◆ 深遠 ◆
(原案・「外科室」泉鏡花)
─────なんだってあんなにあの二人は仲が悪いんだろう。
チョッパーはため息をつきながら目の前でケンカをするゾロとサンジを眺めた。
最初は口汚く罵り合っていた二人だったが、今は完全に攻撃モードだ。
時々破壊音が聞こえたりして、ウソップはもう涙目だ。
もはやメリー号の日常同然とはいえ、この二人のケンカはやりすぎの感がある。
きっかけはいつでもくだらない。
サンジの通り道にゾロが寝てて邪魔だっただとか、サンジのメロリンがうるさくてゾロが寝られなかっただとか、本当に、ちんぴらのいちゃもんレベルの事でケンカしているのだ。
ルフィはただ笑って見ているだけだし、ナミも「じゃれてるだけ」と相手にしない。
だが、戦闘力の高さでは定評がある二人なので、実際にケンカが始まると、それはもう「じゃれてるだけ」というレベルをあっけなく超えてしまう。
船は半壊するし、ゾロとサンジも無傷では終わらない。
「何でこんな怪我するまでケンカすんだよ、二人とも!!」
怪我をした二人を仲良く並べて治療しながら、チョッパーは怒る。
二人は、治療してくれるチョッパーや、船を壊されて涙ぐむウソップにはすまなそうに謝るが、お互いは仲直りする気はないのか、隣同士に座っていながら、顔はそっぽを向いている。
口を開いたかと思えば、お互い、「こいつが悪い」となすり付け合う。
「いーかげんにしろってば!」
さすがのチョッパーも声を荒らげる。
「だいたいゾロもたかがケンカに抜刀するってどーゆーことだよ!」
誰に対しても着火の早いサンジはともかくとして、ゾロが毎度毎度サンジの挑発に乗ることが、チョッパーには信じられない。
クルーの中で一番冷静で沈着なはずの男が、サンジ相手になるとわざわざからかいに行ってまでケンカを仕掛けるのだ。
あげく、こんな不安定な船の上で抜刀する。
「万が一取り返しの付かない怪我とかしたらどーするんだ!」
「んなヘマするかよ。」
ぼそっと言い返したゾロに、サンジがまた
「あー、コケて自分で自分の首斬り落としたりしてなー?」
といちいち交ぜっ返す。
ゾロが「んだと、コラ!」と立ち上がろうとするのを、チョッパーがまた叱る。
「じっとして!! 薬が塗れない!!」
言われると、ゾロはしぶしぶ腰を下ろす。
「自分の首ならまだしも、サンジの手でも傷つけたらどうするのさ。」
「そん時の為にお前がいるんだろ、チョッパー。」
ゾロもサンジもしれっとしている。
「もうっ! そうなったら麻酔なしで縫ってやるからねっ!」
チョッパーがそう言うと、ゾロとサンジの反応は見事に二つに別れた。
けろっとしているゾロと、嫌そうに顔を顰めたサンジ。
「俺は麻酔なしで自分の足縫った。」
「縫い目ぐちゃぐちゃにな。裁縫のセンスゼロ。」
そうだった、とチョッパーは思わずため息をついた。
これくらいで脅しにはならないんだった。
この常識はずれの剣士は、自分の足を自分で縫うという事をやってのけたのだったっけ。
「いーよ、んじゃ、この次は全身麻酔で治療してやるから。」
腹立ち紛れにそう言うと、ゾロとサンジはきょとんとした。
「全身麻酔の何がだめなんだ?」
サンジが小首をかしげてそう聞くと、チョッパーは楽しそうに、エッエッと笑った。
「全身麻酔はうわ言を言っちゃうんだよ。心の奥底の秘密を口走っちゃったりするんだ。人妻が不倫相手の名前を呼んじゃったりね。」
「おおお、そりゃまた修羅場だな。」
「だから、スパイとかは大きな怪我とか病気とかできないもんだって、ドクトリーヌが言ってたよ。機密を喋っちゃう事があるんだって。」
「へええー。」
ゾロとサンジは感心することしきりだ。
「あー、でもゾロは酒飲みだから麻酔は効きにくいんだろうなあ。」
チョッパーがひとりごちると、
「…酒飲みと麻酔と関係あるのか?」
と、サンジがまた小首をかしげる。
