「力を抜け。抜かないなら鬼徹で裂く。」
とたんに、奴の体が慄いた。
ややあって、
「む…りだっ… ゾロ…っ!」
と、振り絞るような、声。
泣いてるのかと思うほど弱々しい、奴らしからぬ声音に、
──────どうしようもなく、嗜虐を煽られた。
力任せに、その窄まりに人差し指を捻じ込む。
「うあっ…」
一本を何とか捻じ込み、孔のふちに指をひっかけて無理やり広げ、逆の手の人差し指を更に捻じ込んで、同じように引っ掛けて、ぐいっと孔を暴いてやった。
鮮やかに赤い粘膜が覗く。
夢中で、その孔に舌を突っ込んだ。
「────ヒッ!!」
奴の足が跳ね上がった。
構わず引き寄せて、孔を舐め回す。
「…く… ふ、 っあ…! や…やめ…」
孔の中でめちゃくちゃに舌を動かした。
いっそこのまま、本当にこいつの内臓を屠ってしまいたかった。
そうすれば…
そうすれば、もう誰もこいつに触れられない。
誰もこいつを見ない。
こいつは…俺だけのものになる。
「あ、 ァ …あ … 」
奴の声に微かな、けれど明らかな喘ぎが混じり始め、体が弛緩してきたのを見て、奴に気づかれないようにそっと、自分のズボンの前を寛げた。
尋常じゃねェ。
男の体に突っ込みたくて、
男の尻に突っ込みたくて、
ここは、こんなにも大きく固くなっている。
まったくもって尋常じゃねェ。
舐め回しているうちに、ひくひくと淫らに蠢き、唾液にまみれて女陰のように濡れそぼつそこに、自分でも信じられないほどにデカく育った奴をあてがった。
奴の目に一瞬正気の光が閃くのと、俺が欲望を突き上げるのとが、同時だった。
「──────ッ!!!!!」
その悲鳴が。
苦しげに歪んだ顔が。
のけぞった白い首筋が。
何もかもが俺を煽る。どうしようもなく。
いきなり突き込んだそこは、恐怖に震えてでもいるかのように、細かく痙攣を繰り返している。
恐らくこいつはとてつもない激痛に襲われているんだろうが…、俺は、最高に、気持ちよかった。
サンジの中に入れている。
サンジの中。
ひくひくと蠕動しながら、熱くきつく締めつけてくる、奴の中。
短く、は、は、…と、浅く息をしながら、奴は必死に痛みを逃がしている。
だが、抽迭を開始すると、奴の体は再び弓なりに反った。
「うあっ… ァ、ああっ!」
ずるりと引き抜いて、思い切り奥まで突き込む。
そのたびに白い痩身がのけぞる。
食いしばった歯の間から、耐え切れぬように悲鳴が漏れる。
もっと。
もっとだ。
もっと、奥まで。
「くぅ…っ… ッ! アアッ… う… 」
こいつの、一番奥まで。
「んんッ! は… あ… あっ…!」
ぐちゅ ぐちゅ というエロい音が、否が応でも劣情を煽る。
まだ足りねェ。
全然足りねェ。
「いっ…! あ、 くぅ・・・っ!」
全てよこせ。
てめェの全てをよこせ。
てめェの何もかもを喰わせろ。
「…か、はっ…! うあ、…っ…」
俺の…
俺のもんになれ。
「んひっ! あぁあぁああっ」
誰にもやらねェ。
てめェは俺のもんだ。
俺だけのもんだ。
肌と肌がぶつかる音を立てるほど奥まで貫いて、俺は精を放った。
クソコックが欲しかった。
どうしようもなく、欲しかった。
触れたかった。
気が狂いそうになるほど、触れたかった。
欲望は肥大して、己ではもう制御できないほどになっていた。
いっそ、何処かに閉じ込めて、その目に俺の他の誰も映させず、誰の目にも触れさせず、自分だけのものにしたかった。
どす黒い、独占欲。
こんなものが愛であるはずがない。
愛とはもっと崇高で、純白で、穏やかに心に満ちるもののはずだ。
だから、こんな思いはきっと愛じゃない。
だから、奴の心はいらない。体だけでいい。
こいつの奥底まで喰らう事ができれば、それだけでいい。
なのに…
思うさま陵辱の限りを尽くしたはずなのに、俺は何故、満たされない。
何故、奴を喰う前よりも、俺は餓えている。
俺を見ろ。
俺を見てくれ。
その、海と同じ色の瞳に、俺の姿を映してくれ。
足りねェんだ。
体だけじゃ、足りねェ。
てめェの、心が、欲しいんだ。
──────サンジ……………!
思わず、声に出して言ってたかもしれない。
ふと見ると、蒼い澄んだ目が、驚いたように見開いて、俺を見ていた。
その目が、ふ… と、笑む。
男に強姦された後とは思えないほど、心の奥底を鋭い錐で突くような、清冽で鮮烈で綺麗な、笑みだった。
思わず、息が止まるような。
無垢な、といえるほど、透明な笑み。
それは確かに、勝利者の笑みだった。
そして奴の唇が動いて、こう、囁いた。
「いいぜ。喰えよ。心ごと。」
喰わせてやるよ。てめェにだけだ──────────
END.
2004/03/04
恐れ多くも「ゾロサン合隊」様に提出させて頂きましたモノ。
タイトルも「ゾロサン合隊」様につけていただきました。
このSSのイメージイラストをかおナスの秋羽さんが絵板に投下してくれました。
転載許可いただきました♪