「お酒に強い人は麻酔が効きにくいんだよ。」
「へえ。」
チョッパーの言葉を聞いて、ゾロがすぐ、
「んじゃ、てめぇはそっこーでおねんねだな。」
と、サンジをからかった。
「うるせぇ!!! てめぇこそ永眠しろ、コラ!!」
サンジが瞬く間に着火して足を振り上げる。
ゾロがそれを鞘ごとの刀で咄嗟に防ぐ。
すぐにまた小競り合いが始まった。
「ゾロ!! サンジ!!」
治療しても治療しても、これではおっつかない。
全くもう、とチョッパーは頭を抱えた。
その時の会話が後にどういう事態を引き起こすかなど、想像だにもせず。
□ □ □
そしてそれは起こった。
メリー号は大海原の上で賞金稼ぎの船に襲われた。
賞金稼ぎ達が、この航路をわざわざメリー号目指して航行してきたのか、たまたま出くわした為に襲ってきたのか、それはわからない。
だが敵はちゃんとこちらを麦わらの一味と認識して襲撃してきた。
ゾロが帆先に立った途端、
「いたぞ、賞金首ィ〜〜!!」
と敵船が沸きかえったからだ。
麦わら海賊団の賞金首は三人。
船長と剣士と考古学者。
その三人に集中して敵が群がる。
まるでその他のクルーは雑魚、とでも言うような敵の態度に、サンジが息巻いた。
「てめェら、舐めた真似しくさりやがってェッ!!!」
と叫びながら敵陣に突っ込んでいく。
それを見てゾロが
「コックは雑魚相手でもしてろ!」
等と言うものだから、サンジはますますヒートアップした。
麦わらのクルーにとっては「また始まった」程度のことなのだが、賞金稼ぎ達は、四方を敵に囲まれた状態で突然同士討ちを始めたゾロとサンジに唖然としている。
仲間割れのような小競り合いが、まるでそれに巻き込むような形で、確実に敵を倒していることに、ようやっと敵が気づいた時には、敵はほぼ一掃状態になっていた。
「んだ、あっけねーなぁー。」
暴れ足りない、というようにルフィが言った。
退屈していた海の上で、このハプニングを誰よりものびのびと楽しんだのは、この船長だった。
「口ほどにもねェ奴らだ。アペリティフにもなりゃしねェ。」
サンジもそう吐き捨てながら、タバコに火をつける。
「てめェの眉毛で目ェ回したんじゃねェのか?」
ゾロが鼻先で笑いながら挑発する。
「ンだと、てめェ!!」
サンジがすぐにその挑発に乗る。
それは、もういつものメリー号の光景だった。
逃げ帰る敵船から、“何か”が投げ込まれなければ。
コン、と甲板を叩く軽い音にクルーが振り返ったときはもう遅かった。
投げ込まれた、その小さな球体にひびが入り、閃光が走る。
その時球体の一番近くにいたのは、ゾロとサンジだった。
チョッパーはラウンジへと引き上げるところだった。
船長も早々とそれに続いていた。
ナミは汚れた体にシャワーを浴びようと浴室に下りていた。
ウソップは壊れた船を修理するための道具を取りに男部屋に下りていた。
ロビンは後列甲板から戻ってくるところだった。
どん、という重い音と、一瞬の閃光。
船体が、ぐらりとかしぐ。
「ちょっと、今の衝撃、何ッ!?」
ナミとウソップが相次いでハッチから飛び出してくる。
ロビンも慌てて小走りになる。
「ゾロッ!! サンジーッッ!!!」
ルフィがラウンジの階段から飛び降りる。
甲板にはゾロとサンジが倒れている。
ゾロはすぐに体を起こした。
「大丈夫、だ…っ…、クソっ…」
けれどサンジは。
「サンジィィィィィィ!!!」
倒れて動かない体。
「おい…、コック…?」
ゾロが愕然とする。
「おい!!」
近寄り、その体を抱える。
ぬるりとした手触り。
その感触に思わず手を引いたゾロが、自分の手を見て目を見張る。
ゾロの手は、鮮血に濡れていた。
「コック!!!!」
□ □ □
そして今、チョッパーは怪我人の前で憤然としていた。
「何でだよ、サンジ!!!」
顔を真っ赤にして怒る船医の前で、サンジは悠然とタバコをふかしている。
あの後、サンジは比較的すぐ意識を取り戻した。
出血の割りに平気そうな顔をし、自分で立って歩いてもいた。
投げ込まれた球体は手榴弾のようなものだったらしい。
音と閃光が大きいだけで、それほど殺傷力は高くないようだ、とみんな安堵した。
ゾロは憎まれ口を叩いたが、その顔はあからさまにほっとしていた。
だが、チョッパーはだまされなかった。
止血だけでいい、というサンジを、無理やりに脱がせ、その体中に無数の銃創に似た傷があるのを発見した。
手榴弾には、小さいが充分鋭利な金属片が無数に埋め込まれていた。
飛散する範囲は狭いが、傍にいた人間ならば殺傷できる能力を持っていた。
チョッパーはゾロもサンジも二人とも脱がせ、その体を丹念に調べた。
ほぼ同じ距離にいたはずなのに、ゾロは手足などに数箇所被弾しているだけで、処置も早く済んだ。
そういえば、倒れていた場所も、ゾロは何故か立っていた位置よりずいぶん遠かった。
それを指摘すると、ゾロは急に恐ろしい顔になって黙り込んだ。
チョッパーはその顔が怖くて、慌ててサンジの治療に取り掛かった。
金属片はほとんどサンジに着弾していた。
それでチョッパーは、もしかしてサンジはゾロを庇ったのだろうか、という結論に達した。
あんなに仲が悪そうだったのに、やっぱり仲間だと思っていたんだ、とチョッパーは嬉しくなったが、ゾロが不機嫌になった理由がわからなかった。
庇ってもらった事がそんなに嫌だったのだろうか。
チョッパーはサンジの体から一つ一つ丁寧に金属片を取り除いていき、そして、恐ろしいものを発見した。
「手術?」
怪訝そうに首をかしげたサンジに、チョッパーは頷いた。
「この傷、わかるだろう?」
そう言って、チョッパーはサンジの左胸を指差した。
小さな小さな傷が付いている。
それこそ、取るに足らないような。
「こいつがなんだよ、こんなもんほっときゃ治んだろ。」
「ダメだよ!!」
チョッパーが大声で叫んだ。
あまりの剣幕に、クルーの視線が集中する。
「この傷の中に、あの金属片が埋まってるんだ。傷は貫通してない。まだ体の中にあるんだよ!!」
チョッパーの言葉に、医学の知識のあるナミが顔色を変えた。
「心臓のすぐ傍なんだ、大きな血管も走ってる。すぐにここを切って金属片を取り出さなきゃ、大変な事になるんだ!!!」
「んな大袈裟な…。」
笑うサンジを、ナミがたしなめる。
「笑い事じゃないわ、サンジ君。死んじゃうかもしれないのよ。」
「でも、別に痛くもねェし、なんともないよ、血も出てないし。」
「たまたま神経を避けて着弾したから今は痛みを感じないだけだと思うよ。だけど、いつ血管の中に潜り込んじゃってもおかしくないんだ。心臓や肺に刺さってもおかしくない。緊急手術の必要があるんだよ。」
「手術…って。切って取り出すだけだろ?」
「場所が場所だから、全身麻酔をかけて切って金属片を取り出したら縫う。ほんとは陸のちゃんとした設備のある病院に行きたいんだけど、そんな時間も惜しいほど緊急なんだ。」
必死で言い募るチョッパーに、何故かサンジは
「ふーん。」
と他人事のような返事しかしない。
「サンジ!!!」
たまりかねてチョッパーが叫ぶと、サンジは苦笑のような薄い笑いを口元に浮かべた。
そして言い出した事に、クルーは全員絶句する。
「なに…言ってるんだ、サンジ。」
「だから、手術はかまわねェが、麻酔とやらはごめんだ。やるんなら麻酔を使わず切ってくれ。」
「何言ってるんだよ!! 麻酔を使わずに切れるはずないじゃないか!」
チョッパーが血相を変えてサンジに詰め寄る。
けれどサンジは口元の微笑を消そうとしない。
「できねぇんなら手術しなくていい。」
「サンジ!!!」
かたくななサンジの様子に、ルフィがいつになく怪訝な顔をする。
場が緊迫しているのはわかっている。
緊急を要する事も。
なのにサンジのこの態度が解せなくて、船長は戸惑っているのだ。
戸惑ったまま、それでもサンジに何か言おうと開きかけたルフィの口は、不意にやんわりとたおやかな“手”に制せられた。
振り返ると、ロビンとナミが揃って口元に指を立てて黙ってろ、とジェスチャーしている。
そのままロビンとナミは、ルフィとウソップを連れて、静かにラウンジを出て行った。
サンジがそれをちらりと横目で見る。
クルー達がみんな出ていってしまうと、ふ、と小さく息をついた。
チョッパーだけが涙目でサンジの目の前にいる。
「なァ、なんでだ? サンジ。」
サンジは困ったように笑っている。
「笑い事じゃないんだぞ? 手術しなきゃ死んじまうんだぞ?」
「だから、手術はかまわねェさ。麻酔をしないでくれっつってんだ。」
「爪切ったりするのとはわけが違うんだよ! 手術の前に痛みで死んでしまうかもしれないんだよ!?」
チョッパーは思わずサンジに取りすがった。
何が何でもサンジの考えを変えさせなければならない。
「何で? 何でだよ…。」
サンジの笑みはますます困ったようなものになった。
「麻酔は…うわ言を言うと言ったのは、お前だ、チョッパー。」
笑んだままサンジが静かに言った。
一瞬何を言われたのかわからず、チョッパーがきょとんとする。
「麻酔は自分の心の奥底を口走ると。…言ったろう?」
「う、うん。言った…。けど、それが…何…。」
「俺はな、チョッパー。心に一つ、秘密がある。それを自分の知らねェうちに口走っちまうのかと思うと、それが怖ぇ。麻酔しないで手術できねェんなら、このままでいい。」
チョッパーは、言われた言葉の意味を理解して仰天した。
「お、俺は患者の秘密は喋らないよ! 医者には守秘義務があるんだ、サンジが何を喋ったって俺は絶対…!」
信用されてないのか、とチョッパーは動揺しながら必死で言葉を紡ぐ。
「違う、チョッパー。お前を信用してないとかじゃねェ。」
サンジが静かに応答する。
「だけど俺は、こいつだけは喋るわけにはいかねェんだ。…悪いな。」
まるでわがままを言う子供に言い聞かせる大人のような口調で、サンジは言った。
今わがままを言っているのは明らかにサンジの方だというのに。
「麻酔なしで切ってくれ、チョッパー。」
ついにチョッパーの涙腺が決壊した。
「切れない…切れないよ、俺には出来ないよ…!」
その時だった。
「なら、俺が斬ってやろうか?」
だしぬけに声がして、サンジとチョッパーは振り向いた。
全員が外に出たと思っていたのに、ラウンジの壁にもたれてゾロが座っていた。
それこそ、芋の皮むきでも手伝おうかとでも言っているかのような軽い物言いに、チョッパーはぎょっとする。
「ああ、そりゃいいや。こいつなら斬るのはお手のもんだ。」
柔らかな微笑のまま、サンジが同意する。
「手元が狂ってぶすっとやっちまうかも知れねェがな。」
「はん。てめェにそんな度胸があったとは驚きだ。」
「抜かせ。てめェこそ俺に斬られてみっともなくちびるんじゃねぇぞ。」
「てめェのへなちょこ剣で誰がちびるか。」
いつものゾロとサンジの応酬だったが、それは不気味な雰囲気に満ちていた。
いつもならすぐ激昂して声を荒らげるサンジは口元に微笑を湛えたままだし、いつもならせせら笑いながら挑発するゾロは、全身から殺気にも似た紅蓮のオーラを噴き上げてまるで射殺しそうな目でサンジを見ている。
「お前ら…何言ってるんだ……。」
もうほとんど恐怖に近い思いが、チョッパーを襲っていた。
正気じゃない、こいつら。と思った。
正気じゃないが、─────本気だった。
チョッパーの全身ががたがたと震える。
医者の立場として、チョッパーはだめだと言わなければならなかった。
けれど、言えなかった。
得体の知れない二人の異様な雰囲気に、完全に呑まれていた。
─────なんで…? なんでっ…???
医師の立会いのもと、剣士が麻酔なしで執刀する、という奇妙な手術が始まった。
□ □ □
ラウンジは急ごしらえの手術室になった。
手術台代わりのマットレスの上に、ビニールシートが敷かれる。
クルーの誰も、何も言わなかった。
この奇妙で異様な手術に、誰一人として異を唱えなかった。
常識派の航海士や狙撃手まで。
「………………ゾロ、刀を、アルコールで消毒して。」
チョッパーが、震える声でゾロに消毒用アルコールを手渡した。
ゾロが二刀を床に置き、白い刀だけをすらりと抜く。
それを見たサンジが、ほんの少し目を眇めた。
「………その白い刀で俺を斬るのか。」
ゾロがちらりとサンジを見る。
「………………怖ェのか?」
問うゾロの顔からは、何一つ感情が読み取れない。
ふ、とサンジが笑った。
「まさか。」
思わずチョッパーが呼吸すら忘れるほど、綺麗な笑顔だった。
下着だけになったサンジが、マットに横たわる。
「手足を押さえましょうか…?」とのロビンの申し出をサンジは丁重に断った。
チョッパーは、固い表情で、ゾロに細かく指示をしている。
何故自分は医療もわからない素人に患者を斬らせようとしているのか、何故自分はそれを止めないのか、何故ルフィもナミも何も言わないのか、全くわからなかった。
メリー号の船内全てが、狂気に包まれているとしか思えなかった。
横たわったサンジの傍らに、ゾロが抜身を携えたまま立った。
サンジの目は穏やかに凪いでゾロを見ている。
ゾロが刀を構える。
それでもサンジの目は静かなままだった。
ゾロの白い刀が、サンジの白い肌を、ゆっくりと貫く。
切り口から鮮血が溢れた。
一瞬、硬直するサンジの体。
「…痛い、か…?」
囁くようなゾロの声がした。
苦痛に歪む顔で、それでもサンジは確かに微笑んだ。
「痛、か、ねぇ…よ。てめェが…てめェの、その…白い刀で…斬ってくれてん…のに、痛い、わけあるか…っ…。」
そしてやにわに、サンジは自分を刺す刀身を素手で掴んだ。
ゾロが目を見張る。
「だけどてめェはっ…! てめェが今斬ってるものがなんなのか知らねェだろう!! てめェが俺の何を斬り開いているかっ…!! てめェが斬ってんのは俺の体なんかじゃねェ…っ…、ねぇんだっ…!!!」
刀身を握り締めた手に、サンジが力を込めた。
握りこんだそこから、血が滴り落ちる。
「知らねぇわけねェだろう!!」
ゾロが怒鳴った。
「俺の刀にはお前の鼓動もお前の想いも全部伝わってきた。全部だ!!サンジ!!!」
名を呼ばれた瞬間、サンジは目を見開き、それはみるみるうっとりと夢見るような笑みに変わった。
ゾロが息を呑む。
次の刹那、サンジの体からがくりと力が抜ける。
「サン…!!」
「ゾロ、刀を引いちゃダメだ!!!」
悲鳴のようなチョッパーの声がした。
「ナミ!!増血剤と点滴の用意!!」
チョッパーとナミが俄かにバタバタと慌しくなる。
ゾロはそれを、茫洋とした顔で瞬きすら忘れて、遠い景色を見るように眺めていた。
─────料理人が命を賭してまで隠したかったのは、剣士へのひたすら一途な想い……。
□ □ □
ゴーイングメリー号は、数刻前までの喧噪が嘘のように静まり返っていた。
ラウンジから憔悴しきった様子のチョッパーが出てくる。
その目が、甲板に佇む後ろ姿を見つけた。
─────ゾロ…。
チョッパーの気配に気がついているだろうに、その後ろ姿は振り向かない。
海面に視線を落としているようだ。
近づいていくと、ゾロが見ているのが海でないことがわかった。
ゾロは、じっと自分の手を見つめていた。
あの白い刀を握っていた、左手を。
その顔からは、やはりチョッパーでは感情は読み取れなかった。
「ゾロ…。」
小さな声で呼ぶと、やっとゾロが振り向いた。
「……世話かけたな…。」
ほんの少し目もとを和らげて、そう言う。
ううん、とチョッパーは首を振った。
「あの時はああするしかなかったって、わかってるから。」
チョッパーの言葉に、ゾロの瞳が微かに揺らぐ。
そしてまた黙って、自分の手のひらに目を落とした。
「…手術、成功したよ。」
静かに告げると、ゾロの体がびくりと震えた。
「サンジが意識を失ってくれたからね。金属片を取るのも縫うのも楽だった。…もう危険はない。」
「そう…か…。」
ため息とともに吐かれた小さな呟き。
あからさまにほっとしたような、安堵の響きだった。
「手のひらも大丈夫。あんなに刃を握り締めたのに、綺麗な切り口だった。きっと痕も残らないよ。」
それを聞いて、ゾロは腰に下げた刀の一本を撫ぜた。
サンジの体を貫いた、あの白い刀を。
「こいつだからな…。俺が斬ろうと思ったものしか斬れねェ。」
だからこの白い刀を使ったのだと。
その刀をゾロが日頃どれだけ大事にしているか、チョッパーも知っていた。
一番大事な刀をサンジを生かすために使ったゾロ。
笑顔でその刀に貫かれたサンジ。
「ゾロ…。」
呼ぶと、ゾロは目だけで、何だ?と問うてくる。
「医者にはね、守秘義務があるんだ。」
「ああ。」
「治療中に知りえた患者のどんな秘密も、医者はよそに漏らしてはならない。」
「…ああ。」
「だから、あの時、サンジが何を言ったか、ゾロが何を言ったか、俺は何も知らない。ナミも知らない。クルーの誰も知らない。」
「……あいつが…命を賭してまで隠そうとした秘密だ…。そうしてやってくれ…。」
「……………ゾロは……?」
子供のような目がゾロを見上げている。
「ゾロは…、ゾロも…あの事はなかったことにするの…?」
ふっ…と、ゾロが微笑した。
「それは秘密だ。」
そうして、ぽん、とチョッパーの頭を叩いて、ゾロはラウンジの階段を上がっていった。
END.
2004.07.19
加筆修正 / 2007.02.15
【千腐連コメント】
きぬ:サンジのさあ
フカ:うん
きぬ:覚悟が男前だよね〜
フカ:うぬ。そんでもってエロい。
きぬ:命がけで惚れるってエロいよね
きぬ:あの映画の吉永小百合も、すっごい男前だったよね
フカ:白い肌に挿れるんだよ、赤い血だよ。エロエロだよ
きぬ:伯爵夫人かなんかだったじゃん、小百合ん
フカ:私、映画は見てないんだよなー
玉:そうそう、原作は伯爵夫人と医師
きぬ:凛としたしゃべり方でさ、どっちかっていうと男言葉だったと思うんだけど
フカ:原作の方は読んだけど。<すんげー昔すぎて細かいとこ覚えてないけど
きぬ:あれ、すっごい良かったんだ〜<男コトバ
きぬ:他のさ、女らしい役やってる小百合んよりきりっとした役のほうが綺麗
きぬ:サンジもさあ、物凄い覚悟だよね〜
きぬ:ゾロもだけど
きぬ:お互いに惚れ合ってるのを知ってて、言わない
きぬ:究極のエロだー!
きぬ:なんであたし1人で喋ってるの
フカ:でも馬鹿だわ。
きぬ:うん、すっごい馬鹿(笑
きぬ:だからみんな、黙ってるし聞かなかった事にしてくれるんだ。
きぬ:なんか喋れよ、たま
玉:しゃべりづらいよ!!!
フカ:恥ずかしいんだよ。
きぬ:創作秘話とか苦労話とか世間話とか
フカ:すっげぇ恥ずかしいんだよ。
フカ:しかもさー
きぬ:ん?
フカ:自分らの分、なんでこんなにエロ話にならんのだ?オレら
フカ:ダメじゃん!それ!!!
きぬ:私1人元気じゃん(何故ならまだ提出作品出来上がってないから
玉:ああ・・・まあ・・・ね。うん・・・
きぬ:歯切れ悪いな(笑
フカ:まじめな話でもエロに突入させろよ!きぬさんっっ!!
きぬ:だってさ、刀突き立てたままゾロがサンジに突っ込んだら痛いでしょ(笑
フカ:死ぬし。それ。(笑)
きぬ:「言え!」とか攻め立てながら
フカ:そこはやっぱ治療を終えた後に、
きぬ:もんのすごい痛い(ひいいい
玉:いや、柔肌に刀つきたてること事態がもう、やっちゃってるから、それ
フカ:ベッドに横たわってるところをだな、
きぬ:何を相手の体に突き立てるかの違いだな
フカ:頭はイっちゃってるよね。>柔肌に刀
きぬ:別世界の二人
きぬ:そこではもうまぐわってるよな
きぬ:ゾロが自分でサンジを切るって言った時点で、
玉:うん。これきっと後はラブラブですよ
きぬ:サンジがそれでいいと言った時点で
きぬ:もうセックス成立ですよ、精神的には
フカ:うぬ
きぬ:精神論なんか言う私なんて私じゃないー!(きいいい